ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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6章最後なので初投稿です。


第75話:愛と依存と、2人の未来へ

 カランカラン。と乾いたベルの音だけが室内に響き渡る。

 真っ暗な店内。GBNの空も夜の判定らしく、月明かりが路地を照らして、窓から差し込まれた店内はどことなく神秘的なものを感じさせた。

 彼女は窓際の机をトントンと指を差す。ここに座れ、ということだろうか。

 指示に従って、わたしは彼女の様子を見ながら椅子に座った。

 要件はなんとなく分かる気がする。GBNによる過去の再現。そのアオリを受けたナツキがいったい何を思って呼び出したのか。すぐに分かってしまった。

 

「ごめんね、呼び出しちゃって」

 

 ごめんなんて言わないでほしい。

 正直嬉しかった。こんなわたしを呼び出してくれて。独りよがりの愛情じゃないんだって安心したから。

 

「座りなよ」

「ううん。このまま言わせて」

 

 ポンチョを握りしめて、心を握りしめて。

 息が乱れていく。最初は深い深呼吸のように大きく吸って、息を吐き出して。繰り返す内に呼吸が浅くなっていって。

 まるで咎人だ。わたしにも覚えがあった。罪の意識に苛まれて過呼吸を起こしたことを。

 わたしがどうにかしてあげれられることは少ない。だけど、かつてのナツキがそうしてあげたように、わたしは立ち上がって握りしめる拳を、心を両手で包み込んだ。

 

「……ハル?」

「勇気注入、みたいな?」

 

 あっけとらんに描かれた表情を見て、鏡写しのような自分に苦笑い。

 わたしとあなたの勇気はお互いに分け与えるもの。そうだったじゃん。

 だからわたしはあなたに勇気を注ぎ込む。あの時からずっともらってばっかだった勇気をたくさんたくさん注ぎ込んで、溢れ出してしまうくらい祈りを込めて。

 包み込んでいた両手をそっと添えて、ナツキは泣きそうに目元を細める。

 

「なんで…………」

「だって前に言ってくれたじゃん。一緒だ、って」

 

 思い返すのはナツキが初めてわたしを受け入れてくれた日。

 憐れみも、慈しみも込められたその抱擁に、わたしはどれだけ救われただろう。

 ひとりじゃないって。ナツキが一緒にいてくれるって、そう言ってくれた。

 人間として一皮むけたわけじゃない。本来求めていたものをナツキが与えてくれただけ。家族の愛を、友達の愛を、特別の愛を。

 わたしは決めていた。あなたがわたしを受け入れてくれたように、わたしもあなたを受け入れるって。

 人は1人では生きていけない。誰かに寄り添って押し返してくれる、そんな相手がいないといつかどうにかなってしまう。

 わたしはナツキにそう教えてもらった。

 

 ――だから。

 

「今度はわたしの番。言って、抱えてるもの全部」

「……っ! 私、は…………っ!」

 

 顔をうつむけて、今にも泣きそうな顔を必死に見せないようにして。

 彼女は、こう言った。

 

「私はあなたを。ハルを利用してた。私が人間らしくできるように。ずっと、利用してた」

 

 言い放たれた一言は、衝撃的ではありながらも、心のどこかではそうだろうな、という納得の二文字がストーンと心のピースにハマっていった。

 

「私は、ずっと空が怖かった。みんなの絶望が見えて、エンリちゃんの失望が貫いて」

 

 初耳と、恐怖と。それから……。

 

「GPDの空は狭いからって、GBNの空なら飛べるって思ったの。それなのに、私は飛べなくて、誰かがいないと憧れには、夢には届かないって気付いて必死だった!」

 

 憧れは呪いだ。夢は呪縛だ。

 それが怖くてわたしも夢から逃げてきた。あの時抱いた、ピクニックの時に抱いたあの感動とあの憧れは紛れもなく真実だった。

 でもわたしには無理だって。趣味ならずっと続けられるかもしれないって、信じて疑わなかった。

 将来の夢を自覚して、目の前の進路を目にして、憧れを手にした目の前の女の子を見て、わたしも前に進む時が来たんだって、強く思う。

 

「だから誰でもよかったの。ハルでも誰でも何でもよかった! やっと見つけたハルをなんとしても逃すまいって、ずっとお世話したのはそれが理由。空が飛べれば、ハルじゃなくてもよかった」

「うん……」

「失望した? したよね? だって私ひどい女だもん。自分のトラウマを他人に押し付けて、身勝手にハルの人生壊して!」

 

 ――私を嫌いになったよね?

