いつの間にか私だけが爆睡していたようで、ステファニーが起こしに来た。
「ママ!」
「ステフ……?」
「ママ、おっき!」
起き上がってステファニーを抱き、どうしたのかと優しく問う。
「にぃに、ないない!」
「ルーク、いないの?」
「にぃに……」
ステファニーを抱っこしたまま司令部に行くと、パドメが駆け寄ってくる。
「ネル!」
「何かあった?」
「ルークがパトロールから戻らないのよ…」
外で何かあったらしい。レイアもルークを心配していた。さすがにハンもこの状況で発てないようで、チューイと基地に残っていた。
「フェラス、ステフをお願い。探しに行ってくる。」
「ダメよ!探しに行くなら私よ!」
「やめろ。」
私とパドメが揉めていると、ハンが声を上げた。去るはずだったハンは、防寒着を着てゴーグルを装着する。
この吹雪の中へ向かおうとしていて、私は思わず止めた。
「やめて。」
「ルークが心配なんだろ?あんたはステフといろ。俺が探しに行く。」
ハンの言葉に腹が立ち、私はステフをフェラスに渡す。彼の胸倉を掴んで、思いっきり突き飛ばしてやった。突然のことに、パドメとアナキンが慌てて私とハンの間に入る。
「やめなさいネル!」
「落ち着け!」
「落ち着いてるよ。ハン、ルークと生きて戻らなかったら恨むからね。」
ステファニーを抱き直して、私は自室へと戻る。
ルークを助けに行ったからと言って、私とステファニーに黙っていたことはチャラにはならない。いや、許しはしない。私もハンが嫌いだ。
その時、胸に激痛が走った。
「っ!?」
心臓を刺すような痛みに、私は思わず座り込む。
ステファニーを下ろした後、服の胸元を掴んで蹲った。暗黒面のフォースと繋がった影響が出ている。ルークとの訓練の最中も、違和感はあった。私の改良したシスの秘術じゃ、抑えが効かなくなっている。
娘の為にも、どうにかしなきゃ……
「ママっ」
目に涙を溜める娘に、大丈夫だと言い聞かせる。それはステファニーだけでなく、自分にも言い聞かせていた。そうでもしないと、痛みでどうにかなりそうだった。
「大丈夫だよ、大丈夫……」
ステファニーと一緒にベッドへ横になると、私は意識を失った。
気が付くと、私はどこかの基地にいた。
これは夢だ。
私は破壊したはずのデス・スターにいて、右手に持っているライトセーバーの刃は赤く、左手に持つナイフは血が滴っていた。足元では、娘であるステファニーが座り込んで泣いている。正面にはフェラスが立っていて、とても苦しそうな表情をしていた。
フェラスもステファニーも無傷で安心していると、フェラスの視線が私の腹部に注がれる。
『ママぁっ!!』
ステファニーの刺さるような悲鳴に、ナイフの血は自分のものだと理解した。
私が見下ろした腹部には刺し傷があって、血が流れ落ちている。このナイフは自分の腹に刺さったのかと思うと、夢なのに痛みが私を襲った。痛みに倒れると、ステファニーが動けない私を揺する。
『ママ!ママっ!!』
次第に意識が遠退き、私の手からナイフが転がり落ちる。
『────────』
フェラスでもステファニーでもない声を耳が捉えたけど、聞き取れなかった。
「エレノア!!」
はっきり聴こえた声に、私はベッドから飛び起きる。背中は汗でびしょ濡れで、額からも汗が流れていた。ホスにいるのに、異常なくらい汗をかいている。
起こしに来たフェラスは、心配そうに私を見る。
「大丈夫か?」
「何でもない………ただの夢。」
「ただの夢?そんなに汗をかく程だって言うのに、ただの夢なのか?俺が信じると思うか?」
「よくある悪夢だよ。それで、何の用?」
濡れた服を着替えながら、フェラスに問う。
「ステフが泣きながら来たんだ。お前が起きないってな。それと、ルークとハンが戻ってきた。」
「すぐ行く。」
「エレノア」
ジャケットを着ていると、フェラスに名前を呼ばれる。その声は不安を帯びていて、縋るような目を向けられた。私は堪えきれず目を逸らし、バックルを締める。
「エレノア、最近のお前はおかしい。」
「おかしい?何が?」
「ルークと戦っている時、お前は暗黒面に足を浸けるどころか、沈んでいくようだった。なぜだ?」
そんなこと言われても、私は暗黒面のフォースを使い熟せている。呑まれるなんてあり得ない。ただ、皇帝が怖いだけだ。
ダース・シディアスが怖ろしい。
「理由なんてないよ。私は大丈夫。」
心配をさせないように、何でもないとはっきり断言した。
「ママ……?」
ドアの影から、ステファニーが顔を覗かせてきていた。
娘を呼ぶと、中に入ってきて私に駆け寄ってくる。
「にぃにいる!」
「一緒に行こうか。」
ステファニーを抱いて、私はルークのいる病室へ向かう。その後ろからは、フェラスが私を追って付いてくる。
「ママ、ちゅめたい!」
冷たい、と言いたいんだろう。
ステファニーは私の頬を触ると、そう声を上げた。
「ステフ、新しい言葉覚えたんだね。“冷たい”だよ。」
「ちゅめたい!」
「まぁいいや。ほら、にぃにだよ。」
「にぃに!!」
ステファニーがルークに抱き付くが、フェラスが慌てて離す。
「怪我してるんだ。まだ抱き着くな。」
「あい。」
とても真剣そうな顔でフェラスが諭すと、ステファニーは大人しく頷く。
控えめに言っても、賢い子だ。
「エレノア、心配かけてごめん。」
「私は良いよ。ゆっくり休んで。」
私はステファニーを連れて、パドメとアナキン、フェラスと一緒に部屋を出て行く。
ルークの件は解決したけど、保留されていた問題が戻ってきた。通路を歩きながら、私は思わずそれを口にしてしまう。
「結局、ハンは出て行くんだね。」
「ハンきらい!」
私の気持ちを代弁するように、ステファニーがそう言った。
「ステフ、可愛いけどほっぺ膨らますのはやめような?」
「………」
「どうした?」
「おぢたん、おたんこなす!」
ステフの言葉に、私とパドメが吹き出す。
誰だよ、オタンコナスなんて言葉を教えたのは!
「スっ…ステフ、アナキンが可哀想だからやめよう?」
「ネル、怒るぞ。」
「………ごめん。………ぶふっ!」
「ネル!!!」
5人で笑った後、ステファニーは悲しそうな顔をする。
私達大人は割り切るというスキルがあるけど、子供はそうもいかない。正直、私もハンを許せない。私も大人気ないけど、娘に激しく同意だ。
「ハン……」
「ステフ、ハンがバイバイするのは仕方ないの。バイバイするかしないかは、ハンが決めることなの。ママやパパが言っても変わらない。」
ステファニーは目を潤ませて頷く。
本当に強い子だ。私とフェラスの子供とは思えないくらい強い。こんなに強い子だけど、この子には幸せでいてほしい。
フェラスはもちろん、ステファニーのことも愛しているのだから。
幸せを願うけど、あの悪夢が頭から離れない。
何も悪いことは起きませんように。