ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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ラスボスは常に自分の近くにいるので初投稿です。


第80話:ラストバトルは誰の手に

 壮絶な戦いだった。そう感じさせたのは単に本気っぷりに魅了されたことに他ならない。

 お互いがお互いのプライドをかけ、懐にある勝利をもぎ取ってでも勝ちに行くスタイルに心打たれたダイバーは多いだろう。わたしもその1人だった。

 モミジとセツ、ちのがあんなにも一生懸命で、本気で楽しそうにしている姿が少し羨ましくなってしまう。

 

「ハル」

「ん?」

 

 何気なく呼ばれたわたしの名前に反応して振り向くと、ナツキがやる気に満ち溢れていながらも、どこか過去を引きずっているのか眉をハの字にしていた。

 ナツキの過去は彼女の告白の後に聞かされた。きっとどちらが悪い、ということではない。自信をなくしたナツキに失望した対戦相手。その全てが彼女のトラウマに直結している。

 それがもう1つのトラウマ。大会に参加することの恐怖なんだと思う。

 気持ちは分かった。嫌だよね、みんなに失望されるの。でも、わたしはみんなとは違うと意志表示するために彼女の手を取る。ほんのり冷たくて、今にも恐怖に潰れてしまいそうなぐらい儚く崩れ落ちてしまいそうな震えた手。

 同情なんかじゃない。これはわたしが生きるために、ナツキと生きるために必要なこと。ナツキが楽しくないと、わたしも楽しくないから。

 本来言いたかった言葉であろうものを喉の奥にしまって、ナツキは口にする。

 

「ごめんね、なんか心配させちゃって」

「一人じゃないから」

「え?」

 

 一人じゃない。わたしたちは共依存体。2人で1つの生命体なんだ。

 だから片方が不安に押しつぶされそうなら、もう片方も不安で胸がいっぱいになる。歪と思われたって構わないけど、これがわたしたちの生き方なんだ。誰にも、邪魔はさせない。

 

「ありがと。そんなに言ってくれるのホント、ハルが初めてだよ」

「ナツキの初めてもらっちゃった」

「もう……」

 

 唇の代わりにおでこをくっつけあって、絆を確かめる。

 ひんやりとしたおでこは気持ちよく、このままわたしとナツキが1つに混ざりあうかもしれない、ってそんな冗談を口にしてしまうみたいな感覚。一体感のようなものだろうか。まぁそんなものがおでこを行き来しているのかな。

 心地よかった。わたしたちはニュータイプでもイノベイターでもない。だけど、思いを口にし合うことで、分かり合うことができる。優しい気持ちになれる。

 これが刹那が体現した未来なら、悪くないな。

 

「行こっか」

「うん」

 

 どちらともなく額を離す。透明な糸のようなものが見え隠れした気がするけど、絶対に気のせいだ。わたしたちのおでこはそんなに粘着性ないもん。ないよね?

 そんな冗談を口にしないでも心に留めておきながら、ミッションカウンターへと赴き、再度タッグフォースバーサスのミッションへと潜るのだった。

 

 ◇

 

「あーーーーーー!!! 負けた負けた!」

「お疲れさまです」

 

 正直負けるビジョンがなかったとは言わない。だけど意趣返しみたいにモミジちゃんと一騎打ちになるとは思ってなかったし、19発の弾幕が反射してくるとは思ってもみなかった。

 その点で言えば、あの2人の完勝というところだったかな。

 

「すみません、俺がすぐにやられてたばかりに」

「ううん、大丈夫。ちのも実力不足だって思っただけだし」

 

 ワールドランク300位台を2人がかりとはいえ、突破してくる辺り、2人も成長したのだろう。セッちゃん、いつの間にあんな細やかな動きができるようになったのかな。親が見ない間にも、子供は歩みを止めることはない。

 巣立ちを感じるみたいで、寂しいような嬉しいような。あーもうホント、子供を見送る感覚ってこんな感じなんだな。

 

「あ、ちのお姉ちゃん!」

「よっす」

「セッちゃんッ!!!」

 

