ガンダムビルドダイバーズ レンズインスカイ   作:二葉ベス

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第9話:「元オタクに優しいギャル。現オタクね!」

「ハル、あなたに足りないもの。それは何か分かる?」

「……分からない」

「エイム力です」

 

 練習用ディメンションに現れたのは、自由に飛び回る蒼き羽を持つブルースカイと白いボディに桃色のラインが入ったガンダムファインダー。

 わたしはガンダムファインダーに乗って、自前のGNスナイパーライフルを手に持ち、膝立ちしてスコープを覗く。対象はブルースカイだ。

 

「このゲームだって多少外れてても照準補正機能で当たるようになってるから、あとはどれだけエイム力を高められるかですよ、奥さま」

「誰が奥さまよ」

 

 ナツキのふざけたボケをいつものように軽く流す。

 一般的にスナイパーとは一定の場所で待機していて、動く標的を撃ち落とすものだ。

 GBNに置いてそれよりもゼロ距離射撃でコックピットをぶち抜いたり、超長距離からの精密狙撃が多いが、一般的にはそういうものだ。

 でもわたしにはまず一般教養がない。戦うならフォース。チームを組んで後衛から援護をすることになるが、それでも動く標的にビームを当てなければ、援護のしようがない。

 だからナツキは考えた。過去にやっていたことと同じように、高機動状態であるハイマットモードでハルがこのブルースカイを当てられれば、上出来だろう。と。

 幸いにも腕には自信があると言っていた彼女は何者か分からないけど、心強い言葉には変わりない。

 

「じゃあ行くねー」

 

 8枚の翼を広げると、ブルースカイはその名が存在する青い空へと飛び立つ。ってはやー!

 

「さぁさぁ当ててみなさいよ!」

「強気。でも絶対当てる」

 

 と豪語したものの、空中を飛び回るブルースカイは前後左右上下へと反転回転と、そのハイマットモードを遺憾なく発揮している。正直照準すらままならない。

 もうスナイパーライフルを折りたたんでバルカンモードで制圧射撃した方が当たるんじゃないかとすら思ってしまう。多分ナツキのことだから当たらないんだろうなと、心が折れそうになる。

 1発、2発と撃っていっても、ビームは空中へと飛んでいき消えていく。

 当たらない。10発撃っても当たらない。

 当たらない。50発ぐらい撃ってても、当たらない。

 粒子残量は十分補給されているのだが、それでもブルースカイは、ナツキはわたしのことをあざ笑うように空中散歩を楽しんでいる。

 

「当たらないなー!」

「もうちょっと遅くなんない?」

「ダメだよー、忖度とか!」

 

 いやでも当たらんて、こんなの。

 予めバトルモードにしていたわたしは白旗の降参を出して、バトルモードを強制終了させた。埒が明かない。そう考えたのだ。

 

「もうちょっと飛んでたかったな」

「いくらでも飛べるでしょ。でもどーしよ。全然当たらないや」

 

 確かにFランクやEランクのNPDならきっと今の射撃で十分なのだろう。

 でもナツキが目指しているのはそうじゃなくて、もっとハイレベルなプレイ。狙撃テクニック。どうしてそこまでわたしを強くしたいのかは分からないけれど、彼女が望むまま、わたしは流されるのだ。

 

「じゃあ次はトランザムかな」

「まだやるの?」

「当然!」

「ちなみにハイマットモードってどんな感じの操縦感なの?」

「むっ。そう言われても」

 

 言葉にしづらいと最初に前置きしながらも教えてくれた。

 小難しい論理はさておき、要するに自分個人を見るんじゃなくて、周りと自分の状況把握を頭に入れて予測ながら舵を切る、というものだった。

 最初のトランザム時は確かに急な出来事だったから混乱していたのは無理もない。だから自分の把握もそうだけど、周りの状況把握も含めて対応する。これが一番いいとのことだ。

 慣れるためにと、ブルースカイのビームサーベルをわたしに渡し、自分はガーベラ・ストレートを手に、もう一度バトルモードを開始する。

 

「トランザム!」

 

 初回でトランザムを起動。状況把握。冷静な頭で、クールに、冷静に操縦桿を切る!

