タッグフォースバーサスから9ヶ月が経った。
結果的に全勝を迎えたわたしとナツキを待っていたのは地獄のような受験勉強。
わたしが選んだ大学というのが、わたしの学力なら問題はないと言われたものの、ナツキもと言われた時は少し頭を抱えてしまうほどの難易度だったと言わざるを得ない。
一緒に同じ学校を受験する。そう約束した手前、愚痴はたくさんあれど、一緒に勉強することと、合格後のちょっとしたサプライズを用意していると言ったら喜んで勉学に励んでくれた。
元々興味がなかっただけで、地頭自体はいいだろう。ナツキに勉強という興味を抱かせること自体がまず大変だったが、それさえ乗り越えてしまえばガリ勉ナツキの完成となった。
たまにガンプラの作成。たまにイチャイチャ。息抜きという形でご褒美を与えながら勉強を繰り返していたら、気付けば1月。
進学のための共通テストを受け、勉強成果をシャーペンで解答用紙に滑らせていたら、いつの間にか3月。
結果は、2人とも合格していた。
思わず抱き合って、お互いの健闘を讃えながら、顔を見合わせて嬉しさを抑えきれずに口づけを交わしていた。
周りの受験生はみんな結果発表が気になってただろうから、わたしたちはきっと眼中になかっただろう。だから2人だけの空間。2人だけのセレモニー。
ということで、受験が終わったわたしたちを迎えてくれたのはいつものガンダムベースであった。
「いらっしゃい。2人とも、どうだった?」
ガンダムベースの店長であるマシナさんに2人でピースサインを送れば、その意図はすぐに分かるだろう。
レジ下からいつの間にか用意していたクラッカーをパンッ! と祝砲が店内に広がる。
思わずその場にいた全員が振り向いたけど、すぐに商品探しやウィンドウショッピングに戻っていった。さすが日本人。スルー能力が高い。
「いやぁ、よかったよ! もうそれは心配で心配で」
「お母さんですか!」
「ガンプラファン全員の母親だからね! ははは!」
マシナさんのノリは相変わらずだった。1年丸まんま行ってないわけではなかったけれど、こうしてゆっくり話す機会もなかったので、嬉しさが込み上がってくる。
わたしの受験、ちゃんと終わったんだな。達成感と開放感がじわりじわりと温泉に使っているみたいに身体に染み渡ってくる。
「今日は合格祝いのGBNかい?」
「「はい!」」
数カ月ぶりにダイバーギアをセッティングして、ゴーグルを頭にかぶせ、操縦桿を握りしめる。
すぐに機械は起動して、わたしとナツキの意識がデータの奥底、重力に引かれるみたいに現実の身体から仮想のアバターへと姿形、中身を移していく。
ストンと慣れきった第二の身体に意識が完全に譲渡され、まぶたを開く。
そこは変わりないエントランスロビーと、常時開催しているイベントの告知バナー。
隣には普段よりも青みが増したロングヘアーのナツキ。戻ってきたっていう実感が心の奥底から湧いてでてくる。
「ただいま、GBN」
「おかえり、ハル」
何故か返事しているナツキと目が合い、ニッコリと笑いかけてくれる。
わたしもそれに応じて、朗らかな笑みを浮かべて見つめ合う。あー、やば。もうナツキ成分欲しくなってきたかも。
でも今はやることがある。手を繋ぐだけで我慢しておくことにしよう。
「早速だねー」
「まぁ、久々だし」
GBNではね、と付け足しておく。
受験の間散々キスだったりデートだったり、それ以上のことをしたり。それはもうナツキなしでは生きていけないほどに吸収してきたけど、ここでは久々だから、溶け合うくらい噛み締めながら指同士を絡めあう。
ロビーフロアのどこかではとある壁のシミ、もといダイバーが失神して倒れ、テクスチャの破片に消えていったけど、そんなのはお構いなしだ。わたしたちは久々にモミジとセツに会いに行くべく、フォースネストへと歩いていった。
◇
とは言ってもディメンション移動することはなく、中央ディメンションの繁華街エリアの一角にわたしたちのフォースネストは置かれている。
立地や日当たりは悪いが、たまたま安かったのと、喫茶店ってちょっといい感じでオシャレじゃん? という理由で購入。時たまわたしたちの知人が出入りする程度には繁盛していた。
カランカラン、とドアを開けば、ぐでーっとまるで人をもてなす気などサラサラないような態度でカウンター席に座っている女性とソファー席で女性の上に座っている女の子。そしてその女の子を吸っている女性の3人がいた。どれもわたしの知っている人だった。
「いらっしゃーい、うちは全部セルフサービス……ってハルにナツキチ?!」
「2人とも、受験終わったの!!」
「うん、どっちも合格」
「い、祝うぞ! ほらちのっちはケーキ買ってきて! ちびっこはあたしの手伝い!」
「待って! ちのはセッちゃんと一緒にいたい!」
「うっせぇ!」
あまりにもキレッキレなキレ方で少々草を禁じ得なかったが、変わりない様子で安心した。
