負け犬ヒロインの育て方2   作:きりぼー

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第六章

 美智留は気が付くと倫也の部屋のベッドで寝ていた。服も着ている。

起き上がると倫也がノートパソコンで作業している。見慣れた光景だ。

 

「はっ・・・あっ・・・あっ・・??」

 

 声が出ない。

 

「美智留、起きたか。今日は大変だったから疲れてたんだろう」

「はっ・・・はぁっ・・・!」

「ほら、見てみろよ、さっそく上げた動画が話題になってる」

「・・・」

 

 美智留がパソコンをのぞき込むとガールズバンドの動画が流れていた。

その衣装も歌詞も自分の「アイシーテイル」のものだった。けれど、そこに自分はいない。

 

「あうっ・・」

「ん?言いたいことあったら、このノートに書いていいんだぞ?」

 

 ノートとペンが渡された。美智留はわからないことだらけだったが、またちょっと違う世界に迷い込んだのだと思った。「設定」の変更が起こったのだ。まずはそれを確かめないと。

 

『あたしはなんで声が出ないの?』

「中学の時に声帯を病気で失ったからだろ?」

『このバンドは何?』

「俺と美智留がプロデュースしたガールズバンドだよ。今日アキバでコンサートがあったろ。少し寝ぼけているのか?」

 倫也が少し困った顔をしていた。

 

 美智留は落ち着いて考える。詳しい事情はわからない。ただ自分の認識と倫也の認識にずれがある。だとすると、この世界に自分自身が元々いないか、あるいは世界がおかしいか。この世界が真実なら自分は自分のこの世界での記憶を有しているはずだ。

 

(・・・難しいことはセンパイに任せるとして・・・自分の役割は・・・)

 この世界での情報を集めることだ。

 

『春に坂の上の女の子にであった?』

「ん?加藤のことか?」

『ゲーム制作はしているの?』

「ゲーム?なんで」

『音楽活動だけ?』

「そうだね。プロデューサー兼マネージャーみたいなものだけど」

『加藤恵も参加している?』

「美智留と一緒にCDジャケットを作ったり、歌詞考えたり、仲良くしていただろ」

 

 この世界でも倫也と恵は出会った。だとすると確認したいことは一つ。だけど倫也は素直には答えないだろう。

 

『トモは加藤恵が好きでしょ?』

 

 最初は戸惑いの表情、それから顔が赤くなって照れる。隠すために怒った声でいう。

 

「なに言い出すんだよ!」

 

 うん。実にわかりやすい。隠しているつもりなのだろうか。ちょっと疑いたくなるレベルでわかりやすい。

だとすると、この世界で二人の間にどのようなことあったかは関係ない。ただこの世界でも倫也は恵が好きだし、恵もまた倫也を好きに違いない。なにしろ、そういう物語なのだから・・・

 

「心配ねぇよ」

 

 倫也が美智留を見つめる

 

「俺がお前を幸せにしてみせる。俺はお前しか選ばないよ。加藤は関係ない」

 

 こんなにはっきりと強い倫也を見たのは初めてだった。まるで別人だ。この言葉だけは素直に嬉しい。倫也の苦しそうな顔さえみなければの話だけれど。

 

(・・・こういうことかぁ)

 

 美智留は理解した。この世界の美智留なら倫也の申し入れを葛藤しながら受け入れるだろう、苦労しながらも二人の幸せを築いていくに違いない。だけど、本当の自分がそれを受けいれるわけがない。同情が嫌なわけじゃない。そこから芽生える真実の愛もあるだろう。だけど、これはフェアじゃない。それが気に入らない。

 美智留が望むのは倫也を得ることじゃない。倫也の幸せがあって自分も幸せある。倫也が恵への想いを断ち切って選んでくれても意味がない。それなら恵を選んだ倫也を祝福するほうがよっぽどいい。

 

(あたしは倫也のことが好きだけど、それは恋心とは違うのかもしれない。もっと近い存在、家族のような気持ちで倫也を好きで・・・だから倫也の恋も陰ながら応援していたんだ)

 

 絶対にあきらめない覚悟で挑んだ。どんなに「設定」を変更されても構わないと思った。

だけど、勝利を与えられた瞬間、それが望んだものでないと明確に突き付けられた。

これ以上は美智留には戦い用がない。

 

『降伏する』

 

 その瞬間、美智留は世界から引き剥がされるように意識が薄れていった。

「降伏を受託する」という恵の声が聞こえた。それはどうしようもない哀しい響きだった

 

※※※

 

 ベッド上で加藤に指を指した美智留はふと我に返った。正妻戦争への参加表明直前だ。

 

「・・・加藤ちゃん」

「なに、氷堂さん?」

「あなた一体、なにものなの?」

「何を言ってるか わかんないよ」

「ごめん そうだね きっと加藤ちゃんは悪くない」

「?」

「美智留、大丈夫か?」

「うん。あたしは大丈夫。ただ、確認させて欲しいのだけど、トモってあたしと同じ誕生日だよね?」

「ああ、誕生日なんて変わらんからな」

 自分の足を確認するが傷跡もなくなっていた。元の世界に戻ってきたことがわかる。

美智留はほっとした。

 

「今日はちょっと帰らせてもらうわ」

「ん?そうか」

 

 美智留は鞄を持ってそそくさと階段を降りる。ケータイを取り出して霞ヶ丘詩羽を探すが登録されていなかった。着信履歴もない。

 

「どういうこと・・・」

 

(つづく)

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