空・・・それは翼ある者達の聖域。
地を這う獣達はそれを見上げる事しか出来ぬ。
決して手に届かぬ場所の支配者として自らは生み出された。
自らとその眷属の存在によって獣達は空を恐れていた。
我らは神の使いであり絶対的な支配者。
そして奴らは獣であり、我らに搾取され続けるだけの存在でしかない。
だが不遜にも獣達は文明を進化させ自らの領域に足を踏み入れてきた。
許す訳にはいかぬとガルバダリオは憤る。
この空は選ばれた者達だけが舞える場所なのだから。
「・・・避けたか~」
自身の放った一撃をギリギリの所で避けたフォルテを見据えガルバダリオは口の端を歪める。
如何にも軽薄そうな雰囲気を漂わせる鳥の姿をした化け物は自らをラ・ムーンの従者と名乗った。
重傷を負った事もあり正直な所、思い出したくも無いが王女誘拐事件の際に現れたアルゴスなる存在が同じようにラ・ムーンの従者を名乗ったのをフォルテは記憶に留めていた。
「てめえもアルゴスとかいう目玉野郎の仲間か?」
「あ~?仲間?」
フォルテの問いにガルバダリオの顔が歪む。
今までどこか面倒臭げにしていた彼の顔に不快の念がありありと浮かぶ。
「確かに奴と俺はラ・ムーン様から生み出された同じ従者だが。あんな野郎と一緒にするなっての。ましてお前らの言葉で言う・・・仲間なんて認識なんぞ俺らの間にはねえよ」
大きく鼻を鳴らすガルバダリオにフォルテが不敵に笑う。
この手の問答に殆ど相手が嫌悪感を示すか驚くと思っていただけにフォルテの反応は想定外であった。
「奇遇だな。俺と似たような考えじゃねえか。弱い仲間なんぞ居ても居なくても一緒だからな」
フォルテの言葉にテングマンではなくカルラウーマンの方が血相を変える。
「ひ・・・酷い。同じ製作者から造られたのに」
「うるせえな。お前ら邪魔だからすっこんでろ」
カルラウーマンの抗議もなんのその鬱陶し気に手が振られる。
元来から口下手でありあまり口論に向いていない彼女が唸る中、テングマンが苦笑いを浮かべる。
「悔しいがここはフォルテ殿の言う通り。負傷した拙者は後ろに下がる他あるまい」
右半身を切り裂かれた今のテングマンは飛行能力を失っており戦力には到底なりえない。
その事を彼自身が最も理解しているが故にカルラウーマンに促し、自身は後退しようとするのだが。
「俺とサシでの勝負を望むとは天晴・・・なんぞと言うと思ったか~?」
酷薄な笑みを浮かべガルバダリオは手にした斧を真下の先ほどまで自身が搭乗していた戦艦のブリッジに投げ放つ。
ズガガガガガガガガガッッッッ!!
暴風を伴った斧はブリッジそのものを切り裂くやあっと言う間に炎が巻き上がる。
コントロールを失い徐々に降下していく戦艦を見下ろすガルバダリオは次に片腕をテングマンらの後方にあるエアガッパーへと向ける。
「ガストネード!!」
ビュオオオオォォォォォッッッ!!
予備動作無しに片腕から放たれるの巨大な竜巻である。
「いかん・・・すぐに退避を!!」
テングマンがエアガッパーに乗る部下達に慌てて指示を出すが間に合わない。
ブリッジに残るジョー達も異変を察したのかビームバリアーを展開するが、それすらも軽々と粉砕した竜巻はエアガッパーの上部を抉り取る。
「お・・・お前達!!」
テングマンが叫ぶ中、ガルバダリオの影が眼前に舞い降りる。
「まずはお前らから~死~ね~!!」
信じられない速度で接近してきた相手にテングマンも反応する事さえ出来ない。
ガシッッ!!
