思いやりの形
ヤヴィンの戦いから3年後。
反乱軍は、惑星ホスのエコー基地にいた。ホスには知覚種族はいなくて、隠れるには良い星だった。帝国軍は反乱軍を血眼で探している。
デス・スターを破壊したことで、全力で潰しに来ているんだ。
「ママ!」
ルークと組手をした後、ステファニーがベイに駆け込んでくる。
その後ろから、パドメが娘を追いかけてきた。
「ステフ!ママの邪魔しちゃダメよ!」
「終わったから大丈夫だよ。おいで、ステフ。」
嬉しそうな顔をしたステファニーが、私の腕の中に飛び込んでくる。
「エレノア、僕は先に戻るよ。」
「分かった。」
「にぃに、きたない!」
そんな言葉、どこで覚えてくるのやら。
私の相手をしたルークはボロボロで、組手の激しさを物語っていた。
「ステフ、僕は大丈夫だよ。」
「うん!」
「ステフー、お部屋行こうねー。」
「やだぁ!にぃにあそぶ!」
ステファニーは、なぜかルークに懐いている。私とフェラスは当然の如く、次にルークに懐き、その次にパドメに懐いていた。アナキンは嫌われていないけど、苦手みたいだった。
そして一番懐かず、嫌われているのが……
「ステフ、ママを困らせんなよ。」
「イヤっ!ハンきらい!」
こっちが申し訳なくなるくらい、ハンが嫌われていた。
「おいエレノア、なんで俺が嫌われる?」
「知らない。何かしたんじゃないの?」
嫌われていると言っても、最近の話だ。ある日突然、なぜかハンに冷たくなり、無視もするようになった。ステファニーは理由もなく誰かを嫌うことはない。だとすれば、ハンが何かをすることくらいしか思い付かない。
「何もしてねぇぞ!」
「ふぅん?じゃあステファニーに聞いてみようか?」
「ああ、聞いてみろよ!本当だからな!」
ハンがあまりにも否定するから、ステファニーの視線に合わせて理由を聞いてみる。
「ステフ、ハンに嫌なことされた?」
「ううん、ちがう。」
「じゃあどうして?」
「………ハン…バイバイ……」
「え?」
「ハン、バイバイ……うえええぇぇんっ……!」
涙を零しながら言っていたステファニーは、言い終わると大泣きしてしまった。私の首にしがみつき、泣く理由が分かって娘の背中を摩ってあげた。
結局のところ、ハンが悪い。
後ろめたさなんて、感じなくていい。
ハンが出て行くことを知らないのは、“私とステフ”の2人だけ。パドメやルーク達は知っているみたいだった。
「ハン……」
「もう決めたことだ。」
「エレノア、」
「ルーク、しばらくは訓練は無しだから。」
「ネル!」
「アニー、私が怒る理由は分かるよね。」
私は泣きじゃくるステファニーを抱いて、ベイを出て行く。
アナキンはまだ良い。パドメも悪くない。でも、戦いから逃げようとしたハンは許せない。
オマケに、ハンは娘を泣かせた。
私はジェダイじゃないから、許せない。
「ママ……?」
「っ……」
「いたいいたい?」
「どこも痛くないよ。ごめんね、ステフ。」
娘の前で、嫌な顔をしてしまった。
出て行くなら、最初から出て行けば良かったんだ。そうすればステファニーも悲しまないし、私だって別れが惜しくならなかった。半端な気持ちで残ったハンが全部悪い。
「ママ、いいこ。」
涙と鼻水垂らしながらも、ステファニーは頬を触ってくる。
部屋に戻り、私は娘をベッドに寝かせる。
ハンがいなくなると分かって寂しかったのか、ステファニーは私の服を握ったままだった。泣き疲れてうとうとしながらも、娘は私が傍にいることを確認してくる。離れることはせず、私もステファニーの隣で横になった。
ステファニーを抱き締めながら、髪を撫でて寝かしつける。
「ママ…」
「どうしたの?」
「ハン、きらい……」
ステファニーはそう言って、眠ってしまった。眠っても服は離さず、規則正しい寝息が聴こえてくる。動けないから、私は娘と一緒に毛布を被った。
寝ているステファニーを見ていると、フェラスが静かに部屋へ入ってきた。
「出て行って。」
「黙っていて悪かった。お前とステフが悲しむと思ったんだ。」
「言わなきゃ悲しまないとでも?」
「いや、違うな……」
分かっているくせに、フェラスは認めようとしない。
だけど、それは私も同じだ。
「言わなかった理由、分かるよ。」
「エレノア、」
「ルークと戦っている時、何度も暗黒面に呑まれそうになった。最近、“主”の気配を感じる……」
すぐ隣にシディアス卿がいるような、そんな感覚になる。暗黒面で、何でもできるような気がしてくるんだ。暗黒卿の時だって、呑まれたことはないのに。
娘の為に、呑まれたくない。
「お前なら大丈夫だ。」
「そうとも言い切れない。」
「やめろ。」
「シスの師弟には、歪な絆がある。簡単には切れない。」
家族を失いたくない。私が呑まれたら、またフェラスを傷付ける。あの頃の私には戻りたくない。
「シスをやめたとしても、絆が切れるわけじゃない。」
「エレノアらしくないぞ。」
「分かってる。フェラス、私を信じて………」
ステファニーを追うように、私も眠りに落ちる。
夢の為なら、私は何でもする。フェラスとステファニーを守って、パドメとアナキンも守る。手を汚すのは、私だけでいい。
“主”の声が、とてつもなくうるさい。
もう戻りたくない。
────────
静かに退室したフェラスは、部屋の外で待っていたアナキンから目を逸らす。
「ルークはパトロールへ向かった。」
「そうか……」
「フェラス、自分を責めるな。ネルに言わなかったのは、様子がおかしいからだ。パドメと3人で話し合っただろ。」
エレノアに話されなかったのは、パドメとアナキン、フェラスの3人で決められたことだったからだ。パドメがエレノアの異変に気付き、話すべきじゃないと判断を下したのだ。
だが、結果は変わることはなかった。
「それが間違いだったんだ。エレノアに話すべきだった。あいつは、ステフを守ることに必死だ。追い詰めることになるだけだ。」
「ネルは心配ない。問題はお前だ。」
「俺……?」
「僕はヴィジョンを視た。“ダース・ルシル”の声を聴いたんだ。その足元には、お前が倒れていた。」
アナキンが視たのは、凄まじい憎悪を放つダース・ルシルと、“殺された”フェラスだった。倒れたフェラスの脇には、ステファニーが泣きながら父親を揺すっていた。
その光景に、アナキンは心臓を掴まれたような感覚に陥っていた。
「俺がエレノアに殺されると…?」
「僕が視たのは一瞬の光景だ。全て分かったわけじゃない。だが、選択を違えるのは分かる。ネルとステフの為に選択するんだ。」
「ああ。」
アナキンはフェラスの肩を叩き、反乱司令部へと戻っていく。フェラスは力無く歩き、親友に言われたヴィジョンに頭を抱える。
脅威は、誰も知らないところで蠢いていた。
誰もが、重要な選択を迫られている。