お姉ちゃんV化計画   作:アイスの種

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感想が書かれていたので続きました。(めっちゃ喜んだ)


#2「妹がなんかやってた」

 ━━Vtuberとはなんぞや。

 

 

 私の問いかけに妹の伊吹は「うーん……」と考えるように首を傾げる。はたして伊吹から明確な説明を受けることが出来るだろうか。……無理な気がしてきた。

 

 伊吹が突拍子のないことをするのはいつもの事だ。だが、そうは言っても今回は更にぶっ飛んでいるのは確実だ。

 

 

 ぶい、ちゅーばぁ。

 ブイ、V?はおそらく何かの略語?

 voice?vacation?vegetable……は違う気がする。

 チューバー?知らない単語ですね。

 

 自分なりに解釈してみたが、どうもしっくりこない。

 私が束の間の思考を経ている間に、伊吹も何かしらいい説明が思い浮かんだよう、で……?

 

 がっしりと手を握られる。

 それはもう力強く。

 何で手を握られているのだろうか。

 

「よしっ、見てもらったほうが早いか!来て姉ちゃん!」

「え、ええ!?」

 

 言うが早いか、私の手を引き廊下へ。

 伊吹に引きずられる形で、私はそのまま妹の部屋へと連れ込まれたのだった。

 ああ、やっぱり説明してくれないのか。

 

 

 

「あ、というか配信してたんだった」

 

 

 

 え、なんて???

 

 

 聞かなくてはいけないことが増えた気がする。

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

「はーい!とう、ちゃーくっ!」

 

 私の部屋のすぐ隣。

 いつもよりテンション高めの妹に、なかば強引に連れ込まれた妹の部屋。

 

 部屋の大きさは同じのはずなのに、ものが多いからだろうか。私の部屋よりも狭く感じる。

 いろいろなことに興味のある伊吹らしい部屋だ。

 

 なんだか懐かしいような。と思ったのも当然だった。

 本当に、随分と久しぶりなんだ。

 伊吹が私の部屋に来ることがほとんどで、私が伊吹の部屋を訪れることがなかったから。

 

 いや、感傷にひたっている場合ではなかった。

 本題に入らなければ。

 

「もう、ちゃんと説明してくれるんだよね?でも何でいぶ━━」

「あーっ!!姉ちゃんストーップ!!」

「ひぅ」

 

 ━━何で伊吹の部屋で?そう聞きたかったのだが。

 

 大きな声に私の意思とは裏腹に心臓が跳ねる。ついでに肩も跳ねてしまった。

 私の言葉は伊吹の大声によって完全にかき消されたのだろう。

 ……変な声が出てしまいちょっと恥ずかしいのですけど。

 

「ちょ、ちょっと!急に大きな声出したらお姉ちゃんびっくりしちゃうでしょ!?」

「ごめんごめん、姉ちゃんがわたしの名前言いそうだったからさ〜」

「えぇ……?どういうこと?」

 

 思いのほか理不尽な理由で言葉を遮られたので面食らってしまう。

 とにかく、名前は言っちゃダメらしい。

 なんで?

 

「ほらほら、こっちきて姉ちゃん!」

「あっもう、引っ張らないの」

 

 ぐいぐいと、まるで母の手を引く子供のよう。

 じゃーん!と伊吹に見せられたのは━━

 

「パソコン?」

 

 機械類が苦手な私は使ったことがないが、目の前のこれはパソコンで間違いないだろう。

 長方形の画面。数字や記号、平仮名が表記されているキーボード。その他諸々の機材。高そうなマイクなんて何に使っているのか、見当もつかない。

 

 いつの間にこんな立派なものを買い揃えたのだろうか。

 

 電源をつけっぱなしで私の元に来たのか、既に画面は明るい。

 

「コレ見て!」

「ん?どれ?」

「コレコレ!!」

「ん〜?」

 

 伊吹が興奮気味にパソコンの画面を指さす。

 言われた通りに画面を注視する。

 

 そこには、伊吹の部屋をモチーフにしたのだろうか。似たような部屋の画像をバックに、なんとも可愛らしい女の子のキャラクターが映されていた。

 

 くりくりとした大きなルビーの瞳。薄卵色の髪は、犬耳のように左右でぴょこんと外にハネている。落ち着いた印象だが、口元の八重歯が彼女の活発な性格を滲み出している。

 なんだか犬っぽい?

 

「どおー?」

「へぇ〜、可愛いね。なんか動いてるし」

「うぇへへ、ありがと〜」

「なんで喜んでるの……」

 

 素直な感想を告げたのだが、何故か伊吹がほにゃほにゃと喜んでいた。

 

「だってこれ、わたしだもん!」

「はい?」

 

 怒涛の展開に、頭の中が疑問符で埋め尽くされる。

 画面の中のキャラと隣合うようにして並んだ伊吹は、百点満点の満面の笑みで私に向き合う。

 

 

「わたしは、Vtuberの『犬町めぐる』だぞー!!」

 

 

 やっぱり犬なのか?

