リアルが充実している人、というのはどういう人を想像するだろうか。
社会で成功している人。それとも幸せな毎日を送っている人。友達とのバカ騒ぎを心から楽しんでいる人。
全て幸せの形は違えど、総じて充実していると言って差し支えない。
であるならば、リアルが充実している人、もといリア充に値しない人は幸せではないのか。答えはきっと、ここにあるのだろう。
『リア充よ! 私は帰ってきたぁあああああああ!!!!!』
『行けッ! カトー! リア充は全員殲滅する!!』
答えはおそらく、楽しんでやってるんだろうなぁ、という感想だった。
第一戦目。ランダムエンカウントにて当たった相手はリア充撲滅委員会なる名前のインパクトが特徴的なカトーとフリッツだった。
彼らの目的は勝つことではない。このタッグフォースバーサスに参加しているリア充を全てそのアトミックバズーカとプラズマダイバーミサイルで消し飛ばすことにあった。
初撃にて最大の一手であるアトミックバズーカの核弾頭が放たれたわたしたちは咄嗟に回避行動を取ることでなんとか爆発に飲まれずに済んだ。
「あっぶなー。初手奥義はちょっとやめてほしいなっ!」
わたしのお仕事は基本的には前衛の仕事ではあるが、今回は少し違っていた。
別に前衛2人でも仕事はあるものの、わたしのフォーカードゲートによるバフ効果は著しいものだ。故に後方支援の特大火力を叩き出すことだって可能。
そこに目をつけたナツキは、わたしを後方からの砲撃戦用。ナツキが前衛で戦線を押し上げる。というものだった。
わたしも2人で戦いたかったけど、勝つためだ。手段は選んでいられない。
だから八つ当たりがてら、目の前のガンダム試作2号機を手玉に取るようにビットで攻撃を仕掛けていた。
大型スラスターがついているものの、その練度は同じ試作2号機のスラスターで駆けるオーガのような大胆かつ繊細な動きではない。だからこういう痛いところを連続で突かれていくと疲労も溜まってくるわけで。
『カトー! くそっ! リア充め……!』
「それ関係ないと思うんだけど!」
例えアトミックバズーカがもう一度使えたとしても、クールタイムに時間がかかる。だからこういうのは初手で使うんじゃなくて、明らかなスキを見つけた時に叩き込むべきなんだよ。
バランスを崩した試作2号機が宇宙空間でビームサーベルビットに翻弄されていく。
その数約5基。わたしが保有しているビットは10基だ。なら残りの5基はどこにあると思う?
カトーの視線の先。四角く囲われた四辺の先ではチャージビットがライフリングのように回転しながら、パワービットのフォーカードゲートへとエネルギーを注いでいる。そしてその先にはビームビット5基がライフルモードで待機中。
意趣返しだ。受け取っちゃえ!
「GNシングルハイパーメガカノン! ファイア!」
『何の光?!』
桜色の粒子砲が試作2号機を確実に捉える。事前に回避していたビットたちは無傷だが、光の中に飲まれていった試作2号機がどうなるか。見たところIフィールドバリアもない。だとしたら、結果は明白だった。
ビーム照射後。焼けただれた見た目はもはや原型を留めることなく、その場で宇宙の星となって消えていった。
『カトー!』
「よそ見なんて、ツレナイ事言わないでよ!」
向こうのAGE-1フラットVSオーバースカイの対戦もそろそろ終わりの時を迎えるところだった。
右手だけ残して全て切断したオーバースカイのガーベラストレートの切れ味もさることながら、意地でもプラズマダイバーミサイルは手にしていたAGE-1フラットも執念だけは立派なものだった。
だけどそれを見逃すほどナツキは甘くない。これまで使ってこなかった肩のビームブーメランを取り出して、牽制攻撃を仕掛ける。
見え透いた真っ直ぐな攻撃など受けてたまるかと言わんばかりに、F1カーのようなスラスターを展開させながら、必死に躱してみせたがそこには既にナツキが立っている。
剣士とは少しでも背中を見せたら終わりだという。ならば今の状況がたどり着く未来とはなにか。
それは死だ。
「終わりッ!!」
スラスターから勢いよく入刀されたガーベラストレートはバターを突き刺すようにコックピットまで貫通させ、腰に向かって切り捨てる。
『リア充めぇええええええ!!!!!』
AGE機体特有の桃色の爆発を目にすると、勝利はわたしたちのものとなっていた。
◇
「よっし、勝ち!」
「やったね、ナツキ」
勝利の喜びに思わずハイタッチでニッコリ。
