目を覚まして2日後。
アナキンが客室をノックする。
「ネル、頼みがあるんだ。」
「断る。」
「ネル!!」
「頼みを聞く義理はない。」
酒瓶を傾け、グラスにワインを注ぐ。
ワイングラスなんか使わず、大きめのグラスに注いだ。赤ワインを飲み干した後、今度は少し強いアルコールを手に取ってラッパ飲みする。アルコールで一気に酔いが回り、両手で目元を覆ってテーブルに突っ伏す。
現実から目を逸らしたくて、お酒がやめられない。
「ほんっとにうるさい………」
ソファーでうつ伏せになり、枕の下に頭を埋める。
ヨーダに折檻の痕を見られた。知られたくなかった。ヨーダが知ったということは、評議会にも伝わって、パドメにも知られることになる。
本当はパドメすら拒みたいのに。
「ネル………ごめん。」
「………何が?」
扉越しに聴こえる謝罪に、小さく返す。
「君の苦しみに気付けなかった。」
「苦しんでない。」
「だったら、どうして酒に逃げる?」
「逃げてない!」
「じゃあ、ここを開けてくれ。」
ボトルをソファーに置き、ブランケットを羽織って立ち上がる。
ロックを解除してドアを開けると、アナキンは泣きそうな顔をしていた。
「頼みって何?」
「パドメを助けてくれ。」
「なんで?」
「君はパドメの親友だろ。」
「違う、そうじゃない。“なんで?”」
「………悪夢を見たんだ。」
それは、フォースによる夢だ。
アナキンのフォースは強い。故に、予知夢を見ても不思議じゃない。彼が予知夢を見たのは、以前にもあったことだ。
熟練のジェダイは、予知夢を見ることがある。良い未来も、悪い未来も。今回アナキンが見た夢は、フォースによって見せられた悪い未来だ。
ただ、暗黒面のフォースに影響されている。
悪く言えば、“あいつ”の意識を感じる。
「どんな夢?」
「パドメが………出産で死ぬんだ。マスター・ヨーダには、死を受け入れろと言われた。僕にはそんなことできない。」
元友達の言葉に、私は溜め息を吐く。
相談する相手を間違えている。アナキンにとって私は倒すべき敵で、味方じゃない。私はシスで、誰かを助ける良心など持ち合わせていない。
良心は役に立たないと学んだから、シスになったんだ。
私にパドメは助けられない。
「助けを求める相手が違う。」
「だが、君はシスの秘術を使う。本当は知っているはずだ。」
「スカイウォーカー、私は良い人間じゃない。パドメと契約してるからここにいるだけで、もう友情はない。私に良心は残っていないから。」
そう言うと、アナキンは否定する。
「いいや、君に良心はある。」
「………」
「君に良心がないなら、なぜドゥークー伯爵を助けた?」
「あいつは利用するだけ。良心で助けたわけじゃない。」
ソファーに引き返してボトルを取り、残っていた酒を飲む。
酒を飲んでいる途中、アナキンにボトルを奪われ、私は思わず睨み上げた。
「返して。」
「どうして酒に逃げる?」
「あんたには関係ない。」
「………死に急ぐ友人を、放っておけるわけないだろ…」
ボトルを奪い返し、壁に叩き付ける。
溜まりに溜まった感情が爆発して、声を張り上げる。
「私に残された時間は少ないの!どうしようもないのは、あんただけじゃないんだよ!私だって何とかできるなら解決したいよ!」
「足掻こうとしていないだけだ!君は苦しみを乗り越えてきたんだ!ネルが簡単に諦めるはずがないだろ!」
「あぁ、エピから折檻のことを聞いたんだけっけ?それなら分かるでしょ?私がどれだけの苦痛を抱えているか。」
私はシスの修行で、折檻された。10年だ。それが私をシスとして強くした。
「出て行って。私を理解しないあんたに、心配なんかされたくない。」
「ネル、お願いだ!」
「やめて。」
アナキンの胸倉を掴み、部屋の外に押し出す。
ドアを閉めた後も、アナキンは私を呼び続けた。
「ネル!!」
「これだけは言っておく。パドメは出産では死なない。あんたの恐怖がそう見せただけ。」
「怖いのは当然だろ!」
「本当にパドメの死が怖いの?」
「どういう意味だ!?」
「そのままの意味だよ。死因なんていくらでもある。ただ、パドメは弱くない。あんたもよく分かってるでしょ。」
コルサントに来る前、私もヴィジョンを見た。それがパドメの死だった。だけど私が見たヴィジョンでは、パドメの死因は出産じゃなかった。
その原因となったのは、パドメとアナキン、両方が同じ状況に為り得るものだった。
ジェダイが滅ぶのは変わらない。寧ろ滅んだ方がいい。ただ、未来は最悪なものになる。
それを防ぐには、アナキンとパドメを生き延びさせなきゃいけない。その為に、私ができることは1つだけ。ヨーダの予期通り、私が未来を変える特異点だ。
未来を変えるには、私が暗黒面に留まらなければならない。
私が今更ジェダイに戻ったところで、未来は良くならない。それなら良くも悪くも、可能性のある未来へと変えるしかない。
「パドメを助けたければ、“ジェダイのアナキン・スカイウォーカー”が戦うしかない。」
「何を知っているんだ!教えてくれ!」
「言動で未来は変わる。私は自分の未来を変える気はない。じゃあ、おやすみ。」
パドメに手配してもらった睡眠薬を飲み、さっきと同じように枕の下に頭を埋める。
外界の音を遮断するように、目を閉じた。
私が生きる理由はない。だから足掻こうとも思わない。恐らく、パドメの出産まで生きられない。
強い酒のせいで、死期は早まっている。
今思うのは、楽になりたいということだけだった。