第76話:タッグフォースバーサス、開幕
『毎度! 今回も始まりましたタッグフォースバーサス!』
陽気で関西人的訛りを感じさせるそちらの方面の人物であることが分かるであろう。
GBN内はお祭り騒ぎ。それもそのはず。ゴールデンウィークに合わせて開催されたタッグフォースバーサスは、フォース戦やレイドバトルレベルではないにしろ、2対2で戦うPvPイベント。
ダイバーたちは血に餓えている。何故か。戦いこそが人の本質であり、争いは人を魅了するから。という現代人にはありえない思想がこの場合当てはまるのだ。
要するにGBNの連中はだいたいお祭りごとが大好きなのである。
こと第二次有志連合戦の後に行われたレイドバトルや、アルスレイドなどなど。大戦争イベントなんかもその種類の1つである。
小学生みたいなことを言うと「いっぱい戦ってる方がかっこいい」とかそういう理由だ。
『実況はご存知窓辺のモクシュンギク……ミスターMS!』
歓喜の声に咽び泣くふりをしながら、マイクを手に取るのは雷模様に真っ黒なグラサンを身に着けた推定20代ぐらいであろうノリノリの関西人。
実況者であるのだろう。あぁいうノリこそお祭り事に餓えたダイバーたちが欲している、いわば盛り上げ役と言うべきだろう。
『そして解説は~!』
『どうも、フォース『タイルドロー』のリーダー。タイルです』
更には黄色い歓声。画面の前で推しマークであるチェーンソーには「切り裂いて(ハート)」と書かれたアイドルの追っかけによくある痛いうちわを手に持った熱狂的なタイルファンが声を上げていた。
ひょっとしたら、わたしたちはこういう言ったファンたちに刺されていた可能性があったと思うと、少し怖くなってしまう。
『タイルはーん、よく受けてくだはったなー』
『私もできれば参加したかったんですけどね。相手がいませんから』
『ワイも参加したかったんやけどなー。どーする? 今から参加します?』
『やめておきます。ミスターMSと仲良くするなと副リーダーから言われてますので』
ドシャア! と大げさにすっ転んだ辺り、やっぱり関西人の血が流れているに違いない。
ちゃんと受け身をとっているみたいだし、あの人結構場慣れしている。G-Tubeでも見たことあるし、結構有名な人なのだろう。
それにしてもタイルさんの補佐さん、結構えげつないこと言うなぁ。
もしも言われてる相手がわたしだったら泣いてるだろうな。
『酷いこと言うやっちゃなぁ~!』
『恐縮です』
お約束はこの辺にしといて、とやっぱり伝統芸らしい。芸人って体を張るのが役目だもんね。わたしも覚えがあるよ。
『ワールドランキング76位。殺戮の天使っちゅーあだ名も持ってるタイルはんに聞きたいんやけど……。期待のタッグはいるんやろ?』
『えぇ、まぁ。身内びいきで申し訳ありませんがね。私が推すのは』
――春夏秋冬のハル、ナツキ組とモミジ、セツ組ですね。
掲示板にて名誉春夏秋冬なんて言われているタイルさんから直々のご指名。
画面上に写っているタイルさんの表情がやや鋭くなっているのを感じる。期待している。裏切ったらどうなるか、分かるね? という脅迫じみた顔つきにまたもやゾクリと背筋を凍らせる。
『ちょーどアルスレイド戦の前に一戦交えて有名になった4人組フォースやね』
『はい。彼女たちには素質がある。本気の遊びをしてくれる素質がね』
『本気の遊び! GBN、いや! ガンプラバトルをここまで体現した事を言うんなら、さぞ楽しそうに遊ぶんやろなぁ!』
はい。ですから……。タイルさんはそこまで言ってから、ニッコリと笑みをこぼす。
その表情には楽しいや嬉しい、という感情ではなく、ただただ自分が気にかけているライバルに対して殺意と期待。そしてどれだけ私を楽しませてくれるか、という明確な敵意を感じた。
