慌てて倫也の部屋に戻る。
「ちょっと、なんで二人でノートパソコン並べて作業してるのさ!?」
こっちはシリアス演じているというのに・・・二人きりになったらラブラブモードとかやってられない。
「忘れ物か?」
「トモ、もう少し照れるとか驚くとか反応みせなさいよ・・・」
「別にただ前後のつじつまがおかしいから確認していただけだし?」
「まぁ・・・いいや。トモ、霞ヶ丘センパイの番号教えて」
「誰?」
「誰って、霞ヶ丘先輩だよ」
「だから、誰のことだよ」
「・・・加藤ちゃん・・・霞ヶ丘先輩のこと知っているよね?」
「ごめん。わたしもわからない」
「恋するメトロノームは?」
「なんだ?新しい曲名か?」
「・・・いや、いいや。ごめん」
ほっとした自分がバカだった。完全には元の世界に戻っていないようだ。こういう難しい問題を相談する相手がいなくなるとは思っていなかった。ぜんぜんついていけない。
「だぁー。トモ!あたしはこういうシリアスな展開は苦手なんだよ!もっとこう、シンプルに拳でけじめつけるような話がいい!」
「そんな武闘派だったっけ!?」
「暴力はよくないと思うよ、氷堂さん」
「帰る!」
ドタドタと階段を降りる。
「なんだったんだあいつ・・・」
「でも、ちょっと心配だから途中まで送ってくるね」
「ああ、悪いな加藤、頼むよ」
恵が美智留のあとを追っていく。
「待って氷堂さん、少し一緒に歩こう」
「うん?加藤ちゃんどうしたの?」
「どうしたもなにも、氷堂さんの様子おかしいし、心配になっちゃって」
「ごめん。ちょっと複雑な状態でさっぱりわからん」
「どんな?」
「うーん、ちょっと加藤ちゃんには話さないほうがいいと思う」
「ふーん」
「ねぇ、霞ヶ丘詩羽のこと、ほんとに知らないの?」
「うん。どんな人?」
「一個上の黒髪ロングのすっごい美人」
「へー」
「それで、高飛車なしゃべり方してて、あと物語について詳しい」
「物語?」
「小説家で、ラノベ書いていて有名らしいよ」
「知らないなー。で、その方になにか用事があるの?」
「あたしに起こったことをセンパイならわかるかもしれない」
「わかるとどうなるの?」
「どうなるんだろ?たぶん、分岐がかわるんじゃない」
「どんな・・・?」
「それは・・・」
美智留は倫也が恵以外を選ぶ分岐とはいえなかった。
「ねぇ、もしかしてそれは・・・わたしが倫也くんと結ばれない分岐の話なんじゃないの?」
「ちょっと、加藤ちゃん!?」
「だったら、邪魔だったから消えちゃったんじゃないかな?」
「ちょっと、どうしたの?」
「なんてね・・・」
「・・・」
「ねぇ氷堂さん。登場人物には役割があると思うの」
「そうだねぇ、今作っているギャルゲーなんかはそうだよね」
「だからね、氷堂さんにも役割があるんだよ?」
「あたしギャルゲーの登場人物だったの!?」
「いや、そうじゃないけど。似たようなもんかなぁ」
「・・・」
「だからね、難しいことがわかる人がいなくなっても、何かを選択しないといけないと思うの」
「・・・」
「氷堂さんはそのややこしい問題をどうすれば解決できると思うの?」
「うーん。ちゃっちゃっと加藤ちゃんと倫也がくっついちゃえばいいと思うよ」
「そうすると、氷堂さんの悩みは解決するの?わたしと安芸くんがくっつけば?」
「・・・そうなのかな・・・」
「それで氷堂さんは納得できるの?」
「納得もなにもトモが選んだ相手が加藤ちゃんなら祝福するよ」
「そう、ありがとう」
「でも、トモはチキンだからなかなか告白しなそー」
「くすくす」
「なんで笑ってんの」
「だって、わたしが安芸くんのことを好きって決めつけているから」
「ちがうの?どう見てもそうみえるのだけど」
「そう・・・だね・・・」
「あっ、認めた」
「うん、そろそろ終わりだから」
「終わり?」
「わかったよ。戻ったら安芸くんにわたしから告白するよ」
「加藤ちゃんから!?」
「それは役割ならね」
「ごめん。なんか催促したみたいで」
「ううん。こういう分岐も必要なんじゃないかな?」
「どういうこと?」
「メインヒロインから告白するパターン」
「それはトモの作っているギャルゲーでの話でしょ?」
「そうだね。でもね・・・ヒロインからの告白でさ。誰もがうらやむような、胸がドキドキするようなメインヒロインになれると思う?」
「どうだろ。でも、それって加藤ちゃん個人とは関係ないでしょ?」
「・・・」
「がんばってみなよ。万が一ふられたら、あたしがトモをぶんなぐって・・」
「ううん。万が一はないよ。絶対にふられない」
「すごい自信だねぇ」
「自信っていうか、そういう物語だから」
「・・・」
「ただ、きっと許されないんじゃないか」
「許されない?」
「それじゃあ、メインヒロインになれないよ」
「なに?どういうこと?」
「話はここまで・・・だよ。氷堂さん」
「あっ、うん。見送ってくれてありがとう。加藤ちゃん・・・」
「さよなら」
たたずむ恵の顔が泣き出しそうだった。それがこれから告白しにいく顔なのか?止めようと思ったけれど、家へ戻る恵に声をかけることができなかった。それはもう、引き返せない分岐のあとだから。
(役割があるっていうけれど、あたしの役割は加藤ちゃんの背中を押すことだった?だけど、タイミングを間違えた気がする。どうも似合わない正妻戦争に参加してからおかしい)
美智留がとぼとぼと歩いていると、クラクションが鳴った。
(つづく)
いつもありがとうございます。
なんかさえカノっぽくない暗い感じですが、もう少しお付き合いくださいませ。