妊娠が分かってから、つわりという吐き気と、だるさが酷くなった。
病室の寝台に横になり、私は身を丸める。
「マジで吐きそう……」
ここで吐いたところで、困るのは帝国軍の清掃員だけだ。
それ以外は何も考えられない。
「気持ち悪い……」
寝台で、私は呻き続ける。
妊娠による吐き気はどうにもならない。眠気がなくなったのはいいけど、吐き気が強くなってしまった。産むかどうかも決めかねているのに、薬なんか飲めない。
これ以上無責任なことはしたくない。
その時、医療ベイのドアが開いた。
「………なぜ逃げない?」
「逃げられたらとっくに逃げてる。」
「オビ=ワンが聞いたら卒倒するぞ。」
「うるさいよ、アニー。」
アナキンが医療ベイに入ってきて、私を閉じ込める病室のロックを解く。
ふらつきながら出てくる私に、どうかしたのかと聞かれた。
「何もない。」
「いつものネルじゃない。何があった?」
「………」
「ネル」
「分かった、言うよ。妊娠してる。」
そう話したものの、アナキンは驚かなかった。
「一つ屋根の下で男と女がいれば、自然と妊娠するだろ。」
「あんた達のこと?」
「君達のことだ。とりあえず脱出しよう。」
アナキンと医療ベイを出て、静かに移動する。
移動しながら、私達は話を続けた。
「レイアは救出した。フェラスは、」
「無事だよね!?」
「無事だ。安心しろ。」
「良かった……」
安堵していると、そのフェラスから連絡が入った。
『エレノアは無事か!?』
「大丈夫だ。同じことを言っているじゃないか。」
『心配するのは普通だろ。』
「まぁ、そうだな。フェラス、エレノアが、」
「待って!!」
慌ててコム・リンクを切らせて、アナキンを止めた。
恐らく妊娠のことを言おうとしていたはずだ。だけど、私の心の準備ができていない。子供ができたことだって戸惑っているのに、心の整理なんてできるわけない。
「フェラスには妊娠のことを言わないで。」
「じゃあいつ言うんだ?」
「えーっと……」
「お腹が膨らめば分かるんだ。それに、子供の為に今話すべきだ。流れたらどうする?」
「けど、」
「決心が付かないのは分かる。だが、妊娠は喜ぶべきものだ。フェラスも祝福してくれるはずだ。」
そう言って、アナキンはまたフェラスと連絡を取る。互いの状況を把握して、私達はファルコンへ向かった。胎児がいるから走れず、アナキンは私に合わせて早歩きにしてくれた。
時々現れるトルーパーはアナキンが倒して、私は大人しく影に隠れながら彼の後を追う。
妊娠故に何もできず、もどかしかった。
「エレノア!」
合流したルーク達の中にフェラスがいて、私は彼に抱き締められた。
「ちょ……離れてよ!」
「おい!少しは自分の身体を労われ!」
「っ……」
殴ろうとした私の手を掴み、フェラスは優しく拳を開かせる。
フェラスが離れた後、レイアがわざわざお礼を言ってきた。
「協力していただきありがとうございます。」
「今は喋っている暇はない。早くファルコンへ。あれ?ソロ船長は?」
「彼はトルーパーの気を引いているわ。」
「へぇ。なかなか根性あるね。」
「トルーパーが来たぞ!」
ルークの声に、私達は一斉に走り出す。
3手に分散し、私はフェラスと2人で基地内を逃げる。私は全力で走れず、フォースも使えない。トルーパーが迫ってきて、フォース・ドレインを使いそうになる。
そんな焦りを察したフェラスは、私を抱えて全力で走り出した。
「フェラス!そこ右!」
「左だろ!?」
「右だよ!信じて!」
曲がった先は、橋がない行き止まりだった。フェラスは咄嗟にフォース・ジャンプして、トルーパーを振り切る。反対側に着地すると、怪訝な顔を向けられた。
「なぜ分かった?」
「設計図は私も見てるから。大まかな通路は覚えてる。」
「20年も前の話だろ。」
「でも覚えてる。早く行こう。」
ハンガーを見下ろせる通路に差し掛かり、フェラスはファルコンを疑いの目で見る。
「あのポンコツか?」
「ポンコツはポンコツでも、有能なポンコツだよ。」
「おい!ポンコツを連呼するんじゃねぇ!」
「あらおかえり、ソロ船長。」
全員集まり、私達はハンガーへと下りる。
ただ、1人だけいなかった。オビ=ワンが、トラクター・ビームのブレーカーを落としに行ったという。逃げてもまた捕まったら意味がない。
私達がハンガーへ下りると、反対側の出入り口で火花が散っていた。
戦っているのは青いライトセーバーを持ったオビ=ワンと、赤いライトセーバーを持ったジェレクだ。
“ダース・ヴェイダー”を騙るジェレクに、オビ=ワンは勝てない。
老いのせいでフォースも衰え、力も弱くなっている。
「オビ=ワン!!」
撤退してほしいという視線に気付いているくせに、オビ=ワンは無視した。
アナキン達もオビ=ワンに気付き、トルーパーも私達にブラスターで撃ってくる。
「アナキン!よせ!」
「どうして止める!?」
「マスター・ケノービは時間を稼いでいるんだ!早く来い!」
アナキンは拳を握り締め、ファルコンに乗り込む。
フェラスも私を抱えたまま船に乗り込み、ルーク達もハッチを駆け上がってくる。
オビ=ワンが残ったのは、私とアナキンに対する贖罪のつもりだ。そんなことする必要なんてないのに。負い目を感じているのはオビ=ワンだけだ。
みんながみんな、必要なことをしてきただけ。
その数分後、オビ=ワンがフォースと一体化したのを感じた。
ただでさえ吐き気がするのに、本当に吐きそうになる。親しくなかったと言えば嘘になる。迷惑をかけまくった上に、最後の最後で助けられてしまった。誰かが死んで、初めて本当の喪失感を知った気がする。
休憩室のベンチの隣で、アナキンが頭を抱える。
「僕はただ、オビ=ワンが変わってくれれば良かったんだ……」
「オビ=ワンは変わったから残ったの。あんたのせいで死んだんじゃない。アナキンは何もしてない。」
オビ=ワンはアナキンのマスターだ。酷い喪失感が襲っているだろう。私がフィストーを失った時とは大違いだ。
これでまた、貴重なジェダイが1人死んだ。
もう二度と、選択を間違えたりしない。