『楽しみにしてますよ』
黄色い歓声が鳴り響いているけど、わたしたちはそれどころじゃなかった。
本気で戦わないと、恐らくタイルさんに殺される。全身にびっちり立っている鳥肌を見れば一目瞭然だった。
『さて、タッグフォースバーサスの説明せんとな! 参加ダイバーたちはこれから3時間の間、タッグフォースバーサス専用のミッションに参加してもらう。そこで勝った奴はポイントゲット! このポイントが一番多かったやっこさんが優勝チーム、ってことやな』
細かいルールの説明は、事前にフォースのみんなで確認している。
2名両者が生存していればポイントはブースト。などなど、わたしも知らない内容があったけれど、結局は勝てばいい。わたしたちは参加できればよかったけど、優勝も狙っていきたい。だからたくさん勝って、成果を上げるんだ。
『ではタイルはん! 開催の挨拶を!』
『はい。タッグフォースバーサス、これより開催します!』
湧き上がる歓声と、勝利への渇望。必ず勝ってやるという意気込み。
それを大釜でかき混ぜて、出来上がった何かをなんと言うだろうか。
わたしならそうだな。愛、と捉える。勝利への愛。相方への愛。そしてわたしは……。
「絶対勝とう、ハル!」
「うん」
両手を絡めて、おでこ同士をくっつける。勇気と愛。そして信頼が伝わってくる。
作戦はちゃんと練ってきた。あとは出たとこ勝負。相手に合わせて戦うしかない。
「おっとー! 勝つのは、あたしたち! だよなちびっこ!」
「うん! 当たったら負けないから!」
「こっちこそ」
おでこをくっつけているわたしたちの頭をがっしりと掴まれて、左右に頭を振られれば、そこにはモミジとセツがいた。
さっきから一緒にいたんだけど、どうやらまたわたしたち2人だけの世界に入ってしまったみたいだ。まぁ、わたしたちが幸せだったから言うことはないのだけど。
「ま、ホントに当たるかは分かんないけど」
「でも当たらないとも限りませんよね?」
「まーね。ランダムって話だから」
このタッグフォースバーサスはランダムマッチに対応している。
ある程度実力の近い人を選別している、というWiki情報があるけれど、それ以外は無差別に決められる。
ランクが近いわたしたち4人が同じランダムテーブルに入らない理由がないのだ。だからモミジ、セツペアと当たる可能性がある。あくまで可能性だけど。
正直火力はどうにかなるけど、正確無比な射撃をしてくるモミジはとにかく厄介だ。伊達に自分たちのフォースで参謀とマッパーを兼ねていない。
最近はタンクも兼任しているセツと組み合わせたら、勝ち目は薄いかもしれないが、密かに作戦を立ててきたのも事実だ。できればそれが披露される状況をAIさんに作ってほしくはないけれど。
「でも当たったら」
「容赦しないよ!」
「わーてる。あたしたちが勝つから」
「うん!」
でもそこにギスギス感はない。あるのは対等なライバルとしての相手へのリスペクト。そして勝利への渇望。
これこそが本気の遊び、というものなのだろうか。わたしには当然のことと思えるけどな。
「やる気十分だな、4人とも」
「ん? その声……」
わたしたちが火花をバチバチと散らしているところに間を割って入ってきたのは、白髪の男性。この男性には見覚えがあった。
「ロイジーじゃーん! 元気だった?」
「あぁ。キミたちも元気そうで何よりだ」
「てことはエメラさんも?」
「はい、私はここです!」
ひょこっとロイジーの肩から顔を出したのは、桃色の髪を頭部の下の方で結んだ女性、エメラだった。
彼らはわたしたちの初めてのフォース戦の相手。あれから強くなったと聞いたが、よもやこんなところで出会うとは思っていなかったわけで。
いや、2人の関係ならタッグフォースバーサスに出てきてもおかしくはなかったか。
