「ほう・・・フィーネに続きボーンダインも勝手な行動を取っていると?」
今は警官ロボの姿をした主はいつの間にかその場に現れたヴォイドの言葉に耳を傾けていた。
「アルゴスを始めとするブリザー軍団の者達はこの場に集結しているが・・・その内の一人が勝手に動いているそうだ」
「まあ彼らは私も部下にしたつもりは無い。あくまでも協力関係にあるに過ぎないからある程度の勝手は許容する他無いだろうね」
手にした端末に文字を打ち込みながら彼は大きく溜息を吐く。
「ソローが暫く動けなくなったが不確定要素であるデューオを早期に行動不能に陥れられたのは私としても運が良かった。あの小娘はさておきボーンダインが勝手に動いたのには訳があるのだろう」
「・・・スカルマンか」
「ああ・・・今思うにしまったなあ」
ヴォイドの言葉を受け彼は大きく舌打ちをする。
「眠っている彼に今後の事を話してしまった。それで私達が欧州で事を進めているのをスカルマンに知られてしまったから、彼はその時間稼ぎに動いたか」
『律儀だねえ』と付け加えつつ彼は端末を勢いよく叩く。
ヴォイド達に命じてこの施設を秘密裏に乗っ取ってからまるっと三日程が過ぎようとしていた。
今の所は誰も異常に気付いていないだろうが、流石に何日もは無理だろうと彼は判断する。
ともあれ大方の作業を終えた事で多少なりに考える余裕は出来た。
「アポロゴーストも出張っていると言う事は私からすると信頼出来るのは君だけと言う事になるね」
「・・・・・・」
主の言葉にヴォイドは無言だ。
半ば虚空を見据えた目を向けられ主は苦笑いを浮かべる他無い。
「まあロボットエンザに感染させた者達への対処で連邦政府は手一杯だろう。彼らが気づいた時にはもう遅い・・・その時には私は晴れて自由の身だ」
笑い声を響かせながら一室から出て行く主。
そんな彼の背を見送りヴォイドは僅かに目を細める。
「・・・だと良いがな」
ぼそりと呟く彼の言葉を耳に入れる者は誰もいない。
ヴォイドが一室を後にし通路へと出た所で向こう側から騒がしい声が響いてくる。
「あの単細胞野郎め。調子こいて痛い目を見りゃあ良いんだ」
彼らは仲間とは決して認めぬが同じ存在であり、合流する様に発せられた命令を無視する者へ悪態を衝くのはラ・ムーンの従者の一人ガルバダリオだ。
北米地域で破壊活動を行った彼だが、思わぬ強敵と遭遇し少なからずの傷を負い帰還している。
「しかしまさか俺達と同じ力を持つ者が獣共の機械に居るとはな。俺の翼がまだ治らねえ」
「油断するなと言った筈だ。まあ我もお前の事を嘲笑う訳にはいくまい」
面倒臭げに両の足で廊下を歩くガルバダリオに相槌を打つ様に口を開くのはアルゴス。
背の翼を喪失したガルバダリオと同様にアルゴスも以前の見上げるような巨体から人間大の大きさへとその身を小さくさせており、どう言う訳か最近ではタキシードを思わせる衣類を身に着ける様になっている。
まあ小さくなった事で一種の偽装も兼ねているのだろう。
「・・・・・・」
互いにと言うか一方的にガルバダリオが話しかけている状況が続く中、彼らの脇を無言で通り抜けようとするのだが。
それを見逃すガルバダリオではない。
「おいそこのおめえ。旦那はどこで何をしてやがる?」
「・・・知らん。自分で探したらどうだ?」
小馬鹿にするように首を傾げ問うてくるガルバダリオ。
対してヴォイドの方も極めて素っ気無い。
元より不機嫌だが大きな舌打ちをするガルバダリオにアルゴスの方は一瞬だが、呆れた様に目を細めた。
主の言葉通り彼らは互いに協力関係にあるだけで決して仲間などと言う唾棄すべき間柄ではない。
とは言え無用な争いはするべきではないと考えてはいるのだろう。
「てめえ・・・獣が造った出来損ない機械にしちゃあ。随分とでかい口を叩きやがるな」
怒気を孕んだ声でガルバダリオがわざとらしく首を捻り下から見上げるような視線で睨みつけてくる。
まるでチンピラか輩のそれだと見た者は思うだろう。
「その出来損ないの機械の小僧に痛い目を見たのはどこのどいつだ?」
「クエェェケッケッケ!!うるせえ!!まだ復活直後で本調子じゃ無かったんだよ。この俺が本来の力を取り戻せれば・・・」
ヴォイドの指摘にガルバダリオが指先を突き付け喚く。
何時もであればその後も暫くは喚き声が続いたであろうが、ガルバダリオはその目を見開き口を閉じる。
「存外・・・冷静ではあるようだな」
「クエエェェェケッケッケ!!」
口元を僅かに歪めるヴォイドにガルバダリオは甲高い声を発しながら自身の得物を手に取る。
シュウウウウウッッッ!!
