いずれこの時が来ると思ってた。
なんて、流石に言い過ぎもいいところだ。
――だけど。予想はできていた。
いつかモミジとセツ相手に戦う日が来るって。
相性の上ではわたしたちの方が優勢。でも一度も油断ができないのが2人。
スナイパーとマッパーとしての2側面を持つハイザック乗りと、超高火力で攻め入ってくるディバイダー使いに、作戦なしじゃ恐らくすぐにゲームオーバーになってしまう。
だからわたしはナツキと一緒に考えた。敵対する中で、最も強大な敵になるのは他でもない彼女たちなのだから。
「GN直列ハイパーメガカノン、フルファイア!!」
後方に構えていたのはわたしのファイルム。そして囮兼偵察役としてナツキが前線に出ていた。
理由はたった1つ。まずは火力担当であり、タンク役でもあるセツを倒すこと。
確かにモミジも厄介だ。センサー外からの一撃はナツキじゃなきゃ回避はできない。でもナツキだったら予見することができる。これは実力とかそんなんじゃなく、信頼のようなもの。本気のナツキを見たかったから。
そしてそれは見事果たしてくれた。点在する赤い点は1つ。その目標めがけて、わたしの狙撃で培った収束砲を放つ。
真っ直ぐに目標めがけてひた走る桜色の粒子ビームは、突如花びらのように咲き誇る。違う、まだセツの元にはたどり着いてない。着弾地点があまりにも手前過ぎている。
『セツだって、負けられないんだ!』
回線に割り込んでくるのはセツの幼くも戦士のように雄姿に満ちた勇ましき声。
割り込んでくるのは使い切りであり、使用すればアウターパーツごとパージしてしまう特製のダインスレイヴ。その1本の槍にはナノラミネート加工がされている。つまり、ビームを弾き返しているということだ。
勢いを殺しながらも、それでもわたしのハイパーメガカノンを切り崩していく絶対無敵の矢に焦りすら感じ始める。
でもいくらナノラミネートが万能だろうと、上から焼き尽くせば、大したことはない!
武器腕である右腕のトランザム七分咲きを起動し、ソードガンを介しながら出力を上げる。ここが踏ん張りどころ、セツを釘付けにしている今だからこそ、ナツキがモミジのところへと行ける。それを手助けしてあげなきゃ、誰が恋人だって言い張れるのさ!
『ダブルハモニカ砲、はっしゃー! 加えてダブルリフレクトも、もってけー!』
続けて迫るのは計36門のハモニカビーム郡。そして明後日の方向に飛んでいく36門は……。モミジが相手にいるなら。そう思考が一致した瞬間、空中に散布されていたリフレクタービット1基がハモニカ砲を反射させる。そのビームは、確実にわたしがいる周辺に雨のように降り注ぐ。
してやられた。ダブルハモニカ砲は囮。おおかたモミジの必殺技であるプロト・ゼロをデータリンクして、ダブルリフレクトハモニカ砲で乱反射。ハイパーメガカノンの中断と炙り出しが目的か。
だとしたら、相手の作戦に乗るのも悪くない。だって、わたしたちの作戦もだいたい同じなんだから。
わたしがセツを狙って、ナツキがモミジを倒す。そのための前哨戦に他ならない。
ハイパーメガカノンを中断して、即座にこの場を離脱する。それでも数々のビット群は破壊されてしまった。まぁいい。このぐらい必要経費だ。
目標はセツ。ファイル・バインダーを勢いよく噴射させて、セツとの会敵を試みる。
大丈夫。セツはあのダインスレイヴでモビルドール形態になっている。パワーでは負けない。注意すべき点は、そのすばしっこさにある。
操縦桿を握りしめて、恐らくタッグフォースバーサス最後の戦いに挑む。
ナツキ、ちゃんと勝ってよね。
◇
ハルから頼まれたのはたった1つ。モミジさんを倒すこと。
モミジさんの意識を反らせれば、セツちゃんとのタイマンに持ち込むことができる。一番の難敵が他でもないモミジさんだからこそ、1対1にする必要があったんだ。
そしてそれがようやく叶った。なら、戦って倒して、ハルの加勢をしに行く。それが私のロードだ。
度重なる正確無比の射撃で、場所は掴んでいる。私のエンゲージに入るのはもうすぐのはず。そして、その時は訪れた。
ガンダムの2本の角から受信されるのは1つの赤い点。見開けすぎた場所から襲いかかるのはそれぞれ方向の違う3本の光の柱。
