ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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残り4話なので初投稿です。


第79話:閃光。決着の親子

 敵対するのはセツのお姉ちゃんであり、恩人であり、大切な母親。

 セツの大切な人で、かけがえのない相手で。それでいてライバル。

 ディバイダーをシールド形態に変えながら、セツは大回りしながらも直線にならないようにイクスリベイクを操作する。

 その理由は目の前の兵器群を見てのとおりだ。

 フルドレスユニットによるレーザー攻撃は装甲を溶かすし、GNバスターライフルはそれこそ当たれば確定一発で致命傷になりかねない強力な兵器。だからセツが接敵するにはこれらの致命傷になりうる攻撃を全て回避しなければならない。

 両腕ディバイダーをスラスター状態にして、強引にサイドステップやバックステップを絡ませながら、接近する。

 

『腕を上げたね、セッちゃん!』

 

 まだまだ余裕そうなちのお姉ちゃん。

 作戦は見抜かれていると言ってもいい。だからこその近づけさせまいとする閃光。だからこその置きビームやレーザーを絡ませながらセツの会敵を許すまいとしている。

 状況は最悪。このまま長引けば、不利になるのはこちら。集中力がなくなって、最終的には被弾が重なり撃墜もあり得る。

 でも、モミジお姉ちゃんと約束したんだ。この戦い、絶対に勝とうって。

 悪く言えばちのお姉ちゃんの期待を裏切ったセツにとっての恩返しなんだ。

 セツはここまで成長したよって。だから、前みたいにいじめられたって跳ね返してやるんだって。そうお姉ちゃんに信じてもらうんだ。

 

「だからっ!」

 

 右手にはガンダムXディバイダーが手にしていたビームマシンガンを、左手にはクロスダインを手に前へ、前へと突き進む。

 ソードビットはモミジお姉ちゃんが引き受けてくれている。厄介なオールレンジ攻撃はほぼないに等しい。

 次に厄介なのは確実にフルドレスユニット。あれがあるからセツの行動は制限されている。レーザーの穴を縫うようにして避けても、そこには意図的に配置した穴が存在している。そしてちのお姉ちゃんはここに誘導させてバスターライフルを射出する。

 ルーチンは分かっていても、それを覆すほどのタイルお兄ちゃんのような機動力をセツは持ち合わせていない。だから狙うはフルドレスユニット。数を減らせば、自ずと戦略が変わってくる。

 避けながら引き金を引いて、黄色い閃光が宇宙を走る。

 もちろんただの射撃。セツは射撃テクニックはあれど、モミジお姉ちゃんほどじゃない。だから当然避けられる。

 同時にフルドレスのレーザーの風向きが変わる。次はこっち。次は左。

 2歩歩けば1歩戻り。4歩突き進もうものなら蜂の巣にされ、1歩先には死が待っている。

 

「やっぱ、お姉ちゃん強い」

 

 制圧射撃の密度が違う。伊達に格闘戦を『させない』戦い方が染み付いていない。

 だからこそ格闘戦を恐れているフシが見える。そこが狙い所なんだけど、そこまでたどり着くことができない。

 操縦桿を握る手から汗がにじむ。力がいつも以上に力む。息苦しさを感じて少しだけ呼吸が荒くなる。ここまでの精密操作は初めてだと言っても過言ではない。少しミスってしまえば、全てが台無しになってしまうような感覚。

 だとしても。そう自分に言い聞かせて、周囲を警戒する。

 

 セツは一人じゃない。モミジお姉ちゃんの期待を一身に背負って今を戦っている。

 セツは一人じゃない。今まで背負っていたワガママを言えない自分とはさよならをした。

 セツは一人じゃない。だって、幸せな明日が待ってるから。

 

 周囲の流れを読む。ちのお姉ちゃんが言っていた。人には少なからず癖というものが存在すると。意識していても必ず出てくる癖は、もはや逃れることもできないスキになると。

 なら、さっきから聞こえるガンプラの声を辿れば、自ずと癖は見つかるはず。

 集中。集中。集中。3度繰り返し、足りないならその倍。それでも足りないならそのまた倍。

 ちのお姉ちゃんの一本を取るために、全集中。呼吸の流れ1つさえ逃してはいけない。それが全てスキに繋がるのだから。

 

「そこっ!」

 

 まるでファンネルを撃ち落とす感覚。ニュータイプやXラウンダーがやったように、セツにだってできるはずだ。何故ならセツはELダイバーで、ガンプラの声を辿れるんだから。

 真っ直ぐ撃った弾はもちろん避けられる。だけど、そのスキを、明確な癖を待っていたんだ。

 2発目の弾丸はレーザーの間を駆け抜けていき、見事フルドレスユニットに命中する。

 

『マジッ?!』

 

 そしてちのお姉ちゃんの弱点はアドリブに弱いこと。であるならば!