だが振り上げた斧が降ろされる事は無かった。
自身の腕を横から掴み取るフォルテにガルバダリオは横目で見据える。
「おい鳥野郎。お前の相手はこの俺だろ?雑魚なんか相手にしてんじゃねえよ」
フォルテの言葉に一瞬、その目を鋭くさせるガルバダリオだが次の瞬間には薄笑みを浮かべる。
「邪魔な連中から潰そうと思っただけだ・・・まあ今ので十分か」
政府軍の飛行戦艦が墜落していく中、炎上し右側に傾く形で徐々に高度を落としていくエアガッパーを見据えガルバダリオがフォルテに向き直る。
金色の翼を広げ手にした斧と楯をだらんと下げたように見えた瞬間であった。
シュンッッ!!
ガルバダリオの全身が大きくぶれる。
彼のあまりの速度にその場に残像となってガルバダリオの姿が残るのだ。
元よりロボットではない事もあり、エネルギー反応も希薄な彼の動きを初見で捉えるのは困難と誰もが思ったのだが。
ブンッッ!!
振り下ろされた斧はフォルテのボディを両断はせずに文字通りに空を切る。
一瞬の内に背後を取ったガルバダリオであったのだが、自身の攻撃を軽々と避けるなど相手が油断ならぬ事を加味しても想定外であった。
バキッッ!!
真横から伸びた腕が己の顎先に決まる。
宙を回転するように動き衝撃を逃したガルバダリオは血走った目で五体満足の状態のフォルテを睨み据える。
続けてフォルテが至近距離から無数の光弾を放ってくるがそれは手にした楯で防ぎきる。
「てめえ・・・獣共が造った機械にしちゃあやるじゃねえか!!それにてめえから感じるぞ。俺達と同じ力を持ってやがるな・・・不完全な機械には不相応なその力ぁぁぁを!!」
ガキッッ!!
互いに突き出した蹴りがぶつかり衝撃で二人のボディが吹き飛ばされる。
「不相応・・・?さっきから不完全だの獣だの人の事を見下した口ばかり開きやがって。一体全体何様のつもりだってんだ?」
その全身より僅かに禍々しいオーラを立ち昇らせフォルテが大きく舌打ちをする。
「何様のつもりだと聞かれたもう一回言ってやる!!俺は偉大ラ・ムーン様の従者。遥か太古の時代にこの遮る物の無い天空を支配したガルバダリオ様だ!!」
「そんな大昔の自慢話なんて自分で言っていて恥ずかしいと思わねえのか?もう時代が変わったんだよ老害鳥野郎、焼き鳥にして食ってやろうか?」
「んだとぉぉぉ!!ガラクタの分際でえぇぇ!!」
明らかな挑発に乗る形で甲高い声を上げるガルバダリオ。
「ガルバダリオ様!!」
「お気持ちをお静め下さい」
背後から響くバロムとラムダの言葉にガルバダリオは己が冷静さを欠いていた事に気づく。
己の攻撃を避けられ逆に反撃を食らった事もそうだが、油断はならぬが大した事の無い相手だと高を括っていた事もあってついつい苛立ってしまった。
「そうだったそうだった。アルゴスの糞野郎がこいつらに負けたんだった」
己の頭を握り潰さん程の力で掴みながらガルバダリオは先程までの怒気を四散させ、フォルテに薄笑みを向ける。
「悪い悪い。以前にこの俺に逆らう存在なんぞ皆無だったんでな。何せ獣共相手に弓や槍なんぞ届かねえ空から攻撃を仕掛けるだけで勝てたんでな。この空と言う同じ土俵に立たれている事への認識が甘かった」
かつて古代の時代、地上に住む人間達を蹂躙した経緯もありガルバダリオは『油断しない』と己を戒めておきながら、やはり心のどこかでフォルテ達を見下し侮っていた。
そもそもが不完全な状態ではあったが、活動を開始した主ラ・ムーンを彼らは撃退しているのである。
先のアルゴスも同様に侮れば敗北は必至。
不本意ではあるが認めねばならない。
手にした斧と楯を握り締めるガルバダリオ。
大きく彼が翼を広げる中、先に動いたのはフォルテである。
悪魔の如き翼からブースターの炎が上がり、数秒もかからずに彼の速度は最高速度へと達する。
「ぬう・・・速い」
その動きを見据えテングマンが呻く。
彼が呻いたのには理由がある。
元々がロックマン同様に空中戦闘用ロボットではないフォルテが空を舞っているのは、サポートロボットであるゴスペルと合体しているからだ。
はっきり言えば空中戦に関するそのスペックは本来それを主体とするテングマンらに劣る。
にも拘わらず自身らを凌駕する出力を出すフォルテにテングマンは危惧を覚える。
それだけの出力を出せば本来持つエネルギーをすぐに使い切ってしまう。
この点はフォルテのモデルとなったロックも同様ではあるが、そもそもゴスペルと合体した上での戦闘行為は膨大なエネルギーを必要としており長時間の活動は難しいと言うのがテングマンの認識である。
今思うに街を見下ろす高度に位置するこの場に到達した時点で、かなりのエネルギーを消費したのではないか。
ガキィィィッッ!!