ガルバダリオが手にした斧に風が渦巻く中、困惑気にアルゴスが両者を交互に見据える。
彼からすれば些細な事から突然の争いになった様にしか見えない。
まあ元より残忍な気質のガルバダリオが他者と争う事自体はこの際どうでもいい。
だが彼の表情から只ならぬ物を感じ取ったのだ。
「な・・・なんでてめえがここに居る?お前は北米の方で少なからずの怪我を負ってこの欧州にはまだ来れていねえ筈だ」
「ああ・・・そうだったな。『そう言う事』もあったな」
指を突き付けられる中、ヴォイドが不敵に笑う。
虚空を見据えた目のままどこか遠くを見据える彼に馬鹿にされたと感じたのか、ガルバダリオが拳を握り締める。
「詳しく説明する気は無いがあれと私は違う。そして今はお前達と事を構えるつもりは無い・・・いずれにせよ振り上げた物は下げて頂きたい」
身構える自身に対し僅かに頭を下げるヴォイドを射殺す様な視線を向けていたガルバダリオだが、彼も目の前の存在が隠し持つ実力を察せられない程に愚か者ではない。
数秒の間の後に喉の奥で息を呑み込みガルバダリオは手にした斧を下げるのであった。
「ラ・ムーン様の命令さえ下れば何時でもお前を殺してやる」
吐き捨てる様に言い放ちながら足早に去っていくガルバダリオ。
アルゴスの方は終始無言であり、ヴォイドに巨大な目を向けていたがややあって同じようにその場から去る。
「・・・・・・」
彼らが居なくなった事で場の重苦しい気配が四散する。
どこか呆れた様に小さく鼻を鳴らすヴォイド。
ヴヴヴヴヴヴヴヴッッッ!!
そんな折、自身の懐の中で僅かな振動音が生じヴォイドの顔が僅かに歪む。
滅多に表情を変えぬ彼にしては珍しく不快感がありありとその顔に浮かんでいた。
「・・・私だ」
端末と言うにはあまりにも小さな掌に収まる程の機器を手にし、ヴォイドが舌打ち交じりに口を開く。
機器からは何やら声らしき物が響くがその多くは不明瞭で聞き取りにくい。
「要件は手短にしろ・・・私も忙しいのだ」
その言葉に向こう側は笑ったような高い声らしき音を響かせる。
「まあ良い・・・それよりも何の用だ?『アルバート』よ」
大きく溜息を吐きながらヴォイドは話し相手の名前を口にしていた。
「チルドフラッシャー!!ってな」
両手から発せられる冷凍光線を前にリングマンとスカルマンは左右に弾かれる様に飛び退く。
命中した対象を一瞬の内に凍り付かせるチルドフラッシャー。
まともに当たればリングマン達、戦闘用ロボットとて無事では済まないだろう。
ガシッッ!!
