復讐に、良心は必要ない。
手段は選ばなかった。
ファースト・オーダーの将校の1人を殺して、私はその将校の存在を利用した。“ローレンス・コデュール”はファースト・オーダーを離反して、レジスタンスに加入する。帝国時代にもよくあったことだ。下っ端将校が消えたところで、誰も気にも留めない。
これで、戦いの幕は開いた。
次に、私は仕掛けを施してエピを追い出した。今まで助けてくれたドロイドを拒み、孤独な状態を作った。自らを孤立させて、憎しみを強くする為に。
子供達も遠ざけた。
家族がいたら、私は甘えてしまう。それではスノークを潰せない。だから、1人になる状況を自分で選んだ。
強く、揺るぎない、昔の私が必要だった。
そうしなければ、フェラスの最期の言葉が頭から離れない。
「そこを退いて、エディ。」
ベンを半殺しにしようとする私を、エドワードが立ち塞がって止めてくる。
「やめて、母さん。」
「退かないと、あんたを傷付けることになる。」
「ベンを苦しめたって、父さんは戻ってこないんだぞ!!」
「分かってるよ!!」
そう言って、ベンを投げ飛ばした。ベンは雪の上で蹲り、呼吸を再開させる。咳き込むベンを傍目に、私はレイ達に脱出するように急かした。
レイとフィンは走り、〈ミレニアム・ファルコン〉へ向かった。
イラムはもう崩壊する。
あちこちで、地割れが起きているのを感じる。
「懐かしい………イニシエイトの頃、ギャザリングでこの星に来たんだよ。」
「母さん、」
「フェラスが同期だったんだ。」
「母さん!」
「スノークを許す気はない。」
頬が湿るのを感じながら、息子に静かに告げる。
「………自分自身もね。」
「母さんは何も………」
「スノークを嘗めてた。ベンの心の闇も、ルークの苦悩も、何も気付けなかった。もっとしっかり見ていたら、フェラスは生きてた。」
ベンは怒りを滾らせ、ライトセーバーを振るってくる。私は自分のライトセーバーを起動させ、刃をくるりと回した。クロスガードライトセーバーは数歩先に落ち、回した刃がベンの顔を切り裂く。
ベンが倒れた瞬間、私達とベンの間が地割れして、大きく距離ができた。
「エディ、先に行って。」
「けど、」
「あんたを傷付ける前に、」
エドワードは私の言うことを聞かず、近付いてくる。
それから、私を抱き締めてきた。
「母さん、一緒に行こう。ステフも待ってる。」
「離して………」
「………父さんは復讐を止めたんだろ?」
そう、復讐は私1人の意思だ。フェラスは復讐を望んでいない。これは、彼の為の復讐じゃない。
「母さん………?」
身体が言うことを聞かず、私は突然目眩に襲われる。
気が付くと、私は懐かしい建物にいた。今はもうない、コルサントのジェダイ聖堂だ。私はその中庭に立っている。
目の前にはグレート・ツリーがあり、その下にはフェラスが立っていた。
『フェラス』
フェラスは何も言わずに、私にキスをする。
『フェラス、愛してる。』
『復讐はやめろと言ったはずだ。』
『………聞かない。』
『エレノア』
私の顔を向けさせると、フェラスは真っ直ぐ視線を向けてくる。
『お前なら分かるだろ。あり得たかもしれない運命がある。お前が変えたから、今の俺達があるんだ。それを台無しにするな。』
フェラスが言う、あり得たかもしれない運命は幾つもある。
ジェダイとしての私、暗黒面に呑まれた私、どちらも選ばない私。クローン戦争の時に出会った私もそうだ。自分で運命を捻じ曲げた。
あり得たかもしれない運命は、他にもある。
パドメが死ぬ運命、アナキンがシスの暗黒卿として君臨する運命、パドメが死なない代わりにアナキンが死ぬ運命。
そして、フェラスが死ぬ運命。
