お姉ちゃんV化計画   作:アイスの種

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衝動的に書きました。


#1「妹がなんか言ってる」

 

 

「わたしの姉ちゃんはスゴいんだぞ!」

「何がすごいって、もうスゴいぞ!激スゴだぞ!」

「スッゴイ優しくて、めっちゃカワイイんだ!激カワだぞ!」

「わたしの姉ちゃんは料理も得意でさ。わたしは姉ちゃんの作ってくれたお菓子が大好きなんだ!」

「どんな感じ?んー、小さくてふわふわしてる!わたしより小さいし!」

「あとあとお菓子作ってるから、姉ちゃん甘い匂いするんだ〜」

「え?わたしと姉ちゃん?もちろん仲良いぞ!」

「でな! でな!わたしが何かやらかしても姉ちゃんは笑いながら叱ってくれるし、いつも頭なでてくれるんだ!優しいだろぉー」

「むふー!わたしの姉ちゃんだから、皆にはあげな〜いっ」

「姉ちゃんV化希望?……あっ!!それ、いい!!わたし、姉ちゃんとVやりたーい!!」

「そういえば姉ちゃんにわたし言ってなかったなぁ。えへへ、姉ちゃん驚くかなぁ?姉ちゃん呼んでこよ〜っと」

「皆ちょっと待っててねー!」

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 私、星野谷春野は一般人である。

 

 

 普通の両親から生を受け、普通の幼少期を過ごし、普通の小学校、中学校、高校へと通った。普通に勉強して、友達と遊び、家に帰れば宿題をやってテレビを見て夕飯を食べてお風呂に入ってベッドで就寝。当たり前の日常を過ごしてきた。

 そして現在も普通の大学に在学している。将来のビジョンが見えなくて、何となくで大学へと進学するくらい、普通の私。

 大学生になってからは会うことも少なくなってしまったが友達にも恵まれて、賑やかな家族もいる。

 

 お菓子が好きで、お菓子を作るのが趣味。

 少し人見知りで緊張しい。割と引っ込み思案で悲観的。

 人に頼まれると断れないタイプ。

 

 どこにでもいる女子大生。それが私だ。

 

 大学の講義が午前中で終わったので、今日も家に帰ってお菓子を作る日々。

 

 今日のメニューはプリン。ちゃんとカラメルも作ることにする。やはりプリンにはカラメルがないといけない。

 材料は卵・グラニュー糖・牛乳。これだけで調理できる簡単なスイーツだ。私はバニラエッセンスを加えるのが好み。

 カラメルもグラニュー糖と水だけで作れちゃうからお手軽でよき。

 

 

 では、まずはカラメルから。

 

 小鍋にグラニュー糖と水を入れて火にかけ、薄くカラメル色になるまで焦がす。固まらないようにゆっくり混ぜて、薄茶色になったら火を止める。

 既に甘い匂いがキッチンに漂い始めた。

 ここからはカラメル色になるまで余熱で加熱していく。

 お湯を適度に足しつつ、冷めると固まってしまうのでしっかり混ぜつつ素早く作業しなければいけない。

 

 そして、小鍋の中には綺麗な赤褐色のカラメルが。

 

「んぐ……。ちょっとだけ……」

 

 甘い匂いの誘惑に負けた。

 スプーンで少しだけ掬って口の中へ。

 

 カラメルの甘さの中に、ほんのりとした苦味が程よく合わさっている。

 好きな苦さだ。

 

「んぅ〜!カラメルはこれでよしっ」

 

 プリンの容器にカラメルを入れたらお次はメインのプリン。

 

 卵をボウルに割って入れ、溶いていく。グラニュー糖を加えたら泡立て器で泡立てないように丁寧に溶くのがポイント。

 

 それが終わったら、鍋に牛乳とグラニュー糖を入れて温める。沸騰しない程度に温めたら、バニラエッセンスを加えて混ぜていく。

 温めた牛乳を溶いた卵に加えて混ぜれば、プリン液の完成。ほらお手軽で簡単。

 

 後はこし器でプリン液をこして、無駄な卵白を取り除く。そしたらカラメルの入った容器に注ぐだけ。

 

 そして、160℃に熱したオーブンで約30分間、蒸し焼きにする。

 待ってるいる間に調理器具は洗っておこう。

 

「〜〜♪」

 

 鼻歌を歌いながら待つこと30分。お菓子を作る時の、この焼くのを待っている時間が個人的に好き。

 焼きあがったプリンをオーブンから取り出すと卵とバニラエッセンスの香りが私を襲いかかってきた。

 

「おお〜」

 

 既に食べてしまいたいが、まだまだ。

 最後にオーブンから取り出したプリンの粗熱を取ったら冷蔵庫にイン!

