鏡の中の私
クレイトを離れてから1年。
レジスタンスはエイジャン・クロスに隠れていた。私達家族もレジスタンスと共に行動して、ファースト・オーダーと戦っていた。
そして、私はステファニーとエドワードにフェラスの話をした。
フェラスが死を選んだ理由、私が生き延びた理由、私とフェラスしか知らない楽園の話。全てを話した。意外にもステファニーは受け入れてくれたけど、エドワードは受け入れられないみたいだった。
仕方のないことだけど、事実だ。
エドワードはポーに同行して、ステファニーはレイと一緒にフォースと調和する為の訓練をしている。
「エレノア」
数歩先で訓練するレイ達を他所に、レイアが声をかけてくる。
「本当のことを話して。」
「何のこと?」
切羽詰まったような、焦ったような表情をして、レイアは私に迫る。
ずっと何かを感じていたけど、ルークからも隠されてきたんだろう。私もフェラスも隠してきた。私の、唯一の秘密だったから。
「シスに秘密があるのは分かってる。でも、今回の秘密はタチが悪いわ。」
「レイア、」
「ジャクーの観測所で、何があったの?」
言い訳は許されない。
馬鹿みたいな夢を抱いたのは、私だ。夢を叶える為に、シディアス卿に手を貸してきたのも私。全部私が招いた悲劇だ。
「シスに裏切り者がいる。」
「それは……」
「シスに信頼はない。けどね、シスの摂理に反する奴がいる。スノークはその手駒に過ぎない。」
その内、レジスタンスも知ることになる。
シスに信頼という言葉はない。それは私が一番良く知っている。私もティラナスを信頼していなければ、シディアス卿も信頼はしていなかった。
シディアス卿にそう教えられたから。
「エレノア………」
「大丈夫だよ。私が何とかする。」
マントのフードを被り、騒がしいレジスタンスから離れる。
フォースの強い、静かな森へと向かい、私は宇宙のフォースに呼びかける。
私が呼びかけたのは、“マスター・ドゥークー”。それから、レヴァン。他にも、アレックやウリック、クレイアもいる。元々はジェダイだったけど、暗黒面に転向してシス卿になった者達だ。
でも、ジェレクは呼んでいない。だって、あいつは正式なシスじゃないから。ヴェイダーの名を借りた、ただの小者だ。
肝心のアナキンは、光明面を選んだから現れない。
アナキンは、ジェダイの道を選んだから。
『ルシル卿』
『裁きの時だ。』
『裏切り者を許すな。』
彼らは口々に呟いた。禍々しい空気が辺りを漂う。暗黒面の力で、私達の近くの植物は枯れていく。
『ダース・ルシル、再び戦いが始まる。』
「分かってる。もうすぐ、銀河の秩序は正される。その為にはジェダイとシス、両方の力が要る。」
『ルシル卿、これ以上先へ進めば、身を滅ぼすことになる。後戻りは許されん。』
『承知の上で進むのだな?』
『これは助言ではない。警告だ。』
これから行うシスの秘術は、亡きシス卿達の力がなければ使えない。故に、代償を伴う。私はそれを知りながら、術を使おうとしている。
「覚悟は必要ない。やらなきゃいけない。それがあんた達の望みでしょう?」
『左様。しかし、我々は既に死んだ身。失敗すれば、助けることはできん。』
『心してかかれ。』
「もちろん。」
懐からワインの瓶を取り出し、足元にぶち撒ける。古代シス語を口にすると、ワインは魔法陣を形作る。次に手の平を切り、私は魔法陣に血を落とした。
ワインが燃え始め、シス卿達は私の周りをぐるぐる回り、古代シス語を唱える。
『さぁ、時空を越えろ。』
私の意識は肉体を離れ、あらゆる時間軸を覗く。
あり得た未来、起こり得た現実、あり得ない過去を見た。でも私が探しているのは、もう存在しない時間軸だ。憶えているのは、私だけ。
目を閉じ、地に足を着けるように、一歩ずつ進み続ける。
やがて、私は真っ白な空間に辿り着いた。
『おかえり、ネル』
愛称で呼ばれたのは久しぶりだ。
“ダース・ルシル”が、私に微笑む。亡きシス卿達はいない。私とダース・ルシル、2人だけの空間だ。
戻ってくることはないと思っていた。ここは、本来なら辿り着けない場所だ。この空間に入れたということは、何かが変わるということ。
これも、未来の私だけの思惑通りなのかもしれない。
『座りなさい。』
私は言われた通り、以前訪れた時のように椅子に座る。
『会えて嬉しいよ、ネル。』
『本当はそう思ってないんでしょ?』
『嬉しいと思ってるよ。私の予期通りだから。あんたがここに来た目的は分かってる。』
彼女に会いに来たのは、最後のゲームを終わらせる為だ。
未来のダース・ルシルは、根本から未来を変える為に自らを過去へ送った。その時に彼女は記憶を失い、私は本来の自分と違う人生を生きた。結果、ダース・ルシルは残存する意識のみの存在となり、私が新しい未来を作り上げることとなった。
彼女が手を出すのは、一度だけ。
最後のゲームだけだ。
『あんたは私以上のシスになると思ってた。予期通り、最高のシスになった。最後の戦いを始めよう。』
ダース・ルシルは手を差し出す。私はその手を取り、笑みを浮かべた。彼女が古代シス語を唱え、準備は整った。
『平和は偽り─────』
『─────勝利を通じて私の鎖は千切れる。』
白い空間は消えて、私はエイジャン・クロスの森へ戻っていた。シス卿達も消えて、残っていたのはダース・ティラナスだけだった。
彼は、何も言わない私に声をかける。
『本当に良いのだな?』
「………構わない。」
『クラウド』
私の知る“マスター・ドゥークー”が、刺々しく口を開く。
『ダース・ルシルとダース・ティラナスに信頼はないが、私とお前には信頼がある。故に、これが最後の助言だ。敵を尊重しろ。』
「敵を?尊ぶ必要ある?」
『ジェダイからシスに転向したお前に必要なものだ。よく考えろ。』
マスター・ドゥークーは、そう言って消えた。
確かに、シス同士の信頼はない。けど、マスター・ドゥークーと私の間には信頼があった。それは間違いない。
そんな彼の言葉は、心に留めておくべきだ。
素晴らしいジェダイだったマスター・ドゥークーは、聡明なシス卿だ。
私も、ティラナス卿のようにもっと強くありたい。