目を覚ましたら、私は全く知らない場所にいた。
自分の名前も憶えてなくて、周りも知らない人ばかりだった。知らないというか、私が憶えていないだけだけど。周りは私のことを知っていて、なぜか怯えられていた。
私を心配していたフェラスという人は不在で、アナキンという人がずっと付き添っていた。彼の奥さんのパドメという方も、彼と一緒にいてくれた。
「ネルって愛称?」
「ああ。」
「じゃあ、私達は親しかったってこと?」
「そうよ。」
私の名前はエレノア・クラウドと言って、パドメとアナキンは私を愛称で呼ぶ。
2人とは親しかったのに、どうして何も思い出せないんだろう。
「早く思い出したいなぁ。」
「………焦ってはダメよ。」
なぜかは分からないけど、2人は思い出してほしくなさそうだ。
「私の記憶が戻ったら良くないの?」
「いいえ、そうじゃないの。ただ、ね………」
「思い出して辛くなるのは君だ。それなら思い出さなくてもいいんじゃないかと思うんだ。」
「あんた達、私の友達なんでしょ?私がこのままで良いと思ってるわけ?当人の私が取り戻したいって思ってるのに!」
アナキンを突き飛ばして、私は1人で歩き去る。
私は記憶を取り戻したい。友達かもしれない2人は思い出してほしくないだろうけど、自分だけ何も知らないのは嫌だ。何が何でも思い出したい。
「エレノア!」
反乱軍基地を出て行こうとすると、青年に引き止められる。
「なんで1人で動いているんだ!?」
「ほっといて。ここを出て行くだけ。」
「何も分かってないな!あんたは帝国を敵に回しているんだぞ!」
「だから何?こんなところにいるよりマシ。」
逃げようとすると、彼は腕を掴んでくる。
「離して。」
「ダメだ。」
「あんたも私が嫌いなんでしょ?ここにいる人達の視線で、私が嫌われていたことくらいは分かる。どれだけ残酷なのか知らないけど、私なんかに構わない方がいいよ。」
私は、酷い人間だったんだ。そんな人間に構うことはないのに。なんでこの青年は私を気にかけるんだろう。
「みんなは残酷な姿しか知らないけど、僕は違う。迷子になっていた僕を助けたお姉さんは、とても優しかった。」
「誰のこと?」
「あんただよ。僕はユグノ・ソール。母は分離主義派の議員だった。」
大昔に会ったらしいけど、私は全く憶えていない。
彼は優しい面もあると言うけど、私自身は信じられなかった。
ユグノに連れられ、私はアナキン達の下へ戻された。パドメがすごく心配していて、憶えていないのに申し訳なかった。心配するパドメとアナキンを見ても、何も思い出せないのが辛い。
「スカイウォーカー将軍、提案があります。」
「言ってみろ。」
ユグノの申し出に、アナキンは真剣に提案を聞く。
私は離れた場所で、パドメと話をしていた。
「ねぇネル…私ね、もう貴女が無茶しないと思って安心しているの。」
「それはパドメやアナキンの為でしょう?」
「ええ。でも、無茶と勇気は違うわ。貴女は自分のことは二の次だったのよ。」
「だけど、記憶は取り戻したい。」
「決意は固いのね……」
パドメはそう言うと、私を抱き締める。
記憶がない今、この抱擁も何も感じない。記憶があれば、この抱擁も意味あるものになるはずだ。私は、自分らしさを取り戻したい。
「ネル」
「何?」
「さっきはすまなかった。だが君の為に、良かれと思って言ったんだ。」
「分かってる。でも、決められるのは私だけでしょ?」
「ああ。だから、記憶を取り戻す為に手を貸す。ユグノの提案だ。」
彼の提案はこうだ。
フォース感応者は危険が迫ると、無意識にフォースを使う。それを利用して、私のフォース感応力と記憶を呼び起こそうという魂胆だ。上手くいけば、私は記憶を取り戻せる。
理には適ってる。
だけど、簡単なことじゃない。
「やるか?」
「やる。」
「分かった。パドメ、亡霊の船を貸してくれ。」
「ええ。」
私はアナキンと2人で、ヤヴィン4を発った。
彼の話では、ヤヴィン4にある基地には危険な力が眠っているらしい。その力が私に悪影響を与えたら困ると、私達は反乱軍と離れることになった。
私のものだというライトセーバーを持って、私はヤヴィン4を離れた。
ハイパースペースに入った後、私はコックピットから見える青い景色を呆然と眺める。
「どうしたんだ?」
「なんか既視感がある。」
「何か思い出したか?」
「この景色、見たことがある。」
「それは思い出したとは言えないぞ。」
「だよねー」
ハイパースペースはあっという間で、私達は何もない座標で停まった。
「どうやるの?」
「瞑想から入る。」