 

「おぉ、前より動きが良くなったね! って前のは直進だったからかな」

「うるさい。わたしの練習台になれ」

「こっわー!」

 

 トランザムの高速移動による斬撃を紙一重の部分で躱す。

 む、ならば切り替えしてもう一度。ブルースカイの背面を取るようにして、回り込んでもう一撃。が、ダメ。8枚の翼を広げて飛び上がる。

 

「対人相手ならそれでいいけど、モビルスーツにはセンサーがあるんだよ!」

「なら今度は!」

 

 もっと柔軟に。もっと複雑に。2度目でトランザムに慣れてきたのか、直角に曲がりながらも、確実にブルースカイを追い立てる。

 例えハイマットモードだったとして、出力3倍のトランザムなら追いつける。

 接敵するブルースカイめがけて、手持ちのビームサーベルを振るう。でも今度は左に捻って確実に回避してみせる。そして追うものと追われるものは交代する。

 今度はブルースカイを背にわたしのガンダムファインダーが飛ぶことになってしまった。これじゃあ練習の意味がない。

 

「もっと忖度してあげようか?」

「だったら縦軸!」

 

 ファインダーが上空に飛び上がり、太陽を背に縦軸一閃の動き。これには流石に対応しきれなかったのか、ガーベラ・ストレートにより受け止める。

 

「こっちの方が使いこなしてるんじゃない?」

「そうかも」

「でも、こんなのはどうかな」

 

 そうしてけしかけてきたのはバルカン砲。かすかなダメージであり、当たれば相応のダメージが入る。顔面へと直撃する砲弾に運悪くメインカメラが潰れる。こ、これじゃあどこにいるか分からない!

 とっさのことに自分の状況判断が崩壊する。狂ったトランザムファインダーはその場で静止して次の指示を待つが、それを許すほど練習相手のナツキは甘くない。ガーベラ・ストレートを切り替えして、地面に向かって逆立ちオーバーキックの感覚で蹴り飛ばす。

 文字通り目をやられたわたしとガンダムファインダーは地面へと叩きつけられる。しばしの衝撃と明滅。息ができなくなるようなそんな気さえしてならない錯覚に気が動転してしまう。そのスキを狙って、ガーベラ・ストレートをコックピット先に突き立てられ、降参。

 

「ナツキ、強くない?」

「まー、うん。でもスナイパーライフルの使い方は私にはわっかんないんだよね」

「明らかに近接戦特化っぽいしね」

 

 練習相手にはできても、使い方までは教えることはできない。それがナツキの結論だった。情けない限りだとは思いながら、流石にしょうがないよなと頭の中で納得させた。

 

「こういう時スナイパー特化のダイバーとかいれば、教えられるのに」

「…………1つ心当たりがあったり」

「ホント?!」

「ギャルっぽいあの人」

「あー……」

 

 ナツキは納得した。確かにあのギャルっぽい、モミジって人はかなりライフル慣れしていると言っていいだろう。

 Dランクながらその腕だけ言えば、恐らくBやAで活躍できるレベルだと勝手に思っている。

 ビームによる威嚇射撃と分断。適度に場所を入れ替えながら、邪魔をするということに特化した動き方はわたしの望むスナイパーの形でもあるかもしれない。ちょっとあのテンションは苦手だけど、誘ってみよう。

 

 ◇

 

「……来ちゃった」

「えっと……」

「そういう時はツッコんでよ! はずいじゃん!」

 

 誘ったらものの数分で練習用ディメンションへとやってきたモミジ。テンションは、相変わらずだった。

 

「で、スナイパーの心得だっけ? あたしそういうの特に考えてないんだけど」

 

 後頭部を掻きながら、あんなの誰だってできるじゃん。と付け足す彼女は割と天才のそれなのかもしれない。それか無意識による才能なのか。どちらにせよ羨ましい人だ。

 でもだったら、と的あて場も含めて、ついでにと練習用ディメンションを案内してくれるらしい。いたれりつくせりだ。

 居合道場に練習用モビルワーカーによる訓練。チュートリアル会場に、ポイントターゲット。すべて初心者の練習らしく、側にいろんなビームライフルやサーベルなんかが置かれていて、練習用ディメンション内ではいくらでも使っていいらしい。

 

「意外とすごい」

「ね! こういうの欲しかったんだよ」

「んで、ここが的あて場。スナイパーだったら、あっちかなー」

 