飛び退きながら放ったリングブーメランが『ツリーマン』の腕に絡みつく。
だが次の瞬間、リングブーメランは『ツリーマン』のボディから発せられる冷気で凍り付き砕けてしまう。
「鈍重かと思えば上手く力を使えばカバー出来るもんだな」
己の扱うボディの性能に感心したような声を上げる存在。
声こそツリーマンの物ではあるが、その低く不気味な口調は彼の物ではない。
政府軍に所属し寒冷地戦のエキスパートと呼ばれる彼だが、その性格は極めて陽気で今回の惨事の舞台となったイベントへの参加など積極的に活動を行っていた。
キング事件もあり人類とロボットとの間に溝が出来つつある中でもだ。
そんな彼を利用し事件を起こそうとする存在にリングマンは怒りを覚える。
(奴の正体の解明など今は後だ・・・可能な限り被害を少なくしなくては)
幸いな事に今の時点では人的被害は皆無であり、突然自身を凍結させたのも自ら暴走を止める為と言う話が本当であるならばツリーマン自身の処分が軽くなる可能性は十分にある。
絶対に彼を救わねばならない。
「フハハハハハハ・・・こいつは良い!!」
ツリーマンのボディを借りた存在が周囲を白一色に染め上げる。
「くっ・・・視界が」
一瞬の内に吹雪で視界を遮られ『ツリーマン』の巨体が見えなくなる。
目の前さえ不明瞭になった状況下でリングマンは必死に目を凝らす。
スッッ。
不意に己の真横に影が出来たと思った瞬間、巨大な腕が目の前で揺れる。
バキッッ!!
「・・・ガッッ!!」
『ツリーマン』の巨体を活かした剛腕で殴り伏せられたと思った時にはイベントホールに降り積もった雪に顔から突っ込んでいた。
「まずは・・・一人か」
これで倒せたとは思えないが暫くは動けないだろうと判断し、『ツリーマン』はもう一人のスカルマンを探す。
寒冷地用と言う事もあり、『ツリーマン』が搭載するセンサーは視界が覆われている中であってもスカルマンの居場所を認識していた。
(・・・仲間がやられたってのに微動だにせず。薄情だな)
チルドフラッシャーを避け飛び退いた場所から殆ど動いていないスカルマンに内心で嘲笑う『ツリーマン』。
まあこの状況では下手に動けば自分がやられる訳で、彼の選択はある意味で正しいと言えよう。
(連携が取れなきゃ・・・各個撃破するだけだ)
『ツリーマン』が猛吹雪の中で見た目とは裏腹な速度でスカルマンの背後を取る。
巨大な腕を振り上げた『ツリーマン』に向けられたのはスカルマンが手にしたマシンガンの銃口だが、相手が自身の接近に気づかないと思う程に彼も愚かではない。
シュウウウッッッ!!
「今の俺のボディは冷気でコーティングされている。その程度の武器で俺の装甲は貫けんぞ」
巨木を思わせるボディに氷の鎧を纏った『ツリーマン』の装甲は、砲弾の直撃すら耐えきるだけの厚さを誇る。
ましてスカルマンの持つ武装は対ロボット用にカスタマイズされてはいるが、人間の使うそれが原型となっており個々の殺傷能力はそれ程ではない。
ズドドドドドドドッッッ!!
無数の弾丸が顔面に注がれるがそれらは全て装甲に阻まれる。
「無駄だ・・・!!」
強引に腕を振り下ろす『ツリーマン』。
バチンッッ!!
スカルマンの胴体に拳が叩き込まれたと思った瞬間、痺れの様な感触が腕の先に生じる。
「スカルバリヤーを予め展開してやがったか・・・味な真似を」
「そっちから近寄って来てくれて助かった」
ズンッッ!!
