車から1人の男が降りてきた。
「やぁー氷堂さん」
「波島兄ちゃん!」
美智留は思わず伊織の方へ駆け寄った。不安に押しつぶされそうで、どこに頼っていいかわからなかったから、まさに渡りに舟だ。詩羽と同じくらい伊織も頭の回転がいい。
「もう、ほんといいところにきた!惚れちゃいそうだよ、波島兄ちゃん」
「おっと、やめてくれないかな?そういうヘイトは集めたくないで」
「・・・そこはいつも通りなのね・・・」
「まぁ、車に乗ってよ。送りながら話すから。もっとも家に着くことはなさそうだけど」
「また、おかしなこと言ってる・・・」
後部ドアを開けると出海が乗っていた。
「美智留先輩!お疲れ様です。災難でしたねぇ・・・」
「出海ちゃん!ほんとだよ!なんなんだろう?」
助手席には伊織、後部座席に出海と美智留が座った。
「じゃあ、出すぞ」
運転席の女性がいった。
「この方は?」
「こちらが紅坂朱音さん」
「ああっ!センパイと澤村ちゃんを引き抜いた人!?」
「そうそう」
「なんで波島兄ちゃんと一緒にいるの?さては波島兄ちゃんも裏切った!?」
「落ち着いて、今はそれどころじゃないよ」
「そうだ。霞ヶ丘先輩はどうしちゃったの?」
「美智留先輩。残念ですけど、わたしにはその人が誰だかわからないです・・・」
「僕もよくわからないな。ただプロットには名前がところどころでてくるけど」
「プロット?」
「お兄ちゃんの能力は千里眼。過去も未来もある程度まで把握できるんです」
「へぇ・・・波島兄ちゃん先を見通すの得意だもんなぁ」
「もっとも、すでにプロットからはずれてしまっているのだけどね」
「どうして?」
「それは氷堂さんが思いのほか頑張ってくれたからだよ」
「そうなの?」
「美智留先輩はもっと「設定変更」を繰り返すはずだったんです」
「いやだな・・・」
「でも、思いのほか早く自問自答で結論までたどり着いて・・・」
「それはセンパイが・・・はやく降伏しろって・・・」
「だから、消されたんでしょうね」
「センパイ消されたの??」
「出海、時間がなさそうだ。ここからは僕が説明するよ」
フロントガラスに映る伊織の顔が厳しい。
「彼女・・・加藤恵は本作のメインヒロインだからね。負けるわけにはいかない。彼女の不都合な事実は改変されていくし、必要なことなら奇跡的なタイミングで起こる」
「そうだな。例えば私が脳梗塞で倒れて、少年を巻き込むようなことだな」
「怖い・・・」
「ただ、それは彼女が望もうがそうでなかろうが、起こることだ」
「本人が望んでないの?」
「そうだよ。潜在的には知らないが・・・少なくとも君の知っている加藤恵はそんなひどいことはしないだろう?」
「ああ、うん」
「むしろ、彼女自身が彼女の能力によって・・・」
ガツン!!
その時、ボンネットに大きなものがぶつかった。
「まさか、じきじきにおいでなさるとはな・・・」
さすがの朱音も驚いた。車を停止させる。
「なに、なんなのーーーー!」
「うわ・・・恵さん・・・」
「加藤ちゃんなの!?」
ガシャーン!
加藤恵の手がフロントガラスを貫き、伊織を捕まえる。
その表情は誰もみることができない。
「くっ!朱音さん、あとはよろしく・・・」
「ちっ!」
朱音は舌打ちをする。展開が早い。
「あまり関わりたくなかったんだがな・・・すまないな伊織」
伊織は苦しそうだったがなんとか笑おうとする。
「アブソリュート!そして世界は再建される」
朱音が指を鳴らす。そして伊織を除く三人が消えた。
加藤恵の手が運転手の朱音に伸びた時には、すでにそこには誰もいなかった。
※ ※ ※
とある屋内の事務所に3人が転送される。
「やれやれ・・・」
「ここは?」
「お兄ちゃん・・・泣」
「ここは、私の事務所だ。ここまでは追ってくれないから心配するな・・・もっとも時間の問題だとは思うが・・・」
「もう、何がなんだかわからないよ!ホラーかよ!」
「お兄ちゃん・・・涙」
「はっはっはっ、まっさきに狙われるなんて相当嫌われてるんじゃないか?」
「笑いごとじゃないです!」
「ああ、わりぃな。最初に私が狙われていたらアウトだった」
「だから一体全体なんなのさー」
美智留も半泣きだった。
「氷堂さんっていったけ?あんたブレッシングソフトの音楽担当の子だろ?」
「・・・うん」
「だったら、さっきのやつ、いいインスピレーション得ただろ?」
「えっ?何を・・・」
「ああいう絶望の塊みたいなやつをさ、音楽にしてみろよ」
「なんで・・・」
「だって、あんたもクリエーターの端くれなんだろ?こういうラスボスの音楽だって必要だろうさ」
「今はそんな気分じゃ・・・」
「ふん。まぁいいさ。あと出海もいつまでも ウジウジしてんじゃねー」
「・・・はい」
「時間もそんなにないし、さっさとフラグだけ立てていくぞ」
「そうですね・・・せめて次につなげないと」
「おいおい、出海ちゃんもまたわけのわからないことを」
「美智留先輩。紅坂朱音さんの能力は「絶対支配」です。いかなる干渉も受けませんし、自ら世界を創造していきます」
「なにそれ?」
「だから、恵さんの「リテイク」「ステルス」も基本無効化されます」
「そんな能力が加藤ちゃんにあったんだ・・・」
「それから美智留先輩が受けた「リメイク」ももちろん無効です。というよりは、わたしたちクリエーターには基本的に無効なんです」
「なんで?」
「自ら、世界を創生するのが仕事だからです」
「あたしめっちゃくらったんですけどー」
「それは美智留さんが音楽担当だからで、物語を書く人じゃないからです」
「ああ、なるほどーって納得するところなのか??」
「はっはっはっ、でも出海、お前第一話のほうでリテイクくらいまくってるじゃん」
「それは・・・未熟だったからで・・・というか、別の話なので!」
「じゃあ、出海ちゃんはどんな能力をもっているの?」
「わたしの能力は「フォロー」です。ちょっとだけ補助します」
「なにそれ・・・役立つの・・・」
「さっき、美智留さんを車で拾ったじゃないですか!」
「おおっ、偶然かと思った」
「そういうご都合主義をそれっぽく演出するのって大事なんですよ?」
「ご都合主義って認めてるじゃん・・・」
朱音はコーヒーをのんびり飲んでいる。
「まぁそういうわけで、今回の話はここまでかな。こんなに登場する予定じゃなかったんだけどな」
「紅坂さん、その能力でもっと円満解決にならないの?」
「大人がガキの色恋沙汰に首をあんまりつっこむもんじゃないだろう?」
「色恋沙汰って・・・センパイや波島兄ちゃんが消えているんですけど!?」
「どうせ、私たちもすぐに消えるさ」
「そうなの!?」
「もう、次エピローグですよ。美智留先輩」
「あたし主人公じゃなかったんかい!」
「まぁ、そういうことだから、『絶望の音楽』でも奏でてくれたまえ」
「うーん。でもギターないしなぁー」
「ほらよ」
「どこから出した???」
こうして、美智留はギターを片手に作曲活動にはいった。これ以上考えても無駄なことがなんとなくわかったからだった。
(つづく)
そういうわけで、次回、加藤でてきます。