ちのの包囲網から脱出したセツがわたしたちの元へとてとてと歩いてきて、顔を見上げてくる。
「ハルお姉ちゃん! ナツキお姉ちゃん!」
「ん?」
「おかえり!」
その笑顔は受験の苦しみや辛さをすべてとは言わないでも解消してくれるもので。
ナツキと顔を見合わせて、クスリと笑う。きっと考えていることは一緒だ。
嬉しい。その感情で胸がいっぱいになりながらも、セツの手を握ってこう言う。
「ただいま!」
ってね。
◇
それからパーティの準備するから2人はどっか行ってて、と半ば追い出されるようにフォースネストを追い出されたわたしたちはどこへ行こう。何をしようと辺りをキョロキョロとしていたところに、アルビノの白髪に赤いメッシュが入った男性と出くわした。
「おや、そこにいるのはハルとナツキじゃないですか?」
「タイルさん! お久しぶりです」
ペコリとお辞儀すると、相手も斜め45度に腰を曲げて挨拶してくれた。そこまできっちりしなくたっていいと思うんだけど。
「聞いたところ受験だったと聞きますが、その様子。もしかして合格したのですか?」
親指でグッドサインを出しながら、ドヤ顔で返事の代わりを出すと、歓喜の声を漏らすタイルさん。こう言うところは普通に紳士っぽいんだけどなぁ。
「どうですか、一緒にパーティを組んで超高難易度ミッションに挑戦するのは」
いや、復帰したての相手に超高難易度ミッションを勧めるって、おかしくないですかタイルさん。
実際のところちょこちょこ風景写真の練習としてGBNにログインはしていたけれど、戦闘経験はほぼリセットされているようなものだ。故にいきなり初心者がヴァルガに放り込まれるような真似はされたくない。なので丁重にお断りすることにした。
「仕方ありません。ではヴァルガで野良試合というのは」
「それもないです!」
「ははは、これは手厳しい」
あんまり堪えてなさそうな軽い笑い声を繰り広げながら、タイルさんの手は何かを操作しているみたいに動いていた。なんだろう。動いているものがちょっと気になってしまうのは人間の性と言わざるを得ない。
少し声を漏らすと、わたしたちの元にウィンドウが譲渡される。
その内容は軽いミッションのようなものだった。
「でしたらこれでもいかがでしょう?」
ミッションの内容は花の採取。名前はと言えば……。
「『キキョウを捧げて』?」
「キキョウの花言葉は永遠の愛です。キミたちにはぴったりだと思いましてね」
『キキョウを捧げて』はカップルの間では結構有名なミッションであり、その花言葉は「永遠の愛」「深い愛情」など、とにかく愛を取りに行く、という少しロマンチックなミッションだった。
エリアもグラスランド・エリアだし、これならガンプラで飛んでひとっ飛びだ。
「いいですね、これ」
「でしょう。2人に会えたら真っ先に紹介しようと思いましてね。よかったよかった」
今度は少しお節介なおじさんじみた、ちょっと臭い演技をして1つお辞儀。
準備が整ったら、今度はフォース戦でも。なんて言いながらタイルさんはその場を去っていった。
何という処刑文句だろうか。今のはキルポイント高めに見える。
まぁ、その時はその時だ。全力でお相手するとして、今はこの『キキョウを捧げて』をプレイすることにする。サプライズもあることだし。
格納庫エリアへと向かい、見上げるのは1年間整備し続けてきたガンダムファイルムとガンダムアストレイ オーバースカイ。最初にログインしたときよりも随分と見違えた姿に見える。
それでもケルディムの頭やシールドビットなどは、まだ最初の名残があって。
「感慨深いものがあるよね」
「さっきまで合格の可否について怯えてたし」
「じゃあ尚更か」
「…………」
なんというか、デジャヴュを感じさせるやり取りだ。
前もこんな会話をした気がする。それがもう随分と昔な気がしてるが、実際は2年も経っていない。
この気持ちを、わたしは知っている。好きって感情だ。
言えば気恥ずかしくなってしまうような、そんな照れてしまう感情。
だけど、今のわたしなら肯定できる。
「早速飛ぶよ! 私もウズウズしてるんだ!」
「うん!」
今度は元気よく。ナツキへの好きを肯定して、わたしは飛び立つ。
「ナツキ、ガンダムアストレイ オーバースカイ!」
「ハル、ガンダムファイルム!」
「「行くよ!」」
初めてガンプラに乗った時と同じく前から向かってくるGと、それに伴う若干の痛みを乗り越え、今、重力の編みを超える。
モニターに見えるのはこれまで何度も見た、そしてこれから何度も見るGBNの青い空。
ファイルムという翼を広げ、オーバースカイと手を握り合って飛ぶ久々の空中散歩はあるべき魂の場所が、第二の故郷がここにあるんだと認識させるには数秒もいらなかった。
「気持ちいいね、ハル!」
「うん。ナツキと飛ぶ空はやっぱ楽しい」
ディメンション移動用のゲートをくぐると、そこには草原が無限に、地平線まで広がっているグラスランド・エリアへと繋がる。