1戦目の相手は正直よく分からない相手ではあったものの、爆発力には長けていたと言っても過言ではなかった。プラズマダイバーミサイル打たれなくてよかったー。
「続けて2戦目、行こうか」
「うん!」
続く2戦目も大したことはなく勝利、3戦目も勝利を掴み取ることはできた。
ナツキとのコンビネーションのおかげだと思えば思うほど、絆が深まっていくような気がして気持ちいい。
「色々戦術変えてるから、悟られにくいのもあるね。でも総じて言えるのは、1対1は必須になってくるっぽいね」
「うん。どうしても同数対決だから」
このタッグフォースバーサスには必勝法がある。というわけではないが、ある程度有利に事を進めるにはおそらく1on1のタイマン勝負が鍵になる。
わたしたちのように前衛2人組というわけではなく、前衛1、後衛1のタッグもあるわけで。
そんな相手には前衛を釘付けにしてもらって、その間に後衛を叩いて、2対1の状況に持ち込めば、基本的には有利になる。これまでの戦いでそして来たように、恐らく相手側もそれを十分に理解しているだろう。
勝ち星を重ねてきた今だからこそ警戒すべき内容だった。
「ハルの高火力砲撃で囮にするのもいいけど、ファイルム自体が近接機体ってもうバレてるだろうし、うーん」
「いっそ2人で前線叩いてから、後方支援を叩くのもありっちゃありかな」
戦略はいくらでも作ることはできる。でも戦術によって崩されてしまえば元も子もない。だからその塩梅が難しいのだ。
とは言え、残り時間もだいたい半分を切ったところだ。次の戦闘に気を移すとしよう。
ランダムでマッチングされた相手は『勇者と後輩』というなんともよく分からないネーミングをしたチームだった。
わたしたちのナツハルもそうだけど、臨時に組むタッグフォースには名前が決められる。さっきのリア充撲滅委員会なる名称も参加する際に付けたのだろう。
勇者と後輩。相手は分からないけど、舐めてかかったら痛い目にあうはずだ。だから今回も全力で行く。
「機体はバルバトスの改造機と、ダガーLの改造機か」
「わたしがバルバトスを抑えるから、ナツキはダガーLをお願い」
「うん。分かった」
作戦は至ってシンプル。1on1で仕掛けて、勝ったら合流。というシンプルな作戦。
まぁ、このぐらいシンプルであれば応用の幅も無限大だし、そう悪くないアイディアであるだろう。
ファイルムとオーバースカイが出撃すると、そこはハシュマル戦を舞台にしたであろう渓谷。
その中心部。採掘場の元々はハシュマルがいた場所には青い装甲に黄色いラインが入った勇者のような鎧。腰からは赤いビームマントが煌めいており、風に凪いでまさしく孤高の勇者であることを示すかのような風貌だった。
そしてその手には巨大なバスターソード。鈍色に光るそれは、明らかに身の丈に合わないほどの大きさであり、ヘルムヴィーゲ・リンカーのヴァルキュリアバスターソードを思わせる。だが基本構造自体が全くの別物。あれは1から作り出した、自慢の大剣だということだろう。
『やってきたか、魔王の手下め!』
「は?」「え?」
2人合わせて思わず顔を見合わせてしまった。
今なんて言った? 魔王の手下? わたしたち魔王の手下になった覚えはないんだけど。
そもそも魔王ロールプレイの人なんて……。いや、心当たりがあった。
その名前を『ジャバウォック』とか『終末を呼ぶ竜の端末』だとか言ってるあの人だ。でもあの人とそもそも接点ないし。セツは一方的にライバル視してるみたいだけど。
『せんぱぁい、見ず知らずの女の子にナンパはよくないんじゃないですかぁ?』
『はぁ?! してねぇよ! だいたいお前がいるのにナンパとかするわけないだろ!』
『よく言いますよ。昔、サラーナさんにナンパしたこと、今でも覚えてますからねー』
『おんまえ、あの時の話はやめろって言ってるだろ!』
なんだ、この痴話喧嘩。
どうやら『勇者と後輩』の2人は付き合っているみたいだ。
まるでわたしたちみたいだね、なんて心の片隅では思っているものの、それよりも問題な事実が1つあった。
それはダガーLの声の主がどこか近くにいるということだ。
こんな時モミジのセンサーがあったら……。ないものねだりをしてもしょうがない。
ナツキに通信を送って、目の前のバルバトスの改造機はわたしがやると伝える。
正直、あんなガチガチの鉄血装甲を身に着けた相手と近接戦闘はしたくないけれど、わたしたちの全勝のためだ。やるっきゃない!