 わわっ! という悲鳴とともにあすなろ抱きみたいにセッちゃんの首元に抱きついたちのはそのまま彼女たちの勝利を吸い取るように、つむじの部分に額を擦り当てて一気に吸引する。

 

「あはは! お姉ちゃん、くすぐったい!」

「うわきも」

「これが生ちのセツ……スゥ……」

 

 ちのの相方であったシロウがそのまま壁のシミになったみたいに空気になりながら、ちのはと言うと、セッちゃんの匂いをこれでもかと堪能する。

 それは巣立ちを感じて少し寂しく感じた自分の心を補強するみたいに、コンクリートで寂しいのヒビを埋めていくみたいに接着していく感覚。同時にセッちゃんの側面を手のひらで撫でていく。おめでとうの意味を込めて。ありがとうの意味を込めて。

 

「で、2人はどうしてこっちに? 別に負け犬たちを冷やかしに来たわけじゃないんでしょ?」

「まーね。ちびっこ」

「お姉ちゃんが離してくれないんだもん!」

 

 だってセッちゃん、抱いてて心地良いし。こんなにふにふにした生命体をみすみす逃すほど、ちのは愚かではない。ふにふには正義であり、この身はすでにセッちゃんのものなのだ。フハハハ!

 とか言ってたらモミジちゃんに引き剥がされた。悲しい……。

 

「およよ、そんなことしなくたっていいじゃんー!」

「ちのっちがキモいことしてるからじゃん」

「ひっど……」

 

 ふてくされながら、地面にぺたんとお尻をつけるちの。はてさて、セッちゃんは何が言いたいんだろうか。

 改まるようにスカートの裾を気にしてから、パンパンとスカートの埃を払う。

 

「えっと、ちのお姉ちゃん。本気で戦ってくれて、ありがとう!」

「え?」

「だって今までちのお姉ちゃん、本気で戦ってこなかったでしょ? だから今日はちゃんとお礼が言いたくて」

 

 本気で戦う。そういえば最近は昇格戦以外では本気で戦ったことはなかった。少なくともセッちゃんたちを格下だと思いこんで、いつの間にか手を抜いていたのかもしれない。

 でも今日の試合は違った。全身から湧き上がるような闘志。戦いに対する充実感。本気で戦うことの嬉しさ。そのすべてを満たしてくれるような素敵な戦いができたと感じた。

 そっか。そっか……。そっかぁ!

 

「ううん。こっちこそ、楽しかったよ!」

「お姉ちゃん……!」

「でも今度は絶対に勝つから!」

「うん!」

 

 セッちゃんが手のひらを差し出す。それに応じてちのも手を重ね合わせて握手した。

 これは友情の握手じゃない。ライバルとしての宣戦布告。追うものから追われるものに変わった瞬間。ちのはチャレンジャーになったんだ。

 久しい感覚。もっと強くなれそうな、そんな力強い脈動。

 ありがとう、セッちゃん。ちの、また強くなれそうだよ。

 

 ◇

 

 同レベル帯ならヒットするとは思っていた。

 でもまさか本当にヒットするなんて、あたしには思いもよらなかったわけで。

 

「次の対戦相手、マジかよ」

 

 ウィンドウの先。ランダムマッチングの先に待っていたものは『ナツハル』と表記された対戦相手と見覚えのあるガンプラ、ガンダムファイルムとガンダムアストレイ オーバースカイ。

 それは明らかにフォースの仲間の名前で。

 

「セツたちの次の対戦相手、誰ー?」

「ハルとナツキチ」

「え?」

 

 予想はしていたとは言え、本当に当たるなんてあたしたち2人には予想がつかなかったわけで。

 マジかぁ。バリバリの戦闘職と後方支援の対決って、もう勝負決まったようなもんじゃんか。

 それに同フォース対決。これを面白がらない相手はいないわけでして。

 

「次の対戦、中継されるってさ」

「えぇ?!」

 