1本目は避ける。だが2本目は明らかに回避を計算に加えた跳弾。羽根をわずかにかすめて、3本目のコックピットへと向けられた一撃をオーバースカイの翼の出力を強引に引き出して回避する。
『今の、避けるんだ』
奇跡的に避けれたようなものだ。次同じようなことをされても回避できる保証がない。それだけの未来予知にも似た一撃。いや、三位一体の攻撃。
未だに私のキルレンジには程遠い。中距離でならビームライフルが使用できるけど、正直私の実力じゃ当たる気配がしない。
なら肩のビームブーメランはどうだ。これなら牽制程度にはなる。加えてデスティニーの光の翼による残像もある。間合いに入る準備は、いくらでもできる。
問題は如何にして相手の射撃を避けるかだ。恐らくこの宙域には少なくとも2個、リフレクタービットが配置されている。施されているミラージュコロイドのせいで、モニター越しによく見なければ見えないし、センサーにも引っかからない。厄介極まりない性質だ。
おおよその場所は把握している。なら最初に落とすのは、リフレクタービットからだ。
操縦桿をしっかり握りしめ、ガーベラストレート「夏空」を構える。
気分はさながらサムライ。さぁ行こうじゃないか、蒼翼のサムライと謳われた私とオーバースカイの実力、本気を見せてあげる。
まず最初に狙うのは右上に設置されているであろうリフレクタービットだ。
『さっきのでバレるとか、ナシにしてよ!』
ビームランチャーから排出されるビームは計4つ。乱射が利かない分、予測するのは簡単。だけど回避するのが難しい。
背部のGNドライブを狙った一撃を避け、2段目は右肘。これはサイドステップで回避。襲いかかる2本の槍も、回避するも追加でもう一発。流石にそれは避けきれない。
なまじ計算しているからこその正確無比な射撃は避けようにも限界がある。左足が被弾し爆発が巻き起こる。また一歩後退。
今ので左足のスラスターは死んだ。先程よりも回避する精度が低くなる。
ジリ貧になればなるほど、戦況は悪化していく。どうするナツキ。このまま戦闘が長引けば確実にやられるのはこちら側だ。なら、切るしかない、ここで。
『ナツキチ、次は外さない』
「ううん。今のが最高のチャンスだったよ、私を殺す、ね」
オーバースカイ。その名の通り空を超える者と名付けられたガンダムだ。
そしてその名前の由来。それは私の戦闘スタイルにある。空中を支配する優美なる翼。
蒼き双翼に包まれし、オーバースカイの翼は、これまでのデスティニーフレームやブルースカイにはない出力と推力を持つ。だから、私はこの作戦に賭ける。
「トランザム・オーバースカイ!!」
青いGN粒子が装甲を、フレームを介して全身に充満していく。
やられた左足からは漏れ出した粒子が、翼からは排熱のために、またはミラージュコロイドによる分身を生み出すために蒼い翼を生み出す。
それは文字通り青い鳥。青空とも例えられてもおかしくないようなガンダムは、今羽ばたく。
『今更上に逃げたって!』
飛び立つのは直上。類を見ないほどのトランザムの速度は、ぐんぐん高度を上げていく。
例えるならロケットが発射する際の莫大な推進力。
蒼いコントレイルを吐き出しながら登り詰めるのは、センサーが生きているギリギリの箇所。その間も執拗なビーム攻撃を受けていたが、空を超える私にそんなものは効かない。
そして、青い鳥は、青い流星となって翻す。
よくある空からの空襲も、トランザムの推力+重力の落下+デスティニーの翼ならば!
『マジッ?!』
それはまるで空が落ちてくるようだ。
2枚の翼を翻して、ビームランチャーによる攻撃も顧みずに着地点という名の空襲ポイントに狙いを定める。
頭部が半壊された。でもサブカメラさえやられなければ大丈夫。
片翼が狙撃された。だけど、まだGNドライブは生きてる。
『速い。だけどっ!』
「だとしてもっ!!!」
刀を持つことをやめない。絆をつなぐことをやめない。勝利を勝ち取ることをやめない。
それがハルとの約束。全力で戦うって決めたんだ。
だから私は突き進む。例えこの身が砕けようとも、私たちの勝利のためにッ!!!