ビットをすぐさま展開。同時にオーバースカイが飛び立ち、戦闘が始まった。
『ビット持ちか。ますます手下らしいな!』
「その言葉、今から後悔させるから」
相手はナノラミネートアーマーでビーム攻撃はほぼ無力化できていると言っても過言ではないはずだ。
だからこの戦いではビットはほぼフレームを狙うか牽制にしかならない。
ソードガンを両手に構えて、ビットを展開させる。この際だ、最初からフルスロットルで行かせてもらう。
「フォーカードゲート、オープン!」
今回はビーム攻撃ではなく自身の出力アップ。これに加えてトランザム七分咲きであれば装甲を叩ききれるはずだ。
パワーゲートをくぐり、ファイル・バインダーから桃色のエネルギーが放出される。
まさしくわたしが求めた翼。高機動状態を活かしながら、ジグザグに接近し、ソードガンを振り下ろす。
『なるほど、サバーニャ軸だと思って侮ってたが接近戦仕様だったか』
「これを受け止めるなんて……!」
対して相手の勇者、もといユウシというダイバーは高機動からの連撃をいともたやすく大剣で受け止める。この人、間違いなく強者だ。大剣の使い方が慣れすぎている。
何度も斬り結ぶ内に、その大剣から出てくる風圧が機体にまとわりつく。
一撃一撃が重たい。こんなのフォーカードゲートを使ってなかったら、間違いなくパワー負けしてた。
『そしてエクシアリペアⅣの腕! 練り上げられている!』
「そっちの大剣も、なかなか頑丈じゃんッ!」
一旦距離を取ればロケット砲と、よそから飛んでくる弾丸に襲われる。
近づけばわたしのキルラインよりも外側から大剣を振りかざしてくる。
そしてさっきから右腕ばっか狙ってくるのは、七分咲きが厄介だからだろう。エネルギー残量はまだ十分にある。そもそも作戦は目の前のバルバトスを釘付けにすることだ。向こうのダガーLを倒せれば、状況は逆転する。だからナツキのためにここは抑える!
「結構なお手まえで!」
『そっちこそ、いい腕してるぜ!』
鍔迫り合いになると必ずわたしが不利になる。ワイヤーブレイドもどこまで作用があるか。
バルバトスの改造機であれば阿頼耶識システムを搭載しててもおかしくない。
超反応からのワイヤーを巻き上げられて、大剣でペシャリとかされたら溜まったもんじゃない。
そうなんだ。今のわたしには決定打がない。ビーム攻撃も効かないし、実体剣のソードガンも効かない。そしてワイヤーブレイドは怖くて使えない。
もどかしいけど、きっちり抑えよう。
『どうした! さっきまでの殺意が伝わってこないぜ!』
『あ、やば』
『ん? どうしたユメ?』
『せんぱい、やられちゃいました。てへっ』
傍受した通信から相手の後輩、もといユメを撃墜した旨が流れてくる。
ってことは……。
『あとは1人で頑張ってくーださい、せんぱぁい』
「あの野郎!」
降り注いできた青い流星からの一撃を大剣で防いだ後に、ガンダムティターンは一歩後ろに後退する。
代わりにやってきたのはナツキのオーバースカイ。やや装甲は凹んでいるものの、耐久値はほぼ削られてないようだった。
『ユメも鍛え直しだな』
「で、どうする? 2対1じゃ勝ち目ないと思うけど」
『いや、俺は不可能を可能に変える男だ。なんてな』
通信からスゥーと息を吸い込み、1つため息をつく。
簡易的な瞑想。集中するためのある種の暗示。ユウシは儀式を行うことで、次に行う勝利への活路を見出す。
『怒れ、ティターン!』
お腹の奥の方に響くオオカミのような唸り声。いや違う。これはエイハブ・ウェーブ。リアクターが最大出力を発揮しながら、オオカミの遠吠えのような起動音を響かせる。あれは、阿頼耶識システムのリミッター解除……!
出力がおおよそ3倍にまで膨れ上がったガンダムティターンの第一歩は非常に速い。
確実にわたしを捉えていた大剣による突き攻撃をギリギリのところで回避するが、右羽根のスラスターが風圧に煽られて破壊される。
続く第2打は横薙ぎの一閃。慌てて飛び上がったものの、脚部に被弾。メリメリという音を立てながら、膝から下を両断された。質量のままに渓谷の岩盤に叩きつけられた、わたしに襲いかかる3撃目。振り下ろされたバスターソードをナツキが受け止める。
「こんのっ!」
ただの右手だけでこんなにも重たい力場がかかっているんだ。だったら……。
『剣は、両手で持ったほうが強いんだ!!』
なんとか右側に力場をそらしたナツキは刀が擦れる音を掻き立てながら、バスターソードを地面に叩き下ろす。
でもこれで終わらないのがあの勇者だ。
4発目に襲いかかるのは、己の獲物を手放して、拳から降りかかる暴力。
奥の手の切り時は、ここしかない。
「トランザム・コネクティブ!」
瞬間。桜色と空色の粒子が宙を舞う。わたしたちがいた場所を襲ったのは土煙と岩盤を抉るだけの破壊力満点の拳。あの攻撃を受けていたら、確実に死んでいた。
だけど、この必殺技を起動したからには、残り1分で仕留めるしかない!