 

 そんなニュアンスにすら聞こえる言葉に、流石のわたしだって不服に思ってしまう。

 誰がこんなにしたと思ってるの? 傍から見たらわたしとナツキはただのレズカップルだ。そりゃ受け入れてくれるなら男でもよかったよ。

 でもね、わたしが選んだのは他でもない。ナツキなんだよ。

 

「そんなわけ無いじゃん……」

「ハル……?」

 

 だからガラにもなく声を荒げてしまう。

 他の誰でもない。わたしの好きな人が、わたしが好きな相手をバカにするなんて許しちゃいけないんだ。

 握る両手を強く握りしめて。ありったけの愛を込めて、わたしは言霊にする。

 

「わたしだって信用する相手ぐらい見つけられる。ナツキだけなんだよ! わたしにこんなにしてくれたのは! ナツキだけなんだよ、わたしをこんなにしたのは!!」

「でも、それは……。私がハルを利用したかったから……ッ!」

「だったら責任取ってよ! わたしのナツキは……ッ!」

 

 ――優しくて。

 その優しさに甘えてしまって、身も心もダメにしてしまうぐらい、依存してしまうぐらいぐちゃぐちゃに溶けて。

 

 ――綺麗で。

 その美しさに何度魅入られて、いつもときめいてしまって勉強なんて手につかないくらいため息が全身からこぼれて。

 

 ――それで……。

 

「わたしをこれでもかってぐらい大好きな、ナツキなんだよ!!」

「ッ……ハル…………!」

「わたしの好きをこれ以上バカにさせない! 例えナツキだろうと、そんなこと関係ない! あなたがわたしを利用してるっていうなら、わたしだってナツキを利用してる!」

 

 言ってしまえば、わたしたちの関係はただの依存なのかもしれない。

 ナツキは空を飛ぶためにわたしを利用しているのなら、わたしは一人ぼっちじゃないように自分を言い聞かせるためにナツキを利用している。

 でも裏を返せば、依存とはその人なりの信頼であり、愛なのかもしれない。

 お互いに組んず解れつ絡み合って、プログラムのスパゲティコードのようにどこかを切ってしまえば立ち行かなくなってしまうほどの深く危険なほどの愛情。

 だから誰であろうと、わたしたちの愛をバカにさせない。わたしたちの好きを、諦めさせたりしない。

 

「ハル。私、私ね……」

「うん」

「私、ハルが好き。この世のどんなものより、どんな人よりいっちばん好き」

「私も、ナツキが好き。離れたら死んじゃうぐらい、そのぐらい愛してる」

「ふふ……重いハル」

「そっちこそ」

 

 ナツキは聖人君子じゃない。ただのちっぽけでか弱い女の子だ。

 一時はそんな彼女だと思っていたけど、全然違った。わたしが寄りかかっていたように、ナツキもまたわたしに寄りかかっていた。わたしを、好きでいてくれた。

 

「ありがとう、話してくれて」

「……ううん。私も、ハルだから言えたの」

 

 唇の代わりにおでこを擦り寄せる。まるでわたしの考えていることが伝わってしまうテレパシーを感じてしまう。

 目を閉じて、わたしも前に進もうと、一緒に最高で最善の未来を歩みたいって思った。

 呪いでも構わない。呪縛でも厭わない。だってそれがわたしの夢なんだから。

 

「ナツキ」

「ん?」

「わたし、写真家になる」

 

 それは些細な勇気で、大きな決意。

 険しい道かもしれない。センスが問われて、天才には及ばないかもしれない。

 だけど、わたしは一人じゃない。

 

「一緒に同じ大学、行ってくれない?」

「え……?」

「同じ大学に行って、最も美しいナツキを撮りたい」

「……なんかプロポーズみたいだね」

「ダメ?」

 

 自分で言うのも何だけど、ナツキより少し小さな身体が上目遣いの潤んだ瞳で甘えるような猫なで声。これが揃ってしまえば、プロポーズを断れないでしょ?

