エンドアの戦いから半年、誰もが“エレノア・クラウド”のことを忘れていた。だけど、その方が都合が良い。お陰で“私”は、ゆっくり休養できた。
死を擬装してくれたパイク・シンジケートに感謝だ。
「ママ!おなかすいた!」
「はいはい、ちょっと待ってね。」
作り置きのご飯を出しながら、娘に落ち着いて座るように言う。
あれから私、エレノア・クラウドは家族と一緒に人の多い星に潜んでいた。共和国も、私達家族が死んだと思っている。人々の中に紛れ込めば、簡単には見つからない。
それに以前も使った、イサラミリの幼体を傍に置き、フォース感応者にも見つからないようにした。
ところが、これから食事という時にフェラスが駆け込んでくる。
「すぐにここを離れるぞ!」
「え?なんで?」
「ステフ、行くよ。」
フェラスの一言で、私は瞬時に判断した。面識のある人に遭遇してしまったらしい。一度見つかってしまったら、逃げるしかない。
「裏通りにスピーダーがある。先に行け。」
「フェラス!」
時間稼ぎに向かう夫を呼び止めた。それからキスをして、必ず合流するように約束させる。家族が一緒じゃなければ、私の幸せは意味がない。
「ステフ、ママの言うことをちゃんと聞くんだぞ。」
「うん!パパだいすき!」
「俺もステフを愛してる。ママと一緒に待っててくれ。」
「まってる!いってらっしゃい!」
フェラスはステファニーにキスをして、表通りに出て行く。
イサラミリの幼体をバッグに入れた後、娘を抱いてスピーダー・バイクに跨る。ステファニーを守るように抱え込み、ハンドルを握った。
「ステフ、しっかり掴まってて。」
「うん!」
アクセル全開で、裏通りをスピーダーで走り抜ける。
「はやーい!!」
楽しそうに笑うステファニーに、不安なんて微塵もなかった。
身体も治ったし、私は自由に生きる。娘と、夫であるフェラスと共に。邪魔はさせない。私は私のやり方で、邪魔者を蹴散らす。
正面に見えた共和国の隊員に、私はフォースを使って払い除ける。
「クラウド!馬鹿な真似はやめろ!」
「モスマ“議長”に謝っておいてー!」
「ふざけるな!おい!待て!!!」
遠退く隊員達に、ステファニーはケラケラと笑う。隊員達は子供がいるから、私を撃つことはできない。卑怯と言われたって、娘が私から離れることなんてないんだから仕方ない。
「ママー」
「どうしたの?」
「ママしあわせ?」
「うん、幸せだよ。パパが来たら、一緒に遠くに行こうね。」
宇宙港に着くと、共和国の防衛軍がブラスターを向けて待ち構えていた。
彼らは一瞬動揺していたが、すぐに冷静さを取り戻していた。私の“外見の若さ”に、誰もが戸惑うだろう。全快したんだから、それくらいやるよね。
“予期通り”の展開に、私は笑みを浮かべてしまう。
「エレノア・クラウド!大人しく投降するんだ!」
私が投降?あり得ない。
私はエレノア・クラウド。ジェダイでも、シスでもない。自由に生きる、ただのフォース感応者だ。
「あんた達……」
「っ!?」
「そんなオモチャで、私をどうにかできると思ってんの?」
オールド・タングを吐き、私の足元から緑色の煙が広がる。
私がシスの秘術を使ったと認識した彼らは、慌てて逃げ出す。
「退避ー!!」
「逃げろぉぉぉ!!!」
逃げたところで無駄だ。
全快した私は、シスの秘術をありったけの力で使う。全力だから、認識範囲は惑星全体だ。この星にいる限り、彼らに逃げ場はない。
「ママ…おじさんたちしんじゃうの?」
「死なないよ。ちょっと寝るだけ。」
煙に触れた者は、強制的に眠りに落ちる。殺しても何とも思わないけど、“ジェダイ”が現れたら面倒だから、あえて眠らせた。
「おっと……なんだこれ………」
振り返ると、フェラスが追い付いてきていた。
この星の知覚種族が全員眠っていて、フェラスは驚いていた。シスの秘術を使ったことを話せば、溜め息を吐かれて呆れられた。
「回復したばかりだろ……」
「平気だよ。これはそんなに生命エネルギーを使わないから。ほら、行こ。」
「パパ早くー!!」
真っ先にシャトルへ乗り込んだステファニーが、私達を急かす。フェラスはステファニーを追い、ハッチを上がっていく。私も追いかけるように、ハッチを上ろうと一歩踏み出した。
「ネル!!」
知った声に、私はゆっくり振り向く。
「こんなところにいていいわけ?」
「僕がここにいるのは君のせいだ。」
ナブーにいるはずのアナキンが、目の前にいた。
辺りの惨状に、彼は肩を震わせる。
「僕とルークは、君達の死を本当に嘆いたんだぞ……!」
「それはありがとう。でも、獄中生活は御免だから。一生監獄で暮らすくらいなら、死んだ方がマシ。」
私の嘲笑に、アナキンは悲しそうな表情をする。
私達が生きていると知られた以上、アナキンも黙っていることはできない。彼はジェダイ・マスターで、私は逃亡者であるシスだ。アナキンは、私を捕らえなければならない。