『エレノア、お前らしく生きろ。俺はお前の一部に過ぎない。俺に振り回されるな。』
『フェラス………』
『俺が死んだのはお前のせいじゃない。奴の思惑に乗せられるな。』
『奴……?』
『“ネル”、愛している。』
愛称で呼ばれたのはいつぶりだろう。
フェラスが死んだのはかなり前なのに、もう何十年も聞いていないような気がする。最初で最後の、本気で愛した人だ。フェラスの声が、こんなに刺さるなんて思わなかった。
『フェラス』
生涯の伴侶の名前を呼び、私は優しくキスをする。
『あんたは言ってくれたよね。私の悪意も苦痛も受け入れるって………一緒に地獄に落ちるって。』
『………ああ。』
『お願い、止めないで。あんたの為じゃない。私の為に復讐する。許して、フェラス。』
フェラスは驚いた顔をするけど、すぐに笑みを浮かべた。私はこの笑みの意味を知っている。だから、私しか知らないフェラスの答えを待つ。
『やりたいようにやれ。お前の望むがままに。』
『………フェラス』
『なんだ?』
『愛してる。』
そう返すと、私は現実世界に引き戻された。
急に息ができるようになったのか、現実に戻った反動で飛び起きた。
妙にリアルだった。でも、あれはフェラスだ。確かに彼の死を感じたけど、私を許してくれたのは間違いなくフェラスだった。
悪意の塊である私を、どうか許してほしい。
「ママ!!」
マントを着て部屋を出ると、真っ先にステファニーが駆け寄ってきた。
「ステフ………」
どうやら、私はステファニーを甘やかしすぎたらしい。
私は身を隠しながらも、ステファニーとエドワードが何をしてきたのか知っている。ステファニーが私の為に手を汚したことも、当然知っている。
「ステフ、どうして共和国を潰させの?」
「ママ……?」
「潰した……?」
ちょうど駆け付けたエドワードが、私の言葉に絶句する。
「ステフ!!」
「ママ、それは、」
「確かに共和国を助ける気はなかった。でも、わざとフォースト・オーダーに共和国を滅ぼさせた。あんたのやっていることは………」
そこまで言って、私は口を閉じる。
娘は、昔の私と同じだ。こうなってしまったのは、私のせいだ。ステファニーに手を下させたのは、私だと言っても過言じゃない。
できることなら、ステファニーはレジスタンスのように戦ってほしかった。
「ごめんね、ステフ。」
ステファニーを抱き締めて、何度も謝る。
パパっ子だったステファニーが、大丈夫なはずがなかったんだ。
「ママ、私もごめんなさい……」
私の言いたいことを理解したらしく、ステファニーの表情は子供のような、悲しそうな顔になる。大人らしくない娘の行動に、私はシスの秘術でステファニーの心を覗く。
嫌なものが見え、口にするのを堪えて娘に催眠をかける。
「ステフ!!!」
ステファニーが倒れる前に私が抱き支えて、後はレジスタンスの隊員達に任せた。
ポー・ダメロンが娘を抱き上げ、ハンガーへと運んでいく。
「母さん!どこに行くんだ!?」
誰にも視線を向けずに去ろうとすると、エドワードが引き止めてくる。
「“まだ”出て行かないから安心して。レイアに話がある。」
「母さん!待って!」
腕を掴まれ、私は背を向けたまま止まる。
「母さんは母さんだろ……?」
「どういう意味?」
「母さんは、エレノア・クラウドとして戦っているのか?」
「エディ、聞かなくても知ってるでしょう?」
振り向いた私の目を見て、エドワードが一瞬恐怖を抱いたのを感じた。
踵を返して、私はレイアがいる司令部へと向かった。
私はシスをやめるつもりはない。
アナキンやオビ=ワンがいる冥界にも行かない。私は地獄に行く。ただし、1人で地獄に落ちる気はない。
スノークも道連れにしてやる。
覚悟はできている。
遅くてなってすみません泣