振り下ろされた斧を拳で受け止めるフォルテから悪のエネルギーが噴き出る。
「まさか・・・フォルテ殿」
呻くテングマンを余所にフォルテがチャージした巨大な光弾をガルバダリオへ向けて撃ち放つ。
ズガガガガガガガガガガッッ!!
手にした楯でフォルテのフォルテブラスターを受け止めるガルバダリオ。
大きく後退しながらも悪のエネルギーを上乗せされた一撃を防ぎきる楯の強度は驚愕に値する。
「ガストネードツイン!!」
両腕より巨大な竜巻を放ちながらガルバダリオは側面よりフォルテへと襲い掛かる。
完全に虚を衝いた攻撃であったが、ガルバダリオが斧を振り下ろす前に振り返りざまに放たれるフォルテの手刀がガルバダリオの頬を薙ぐ。
僅かに真空波を伴った手刀の一撃はテングマンが持つテングブレードであった。
本人の性格上あまり使う事は無いが、フォルテもロック同様に他のロボットの特殊武器を扱う事が出来る。
「クエエエーーケッケッケッケ!!だからどうしたああぁぁぁ!?」
己の奇襲が読まれる事も予想済みであったのか、己に一撃を入れられても尚、ガルバダリオは怯む事無く強引に斧を振り下ろす。
ズシャアァァァァ!!
振り下ろされた一撃はフォルテの肩アーマーを軽々と破壊しボディへと食い込む。
「・・・チッ!!」
辺りにオイルが飛び散る中、フォルテの顔が苦痛に歪む。
ガシィィィッッ!!
フォルテに突き刺さった斧を手放すや背後へと回り羽交い絞めにするガルバダリオ。
「死ねええぇぇぇ!!」
関節を固めた状態のままフォルテの体が放り投げられる。
駄目押し気味に突風で押し出され態勢を大きく崩すフォルテを前にガルバダリオが全身に風を集め始める。
全身に集まる風は次第に暴風となりガルバダリオの全身を覆い尽くしてしまう。
「まさか~獣共の生み出した機械にこの俺がマジになるとは~思わなかったぞ!!」
「御託は良いからさっさと来いよ」
暴風その物と化したガルバダリオにフォルテが手招きする。
その挑発を受けてか暴風の塊と化したガルバダリオが一直線に突っ込んでくる。
ズドオオオォォォォォォッッッッ!!
「クエーッケッケッケッケ!!終わりだぁぁぁ!!」
甲高い笑い声を響かせ小細工も無しに突っ込んでくるガルバダリオ。
フォルテの方はと言えば無言のままバスターを構えるのみだ。
「いかん・・・フォルテ殿!!」
テングマンが叫ぶがカルラウーマンに抱えられた状態で助けに入るなど出来ない。
それどころかバロムとラムダが遮るように眼前に立ち、両者の動きを封じ込める。
「我らが主の邪魔は・・・」
「・・・させぬ」
どうする事も出来ない状況にテングマンが歯噛みした時だった。
「キャハハハハハ!!燃える!!」
フォルテと共に上空へと飛んでおきながら今の今まで何もしなかった為に、その存在すら忘れられていたヒートマンが炎の塊と化してバロムとラムダを引き裂くように真正面を飛ぶ。
反射的に避けた両者だったが、その後ろにガルバダリオの姿がある事に舌打ちをする。
「どっかああぁぁぁぁぁんっっ!!」
笑いながら叫ぶヒートマン。
最高温度一万度とも言われる炎の塊と化したヒートマンの突貫を以てしてもガルバダリオの勢いを止める事は出来なかった。
ズシャアアァァァァッッ!!