 

「……どんな大学かによる」

「ナツキ頭悪いもんね」

「バカにしてる?」

「ううん。教えてあげるって言ってるの」

 

 一緒に勉強して、頭を悩ませて。2人で受験して、合格して。それで大学のキャンパスライフ。

 わたしの完璧な人生。どう、ノッてみる気はない?

 

「じゃあ、一緒に」

「うん。一緒に」

 

 小さく絡めあった小指が約束を結ぶ。

 絶対。絶対叶えてみせる。この約束も。その先の未来も。ずっとふたりで。

 

「ハル。私からもワガママいい?」

「なに?」

「最後に1つおっきな事。タッグフォースバーサスに出場しよ」

 

 それは意外な提案。でも2人でなら、と。乗り越えられたワガママだったとしたら、嬉しくて。

 

「じゃあそれも約束」

「ありがと……」

 

 窓から差し込むのはもう夜の帳ではなく、太陽の輝き。

 朝焼けに結ばれた2つの約束を、わたしたちは永遠の思い出にしたい。

 仕事を始めても、老いてシワが濃くなっても、2人で縁側に座ってお茶を啜っても、あの時は楽しかったねって、笑い合えるような、そんな素敵な思い出にしたい。

 ナツキも一緒だといいな。僅かなワガママも込めて、わたしたちは朝焼けの太陽を背に、2人だけの未来へと歩き始めた。

 

 ◇

 

【世紀末】タッグフォースバーサスpart217【カップル戦争】

 

1:以下名無しのダイバーがお送りします。

ここは2人一組対抗戦イベントこと「タッグフォースバーサス」について語るスレです。チームを組んだダイバーや対戦相手への誹謗中傷はやめましょう。

 

Q.タッグフォースバーサスとは?

A.2人一組で挑む変則フォース戦の対戦イベント。カップルや相棒と共に力試しがしたいというダイバーに向けて追加されました。

 

Q.どうしてタッグ?

A.知らん。運営に聞け。

 

 ◇

 

74:以下名無しのダイバーがお送りします。

そういえば春夏秋冬のモミセツもエントリーしてるみたいだな

 

75:以下名無しのダイバーがお送りします。

また13kmスナイプショットか

 

76:以下名無しのダイバーがお送りします。

クソゲーになるからやめてクレメンス

 

77:以下名無しのダイバーがお送りします。

あれ、ナツハルは?

 

78:以下名無しのダイバーがお送りします。

なんかエントリーしてないっぽい

 

79:以下名無しのダイバーがお送りします。

あら、なんでだ

 

80:以下名無しのダイバーがお送りします。

お嬢の配信でちらっと言ってたけど、やらないってナツキちゃんが

 

81:以下名無しのダイバーがお送りします。

まじかー

 

82:以下名無しのダイバーがお送りします。

いや、そんなことなさそうだけど

 

83:以下名無しのダイバーがお送りします。

ん? どっち

 

84:以下名無しのダイバーがお送りします。

今、エントリーされたっぽい。締め切りギリギリだけどな

 

85:以下名無しのダイバーがお送りします。

我が世のナツハルがキターーーーーーーーーーーーーー!!!!!!

 

86:以下名無しのダイバーがお送りします。

そんなに喜ぶことかいな

 

87:以下名無しのダイバーがお送りします。

いうてその手の百合好きにはたまらん一組だからな

 

88:以下名無しのダイバーがお送りします。

出来てると思ってたけど出来てたとは思わなんだ

 

89:以下名無しのダイバーがお送りします。

せんぱい後輩ペア出てるっぽいし、熱いわね

 

90:以下名無しのダイバーがお送りします。

ちのちゃん、モミセツ潰す宣言してから無事エントリーしたっぽいし、マジなんだろうな

 

91:以下名無しのダイバーがお送りします。

3桁前半ランカーに目をつけられるモミセツェ……

 

92:以下名無しのダイバーがお送りします。

荒れそうだな、今回も

 

93:以下名無しのダイバーがお送りします。

リア充爆発同盟が今回も爆発してくれると信じて

 

94:以下名無しのダイバーがお送りします。

 

 ◇




2人、足並み揃えて。ようやく前へ
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