 

 

 

 

 

 *****

 

 

 

 

 

 ━━Vtuberとは。

 

 バーチャルNyuTuberの通称であり、動画投稿サイト『NyuTube』を中心にキャラクターのイラスト、アバターを用いて動画投稿や配信で活動を行う者たちのこと、らしい。

 

 今、巷では人気急上昇中のコンテンツのようで、伊吹も興味が湧いたらしくノリと勢いでVtuberのオーディションに応募したとのこと。

 で、受かってしまい、晴れてバーチャルNyuTuber『犬町めぐる』なった、と。

 

 現在はVtuberの企画・運営を行う事務所『アノソナイブ』の二期生として所属、Vtuber『犬町めぐる』として活動している。

 

 

 お姉ちゃん、何も聞いてないのですが……。

 

 

「私、知らなかったのだけれど……」

「言うの忘れてたっ」

 

 にぱー。

 純粋な笑顔が眩しい。

 悪気は無いのだと分かってはいるが、反省もしてない気がする。

 

「どう?どうっ?姉ちゃんもVtuberやろ!」

「いや、ちょっと……」

 

 とりあえず、うちの妹が何をしているのかは概ね理解出来た。

 そして、この妹、致命的に言葉が足りなさすぎる。本能で生きすぎではなかろうか。

 

 Vtuberの事務所があるくらいだ。そう簡単にはVtuberなるものにはなれないのだろう。しっかりとした手続きとかあるだろうし。

 

 そもそも何をすればいいのか分からないのが現状で、パソコンを使うのなんて私に出来るはずがない。

 動画投稿や配信だって、やったことも見たこともないのだ。

 

「私には無理だよ……」

「えー!?姉ちゃんなら絶対人気出ると思ったのにー。わたしが保証するぞ!」

「人気って。……私、そういうの向いてないから」

「そんなことないぞ!ほらっ!皆も言ってるし」

「は、え?皆って……?」

 

 そういえば、伊吹は配信がどうとか、言っていたような……。

 

 一抹の不安を胸に抱えつつ、伊吹が見つめる先━━パソコンの画面におそるおそる視線を向ける。

 

 

 :めぐるの姉ちゃん見てるー?

 :ホントに姉ちゃん呼んでて草

 :普通に声かわいいんだが

 :透明感あってスコだわ

 :姉妹でVとかてぇてぇかよ

 :今回も神回であったか

 :正直好きな声です

 :犬とは違った感じでええやん

 :おら!姉ちゃんのV化代だ受け取れ!

 :この犬は誰にも止められん

 :姉ちゃん=飼い主

 :姉ちゃん僕に下さい

 

 

 大量のコメントが流れていく。

 時おり色の着いたコメントも送られているのか、カラフルで目に痛い。

 

「………………」

「どした?姉ちゃん」

 

 薄々嫌な予感はしていた。

 していたのだが。

 

 これは流石に予想できない……!

 

「ね、ねぇ。さっき配信、とか言ってた、よね……?もしかしてだけど━━」

「おぉ!今もしてるぞ!」

「……つまり」

「つまり?」

「誰かが、これを見てるってこと……?」

「そうだぞ!」

 

 見てるというか、私の声を聞いているが正しいのか?

 そういうのはどうでもいいが、もう私の声は全国に配信されているらしい。重要なのはそこだ。

 

「……は、はは……」

 

 ついに脳がキャパオーバーを起こして、乾いた笑いが口からこぼれる。

 

 

 :お、姉ちゃん大丈夫か?

 :これが現実なんだよなぁ

 :姉ちゃん息してる?

 :全部犬町めぐるってやつが悪いんだ

 :めぐる、なんとかしなさい

 :突然妹にVtuber宣言されて配信に連れ出されたらこうなるわな

 

 

「姉ちゃん人前とか苦手だから、緊張しちゃってるんだな」

 

 当たり前だ。

 こっちはいろいろと初心者なのだ。

 心の準備もなしに人前で話すなんて高難易度なこと出来ない。

 

 

 :わかってて配信に引っ張り出すのか……

 :ひでぇ姉虐を見た

 :この犬、鬼畜すぎる

 :流石に同情を禁じ得ない

 :姉ちゃんの気持ちも分かるわ

 :誰か詩羽ちゃん呼んできてー

 

 

 なんかコメントの方が優しい気がする。

 

 

「やっぱり姉ちゃんはスゴいな〜。不安そうにしててもカワイイなんてなぁ」

 

 

 :ヒェ

 :ヒェッ

 :ヒェッ!

 :ヒィィィィィィィィィィィィィ

 :さり気にサイコ発言www

 :Sっ気が強すぎる

 :姉ちゃん逃げて!!www

 :元気いっぱいに人を引かせる天才

 

 

 流石は伊吹。

 天然の素で人を引かせている。

 考えないで喋るからそうなるんだよ?