一瞬、ヒートマンの体当たりによる炎が暴風を飲み込み全身を駆け巡るがガルバダリオは意に介さず勢いを僅かに弱めるに留まる。
暴風に弾き飛ばされたヒートマンがただで済む筈も無く、四肢を破壊されボディだけとなった状態で地上へと落下していく。
「馬鹿め馬鹿め~!!貴様ら不完全な機械が天空の支配者たる俺を止められるものか~。そもそもお前達や獣共は虫の様に地面を這いずっていれば良いんだよ~。クエッケッケッケッケ!!」
決死の一撃を前に嘲笑を響かせるガルバダリオにテングマンは歯を軋ませる。
己の力に酔いしれるガルバダリオに虫唾が走った。
当初はその姿が自分にどことなく似ているからかと思ったが、似ているどころではない。
この男はかつての自分の生き写しだと確信する。
どこまでも身勝手でどこまで独善的な存在。
ただ空が飛べるからと言う理由だけで地面を歩く者の苦労や気持ちも一切鑑みようとしない傲慢なる者。
(他者の気持ちも推し量らずに支配者を名乗るなど、天が許してもこのテングマンが許さぬ)
覚悟を決めるなど容易い事、己の命など誰かを助ける為ならば安いものだ。
弾かれる様に宙を蹴り、カルラウーマンの手から離れたテングマンは片方しかない翼で空を飛ぶ。
「うおおおおぉぉぉぉぉっっ!!」
「お前、何を」
テングマンの動きにはフォルテも驚いたのか思わず声を上げるのが聞こえる。
がその声に顔を向ける事なくテングマンは扇に収束させた竜巻を至近距離でガルバダリオにぶつけていた。
ガキンッッ!!
扇を叩きつけた瞬間、腕ごと暴風に持っていかれるが構う事は無い。
腕どころから全身が暴風に吸い込まれる中、テングマンは己の根元だけ残った足をガルバダリオの翼に引っ掛ける。
「てめえぇぇぇ!!」
バラバラになり後方に弾き飛ばされたテングマンが聞いたのは明らかに狼狽したガルバダリオの声。
大きく勢いを殺され纏った暴風を四散させたガルバダリオがテングマンを睨み据える時間など無かった。
ギュイイィィィィィィンッッッ!!
驚愕の顔でガルバダリオは膨大なエネルギーをバスターに集めるフォルテを見る。
何かを叫ぶ間も無い。
避ける間も防御する間も無い。
「フォルテエエェェェブラストオオォォォォッッ!!」
ズッドオオオォォォォォォォォンンッッ!!
通常のそれに比べ遥かに巨大な漆黒の光弾にガルバダリオの全身が飲み込まれる。
だがガルバダリオもそれで終わらない。
「殺すっっ殺すっっ殺してやるっっっ!!」
ガシッッ!!
光弾を突き破る形で姿を現したガルバダリオの姿は見るも無残なまでにボロボロであったが、フォルテを両足を掴み取るとそのままの勢いでフォルテごと真っ逆さまに地上へと落下していく。
高度を大きく下げた所でフォルテの拳がガルバダリオの顔面に決まり、地表すれすれで両者の身が弾かれる。
「フォルテブラスターーー!!」
「ガストネード!!」
互いの必殺武器を放つ両者が地面に叩きつけられる。
「ちきしょう・・・なんてザマだ」
血走った目で落下の衝撃で翼を失いボロボロになった己の姿に愕然とするガルバダリオ。
フォルテの方もゴスペルとの合体も解除され、大して変わらぬ姿であった。
「どうした?鳥野郎・・・まだ終わりじゃねえだろう?」
「クエーッケッケッケ!!当たり前だ~!!」
互いに口の端を歪めるフォルテとガルバダリオ。
「そういや名前を聞いていなかったな。お前・・・なんて言うんだ?」
「最後に覚えておけ。俺様の名前はフォルテ、世界最強のロボットだ!!」
思い出したようにその名前を問うガルバダリオに見栄を張る様にフォルテが自身の名前を名乗る。
本来であればガルバダリオが他者の名など聞く事もないし、そもそも興味すら沸かない。
にも拘わらずわざわざ名を問うたのは、己をここまで追い詰めた相手への彼なりの賛辞か。
「そうそう冥途の土産教えてやるが。俺達の役割は陽動でな~ラ・ムーン様の命令で欧州に居る協力者からお前らの目を逸らす為に動いたのさ」
聞いても居ないのに己の目的を話し出すガルバダリオ。
「ろぼっとえんざうぃるす・・・だったか?獣共の機械が暴れているのはそんな名前のプログラムが原因らしいぜ。まあ詳しくは知らねえが」
そう言いつつ身構えるガルバダリオにフォルテも腰を落とした時だった。
ビイイィィィッッ!!