 ひょっとして意図的に組んでいるわけではないだろうな。そんな作為を感じざるを得ないわけで。

 相手のハルとナツキチはどう考えても格上と言っても差し支えない。

 そうでなくても、砲撃機と狙撃機でどうやって近接機と戦えっていうのさ。まぁ、作戦がないわけではないんだけど。

 それに2人の癖もだいたい把握している。ちびっこに関してもそれは概ね理解してるだろうから、作戦がどうハマるか。それを考えなくちゃいけない。

 

「お姉ちゃんたちと戦うの?」

「そういうことになるな」

 

 そんなこの世の終わりみたいな顔をするなってちびっこ。

 この戦いに勝っても負けても、あたしたちの絆にヒビは入らない。一度砕けかかった春夏秋冬のメンバーが言うんだ、間違いない。

 それに……。

 

「ハルとナツキチは絶対本気で仕掛けてくる。そんな相手に戦いたくないからって手を抜いたらどうなると思う?」

「怒る?」

「2人はあたしたちと『本気の遊び』を所望している。だったら、あたしらも本気でやんなきゃじゃん」

「でかお姉ちゃん……」

 

 ほとんどタイルっちからの受け売りみたいなものだ。

 でも彼女たちが望む『本気の遊び』に付き合ってあげないと、後ろ指をさされて仲間だから忖度したとか、手を抜いたとか思われそうで癪なのもある。

 それに何より、あたしが望んでる。この戦い。ゲーマーなら、同フォース対決なんて激アツ展開、楽しまないほうがもったいないじゃん。

 

「そうだね。うん。うん! セツ、全力でやる!」

「んじゃあ準備までの3分間で作戦会議だ!」

 

 彼女たちのやりたいことはおおよそ分かっている。

 鼻から彼女たちがあたしらの土俵で戦うとは思っていない。だからドローン展開よりも先に会敵。そのまま三枚おろしにするような電撃作戦を仕掛けてくると思う。あたしがナツキチなら、そういうことをする。

 裏をかこうにも複雑な作戦は今から思いつくことは不可能。その場のノリで臨機応変に対応していくしかない。

 ある種の出たとこ勝負。やろうとすることはたった1つだ。

 

「ちびっこが前に出てタンク。そのスキを縫って、あたしが狙撃。これしかない」

「できるかな?」

「まぁ難しいだろうな。それに、もう1つ厄介な要素がある」

 

 それはハルのファイルムという存在。

 本人は近接用機体で作成したつもりなのだが、元々の素体であるサバーニャが乱戦に向いた制圧射撃機体だ。

 この目で何度も見たファイルムのハイパーメガカノンは、自由が利きやすい。

 あたしが見た中でも拡散砲に収束砲。加えてパワービット8基直列による純粋な強化。

 そのどれもがセツのイクスリベイクに匹敵するレベルの切り札に仕上がっている。

 かと言って近づけばあの右腕と本人の格闘センス。どれを取っても、ファイルムとオーバースカイ両方を釘付けにすることが難しいのだ。

 

「じゃあ、どうするの?」

「ナツキチと相打ち覚悟で一騎打ちを仕掛ける。ちびっこは上手いこと誘導してくれればいいから」

「それって……」

「後は任せた、って言ってんの。辛い役目背負わせちゃってごめんな」

 

 謝罪の念を込めて、目の下にある頭を撫でる。

 あたしなら無理だけど、ちびっこにならあの怪物じみたハルの機体を任せられる。

 ナツキチを舐めているわけではない。むしろ素早いからこそ、あちらの方がちびっこにとって相性が悪いのだ。

 トリッキーな動きと高い推力で動くナツキチに対しては、常に裏をかく必要がある。このハイザックなら、それができるんだ。

 

「分かった。どうにかしてみる」

「ダインスレイヴも好きなタイミングで撃っていいし、ハモニカもリフレクタービットを備え付けておくから、確実に釘付けにしてほしい」

「うん!」

 

 作戦は出たとこ勝負。最後にどちらかが残っていればそれでいいんだ。それを、ちびっこに任せただけで。

 

「うし! じゃーいっか!」

「頑張ろうね、お姉ちゃん!」

 