 

「もう一本!」

 

 放たれた3発目のビームマシンガンはもう片方のフルドレスユニットを掠める。

 今の混乱に乗じているなら、当たると思ってたのに。

 

『そう簡単に!』

 

 今度はお返しと言わんばかりにレーザーによってビームマシンガンが融解。咄嗟に手放した直後に爆発を起こす。

 ディバイダーは姿勢制御用に使っているけれど、今なら2枚を攻撃に割いても行けるはず。最悪それでダメでもバックパックのスラスターは生きてる。だったら多少無理をしても、道理を通す!

 サブアームに掴まれたディバイダーを2門開いて、力を貯める。

 

「ハモニカブレード!」

 

 ビームの刃が斬撃波となって飛んでいく。これならチャージタイムはあっても、小回りの効きやすさ、燃費の良さを踏まえてこっちの方が優れている。

 ハモニカの刃をレーザーに溶かされながらも2発、3発と繰り広げていけば、そこに出てくるのは明確な穴。誘導しようとしている。攻撃もそうだけど、防御にも意識を割かなきゃ。

 

『どうしたの、接近するんでしょ!』

「言われなくても!」

 

 口はいくらでもつぶやけども、頭は冷静でいなければならない。

 いくらエネルギー効率が良くなったとしても、ハモニカの連射には限度がある。

 切るべきか、スラスターの全開放を。でもそれじゃあ最悪接近戦の切り札が失われてしまう可能性がある。反るか乗るか。この二択は非常に重要なものだった。

 

「でも……」

 

 勝ちたい。どんなに泥臭くたって、その懐にある勝利を掴み取ってでも、セツたちは勝ちたい。だから、アウトローにも成り下がろう。今は、ただ勝ちたいだけなんだ!

 

「イクスリベイク、リミットオーバー!」

 

 悲鳴にも似たリアクターの意図的な暴走。バックパックに備えられた2基のエイハブ・リアクターが狂った出力を放出し始める。

 瞬間、スラスターからの全力噴射。オーバーフローにも近い出力が最短距離で真っ直ぐ一直線ににゃんドレスワルツへと急接近する。

 レーザー照射によって盾にしていた右腕のディバイダーは消滅。

 サブアームのディバイダーも1枚を意図的に手放した後にバスターライフルによって融解。

 だけど、強引に接近できた。腰のビームサーベルを手に、破壊的なスピードの斬撃が斬りかかる。

 

『速いだけなら!』

 

 避けられても、瞬時にバックパックを方向転換して、回転しながらベーゴマのようににゃんドレスワルツへと向かう。

 それでも速いだけの攻撃はランカーに届きはしない。次の攻撃も避けられると、反撃と言わんばかりにバスターライフルを構える。

 

「速いだけだって!」

 

 ただではやられないのがセツのいいところだ。回転しているということは投擲しても挙動はわからないということ。ビームサーベルを遠心力とともに投げ飛ばせば、ヒットするのはバスターライフル。

 爆発に巻き込まれる前に投げ出した後、フルドレスのレーザーで意図的に爆発を引き起こす。

 巻き込まれたって、イクスリベイクの装甲ならそれぐらい……。

 

『それは囮だよ!』

「っ!」

 

 ビームワイヤーが爆煙の間をかき分けて攻め入る。咄嗟に回避するも、左のスラスターが被弾。大破する。

 ここが宇宙でよかった。空中戦だったら完全に地に落ちていたところだ。

 爆風を切り裂くようにして、桃色のビーム刃が介入してくる。今度は左足が切断。

 

『抜かったね。私が接近戦できないと思ってた?』

「思ってないよ。だってお姉ちゃん、強いもん」

 

 ずっと側で見てきた。G-にゃんドレスワルツをどうやって強くしようか、ずっと悩んでいる姿を見てきた。

 セツの『ガンプラの声を聞く力』を利用すれば、もっと簡単に強くなれたはずなのに、それをしなかったのは何故か。

 ちのお姉ちゃんが強いから。力だけではなく、心も。

 上を見上げればどこまでも遠くにあるランカーの壁を飛び越えるために心を折らずに努力してきた。

 そんな姿に、セツは憧れを抱いた。強さを抱いた。これがちのお姉ちゃんの本当の力なんだって。

 セツの、たった1人の母親。憧れた背中に恩返しがしたくて。

 

 ――だから、抜かってなんかいない。

 

 もう一度ビームワイヤーが飛び出し、セツの左腕に襲いかかる。

 クロスダインを右手へ手放し、その攻撃をあえて受け取った。

 ビームワイヤーとは糸だ。だから繋がれた瞬間、出力を離さない限り相手を逃がすことはできない。それは、お互いに言える。

 イクスリベイク、痛いだろうけど、もうちょっともってね。

 ビームワイヤーを左手で掴み、出力の限りに強引に引っ張り上げる。

 

『しまっ!』

「待ってた、この瞬間を!!」

 

 遅い。右手に構えたクロスダインの最後の地獄の門は開いている。

 胸と胸をぶつけ合うほどの距離。切り札は最も相手が油断した瞬間に打ち込むべし。だからこそ、今がその好機。

 ゼロ距離での一撃必殺。予測可能回避不可能の奥義、とくと受けてみて!

