「あれ、なんか違和感が・・・」
「どうした美智留?」
「あっ、トモ。今なんか違和感がなかった?」
「違和感?」
「気のせいかな・・・」
「大丈夫か。今日はもう寝ろよ、焦ることもないだろ?」
「うーん。そうだねぇ・・・ちょっと無理しすぎたかもしれない」
美智留は不思議な感覚を抱いた。それは別の世界に片足をつっこんでしまったかのような違和感。自分が少し自分でなくなるような感覚。
「まぁ、あたしとトモは一緒に18歳になるわけだし、その時でもいいかー」
「一緒?」
「一緒でしょ。同じ誕生日なんだから」
「お前なにいってんだ?」
「トモこそなにいってんのよ。同じでしょ」
「いや、俺は12月生まれだけど、お前11月生まれだろ」
「はっ?」
「美智留が一カ月早く生まれただけで、お姉さんづらをずっとしてきただろ」
「いや、トモちょっと待って。あたしが11月生まれだって?」
「お前、自分の誕生日忘れるなよ・・・」
「そんなバカな。あたしはトモと同じ誕生日・・・」
「・・・」
美智留は慌てて部屋に戻り荷物を調べる。生徒手帳が鞄に入っているはずだ。それを調べれば誕生日が記載されている。・・・そしてそこには見慣れない誕生日が書かれていた。
「・・・」
また階段を下りて、リビングでぼんやりしている倫也に質問をする。
「どうしてあたしの誕生日が変わっているの?」
「俺はお前が何を言っているのかがわからないよ・・・」
美智留が頭を抱える。それから、恐る恐る倫也に確認をしていく。
「あたし、トモの従姉妹で、トモとは小さい時から一緒によく遊んだよね?」
「ああ、それがどうした?なんだ突然・・・」
「じゃあ、子供の頃は一緒にお風呂に入ったよね?」
「覚えてる限りではないなぁ・・・美智留はいつも叔父さんとはいってただろ」
「・・・」
美智留もなんだかそんな気がしてきた。倫也と風呂にはいったというような気がしていただけかもしれない。本当はそこまで仲良くなかった?
「じゃあさ、あたしが裏山ではぐれて迷子になった時にトモが助けにきてくれたこと覚えてる?
「・・・ああ、あの事か・・・」
美智留が倫也を好きな理由の一つは、子供頃に山で迷子になったときに、トモが助けにきてくれて、足を挫いた自分を背負って山を下りてくれたからだった。オタクで弱々しいいまの倫也と違って、かっこいい倫也のイメージがそこにはあった。
「俺は助けにいってないぞ。美智留とはぐれてから慌てて山を下りて助けを呼びにいったんだよ」
「・・・うそ」
「それですぐに親が地元の猟友会とも連絡をとって、みんなで捜索に行ったんだよ。俺は現地まで大人といってから、もう暗くなりそうだし、二次遭難になっても困るからって、その後は家で待っていたよ」
「あたしは不安を抱えながら1人ぼっちだったのを覚えている」
「幸いすぐに見つかったんだよ。猟友会の人が連れてきた猟犬が見つけたみたい。ただそこで問題が起きたようで・・・」
「問題って?」
「詳しくはわからないけれど、その犬が美智留を噛んだらしいんだよ」
「覚えてないなぁ・・・」
「とにかく発見された時は足から血がでていて、大泣きしていたらしい。すぐに病院に運び込まれたから、俺は美智留にはその時は会ってないよ」
「そんな事件があったのに、なんであたしは憶えてないんだろう?」
「ショックが大きすぎたんじゃないか?本当のトラウマは思い出せるようなものじゃないらしいし」
「・・・」
「俺はむしろその後のことをはっきり覚えていて、やっぱりいい思い出とはいいがたいな」
「まだ何かあったの?」
「猟犬が噛んだってことが大問題で、すごく口論が起きてた。本当に襲ったなら美智留みたいな幼い子がただですむわけがないから、別な獣におそわれたのでは?って意見と、犬の口に血がついていたから、犬が襲ったのだろうって意見があって」
「あたしの情報は聞けなかったんだね」
「そうなんじゃないかな。かなり強い口論だったから、それどころじゃなかったのかもしれない」
「それで」
「その猟友会の人が庭先でその犬を射殺したよ」
「・・・なっ!」
「・・・ごめん。あまりいい話じゃないし、美智留が知る必要もなかったな」
「いや・・・そうじゃなくて・・・」
「今思えばさ、その猟犬が何かに襲われていた美智留を助けたのかもしれないって思う」
「ああ、なるほど・・・」
「いずれにせよ、そんな小さな田舎で、人を襲ったかもしれない猟犬は使えないし、処分はやむをえなかったのかもしれない。詳しいことはほんと、よくわからないんだよ」
「噛まれた記憶ないなぁ・・・」
「今でも古傷が足に残っているんじゃない?どっちかの足首のあたりだよ」
美智留がしゃがんで足首を調べる。あいかわらずバスタオル一枚の恰好なので、絶妙なアングルが倫也の視界にはいり、慌てて顔をそむける。
「・・・ほんとだ・・・薄くなっているけれど傷跡のようなものがあるね・・・」
「嫌な事件だよ」
「そうだね。ごめんトモ」
「今日はもう寝よう・・・」
その時、美智留のケータイが鳴った。
「はい」
「氷堂さん?私、霞ヶ丘詩羽だけど」
「ああ、センパイか、どうしたの?」
「もう十分だから、そろそろ降伏しちゃいなさい。これ以上は無駄よ」
「センパイは何か知っているの?」
「私は氷堂さんが倫理くんと同じ誕生日だったことも、倫理くんとの楽しい思い出のことも知っているわ。今はもうそうじゃなくなっているけれど」
「どういうこと?あたしは頭が悪くてよくわからないのだけど」
「今はまだ推論だし詳しく説明する時間はないわ、ただね、氷堂さん、あなたの「設定」に変更が直接加えられたみたいね」
「設定って・・・?」
「だからね・・・降伏してしまいなさい。もうこの話を終わらせてしまうのよ。そしたらエピローグでも使って少しは話ができるわ」
「もう、センパイが何言っているかわからないんだけど?」
「・・・あっ」
電話が切れた。
「なんだったんだろう?」
美智留は首をかしげた。さっきから変なことばかり起こる。まるで夢でもみているようだった。
「誰からだった?」
「霞ヶ丘センパイから」
「なんて?」
「もう降伏したほうがいいって」
「?」
「でもね、トモ、あたしは負けられないよ」
例え、あたしの設定に変更が加えられても、あたしはあたしだ。誕生日が変わろうと思い出が変わろうと、この先、名前が変わろうと容姿が変わろうと、あたしがあたしと思っている限りあたしだ。そしてあたしがトモを好きなのはあたしの自由だ。もしそうでないと変更されたなら、それはもうあたしじゃない誰かだ。だったら、あたしがするべきことは一つ。
「トモ、お願いだから、今夜抱いて欲しい」
心臓の音が聴こえる。
・・・ドクン
・・・ドクンッ
ドクンッ!
『そういうのって、なんだかなーって』
加藤ちゃん?
「ねぇ、あなたは加藤ちゃんなの?でも違うよね。あの子はこんなことしない」
そして、世界が暗転して、時が止まった。
美智留はぼんやりとした頭で歪んだ世界を眺めながら、こう思った。
「好きだという気持ちを誰かに邪魔をされていいわけがない。あたしがその気もちを諦める時は・・・あたし自身が決めた時だけだ」
(つづく)
暗いわ・・・orz