シスの秘術の基本は、生命エネルギーだ。それをどう使い、変化させるか。それがシスの秘術の基礎だ。
フォース・ドレインはその中でも単純で、難しい術だった。
私はシスの秘術を学び、新しい術も作った。夢の為に改良を重ね、危険なものも作り上げた。シスの術なのに、シスに有害な術だ。
その術を危険視され、一度はシディアス卿に殺されそうになった。
だが、その判断は間違いではない。
「首を切り落としておけば良かったのに。」
嘲笑しながら、レジスタンスから離れたこの場所で、その術を使う準備をする。
必要なのはグレート・ツリーの葉1枚と、私自身だけ。グレート・ツリーは、フォースと繋がっている。その葉を使い、私は宇宙のフォースと調和する。
グレート・ツリーの葉を飲み込み、私の意識は暗黒面に沈んでいく。
調和と言っても、レイ達がやっている調和とは違う。
「っ…」
暗黒面は、肉体を蝕むのが最大の特徴だ。特に、暗黒面を扱う者にとっては毒も同然。葉を飲み込んだことで、体の中がぐちゃぐちゃになる感覚に支配される。
「────────」
気持ち悪さを無視して、私は古代シス語を吐く。
これで、準備はできた。
「ルシル卿………?」
レジスタンスの青年が私を探しにきて、恐る恐る声をかけてくる。振り返ると、彼は小さく悲鳴を上げた。私が用件を問うと、彼はレイアが呼んでいると言伝をしてくる。
レイアがいるというエリアへ向かうと、思わず立ち止まった。
『ネル』
この時代で、私を愛称で呼ぶ者はもういない。
なぜここに?
その疑問だけが、思考を埋め尽くした。
「キット・フィストー………」
ノートランのジェダイ、キット・フィストーが、青く透けた霊体の姿で立っていた。
私の知る限りでは、フォースの女官から訓練を受けたのはヨーダとオビ=ワン、そしてルークだけだ。アナキンは例外として、他にはいないはずだ。奴が現れるなんてあり得ない。
「あり得ない。」
『そう言うと思った。だが、ロザルの寺院で一度会っただろう。』
嘘だ、違う。
あれは寺院が見せた幻だ。本物のフィストーじゃない。目の前のフィストーも、偽物だ。
「あんたはフィストーじゃない。」
「いいえ、彼は本物のマスター・フィストーよ。」
「レイア、こんなの笑えないよ。」
「でも、現実よ。ルークだけがジェダイではないわ。」
訓練をリタイアしたとはいえ、レイアもスカイウォーカーの血を引いている。彼女がフォースと調和できても不思議じゃない。リタイアしてなければ、ルークと同じくらい良いジェダイになっていただろう。
フィストーに呼び掛けたのも、レイアだ。
認めたくないけど、目の前にいるのは紛れもなくフィストーだ。
「なぜ自我を保てるの?」
『ダース・ルシルとペダムが変えた過去は、お前だけではないということだ。』
つまり、フィストーはいつの間にか訓練を受けていたようだ。
「気に入らない。」
『だが、私は目の前にいる。』
「エレノア、やめてと言っても聞かないわよね。」
「この私が………素直に聞くと思う?」
レイアはやめてほしいだろうけど、私は聞く気はない。
私とレイアは、根本から違う。ジェダイとシスの立場を除いても、レイアが善人で、私が悪人なのは変わらない。善人が邪心を抱くことはあっても、悪人が良心を思い出すことはない。
私は、誰が見ても後者の人間だ。
「邪魔をしないで。」
「エレノア……」
『………2人にしてくれるか?』
見かねたのか、フィストーはレイアにそう頼む。
レイアが離れていき、私はフィストーと2人になった。
『ネル、なぜだ?』
何度目か分からない、暗黒面を選んだ理由を問われる。
「答えは、ずっと変わらない。」
『………』
「なら私も聞くけど、私がナイトになってから10年、模範的なジェダイを演じていたのにどうして認めてくれなかったの?」
私の詰問に、フィストーは無言のままだった。
あの10年間、誰も疑うことなく、寧ろ良きジェダイだとみんなが信じた。アナキンやオビ=ワン、パドメさえ信じた。ジェダイ評議会の心配さえ、時間をかけて払拭できた。
それなのにフィストーは、疑うことはなくても認めてくれることはなかった。
『良きジェダイとは、他者の為にどれ程行動できるかで変わる。お前が演じてきたジェダイの姿は、確かに模範的なジェダイだ。だがお前がしてきたのは、全て己の為だ。』
「どうして私自身の為だと思うの?」
『では、お前は一度でも仲間を信じたか?』
言っている意味が理解できない。誰もが私を信用していたのに、何が必要なのか分からない。模範的なジェダイだったのに。
「仲間?」
『信頼と信用の違いはよく分かるだろう。一方通行の信用しかないお前は、ただのジェダイだ。良きジェダイではない。誰か1人でも、信頼できる仲間がいたらと願ったが、結局お前は全てを捨てた。』
「それは………」
『私は認めたかったが、お前は心を閉ざした。マスターである私に心を開かず、拒絶するお前に、歩み寄ることは不可能だった。』
心苦しかったと、フィストーは言う。
どの口が……
私がシディアス卿の弟子になった時から、全てが始まったんだ。私が暗黒面に踏み込んだことすら気付けなかったのに、弟子の息苦しさにも気付けないフィストーは何も分かっていない。
「あんたの言い分は分かった。私とあんたには、最初から信頼なんてなかった。それだけ。」
『ネル……』
「ただ、努力してきたということは分かる。それでも、あんたと師弟の関係に戻る気はない。」
そう言うと、フィストーは悲しげな表情をする。いつもの余裕さもない。結局、フィストーは他のジェダイと同じなんだ。
「今更私に向き合っても遅すぎるんだよ。」
『ああ、分かっている。だから、師として最後の責任を果たしに来たんだ。』
「責任?あんたに責任はないけど。」
皮肉ったらしく言えば、奴はいつものように笑みを浮かべる。それから、フィストーは私に手を差し出す。私がその手に触れると、フィストーの霊体は霧散して消えた。
フィストーの役割は分かった。
あとは、私が行動するだけだ。
「エレノア……?」
戻ってきたレイアが、私の様子を窺う。
振り返って笑みを見せると、彼女は驚いていた。
「どうしたの?」
「罪を清算する時が来た。」
レイアに背を向け、私はレジスタンス基地から離れる。
誰にも構うことなく歩き続け、エイジャン・クロスのフォースと繋がった。
エイジャン・クロスは、無数の生命がフォースを通じて共鳴している。かつてルークがこの地でレイアに訓練したのも、その為だった。この星は、フォース感応者にとって居心地が良い星だ。
更に、私はグレート・ツリーの葉を飲み込んでいる。この葉のお陰で、エイジャン・クロスのフォースと融け合うことが可能になる。
私はエイジャン・クロスのフォースと共鳴し合い、立ち止まらず歩き続けた。
そして、私は前触れもなく、文字通り姿を消した。