 

 いい感じに冷めたら━━。

 

 

「━━完成」

 

 

 お手軽プリンの出来上がり。

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 大学生とは、実に時間に余裕がある身分である。

 

 自分で受ける講義を設定し、自分で時間割を作成する。

 好きな分野、気になる分野、伸ばしたい分野、まだ見ぬ未知の分野。そのどれもを自由に選択できるのだ。ちょっとした宝探しの気分。

 

 人によっては講義のない日を作ることができる。

 ただ、それは3年より後の卒業単位に余裕のある人がやることを私はおすすめしたいけれど。

 

 ということで、大学生とは時間に余裕がある身分であるのだ。と私は言いたい。

 

 私は、今日は午前の講義で終了。

 では午後に何をするのか。

 

 

 お菓子を作る。

 もう終わった。

 

 ……………………。

 ………………。

 …………。

 

 

 ……はい、何もない。

 

 お菓子を作るのだけが趣味の私は、お菓子を作ってしまったらもうやることがなくなってしまう。

 

 何か新しい趣味を開拓しなくては、お菓子を食べて家でゴロゴロするだけのだらしのない女になってしまう。それは人としても女としても━━主に体重━━堕ちていく一方だ。体重は落ちないが。むしろ増える。

 

 

 自分でも良くないとは分かっている。

 

 惰性を貪り、努力を怠り、精練を辞めた。

 目標もなく、目的もなく、意志もない。

 

 

 甘いプリンを食べながら、何もしない自分から逃げるように今日の講義の復習に取り組む。

 

「好きなこと、かぁ……」

 

 大学の友人に相談したら「好きなこととか、興味のあること探せば?」と割と適当な助言をいただいたのを思い出す。

 

 好きなこと……。

 興味のあること、ね……。

 

 音楽、テレビ、本、マンガ。

 色々と考えてみるけれど、どれもにわか程度の知識と興味しかない。

 

 そんなことを考えているので、復習のノートは真っ白。当たり前だ。

 ノートの空白は今の私を表しているのだろうか。

 空虚な世界の空虚な私。

 退屈な日常を享受してしまった私の末路。

 

「私って、空っぽだなぁ……」

 

 思わず呟いた囁き。

 カラメルは、ほろ苦い。

 外はもう夕日が落ち、暗くなっていた。随分と思考にふけっていたらしい。

 時間が過ぎるのが早いと感じるのは、私が焦っているからなのか。

 私の都合も考えないで、時間は理不尽に進む。

 

 また、今日も何もしてないな、と。

 自嘲気味に自分を責める。

 責めるだけ。責めれば変われると思い込んでいるのは私の悪いところ。ただの自己満足だもの。

 

 普通な私は停滞を嫌う。

 普通の私が、普通ではなくなる時とは。

 

 それはきっと奇跡や運命と呼ぶのだろう。

 私はずっと、いづれ来るかもしれないそんな奇跡や運命を待っているのかもしれない。

 

 何もしない私の前に、そんなものが訪れるはずがないと、分かっていながらも。夢想せずにはいられない。

 何もない私は、何かに願うしかないのだ。

 

 

 

 ━━そう思っていた。そう思っていた、のだが。

 

 

 

「━━姉ちゃん!Vtuberになろっ!!」

 

 

 奇跡というものは、劇的に突然で、突拍子もなく。

 運命というものは、私の想像よりも、ずっと身近な所からやってきた。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

「━━伊吹、そこに座りなさい」

「はいっ」

 

 目の前で正座をする少女を見て、思わず溜息がこぼれる。

 ……本当、返事だけはいいんだから。

 