 モミジが指差す先。それがよく見えない。見えないけれど、とりあえず遠いということだけは分かった。

 

「あそこから撃って、とりあえず固定された的を当てる。今はそれでいいんじゃね?」

「そういうものですか? もっと実戦的な」

「そこまで求められるレベルなら、フツーに十分戦えるってば! 今は軽くよ! ジャブジャブ!」

「ま、そういうもんか」

 

 ナツキもその言葉に納得したように悩ませていた眉間のシワをスッキリさせた。できれば戦う前にその考えに至って欲しかったところだったが、しょうがないか。

 とりあえずわたしたちはそれぞれの機体に乗って目的のスナイパーポジションへとつく。

 やっぱりオススメのスポットらしく色んな人が狙撃に勤しんでいた。

 カズマさんにゴルゴさん、煉獄のスナイパーさんとそれからシノンさん。真面目に練習しているんだなぁ。

 

「スナイパーは状況把握が大事。だからあたしはいつもレドームとドローン発射させて場所を炙り出してるんだけどさ」

「へー、本当にスナイパー特化なんですね」

「まー、格闘戦はちょっと苦手っていうか、いろいろあったのよ」

 

 困り眉でそれ以上は聞かないでほしいと言わんばかりの圧を少しだけ感じる。聞くつもりはないし、今はメモでそれどころじゃないです。

 

「多少ずれてても補正してくれる。だから、スコープから狙って、ズドン!」

 

 トリガーに指をかけて、引き金を引くとともにピンク色のビームが即座に射出。数百メートル先のターゲットへと狂いなくヒットする。

 

「「おー」」

「あとはやっぱ動く敵だよねー。こっちは予測射撃。あれは横軸に移動するから、ビームの速度と距離から逆算して、こう!」

 

 引き抜かれたトリガーはやっぱりビームとして射出されて、動く的を的確に射抜く。

 そっか、わたしに足りなかったのはこの予測射撃だったのかもしれない。

 

「人ってさ、絶対にいくらかパターン化するんだよ。それが通用しないのがトップランカーの現人神や怪物、ハイランカーの英傑たちなんだけど、並のプレイヤーならだいたい今の極めれば当てれるよ」

「あなたが神か」

「すごいです! ただのギャルじゃなかったんですね!」

「……つーか、あたし元ギャルなんだけど」

 

 その言葉に、頭の上に3つほどはてなマークを浮かべざるを得なかった。

 GBNにはエフェクトパーツというものもあって、実際にはてなマークを浮かべたり、ビックリマークをその場の感情によって表すことができるんだけど、それとは全く違う、自然に出てきた感情が顔に出たとも言っていい。

 

 何いってんだこの人。

 バリバリにギャルやってたじゃん。見た目は、ちょっとくたびれたお姉さんに見えるけど、人間見た目だけじゃないって言うし。まぁ、見た目が9割とも言うんだけど。

 

「元オタクくんちゃんに優しいギャル。現オタクちゃんね! よろー!」

「よ、よろー」

「よろ」

 

 なんか、概念がよく分からなくなってしまったけれど、そういうのって自分から言わないのが普通だったりしないのかな。ハルは訝しんだけど、そういうことにしておこう。流されるのは得意だ。

 

「てことで、練習練習! ほーら、早くやるよー」

「う、うん」

 

 そんなこんなで始まった射撃訓練は、おおよそ閉店の時間まで繰り広げられ、確かに命中率は上がったものの、気持ち的に目の疲労が尋常ではなかった。頭も痛いし。

 帰りに目薬を買っていったのを、翌日話したらモミジはあるあるだと笑っていた。

 やっぱあるあるなんだ……。スナイパーって、苦労してるんだな、と分かった1週間でした。




ギャル濃度が濃すぎて、オタク要素が少ない元ギャル


◇練習用ディメンション
「初心者が練習できるディメンションをくれ!」
という声に答える形でわざわざ運営がサーバーを用意したディメンション。
文字通りチュートリアルディメンションであり、
様々なビームサーベルやライフルが貸し出されている。
悪質なダイバーも紛れているが、ガードフレームの巡回頻度が高く、
あまり初心者狩りなどが起こりづらい。
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