 

「ダインスレイヴ砲、はっしゃ!!」

 

 空に打ち上がるのは1本の槍。G-にゃんドレスワルツの命を掠め取りながら、左腕の切断を感じていた。

 

 ◇

 

「くそっ! 手間取った!」

 

 レドームはもう使い物にならない。かろうじて生きているのが右腕だったから助かったけど、足は膝から先がないし、狙撃用のビームランチャーと対艦ライフルはビットを破壊するために使った。腰だってソードビットの攻撃で中身が見え隠れしている状態だ。

 だから後はビームライフルだけ。満身創痍でも、これを届けなきゃいけない。

 

「さっきダインスレイヴの音が聞こえたけど、あいつは……。いた!」

 

 左腕が切断され、もはや傷だらけのモビルドールセツがなんとか宇宙を逃げ回っている。

 その鬼ごっこの鬼。それこそが、最後の相手だった。

 赤いG-にゃんドレスワルツ。左半身が全てえぐり取られたかのように欠損しているものの、ガンダムキュリオスが最後に見せたトランザムのように手足から粒子が散布されている。

 

『まさか「にゃんドランザム」まで切らされるなんて思ってなかったよ!』

 

 右手に持ったビームサーベル同士が激突するも、モビルドール形態のセツにトランザムまで切ったちのの猛攻を防げる出力は存在しない。回遊魚のように斬り結ばれたにゃんドレスワルツが高速軌道を描きながら、さらにビームサーベルを叩き込む。

 

「セツ!」

「モミジお姉ちゃん!」

 

 ビームライフルで援護をするが、こっちも照準機能が著しく低下している。

 その上トランザムを向こうが切っている。当たるわけがなかった。

 

『そんな攻撃じゃ、当たらないよッ!』

 

 翻弄されるセツとあたし。このまま、負けるしかないのか。

 絶望に心を侵食されそうなときだった。突如セツから極秘回線で通信が入ってくる。

 なんで。そう思っているあたしに対して、1つの情報を譲渡してきた。

 

「モミジお姉ちゃん、後は任せたよ」

 

 指し示された先にあったのは、確かに切り札だった。

 セツが大切に、いつも使っていた武器。彼女のとっさの判断は正解だった。何故なら、これから逆転の女神が微笑んでくれるんだから。

 

『終わりっ!』

 

 セツは残ったビームシールドを手にちのっちのビームサーベルを真正面から受け止めた。

 それは確実に時間を稼ぐため。セツが譲渡したとある兵装を取りに行ったあたしを悟られないようにするため。

 

『諦めないのは素晴らしいけど、でも!』

「そんなんじゃない! 可能性は、最後まで残されてるんだ!」

『だったら、見せてもらおうじゃない!』

 

 ビームシールドを両断したちのっちがセツの胴体――コックピットを突き刺す。

 満身創痍なセツだったが、目的は達成した。セツの狙いは2つ。1つはあたしへの武装譲渡のための時間稼ぎ。そしてもう1つは、ちのっちを射線上に出すためだった。

 

「プロト・ゼロ、起動!」

 

 狙いは真正面。ハイザックの全てのエネルギーを、セツからの想いを、勝利への渇望を。このディバイダーに乗せてチャージさせる。

 見える赤い線の射線はあたしにも命中するように設定していた。でないと恐らくちのっちに見切られておしまい。

 だからこれが最後の一撃。たった一度っきりのチャンスで、外せば終わりの賭け。

 だとしても、勝てる見込みが0.1%でもあるなら、あたしはそれに賭ける。

 それがあたしが託された、希望だから!

 

「ハモニカ砲、発射!」

 

 黄色い閃光が赤い線をたどって真っ直ぐ赤いにゃんドレスワルツへと向かっていく。

 

『ハモニカ?! だとしてもッ!』

 

 ちのっちは当然避けるだろう。だけど、その真後ろに、セツの後ろに隠したリフレクタービットがあったら、どうなると思う?

 19門のハモニカ砲を受け取ったリフレクタービットが鏡を映すように反射する。

 それはまるで拡散砲。Iフィールドの作用によって、ビームなら全てを反射するそれを、不意の19撃を避けられるわけがない。

 1本、2本と避けても、5本目、8本目は容赦なくにゃんドレスワルツをえぐり取る。

 反射した1本はあたしのディバイダーを貫通して爆発。同時に右腕も失った。

 だけど、向こうも致命的な一撃をその身に受け止めていた。

 

『……GNドライブ、機能停止か』

 

 運が悪かった。いや、計算ミスか。はたまた実力不足か。

 GNドライブを超えて、コックピットを貫いたちのっちの声は、落胆と悔しさの間を行ったり来たりしていた。

 でも少し経ってから、いつものように元気で可愛らしい声色に戻ると、彼女は告げた。

 

『おめでとう。セッちゃんとモミジちゃんの勝ちだよ』

 

 緑色の粒子が宇宙に1つのビッグバンを生み出すと、無機質な音声があたしの耳に入ってきた。

 

『WINNER モミセツ』

 

 それは紛れもなく、勝利の二文字だった。




子は、親を乗り越えるものである
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