「ロイジーさんもタッグフォースバーサスに?」
「あぁ。面白そうなイベントに参加しないゲーマーはいないだろ?」
「それもそっか」
というのは口実で、実際は彼女といちゃつくためだったりしないだろうか。
想像だけで語るのは失礼に値するけれど、それでも2人の関係が更に親密になっている様子。これはくっつくのも時間の問題だろう。
「では俺たちはこれで。解説イチオシの実力、見せてくれよ」
「勝手にイチオシにされたんだけどね」
「今度会う時は戦場かな」
「だったら負けませんよ!」
ふんす! と両腕を胸の前で構えて臨戦態勢のポーズ。そうされると少し可愛らしく見えるから、ロイジーさんは果報者だろう。
手を振って別れた後に続けてやってきたのは、茶色い髪をポニーテールでまとめた少女だった。
「こんちの~」
「ちのお姉ちゃんだー!」
「会いたかったよ~~~!!! 数時間ぶりだねぇ~~~~!!! スーーーーーハーーーーーーー」
やっぱりこの人通報した方がいいんじゃないだろうか。
またもやセツに抱きついて思いっきりセツの匂いを嗅いでる相手はちの。これでも高ランカーであり、有名G-Tuberの1人でもあった。
「あぁ~~~、癒やされる~~~~~!」
「お、お嬢。その辺で……」
「おっとっと。そうだった」
おそらくタッグ相手のシロウに肩を叩かれて止めが入る。がっくりとしながら、名残惜しそうにセツから離れる。
つかつかと歩いていった先にはモミジ。おおよそ具現化されたであろう手紙を1通渡して、声高らかに宣言した。
「モミジちゃん、絶対勝つから!」
「……わざわざ挑戦状って、やる気満々じゃん」
「そりゃね! だってセッちゃん取られたの悔しいし!」
覗き見た挑戦状にはざっくり要約すると、相手がセツだろうとモミジだろうと絶対に勝つという鉄の意志と鋼の強さで書かれた文字が表記されている。
墨っぽいけど、結構字が丸っこい。こういう締まらないところがなんというかちのらしい。
ランダムマッチでぶつからなかったら今度改めて挑戦状を突きつける、とまで言ってきたちのは、かなりやる気に満ち溢れている。こりゃ本当にマッチングしたら盛り上がること間違いないね。
「てことで! シロウくん、行くよ!」
「は、はい!」
嵐のように過ぎ去っていった彼女はミッションカウンターからデータの海に消えていった。
本来実力差がある3人だが、もしかしたらマッチングするかもしれない。そんな執念にも似た何かを感じながら、わたしたちはミッションカウンターへと歩いていく。目的はもちろんタッグフォースバーサスへのマッチングだ。
「んじゃ、次会ったら戦場で」
「はい。全勝して待ってます」
「大きく出たね、ナツキお姉ちゃん!」
「もちろん! ハルと一緒だから!」
嬉しいことを言ってくれるなぁ。この前まで乗り気じゃなかったくせに。
目の前でモミジとセツが消えていったのを確認して、わたしたちは決意を胸に、勇気を両手に込めて、手を握る。
振り向けば彼女の笑顔。ナツキがなんの憂いもなく、なんの後悔もない、真っ直ぐに照りつける太陽がそこにある。
そうだ。わたしたちは一人じゃない。
家族を失って、一人ぼっちだったわたし。
信頼を失って、空を飛べなくなったナツキ。
それはきっと歪な形で混ざり合っているんだと思う。無理やり引き剥がしてしまえば、必ず破綻してしまうような関係。
だけどそれが愛じゃないと誰が言えるだろう。愛とは言い換えれば依存だ。
どんな形であろうと、わたしたちの間にあるのはお互いにお互いを思いやった依存という名の愛そのもの。
「ナツキ。勝とう」
「うん」
一緒にエントリーボタンを押して、2人の足元から光の柱が立ち上る。
本気の遊び、やろうじゃんか!
本気の遊びは心が躍る