 なんの遠慮もなく、思い切り私の部屋の扉をぶち開けたのはこの少女。私よりも後に、同じ母親から生まれた━━つまりは、私の妹である。

 

 ニコニコと、人懐っこい笑みを絶やすことのない天真爛漫、純真無垢を擬人化したような性格。今も正座しながら椅子に座る私を楽しそうに見上げている。

 

「私、いつも言ってるよね?人の部屋に入る時は━━?」

「はい!ちゃんとノックする!!」

「はい、そうだね。……で、伊吹はちゃんとノックした?」

「んー……。してないっ!」

「うんそうだね、してないね」

 

 ニコニコしながら私の話を聞いている。

 一応、怒っているつもりなのだが、この子は分かっているのだろうか。お姉ちゃんは心配です。

 

「次からはちゃんとノックしてね?お姉ちゃんびっくりして死んじゃうから」

「わかったっ!あ、今日はプリンだ!!」

 

 目敏く私の食べかけのプリンを見つけた伊吹。忙しい子だ。

 

「……伊吹の分もあるから、夕飯の後に食べてね」

「やったぁ!!」

 

 ……たぶん、私が説教していることは分かってなさそう。「姉ちゃんのプリンだ〜!」と喜びを顕にしている妹は見てて微笑ましいものだが。ちょっとは反省して欲しい。私の心臓のためにも。

 次からは、と言ったが、この台詞をもう何回言ったのか数えるのをやめてしまった。

 

 元気なのはいいことなのだが、姉としてはもう少し落ち着きを持って欲しいと願わずにはいられない。もう高校生。しかも女の子なのだから。

 

 昔から変わらないなぁ、と、何故かうずうずしている妹を見ながら思い出にふける。

 

 

 ━━星野谷伊吹。

 私の妹。

 

 好きなことに一直線。

 興味のあることには貪欲に突っ走っていく。

 考えるより先に体が動くタイプ。

 

 姉妹だから似ている、というわけではない。昔から似ていると言われたことはない。

 元気溌剌な妹に対して、私は物静かな方であった。

 外で駆け回る妹。室内でお菓子を作る姉。

 高校生の妹。大学生の姉。

 少し年の離れた姉妹はあまり似ないのかもしれない。

 

 私の方が姉なのに、よく伊吹に連れ回された記憶しかない。

 

 小さい頃、伊吹に無理やり木登りをさせられて、二人して降りられなくなった時があった。当たり前だが、心配した両親にはとても怒られたけど。

 

 懐かしい。

 あの時は恐ろしい体験だったが、今となっては笑い話だ。

 

 

 思い出にふけっていたが、そういえば伊吹は何をしに私の部屋へと押し入ったのだろうか。

 伊吹が私の部屋に来るのはよくある事なので、つい本題を忘れてしまった。

 そういえば、何か言っていたような……。

 

「えーっと、で、なぁに?」

「!!!」

 

 しぶしぶ問いかけると、待ってましたと言わんばかりに伊吹は顔を輝かせる。

 伊吹に耳としっぽが生えていたら、ちぎれるほどにしっぽを降っていることだろう。

 ちょっとだけ嫌な予感。

 また、何かに巻き込まれそう。姉暦10年以上の私の直感がそう告げている。

 

「姉ちゃん!!」

「う、うん。なに?」

 

 ガバッと、私に近付いてきた。

 椅子に座る私の膝に手を置き、下から見上げながら、妹はこう言った。

 

「━━Vtuberになろっ!!」

 

 ああ、そうだ。そんなことを言っていたなぁ。

 と、完全に他人事の感想を抱きつつ、なおも顔を近付けてくる伊吹を落ち着けの意味を込めて、頭を撫でる。

 

 そして私は、

 

 

 

「━━ぶいちゅーばぁ、ってなに?」

 

 

 

 目下最大の疑問を問いかけるのであった。

 

 

 

 

 

 

 #1「妹がなんか言ってる」  了

 

 

 

 




〇星野谷春野
自称普通の女子大生。
お菓子と妹が好きな、自己評価と身長が低めの合法ロリガール。

〇星野谷依吹
姉ちゃん大好き猪突猛進ガール
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