「『うぉぉぉぉおおおおおおおおおッ!!!!!!』」
巻き起こる土煙。すべての全力をぶつけた矛先。そこには真っ二つに両断されたハイザックとライフルを突き立て、オーバースカイのコックピットを貫いた、それでもと抗った一撃。
バチバチとめり込んだライフルの先は、確実に致命傷となるコックピットを撃ち抜いていた。
『ありがとな、あたしらと全力で戦ってくれて』
「当たり前じゃん。友達なんだから」
ハルも、同じ気持ちでセツちゃんと戦っている。
それがタイルさんが言ってた『本気の遊び』というやつなんだ。
「ごめんね。でも。任せたよ、ハル」
お互いに機体の限界を迎え、丘の上に巨大な爆発が起こった。
◇
攻めきれない。
『まだ!』
攻めきれない。
『まだだよ!!』
ダインスレイヴ砲の強制パージを受けたはずのモビルドール形態は春夏秋冬の中でも極めて敏捷性に特化した機体と言うべきだろう。
本人はそれを良しとはしていないものの、パワーがない代わりの暗殺力は眼を見張るものがある。そう、パワー。火力がない代わりにだ。
わたしの猛追から逃げ切れているのは単にスピードが速いためと言わざるを得ない。だけどパワーがない。正面からわたしと向き合おうとすれば、パワー負けは必死だった。
でも、攻めきれない。先程からすれ違うたびにビームサーベルによる攻撃をかすめている。ジリ貧になれば、恐らくわたしの耐久値が底をつく。
これはゲームであり、耐久値という形でHPが存在する。いくら装甲値が高かろうが、HPが0になってしまえば意味がない。
いわばこれは毒だ。ジワジワと真綿を締めていくような、追い詰められているような感覚。
焦りはある。このままじゃナツキとの約束を果たせない。このままじゃ、勝つことができない。
わたしが求めるのは全勝。ラスボスにしては相応しい。
急停止から、セツへ向き直ってビームサーベルによる斬撃を繰り出すが、これをバク転して回避。すれ違いざまに右腕の硬いフレームを斬りつけられる。壊れはしないものの耐久値がやはり少しだけ減少する。
『そんなんじゃ、当たらないよ』
「当たってくれなきゃ困るんだけど」
向き合うわたしたちだったが戦況は変わった。それはナツキが、モミジが同時に相打ちになったことだ。
あとは託された。その想いを胸に秘めながら、虎の子であるトランザム・コネクティブが使えなくなったと察することができた。
元より使用するつもりはなかったけれど、6倍の出力であればセツを圧倒できたのではないかと考えてしまう。過ぎたことはどうしようもない。ナツキが繋いでくれたバトンは、わたしがきっちり受け取らなきゃいけない。
深く息を吸って、吐き出す。集中のためだ。何度繰り返したか分からない儀式のようなもの。曖昧で、それでいて明確なルーチン。
今からするのはたった1つ。トランザムとGNドライブのリミッターを外したオーバーブーストモードの同時併用。いくらファイルムでも短時間が限度の掛け合わせ技は、わたしが表す『本気』と言うには十分だろう。
――勝ちたい。
心の底から叫んでいる。
ナツキと約束したから。受験前最後の思い出を作るために。
そして何より、わたしが勝ちたいから。ただその一心で、操縦桿を握りしめる。
決意。そしてプライド。わたしの全身全霊をすべて大釜の中に入れたものをみんなはこう言う。
――執念、と。
「トランザム・紅桜!!」
機体全体が桜色に染め上がり、GNドライブから排出される粒子が5枚の花びらのような形を取る。
例えるなら桜の満開。たった4分間の美しき春の風物詩。そしてこれで終わりにする。
片翼三叉のファイル・バインダーからブーストが点火される。
通常の3倍もの速度で接敵したセツの機体が熱に煽られる。すれ違いざまの一撃を避けた。いや、鍔迫り合いから受け流して回避したんだ。
『お姉ちゃんがその気で来るなら、全力で勝ちに行く!』
「それはこっちも、同じッ!」
両手に手にしたビームサーベル2本を空中から振り下ろすが回避。
代わりと言わんばかりに、背後に回ったセツがサーベルでファイルムのGNドライブに直接攻撃を仕掛ける。
最初からそれが狙いか。バインダーを最大出力に変えて、前のめりになるように避ける。
バインダーの出力方向を左側に変えて、足元を斬り裂くために回転しながら一閃。
だが、読んでいたと言わんばかりにジャンプしたあと、ファイルムの背中を蹴り上げて距離を取る。