アナキンが精神探査で私の知られたくない記憶を探し、私が自己防衛で記憶を取り戻すというものだ。
アナキンが私の手を取り、私達は目を閉じる。
「心を無にするんだ。」
「心を無に……」
指示通りに目を閉じ、心を空っぽにする。聴こえてくるのは、船のエンジンの音だけ。更に、エンジン音さえ遮断した。
どれだけ時間が経ったか分からない。
私は名前を呼ばれた気がして、ゆっくり目を開ける。
今いる場所は船ではなく、どこかの古い屋敷だった。
現実ではないことは確かだ。
『ネル』
今度はしっかり聴こえて、声の方に目を向ける。
すると、目の前には私そっくりな女性がいた。いや、私そっくりじゃなくて私だ。もう1人の私は私とは似ても似つかず、少し怖かった。
『あんた誰?』
『私はエレノア・クラウド。座りなさい。』
私は言われるがまま、いつの間にかあった椅子に座る。
『ここで会うのは2回目になる。』
『2回目?私は知らないよ。』
『記憶がないから当然だね。』
『アナキンは?』
『アニーは退場してもらったよ。ここは私だけの世界。』
アナキンが弾かれて、私は1人だ。
私1人で、この状況を切り抜けなければならない。
『記憶を戻してあげてもいいけど、愛情を否定しないと約束して。』
『何のこと?私は否定してない。』
『あんたは、本当の愛情を知って否定したの。それから訂正するけど、記憶を消したのはあんた自身。』
『私が?どうして?』
『フェラス・オリンへの愛情を信じたくなくて、あんたは自ら封印した。愛情を自覚したあんたは、マラコアの超兵器の力を使った。記憶を消す為にね。』
唖然とするしかなかった。私は自分で記憶を消したんだ。自ら望んだから、思い出せないんだ。
でも、今は思い出したい。
『どうすればいいの……?』
『目覚めるだけ。』
『………それだけ?』
『そう。もし私との約束を破れば、あんたに未来はない。フェラスも死ぬ。』
逆に考えれば、記憶を取り戻さないとフェラスが死ぬということだ。
あんなに優しい人を死なせたくない。
『そんなの嫌だ……』
『だったら、愛情を受け入れて。アナキンのように。』
『………分かった。』
段々と景色が薄れ始めて、私は現実に戻ろうとしている。
『あ、覚悟を決めたあんたにプレゼントを贈るよ。』
『プレゼント?』
『戻ってからのお楽しみ。』
『待って、あんた本当に私なの?』
『そうだよ。記憶が戻れば理解できる。』
気が付くと、私は船にいた。アナキンは、黙って私を待っていたみたいだった。現実に戻ってきた私は、ちゃんと記憶が戻っていた。
何もかも憶えている。
マラコアで自分がした最低なことも、全部憶えている。
私は目を開け、無言で立ち上がる。
「ネル!」
コックピットの窓から見える宇宙空間を見つめて、今の状況を整理する。
「僕が分かるか?」
「………憶えてる。」
「良かった……」
「良くない!!」
心配そうに見るアナキンを突き飛ばし、声を張り上げた。
「私は自分で記憶を消したの!」
「取り戻したいと言ったのは君だ!」
「そうだよ…それも憶えてるよ……」
そう言ってコックピットの副操縦席に座ると、アナキンが隣に座ってくる。
「どうしたんだ?」
「………フェラスとキスした。」
「ただのキスだろ?」
「向こうがキスしてきたから、私もキスしたの。確かめてみたんだよ。自覚がなかったのは私だけみたい………」
マラコアでキスした時、自分の気持ちを自覚した。気持ちが変化したのがいつかは分からないけど、この愛情は本物だ。私が記憶を失っている時のフェラスを思い出して、私もフェラスに対して愛情を抱いていると気付いた。
長い息を吐き、私は両手で顔を覆う。
「あれだけ欲しがってた愛が、フェラスから向けられるとは思わなかった……」
「珍しいパターンではあるな。」
「珍しいどころか、あり得ない。」
アナキンが抱き締めてきて、私は彼の肩に顔を突っ伏す。
「君が変わったからだ。何が大切か分かったから、愛情を覚えたんだ。」
「アニー、ありがとう。」
「帰ろう。パドメも待っている。」
「パドメに謝らなきゃ……」
アナキンは私を抱えたまま、レバーを押す。ハイパードライブが起動した音が聴こえて、船は光速空間に入った。私は微塵も動けず、顔を上げられなかった。
もう1人の私が言ったことが、やっと理解できた。
これから何をすべきなのか、すぐに分かった。もう1人の私がくれたのは、細やかな記憶だった。その記憶のお陰で、私とフェラスは前に進める。
私を連れ戻してくれたアナキンには、感謝しかない。
反乱者たち編は次が最後です(予定)