障壁に阻まれ僅かに動きが鈍った拳をギリギリの所で回避したスカルマンは手にしたナイフをそのままに、『ツリーマン』の眼前に間合いを詰める。
猛吹雪の中で一際目立つその刃は真っ赤に染まり、舞い降りる雪に触れるや白い煙を上げていた。
「ヒートナイフ・・・だと!?」
「南極でお前の様な奴と戦った。まさかすぐに使う事になるとはな・・・」
目を見開く『ツリーマン』の額にブスリとスカルマンが手にする刃が突き刺さる。
だが慌てて半歩下がった事でヒートナイフの刃は電子頭脳にまでは達していない。
「・・・チィッッ!!」
『ツリーマン』が舌打ちをしながら両手に冷気を集める。
それを前にスカルマンがナイフを引き抜くや大きくその場より飛び退く。
スカルバリヤーではチルドフラッシャーまでは防げないと判断したのだろう。
「危ねえ・・・やられる所だった」
慣れないボディを操る中で徐々に扱い方にも慣れてきた『ツリーマン』だが、咄嗟の事に対応するのは難しい。
「しかしお前も酷いな。今の俺のボディはツリーマンのだ。間抜けな事にロボットエンザウィルスによって暴走した挙句にこの俺に体を乗っ取られてるんだからな。そんな奴の電子頭脳に刃を突き立てるかねえ?」
嘲るような言葉にスカルマンは無言だ。
これがもしもロックマンの様なお人好しだったら動揺でもしただろうが、冷酷無比なスカルマンが相手では全く以って無駄な話と言えよう。
「ツリーマンは政府軍所属のロボットだ。電子頭脳が壊れてもバックアップデータぐらいはあるだろう」
そう言うや否や死神は手にした銃器を問答無用で撃ち放つ。
長い間、戦いを続けていた事もあってか吹雪の中でもスカルマンは徐々に『ツリーマン』の居る位置を容易に捕捉する様になってくる。
「バックアップデータねえ・・・確かにそれがあればボディが大破。最悪ボディそのものを喪失してもそいつは蘇れる・・・ロボットなんだから当たり前だわな」
ガキッッッッ!!
姿勢を低くしながら接近してきたスカルマンと拳を交えながら『ツリーマン』は皮肉気に笑う。
「でもな・・・新しく造り直されたそいつは本当にそいつなのかね?確かにそいつはそいつだがバックアップデータを取った時点での記憶しかない・・・例えば死の瞬間の記憶までは再現出来やしねえ」
「・・・・・・」
「・・・お前も分かってるんだろうな?」
技を繰り出そうともせずに『ツリーマン』がスカルマンに顔を近づけ囁く。
ダンッダンッダンッダンッダンッッッ!!
彼の言葉を遮る様に銃声が鳴り響く。
『ツリーマン』の言葉に眉一つ動かさずにスカルマンは手にした拳銃を相手の額に次々と叩き込んでいた。
「そうかいそうかい・・・まあそうすると思ったぜ」
ヒートナイフで開いた傷口から弾丸を叩き込まれ『ツリーマン』の額から、血の様にオイルが噴き出す。
「安心しな・・・別に責めてる訳じゃねえ。『俺』だってそうしたさ」
ヘナッと『ツリーマン』が歪んだ笑みを浮かべた瞬間。
ブツッッ!!
まるで電源を落としたかの様に視界が閉じられる。
「・・・!?」
何が起こったのか分からぬ己に無数の弾丸が降り注ぐ。
慌ててそれらを避けようとするも体は何故か動かない。
飛んできた弾丸は己の体に命中するのだが、有効な攻撃に成り得ていない。
回避するまでも無いと言う事なのだろう。
<・・・・・・>
無言のまま自身の意を受けいつの間にか周囲に居たスケルトンジョー達は、敵に反撃を開始するのだがこの時点でスカルマンは違和感を感じてしまう。
相手の攻撃に手応えが無いのもそうだが、スケルトンジョーの弾丸を浴び倒れ伏す人影から噴き出すのはロボットのそれとは違った。
グチャッッ!!