ガルバダリオの後方から放たれる一筋のレーザーにフォルテの肩口が射抜かれる。
咄嗟に飛び退くがその先でフォルテは動けなくなってしまう。
ガルバダリオの方も驚いた顔でレーザーが飛んできた先を見る。
そこに立っていたのは顔に単眼を持った人型の存在。
前回での敗北もあってか体の大きさこそ人並みとなってはいるが、ガルバダリオと同じくラ・ムーンに仕えるアルゴスだ。
「この糞野郎・・・」
戦いに水を差されガルバダリオが底冷えする声で口を開く。
殺気を全身で受けながらもアルゴスは腕を組み、ゆっくりとその首を真横に振っていた。
「退くぞガルバダリオ。ここでお前まで失う訳にはいかん」
「てめえ~俺がこいつに負けるとでも?」
「負けはしなくともただではすまないと言っている」
自身に詰め寄るガルバダリオにアルゴスも負けじと口を開く。
暫しの間、睨み合いをしていた両者だがこれ以上は埒が明かぬとガルバダリオの方が大きく鼻を鳴らす。
「フォルテだったな。この勝負はまた次にしようぜ~欧州でまた会おう」
不敵な笑みを浮かべ動けないフォルテにそう言いつつ、ガルバダリオの姿が掻き消える。
「余計な事を言いおって・・・」
舌打ちをしたアルゴスもその姿を消し、残されたフォルテは誰も居なくなった場所を睨み据えていたのだが。
「欧州だと・・・そこで何を考えているかは知らねえ・・・が」
荒い息を吐きつつ拳を握り締めるフォルテは落下の衝撃で伸びてしまっているゴスペルに目を向ける。
「おいゴスペル、今すぐ・・・奴らを・・・追い」
ゴスペルの下に歩み寄ろうとして視界が真横となる。
何故だか知らないが体が動かない。
そもそも重傷を負っている筈なのに何の痛みも感じなくなっている時点で気づくべきだったか。
自分がその場に倒れこんだ事を自覚する間もなくフォルテの意識は途絶えていた。
一方、その頃。
南米の密林地帯にあるランファント遺跡群にて。
世界中でロボットが暴走する騒動で混乱する中で人知れず異変が起きていた。
ランファント遺跡群で起こった事件の後、周囲一帯は連邦政府の管理下に置かれており現在も政府軍の一団が駐留する特別管理区域となっている。
一度は人類を滅亡寸前に追いやった遺物があのラ・ムーンだけではない可能性もあり、万が一盗掘者などに荒らされて事件に利用されればどうなるか分かったものではない。
ここに駐留するロボット兵達は例え人間が相手でも制止に応じなければ火器の発砲も許可されている。
と言うかどこかの馬鹿が動画配信と称して遺跡群に侵入した為に問答無用で発砲され殺害されると言う一件も起こってしまっている。
この一件に関して世間の批判も大きかったが、連邦政府が謝罪も一切せずに毅然とした態度を崩さ無かった事からも、遺跡群の遺物への危機感がどれほどまでに大きいか推し量れよう。
実際にワイリー軍団内でも遺跡の調査、発掘を秘密裏に行おうという計画は何度か上がっていたのだが上記の厳重過ぎる警備もあり断念に終わっている。
まあ流石に同じ轍を繰り返させるほど連邦政府も馬鹿ではないと言う事か。
シャドーマンらが掴んだ情報によれば遺跡群が何らかの武装組織に占拠された際には、攻撃衛星や核ミサイルなどを使用し遺跡ごと吹き飛ばす計画すらあるとの事である。
とは言えワイリーとて手をこまねいているつもりは無く、時折諜報部を派遣し遺跡の状況を調べに行かせている。
この地に派遣されたスネークマンにとっては何度目かの任務であり、攻撃用兼探査用ユニットであるサーチスネークを使って遺跡の状態を調べて帰るだけの何時もの任務となるはずだったのだが。
「なんだこりゃ?」