 前から「伊吹はもうちょっと考えてから話してみようね」って言ってるのに。

 

「姉ちゃん、話すの無理そう?」

「……む、無理そう……」

「そっかぁ〜……」

 

 正確には人前ではないのかもしれないが、何人もの人が見ていると分かってしまうと声が震える。

 正直、今この配信を視聴している人数を聞きたくない。コメントの数から考えて結構いそうなんだもの。

 

 

 :無理はしちゃいかん

 :おいたわしやお姉様……

 :また犬が暴走したのか……

 :うちの駄犬が申し訳ない

 :視聴者が率先して謝るのかww

 :ついに身内にも被害者が……

 :無理すんなよ姉ちゃん

 

 

 なんだろう……。

 コメントが優しい。

 悪い人達じゃなさそう。

 

「あ、ありがとうございます……。ちょっと緊張しいなので……」

「そういう姉ちゃんもすきー!」

 

 なにかいたたまれない気持ちになってしまったので、たどたどしいが私なりに返答を試みることに。

 伊吹は……うん、この際無視しよう。今の私にそんな余裕はない。

 

 

 :黙れ犬

 :ハウスだ犬

 :これで餌食ってろ

 :餌代スパチャwww

 

 

「みんなひどいっ!?もー!!」

「えっと、ごめなさい、私の妹が急にこんなことして……」

「えー?姉ちゃんは謝らなくていいんだぞ?」

 

 

 :ええんやで

 :気にしなさんな

 :どうして妹はこうなったんだ……?

 :犬は謝れ

 :姉ちゃんにホラゲーやさせたい

 

 

「姉ちゃんにホラゲーやらせたい?わかるっ!!」

「えっ」

 

 

 :この犬はホントにww

 :全然反省しないのなwww

 :大好きな姉ちゃんを虐めるヤベー犬

 :変なコメント拾うの草

 :めぐるホラー耐性MAXだからなぁ

 :他のVが悲鳴あげるとこで笑ってんのはやばかったなww

 :正直見てみたいです

 

 

「…………」

「姉ちゃん?」

「くっ……ふふっ……」

 

 ああ。もう。

 本当に。

 

 

 :おろ?

 :笑ってる?

 :だいじょーぶかーー!!!??

 :とりあえず犬は謝れ

 :おいおい

 :流石に怒った??

 :おい犬ぅぅぅ!!

 :めぐるの味方はいなくなったのだった……

 :最初からいない定期

 

 

「あはははっ……!」

「おお!?」

 

 なんだろう。変な気分だ。

 妹はVtuberで犬だし、知らない間に配信されてるし、知らない人に見られてるしで、最悪な筈なのに。

 

 視聴者のコメントは何故か私に優しくて、伊吹の配信の筈なのに伊吹が視聴者に怒られてて。

 コメントで一喜一憂して、気づいたら喜んだり怒ったり。

 目まぐるしく話が進んでいって。

 

 それが不思議と嫌ではなくて、むしろ楽しくて。

 久しぶりに本心で笑った気がする。

 

「やったぞ!姉ちゃんが笑ってくれたぞ!!」

「ふふっ……ごめんなさい、なんだか可笑しくて」

「よかったぁ。最近姉ちゃんの笑ってるところ見てなかったから……」

「そっ、か……。そうかもしれないね」

 

 ああ、なんだ。

 何だかんだと言いながら。やっぱりこの子は優しい子だ。

 私のことを第一に考えて思ってくれる。

 

 だったら私はこの子の思いに答えなければいけない。

 姉として、大切な家族として。

 

「ありがとうね。えっと、━━めぐる」

「━━!!うん!!えへへぇ」

 

 頭を撫でると、その下には満開の花が咲いたような笑顔。

 星野谷伊吹ではなく、犬町めぐるとしても貴女は私を思ってくれていた。

 

 初めて呼ぶ筈なのに、すんなりと呼べたのは、何故だろう。

 

 ちょっとだけ、Vtuberというものに『興味』が出てきた。

 妹がやっているからとかではなく、私が自分の意思で興味を持てた。

 

 

 :てぇてぇ……

 :なんだよ、結構笑えんじゃねぇか……

 :結局二人ともいい子なんだよなぁ

 :今までの無かったことになってて草

 :これは姉ちゃんV化待ったナシだな

 :姉妹V、ええやん!!

 

 

 

 

 でも、私がVtuberになるというのは、話がまた違うと思う。

 

 

 

 

 #2「妹がなんかやってた」  了

 

 

 

 

 




〇星野谷春野
自称普通の女子大生。
コメントが優しい。
悪い人達じゃなさそう。
↑ちょろい

〇星野谷伊吹
姉ちゃん好きなヤベー奴
いろいろとやらかしまくった結果、視聴者からの扱いが雑になる。

〇犬町めぐる
星野谷伊吹のVtuberアバター。
視聴者からはやらかしまくりで「犬」と呼ばれる。
犬耳とかつけてないけど、なんか犬っぽい。

〇詩羽ちゃん
音坂詩羽。とりあえず名前だけの出演。
犬町めぐるの先輩Vtuber。
めぐるの面倒を押し付けられた人。

〇アノソナイブ
Vtuber事務所。
名前は10秒で考えた。適当。

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