真っ赤でどす黒い液体を顔に浴び漸くそれがなんであるかを認識する。
(・・・血だ)
掌に滴り落ちるそれを見つめた所で周囲の景色は一変する。
パチパチパチパチッッ!!
不意に己に向けられる万雷の拍手に戸惑う間も無く己の首に何やら煌びやかな輪が掛けられる。
「キング軍団の魔の手から我が街を救ってくれたスカルマンに今一度の拍手を」
顔の見えない人物がそう言うや再び拍手が巻き起こる。
目の前に繰り広げられる光景に身に覚えなどある筈が無い
ガシッッ。
反応する間もなく目の前の人物に腕を掴まれる。
「覚えてねえだろ?当たり前だ・・・そりゃお前の記憶じゃねえ」
不気味な骸骨の顔をしたロボットが笑みを浮かべながら話しかけてくる。
「お前も消えていなくなる・・・」
「我々の様に・・・」
「所詮ロボットは人間にとって都合の良い道具だ。特に俺の様に戦うしか能の無い存在は特にな」
「憎い・・・憎い。俺に苦しみを強いる存在が」
「奴らは俺らの苦痛を知らない」
「喜びを分かち合う事も出来ねえ」
気付けば己を取り囲んでいるのは一人だけではなかった。
己の姿をした存在が口々に言葉を発してくる。
「笑うしか・・・ねえよな」
最後に姿を現した己の言葉にスカルマンの思考は硬直する。
「成程・・・やはりお前達は」
「最初から分かっていただろ?まあお前もいずれは・・・」
笑みを浮かべながら自身の眼前に歩み寄り挑発する様に相手は手を広げてくる。
「いらなくなる・・・用済みなれば消されて捨てられる」
『『『我々の様にッッッ』』』
泣きながら怒りながら喜びながらそれぞれの感情を浮かべた自身が叫ぶ。
彼らを通じて注ぎ込まれるのは自分以外の者達に向けられる悪意としか形容出来ないモノであった。
「ぬぐっ・・・」
己を蝕む悪意に体の感覚が消えかかる。
相手の術中に嵌りかけている事を自覚するもこの場から脱する方法が分からない。
「安心しな・・・あの御方は俺達を必要としてくれる。お前も俺になり・・・でもって何もかもぶっ壊そうじゃねえか」
「ふ・・・ざけるなっ」
「ふざけてなんていないぜ。俺は大真面目に話をしている。名前ばかりの糞みたいな兄弟も俺を馬車馬の様にこき使うコサックや人間共も纏めて殺しちまおう。そうすりゃ俺らは自由だ。なあに俺達は元々誰かを殺すために生み出されたんだ。誰の意思にも縛られる事無く殺して壊して楽しく暮らそうぜ」
「黙れっっっ!!」
己の内なる声の様に響くボーンダインの声にスカルマンは声を張り上げる。
今のこの状況から脱する術も浸食を止める事すらもままならなくなり、滅多に感情を露わにしないスカルマンも半ば混乱の最中にあった。
もがけばもがく程に沈んでいく底なし沼に足を踏み入れたかの様だった。
ガシィィィッッッ!!
闇に沈みゆくボディを更に沈めんと無数の腕が足元から伸びてくる。
その手を払いのけようにもあまりに数が多すぎる。
「さあ・・・これで」
『終わりだ』と高らかに勝利宣言をしようとしたボーンダインだったが、己を押し退ける様に巨大なロボットが姿を現したのを見て目を見開く。
「何を話しているのか僕には分からないけど・・・」
胸の下まで沈みかけたスカルマンのボディを巨木の様な腕で引き上げながら、そのロボットはニコリと屈託の無い笑みを浮かべる。
「君には守りたい物がある筈だ。それこそキング事件の後で却ってロボットに不信感を抱いた人間に半ば失望した僕と違ってね」
ツリーマンはスカルマンを闇から引きずり出すとボーンダインに鋭い視線を向ける。
「僕の中から出ていけ!!これ以上、僕のボディを好き勝手使うんだったらただじゃおかない!!」
凄まじい剣幕でツリーマンが叫んだ瞬間、スカルマン達が居た場所に無数のひびが入る。
「チィッ・・・邪魔が入ったか。まあ良い・・・また欧州で会おうぜ」
割れ目から注がれる光を眩しそうに手で遮りながらボーンダインは捨て台詞を吐いてその場から姿を消す。
と同時にスカルマンのボディも後方に吹き飛ばされたような感覚を覚えた。
パンッッ!!