周囲に放ったサーチスネークと視界を共有し、探索を始めたスネークマンであったが真っ先に飛び込んでくる映像に思わず声を上げる。
彼の隣にはダークマンⅡがおり、彼もまたスネークマン同様にサーチスネーク越しの映像を端末で見ていた。
スネークマンが見たのは物言わぬ状態で地面に転がる政府軍のロボット兵達。
見たところ、外傷などは無く何らかの原因で機能停止となったようである。
「例の電磁波の可能性があるな・・・だがそれは政府軍とて承知済みだ。我々ほどではないにせよ対策は施してある筈だ」
「そうだろうな・・・だが現に奴らは機能を停止している。下手すると俺らもミイラ取りにな・・・る」
感情を伴わないダークマンⅡの言葉に同意しかけたスネークマンは反射的に立ち上がる。
サーチスネークの一つの視界が回転したのだ。
<機械の蛇・・・だあれのペット?>
若干舌足らずな声が響く。
サーチスネークを通して目にしたのは、一人の少女。
当然だが人間である筈が無い。
頭部に花の様なパーツを取り付けた少女とスネークマンの視線が絡み合う。
(・・・拙い!!)
反射的にサーチスネークを自爆させたスネークマンはキョトンとした顔のダークマンⅡとスナイパージョー達に振り返る。
「お前ら・・・今すぐに撤収だ!!恐らくだがこの場所が相手に割れた!!」
とスネークマンが叫ぶと同時に殺気にも似た空気が密林の向こうから流れ込んでくる。
もとより諜報部に所属しているだけにジョー達の動きも素早い。
数分もせぬ内に荷物を纏めるや彼らは一目散にその場を後にする。
後ろの方で木々が激しく動いた気がしたが、それを確認する為に振り返る余力などある筈も無くスネークマンらは這う這うの体で逃げ出したのであった。
ザッザッザッザッザッザッッッ!!
スネークマンらが残していった僅かな部品などを眷属達に回収させた少女は、暫しの間だけそれを見ていたが興味を失ったのかゆっくりと背を向ける。
彼女の周囲には物言わぬ機械達も転がっているのだが、そちらにも興味は無い様子だ。
ややあって大地に大穴を開けた月の神殿跡地へと辿り着くや、ご丁寧にも政府軍が設置した仮設の階段を使って地下へと潜っていく。
地下深くからさらに進んだ奥の奥、深遠と言うべき場所の闇の中でそれは居た。
かの英雄によって大きく穿たれた痕が生々しいが、球体状の物体から時折心臓の様に脈打つ音が闇に響き渡る。
「ラ・ムーン様・・・侵入者が現れました」
少女の言葉に息を吐くような音が生じる。
「かつて貴方様が利用したワイリーなる科学者の手の者の様です。如何致しますか?」
首を傾げながら問いかける従者の言葉に球体の表面に巨大な目が生じる。
<ワイリー・・・Dr.ワイリーか?その名前は憶えているぞ>
巨大な目をカッと見開きながらラ・ムーンは声を響かせる。
感情と言う概念も希薄な彼であっても、その名前を聞くに前回の敗北が思い出されるのであろう。
<そしてロックマン。余の邪魔をせし忌々しき者・・・>
息すら詰まるのではないかと言う空気を生じさせながら、ラ・ムーンは静かに感情の伴わない声を響かせる。
<アルラウネよ。貴様は我が領域を守護せよ・・・他の事はアルゴスらに一任してあるが故に>
「全てはラ・ムーン様の御意思のままに」
アルラウネと呼ばれた少女にそう告げるやラ・ムーンがそれ以上言葉を発する事は無かった。
深い深い闇の中で古の神は静かに自らの復讐の機会を待ち望む。
恐らく連邦政府もワイリー軍団も己らに構っている暇など無い。
彼の予想通り、ランファント遺跡群で異変が生じている事を連邦政府が気づくのには暫くの時間を要する事となる。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇カルラウーマンについて