距離は取らせない。バインダーからの出力を全開にして、わたしのキルレンジに持っていく。
『お姉ちゃん、面倒くさい!』
「褒め言葉だよ!」
こと格闘戦に置いて距離を取らせないということは、相手のペースを掴ませないということ。
磁石のように相手を叩き切るまで粘着する。それが面倒くさいと相手に言わせるのなら、それはインファイターにとっての最大の褒め言葉。そうナツキに教えてもらった。
ワイヤーブレイドをクロー形態に変えながら射出。目的は直接当てることではなく、ワイヤーを足に引っ掛けることだ。
明後日の方向に飛ばしたワイヤーを引っ張り上げて、セツの足元に引っかけようとするが、これをバク宙で回避。代わりと言わんばかりにビームシールドをフリスビーのように投げつけてくる。
シールドとは言えどもそれはビームの刃に変わっている。だから当たればシャレにならないダメージになるだろう。わたしは振り払うように右手のサーベルで振り払い前へ進む。
続く攻撃はワイヤーブレイド。ブレイドモードに形状を変化させ、今度は上から下へと叩きつけるように左腕を振り下ろす。
避けられることは想定の範囲だった。わたしの背に回るように外側に回避したことはそう誘導させたに過ぎない。
自分の左腕を切断しながら、GNドライブのリミッターを外す。もっとだ。もっと速度を上げて、それで懐にある勝利をもらっていく!
「これでッ!」
『左腕を?! でも!!!』
真っ直ぐ、一直線に最短距離で。見えていても、反応できない速度であるはずのリミットオーバートランザムはセツのビームサーベル投げによって阻まれる。
投げられたビームサーベルは真っ直ぐコックピットへと突き刺さるルートに定められていた。
明確な死の線。超高速状態にあったファイルムにあった時間はコンマ数秒のみ。そのひとつまみのコンマを制したのはわたしのほぼ脊髄反射的回避。やや右にずれたファイルムは急所をわずかに外したものの、貫通したのは左肩と左スラスター。そしてGNドライブだった。
セツを通り過ぎながら、GNドライブ半壊によって強制的にトランザム解除されたファイルムとわたしは地面に転がる。左半身はともかく、出力が安定してないことが問題だ。現に今からトドメを刺さんとアーマーシュナイダーを手に走るセツがいるんだから。
まだ右腕は動く。足だって支えられる。出力は安定しないけど、あと一撃。それだけなら残されている。
右手のロングビームサーベル「サクラ」を手に立ち上がる。
向かい合うのは半壊したファイルムと、ボロボロのセツ。もはやお互いに満身創痍だった。
「先に言っとく。ありがと、セツ」
『うん、こっちも。ありがとう、ハルお姉ちゃん』
――本気で戦ってくれて。
歩き始めるのは勝利へ。走り始めるのは未来へ。
お互いにお互いの『本気』を見せてもらった。
なら今度は、その本気をぶつけ合うだけ。
自重に押しつぶされそうな脚部を必死に走らせて、突撃をする。
今までの出来事が走馬灯のように走り始める。
ナツキに出会って、GBNに出会って、青い空に出会って。
モミジに出会って、セツに出会って、ちのに出会って。
様々な出会いがわたしをここまで連れてきた。わたしをこの足で歩かせてくれた。
だからこれからも走り続けるために、未来へ飛んでいくために、この戦いに勝つ。
これが未来への翼だッ!
「『うぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!』」
ビームサーベルがアーマーシュナイダーと衝突する。
引き裂かれるサーベルと、溶けていくナイフ。衝突しあう2つの魂が混ざり合っていく。
どっちが勝つかじゃない。勝つのはわたしだ!
イチかバチかの賭け。一瞬でいい。あのアーマーシュナイダーを超えて、セツを貫く刃を、わたしに力を貸して。
「サクラッ!!!!!!」
名前に呼応するように右腕のトランザムが、七分咲きがサーベルに伝わって、本気を超えた一撃へと姿を変える。
アーマーシュナイダーを溶かし、セツの胴元を貫いた妹の名前が刻まれたサーベルが静かに消えていく。
お互いにもたれかかるように、かたやエネルギーが消失したファイルムが、かたや命が消えたセツが機能を停止した。
『WINNER ナツハル』
ただ一言。この戦いの勝者が誰であるかを示す機械的なジャッジが機体内に響き渡った瞬間、言いようのない喜びに身を打ち震わせた。
わたしの
私の
あたしの
セツの
本気の遊び
次回、最終話です。