 パチンと、耳心地のいいハイタッチの音が格納庫エリアに響き渡る。

 それじゃ行こうか。時間的にこれが最後の戦い。あたしたちのラストミッションだ。

 

 ◇

 

 あたしたちのラストミッションの舞台は星が降ってきそうなほど、夜空が美しい丘。

 ドローンやレドームがいらないぐらいには見晴らしが良すぎるほどのエリアに響き渡るのはあたしたちのガンプラ2機。レドームには反応がない。広範囲のスキャニングを掛けているはずだが、マップ全体のスキャンはドローンを発進させなければ出来ない。

 だけど、状況把握としてのイニシアチブはこちらが握っている。そう簡単には先手は取られないはずだ。

 そんな甘い考えが頭によぎるが、すぐに切り捨てる。あっちにもビットが存在してるし、ケルディムの頭部というそれなりに性能の良いアンテナがある。ドローンを発進させて、様子を見る。

 1ドット。また1ドットずつフィールドのスキャンを終えていく。

 先行させたちびっこは大丈夫だろうか。常にスキャニングの中にはいるが、それでも2人がいつどこから奇襲を仕掛けてくるかわからない。

 あたしらも場数をこなしているが、向こうだって変わりはない。彼女たちも歴戦の勇士なのだから。

 緊迫の中、赤い点がちびっこめがけて急接近しているのを把握する。これは……!

 

「お姉ちゃん!」

「あぁ、ナツキチだ!」

 

 ドローンからモニターに映し出す。青い翼に青い身体。そして黒光りする妖刀。

 通常のガンプラの三倍速で近づいてくる青い流星の正体は、紛れもなくナツキチのオーバースカイだ。

 

『みつけた!』

 

 オーバースカイが抜身の刀を両手で持つと、まずは先制攻撃と言わんばかりに右から左へと振り下ろす。

 もちろんさっきからドローン上には見えている機体。奇襲ではないのだ。ちびっこだってこれを避けられないほど愚かではない。ディバイダーをスラスターモードにしてからこれを回避。続けてくる突きの一撃もギリギリのところで避ける。

 

『流石に奇襲とはいかないか』

「あたしら舐めてもらっちゃ」

「困っちゃうよ!」

 

 反撃の左ストレートは軽々避けられてしまうが、距離を取った。右手にビームサーベルを手にしたイクスリベイクと向き合う形でオーバースカイが立つ。

 まるで、巌流島の戦いのような1対1の決闘。誰にも邪魔はいれさせないという意志のようなものすら感じる。だけど、あたしにはそんなこと関係ない。

 スコープで覗いた先から撃ち放たれるのは黄色い閃光。

 横から口を出されたナツキチは瞬時にバックステップをして、その閃光の先を見つめる。

 元よりあたしとの1対1が所望だ。だからここの居場所なんていくらでも明かしたげるよ!

 連射。しかしその狙いは確実に致命傷となり得る場所を重点的に狙い撃つ。

 時には回避を。時にはガーベラストレートで切り払いながら、それでもちびっこから離れようとはしない。

 ちびっこもビームマシンガンで応対してるけど、明らかにその動きが妙だった。

 スナイパーは真っ先に狙われる定めにある。それはどんなゲームに置いてもゲームメーカーの1つに位置付けされるからだ。

 それなのにも関わらず、彼女はちびっこの目の前を隠すように動かない。撹乱するように動かない。

 数秒。考えに至った瞬間、高エネルギー反応がドローンから通信されてくる。

 

「何の反応?!」

「ちびっこ、ハルだ! そこから回避しろ!」

『もう遅いよ!』

 

 刹那。地平線の向こう側から桜色の粒子の塊がビームという体裁を整えて、発射される。

 その光の先は寸分違わずちびっこのイクスリベイク。

 イニシアチブはこちらが握っていると考えていた。だけどもそれは間違い。

 このゲームを支配しているのは間違いなく、ハルとナツキチであった。




2羽の鳥と、凸凹姉妹。激突
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