前回書き忘れていたのでこちらにとなった。
ヤマトマンらと同じくアジア系ロボなのだが、彼女は東南アジアにある研究所製作の戦闘ロボである。
武装はカルラビットに搭載したビームと手にした実体剣のみと内蔵する武装を持たない事もあって、火力面で不安を抱えている。
軽量化による装甲面での不安も含めヤマトマンら6のボスよりも若干総合的な性能は低めと言う解釈となっている。
だからと言って弱い訳ではなく戦闘用と言う事もあり、ある程度の戦闘は可能と言うのが彼女の実力的な位置づけとなる。
〇ガルバダリオについて
前回に引き続きだが残忍で狡猾なイメージではあったが、アルゴスと同格と言う格上感を出す為の都合上あまりそう言うことはしない形となってしまった。
当初の案では地上に落ちた後にロールを人質にするシーンがあったのだが、ぐだりそうなのでカットとなった。
悪のエネルギーを解放したフォルテとは互角の実力を有したが、彼の方がまだ余裕はありまた復活間もない事などもあって本来の実力は発揮できていないらしい。
それと彼らを格下と判断して油断してしまったのもヒートマンらの介入を許す事となってしまった。
空は力ある者だけが自由に舞える場所と言う考えもあり、その辺も含めかつてのテングマンの傲慢な部分を浮き彫りにしたような考えの持ち主。
予備動作無しに竜巻などを発生させる能力はとにかく脅威と言えよう。
あと描かれていないがバロムとラムダも主に続いてその場を退いている。
〇アルゴスについて
一応復活したが体の大きさが人間サイズにまで小さくなってしまい著しく弱体化している。
分裂能力も失っており、実質的に目からレーザーを放てるだけしか攻撃能力がなくなってしまっており眷属を生み出すことも出来ないと言う体たらくらしい。
ガルバダリオを助ける形になったが仲間意識は無く、ただ単にフォルテとガルバダリオが相討ちになると戦力ダウンを起こすからと言う理由でしかない。
〇ランファント遺跡群について
作中にある通り政府軍が駐留しており厳重な警備が敷かれている。
駐留するロボット兵は例外的に三原則を無視して活動することが許可されており、迷惑系なチューバーが潜入し制止にも従わなかった為に射殺されている。
ここまで強硬な態度に政府が出たのは何らかの形でラ・ムーンもしくはそれに匹敵する存在を目覚めさせる危険性がある為だったのだが、崩落した月の神殿跡地への仮設の階段も含め連邦政府が発掘調査をしようとした形跡もあり、若干のきな臭い所も見え隠れしている。
キング事件の際にはキング自身も一連の経緯から遺跡には手を出すことはせず、駐留していた政府軍も動く事は無かった。
月の神殿跡地地下に隠されていた遺跡内ではスパアドの事件において稼働した罠などがそのまま残されており、そもそもラ・ムーンの従者達が動き出していたことを考えるとどの道、政府による発掘調査は上手く行かなかったのは言うまでもない。
最深部ではラ・ムーンが居るが詳しい紹介の方は後日、今回は割愛させていただく。
スネークマンが速攻で逃げ出しているがあと少し遅ければアルラウネの眷属達に襲われていた。
彼の報告はシャドーマン経由でワイリーに伝えられる事となる。
アルラウネに関してはリブート前のXシリーズで妖艶な美女の姿であったが、エキドゥナとキャラ被りをしている感が強かったので若干若返らせる事に。
彼女個人の活躍はしばらく先に持ち越しとなる。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。