一陣の風がガンプラを撫でるように吹く。青い空が笑っているように太陽を照らしてくれている。
ナツキが誘ってくれなかったら出会えなかった景色に、今わたしはいる。
ナツキがわたしに幸せをくれた。楽しさをくれた。恋をくれた。
それを人は、わたしははっきりと言う。幸せであると。
やがて目的地に到着し、ゆっくりとガンプラを下ろしてから、草原に足をつける。
「これがキキョウの花なんだね」
「ぽい」
渡すなら、今しかない。用意していたサプライズは、こういうところが相応しい。
わたしはアイテム欄から1つアイテムを取り出して、しゃがんでいるナツキの肩を叩く。
「ナツキ」
「ん?」
彼女は立ち上がって、風に煽られた髪の毛を少しだけ整える。散々乱れたところは見てるのに、今更だなぁ、もう。
向き直ったナツキを見ながら、わたしはサプライズを渡す。
紺色の小さい箱。上下に開閉できるようになっているギミックにGBNのこだわりを感じた。
「これ、ナツキに受け取ってもらいたくて」
「……ハルも?」
「え?」
そう言ったナツキの手にも同じようなものが握られていて。
中身は、言うまでもなかった。
「ハルにサプラ~イズ、って思ったのに、先越されちゃった」
「ナツキこそ。用意してるなんて思ってなかった」
実は勉強を休んでたまにGBNにログインしていたのはこれが理由だったりする。
この紺色の小さい箱を、『約束の指輪』を用意するために。
「じゃあお互いに指輪交換ってことで」
「なにそれ、おもしろ」
とは言いつつも箱から指輪を取り出して、左手を取るわたしたち。
どっちも冗談だと微塵も思ってない辺り、さすがはバカップルと言うべきか。
ナツキの細くて、色白で、綺麗で。いつも繋いでるはずなのに、いざ改めてみたら美しい手をしている彼女の左薬指にゆっくりと指輪を通していく。
ナツキも同じくわたしの左の薬指に指輪をはめていって、チリン、というなにかのベルが鳴り響いた音が聞こえる。ポップアップには将来を共にする約束を誓いますか? という粋な文言が表記されていた。
どちらともなく、お互いにYESのボタンを押せば、祝福あれ、という言葉だけがウィンドウに表示されてから、消えていった。
「何の演出さ」
「さぁね。でも、なんか結婚式してるみたい」
「なんかね」
クスリと笑って、少しだけ伸びをする。
将来を共にする約束、か。大人になっても、おばさんになっても、おばあちゃんになっても、その意志は変わらない。
綺麗にまとめようとしてるけど、実際はお互いに依存しているだけで、ナツキに先に死なれたらそのまま後を追う覚悟でいる。そのぐらいには歪な愛だし、共依存体何だと思う。
でも同時に考える。それだけ大切に思える相手をこの人生で見つけることができた喜びに感謝すべきであると。かけがえのない奇跡を、神様に感謝しなくちゃいけないって思うほどにだ。
「ナツキ、写真撮ろ。記念写真」
「いいね! どんな感じ?」
「こっちに近づいて」
表示させたスクリーンショット機能を少し引き気味にしながら、青い空も入るように俯瞰目線でカメラを配置する。
レンズに映るのは、青い空とわたしたち2人。
タイマー機能を起動させて、今か今かとシャッターが切るタイミングを待つ。
「ねー、ハル」
「ん?」
「好きだよ」
「ん。わたしも」
愛情を確かめ合うように左薬指を絡ませて、額をくっつける。
きっとこれからも辛くて、苦しい思いをする。
だけど、ナツキがそばに居てくれるなら、頑張れる気がする。
そんな漠然とした思いを胸にいだいてわたしとナツキは笑顔で向かい合った。
だいすき。
そんな気持ちを胸に抱きながら下ろしたシャッターはどんな色をしているだろう。
少なくとも、わたしたちのレンズインスカイは、写し出された空の色は、幸せだった頃と同じ、美しい空色だった。
――ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ 完
改めまして。
本作を最後までお読みいただきまして、ありがとうございます。
ハーメルン初作品にして、初めての二次長編を書かせていただきました。
最初はプロットのプの字もないまっさらな状態でしたが、なんとか完結できて何よりです。
フォース『春夏秋冬』のお話はこちらで終わりとなります。
ビルドシリーズ特有の「バトローグ」も考えていたりいなかったり。
このまま綺麗に終わらせてもいいかな、などと思ったりなかったり。
一応次回作もまぁいろいろを考えています。
現在5話ぐらい既に書いていますが、ブラッシュアップも考えているので、
気長に(1ヶ月以内)お待ちいただけますと幸いです。
最後に。
うちのハル、ナツキ、モミジ、セツ。そしてちのやタイルのご活躍を読んでいただき、誠にありがとうございました!
それでは、またいつの日かお会いしましょう!