「エレ……アナキン………」
いつまでも上がってこない私を心配したのか、フェラスがシャトルから降りてくる。
「フェラス……悪いが、ネルは見過ごせない。」
「アナキン、」
「大丈夫だよ、フェラス。シャトルのエンジンを立ち上げておいて。」
「………分かった。」
フェラスが中に入り、私はアナキンに向き直る。
私、アナキン、フェラスはそれぞれ考えが違う。私はシスである自分は消えるべきだと考え、フェラスはそれが私なのだと最初から受け入れてくれた。
だけど、アナキンは違う。
アナキンは私自身を受け入れているけど、シスである事実を無視できずにいる。私達は友達で、彼は私の無事を願っている。その結果、アナキンは私を監獄に送ろうとしている。
そうすれば私は悪事を働かないし、誰かに殺される心配もない。
確かに理には適っているけど、私は監獄で生きるなんてお断りだ。
「アニー、私は変わる気はないよ。」
「ネル!!」
「やりたいことはやるし、狙われたら相手は殺す。フェラスは私の悪事も苦痛も含めて、一生を添い遂げるって言ってくれた。それが私だからって。だから私も私らしく、自由に生きる。」
「………」
「止めたいなら、私を殺すしかないよ。あんたに私を殺せる?」
私の悪意ある問いに、アナキンは睨んでくる。
でも、すぐにいつものアナキンに戻った。
「実力は僕が上だ。だが、ネルを殺すことはできない………君の勝ちだ。」
「知ってる。止めないなら、私は行くからね。」
ハッチを上がり、私はアナキンを見下ろしながらボタンを押そうとする。
そこで、私は呼び止められた。
「ネル、何があっても、“ジェダイ”は君の味方だ。」
その言葉に、私は唖然となる。
私はジェダイを忌み嫌い、アナキンも憧れのジェダイが廃れてしまい失望していた。
アナキンが告げたのは、かつてのジェダイの言葉ではなく、本来あるべき姿のジェダイとしての言葉だった。仲間を見放すこともなく、闇に堕ちた仲間を諦めない。アナキンが子供の頃に憧れた、ジェダイそのものだ。
私は、アナキンのその言葉を受け入れることにした。
「ありがとう、アニー。」
今度こそボタンを押し、ハッチを閉めた。
シャトルはすぐに発進し、私達は旅立つ。人がいない惑星の座標を入れ、ハイパースペースに入った。もう急ぐことはない。ゆっくり旅をするだけ。
そう、時間はたくさんあるんだ。
私達はフォースが共にある。
────────
エレノア達が去った後、新共和国の首都惑星、シャンドリラにて特別議会が開かれた。
「以上、エレノア・クラウドについての報告です。」
アナキンは、ジェダイ・マスターとして元老院の席で報告をしていた。
エレノアが生きていたこと、あえて死を偽っていたこと、追跡者に容赦はしないことも話した。そして、エレノアの不本意な善行についても報告した。
彼女が生きていて問題になったのは、エレノアが犯してきた誤ちだった。
元老院の議員達は、アナキンの報告に騒めく。
「エレノア・クラウドに、共和国に対する敵意はありません。寧ろ、手を出さないのが賢明でしょう。クラウドは自由に生きたいだけです。」
「だが、今後何もないという保証はないだろう。」
「皆さん、静粛に!」
モスマは元老院に静粛を求めた。議員の1人の言葉に、他の議員も頷く。その様子に、モスマは眉を顰める。
しかし、アナキンは議員達の言葉を一蹴した。
「僕が保証します。このアナキン・スカイウォーカーが生きている限り、クラウドは共和国に害を為しません。お約束します。」
「モスマ議長、私からもよろしいでしょうか?」
「アミダラ議員、発言を許可します。」
ナブーの元老院議員に復帰したパドメが、席から立ち上がる。
「貴方達もご存知でしょう。彼女は銀河の為に、自ら闇に堕ちたのです。彼女にしかできなかったことです。これだけで、充分信用に足るとは思いませんか?」
「異議あり!」
「却下。今はアミダラ議員の発言の途中です。慎むように。」
「私は、ここに彼女の自由の許可を求めます。ナブーの君主、ソルーナ女王陛下も、彼女を支持しています。今一度、エレノア・クラウドの酌量を求めます。」
パドメの言葉に、元老院から拍手が沸き上がった。
元老院はパドメとアナキンの進言により、エレノアの自由を認めることになった。
これは、大きな変化だった。
その後、エレノアの生存は銀河中に広まった。モスマ議長の演説はホロネットに流れ、エレノアの尽力など、帝国との戦いで彼女が何をしたのかを広めた。
何より重要なことは、エレノアがシスではなくなったことだった。シスという仮面をしていたのだと、モスマは語った。
銀河の人々はそれを認知し、後にエレノア・クラウドを皮肉を込めて呼んだ。
“理想主義者”、と──────