ハイパースペース航行中、アナキンとの会話はなかった。
ベスピンの軌道上に出てから、アナキンはようやく口を開いた。
「マスター・ヨーダは何て言っていた?」
「………」
「ネル、話してくれなきゃ何も変わらないだろ。何を考えている?」
「………ジェダイ・マスターにされた。」
「え…?」
「ジェダイをやめたのに、マスターの称号を与えられたの!!」
声を張り上げて言い返したら、アナキンの感情が読めなくなった。
マスターの称号が欲しいから認めてもらいたかったんじゃない。ありのままの私を、否定しないでほしかっただけだ。アナキンは私の望みを知っているから、辛そうな顔をする。
「嫌だったんだな……」
黙って頷くと、アナキンはベンチに座る私の前に屈み込む。
「ネル、マスターが君をジェダイ・マスターにしたことには理由があるはずだ。」
「理由……?」
「事実上、君は現存するジェダイの中でNo.2だ。マスター・ヨーダが不在の場合、君に、」
「やめて。」
そこまで言われて、思わずアナキンを止めてしまった。分かりたくないけど、アナキンの予期通りだ。彼の推察は間違っていない。
「ネルは、ジェダイの滅亡を望んだ。だからマスターは君を昇格させて、ネルにジェダイの行く末を委ねた。全て君次第だ。」
「………」
「ネル、教えてくれ。何を考えている?」
もう後戻りはできない。
ヨーダとオビ=ワンは私の覚悟を知った上で、マスターの称号を与えた。アナキンではなく、私に。できることなら、その重責から逃げ出したい。
アナキンに、私の心の内を話した。
もちろん、同意はしてくれなかった。でも、同意は求めてない。これは私がやるべきことなのだから。
舵を押して、私はシャトルを空中都市に着陸させる。
着いて早々、ストーム・トルーパーが私とアナキンを取り囲んだ。
「動くな!」
「武器を置け!」
私達は大人しく武器を蹴り渡して、ハッチを降りる。アナキンは手錠をされ、私も後ろ手に手錠をかけられた。
ここまでは、私の意図通りだ。
手錠された後、予期していたのかジェレクが現れた。
「ようこそ、ルシル卿。」
「ジェレク、レイア達に何かしてないよね?」
「レイア姫には何もしていない。あの女はいるだけで、そこの役立たずの餌になるからな。」
「お前……!」
「捕虜を連れていけ。」
トルーパーに背中を押され、私とアナキンは中に連行される。
そこで、私はアナキンと引き離された。
「ネル!!」
「心配しないで、アニー。」
アナキンはレイア達がいる部屋に連れて行かれて、私はジェレクと2人になる。
「何を企んでいる?」
「“ヴェイダー卿”、取引をさせてあげる。」
私の感情を読んだジェレクは、顔を青ざめさせる。
数分後、私の手錠は外されていた。
────────
数時間後、ジェレクはダイニング・ルームにアナキンとハン達を招いた。帝国軍に脅されて屈したランド・カルリジアンも同席し、彼らはジェレクに促されて着席する。
何事もなく座っているジェレクに対して、アナキン達は動揺していた。
なぜなら、ジェレクの隣にはエレノアが手錠無しで座っていたからだった。
「ネル……」
「ごめんね、アニー。“ヴェイダー”と取引したんだ。あることを条件に、あんた達を解放してもらうって。」
「自分が何をしたか分かっているのか!?」
「分かってるからここにいる。」
「っ!?」
アナキンは、心を締め付けられるような感覚に陥った。
エレノアの顔は“いつものネル”ではなく、アナキンには“ダース・ルシル”の顔にしか見えなかった。フォース感応力がないのに、ハンとカルリジアンは背筋が凍るような錯覚に陥り、アナキンはエレノアの凄まじい憎悪を感じる。
レイアは手が震えて、アナキンの腕に触れて冷静さを保とうとしていた。
「取引は成立した。お前達にもう用はない。追跡も今回だけはしないでやろう。」
「ただし、ハンだけは助けられない。」
「何だと!?」
「ハン、あんたはジャバに借金があるんでしょう?帝国でも庇えないらしいから、大人しくボバとタトゥイーンに行ってもらう。」
「そんなことさせるか!」
アナキンが立ち上がると、ダイニング・ルームにマスクを着けたシスの隷属が入ってくる。
これが、エレノアがジェレクに提示した条件だった。
3人のシスの隷属は、赤いライトセーバーを胸元に立て、アナキンを牽制する。不利だと判断したアナキンは、ジェレクに鋭い目を向けた。
「ハンも解放しろ。」
「ならお前が奴隷に戻るか?」
アナキンが奴隷だったことを知っているジェレクは、刺々しく言い放つ。
「“スカイウォーカー”、これが一番の解決策だよ。」
「っ…」
「カルリジアン、彼らを船まで案内してあげて。」
カルリジアンは黙って従い、ダイニング・ルームを出て行く。
出て行く際、アナキンは表情1つ変えないエレノアに悲しみを募らせる。彼が見たのは、かつてのルシル卿ではなく、愛する者達の為に自らを殺したルシル卿だったからだ。
アナキン・スカイウォーカーは、親友の決意に何も言えなかった。