「ナツキ!」
「うん!」
『コンビネーション、来るか!』
足元にあった大剣を盾にするように、量子化が終わったわたしたちの連撃を防いでいく。
状況が悪かった。ガンダムティターンは現在岩盤を背にして、大剣を盾にしている状態。つまり攻撃は前からしかできないため死角がないのだ。地形を利用した時間稼ぎ、お見事だと言わざるを得ないが、だけど!
「そんな岩盤溶かし尽くしてやる!」
直列に並んだパワービット8基と残りビームビットすべてを使って、ライフリングを回転させる。エネルギー充填完了。いくら岩盤だって、溶かせば壁にはならないでしょ!
「GN直列ハイパーメガカノン! トランザムファイア!!」
『うぉっ! マジか!!』
天よりやってくるのは全てを燃やし尽くさんとする桜の色の波動砲。
収束されたビーム砲であればどんなにナノラミネートアーマーが硬かろうが、ラミネート加工ごと溶かし尽くす。
咄嗟に前に躍り出たティターンのビームマントが中和しきれずに爆散。元々あった岩盤も、原型を留めないほどに溶かし尽くされていた。
「ハル! あと30秒!」
「うん!」
6倍の出力から、前後を囲んで挟み撃ちを仕掛けるが、これもリミッター解除の出力によって回避。
お返しと言わんばかりに大剣による横薙ぎが襲うが、食らってる暇はない。回避。
ジリ貧だった。このままじゃ遅かれ早かれ粒子残量切れで動けなくなる。それまでになんとか倒さなければ。
残り時間は20秒。焦りが人を惑わせる。息が少し荒くなって、ひょっとしたら勝てないかも、何ていう不安さえも脳裏によぎってしまう。
だけど、それでも。諦めないって決めた。約束したんだ、受験前に最後のいい思い出を作ろうって。でなきゃナツキが苦手だった大会に出場するわけがない。だからっ!
「ハル! 必殺技が出てきた!」
ナツキのポップアップには必殺技が表記されたらしい。
どんな必殺技か。何が出るか蛇が出るか分からないけど、状況を打開するにはもうそれしかない!
「手を繋いで!」
「うん!」
わたしたちは右手と左手を繋ぎ合う。絡めあった指先から伝わってくるのは愛情親愛。そして、信頼。
桜色と空色の粒子が交わり絡めあって、1つの巨大なエネルギー体へと姿を変える。
これが、わたしたちのもう1つの必殺技。その名も……。
「「ジューンブライド・エクステンション!!!」」
巨大なエネルギー体が剣となって、結婚式のケーキ入刀のようにガンダムティターンへと振り下ろされる。
ティターンは、大剣の持ち手を両手で握り込み、ジューンブライド・エクステンションを迎え撃つべく、バスターソードを振りかざす。
『くぅううううううう!!!!!!』
「「終われぇえええええええええええ!!!!!!」」
激しくぶつかりあう魂と魂。
かたや大剣1つに全ての愛を注いだバカ。
かたや全ての愛を愛するものと分かち合ったバカップル。
魂は惹かれ合うように、されど愛の重さは差が生まれる。
ついに大剣をエネルギー体で飲み込みながら、最後まで抵抗をやめないガンダムティターンの、勇者の姿に敬意を払いながら、わたしたちの全力を叩き込んだ。
『WINNER ナツハル』
一瞬の幕引き。焼けただれた大地に地を付けたのは、紛れもなくナツキとわたしのガンプラだけだった。
最後に必ず愛は勝つ
◇ナツキ:『ジューンブライド・エクステンション』
2機一体の巨大なエネルギー体を召喚。それをぶつける。
3モードあり、ブレイドモード、シュートモード。そしてツインズモードが存在する
ブレイドモード:巨大な剣をケーキ入刀のように振り下ろす
シュートモード:巨大な弓でエネルギーを矢に込めて放つ
ツインズモード:トランザム・コネクティブと併用可。それぞれの剣が発生する