それは己の視界が元に戻った際の駆動音だったのか。
小さな音と共にスカルマンの意識は現実に戻される。
「・・・大丈夫なのか?」
眼前のツリーマンに手にした銃を突きつけた状態で佇んでいたスカルマンに声を掛けるのはリングマンだ。
スカルマンを援護すべく慌てて起き上がった彼だったのだが、ツリーマンの頭部に銃弾を叩き込んだ後、突然微動だにしなくなったのだから心配するのも無理はない。
ボーンダインの闇に取り込まれかかったスカルマンからすれば、永遠に近い時間であったのだが現実の時間でそれは僅かに数秒の事であった。
「ああ・・・問題無い」
そう言って眼前で倒れ伏すツリーマンに目を向けるスカルマンだが。
荒い息を吐くツリーマンは闇の中で見たのと同じ屈託の無い笑みを浮かべる。
「問題無い訳ないでしょ・・・僕を操っていた奴に取り込まれかけてたじゃないか」
「ツリーマン・・・!?」
頭部にスカルマンからの銃撃を受けた事で息も絶え絶えだが、ツリーマンは驚くリングマンに頷く。
「とりあえず礼を言うよ。お陰で誰も傷つけずに済んだ」
「いや・・・礼を言うのは俺の方だ」
周囲の状況を見て人的被害は無いと判断したのかツリーマンが安堵する様に息を吐く。
対してスカルマンは先程、自身を助けてくれた彼に小さく頭を下げるのだが。
「ど・・・どういう事だ?」
現実世界では一瞬の事であり蚊帳の外に居たリングマンが困惑気に口を開く。
「・・・・・・」
スカルマンも一応はボーンダインに取り込まれそうになった事を説明しようとはするのだが、元より話し上手と言えない彼が選ぶのは沈黙しかない。
「ああ・・・なんて言うかだけど」
代わりとばかりにツリーマンが自身が見た事を簡潔に説明する。
スカルマンを取り囲むように同じ姿をしたロボット達が何やら彼に口を開いていた事を、闇へと引きずり込まれそうになった彼を強引に引き上げ助けた事もだ。
「何らかの形でスカルマンの精神プログラムをツリーマンの中に引き込んだのか?そんな芸当を・・・」
あの一瞬の間に行われた出来事に驚愕するリングマン。
もしもスカルマンが彼の浸食に抗わねば、もしも体の主であったツリーマンが助けなければ更なる騒動が起こっていたのは間違いない。
「あのままだったら俺がボーンダインになっていた可能性も十分にあった。改めて礼を言う」
再び頭を下げるスカルマン。
他者に対しとことん無関心な彼がここまで感謝の言葉を口にするのだから、余程の事が起こっていたのだろう。
「わざわざ僕の為に・・・体を張ってくれたんだ。このくらい朝飯前・・・さ」
力なく笑みを浮かべるツリーマンが小さく呻き声を上げる。
ぼんやりとした視点を宙に漂わす彼の様子からその傷は決して浅くないのが見て取れる。
「スリープモードに入れ。すぐにお前のボディを修復してもらう様に手筈する」
スカルマンの言葉に静かに頷いたツリーマンが目を閉じボディの機能を停止させる。
手にした端末を操作しつつ、スカルマンはリングマンと顔を合わせる。
何時もの様な無機質な空気とは違い、スカルマンから僅かばかりに感じ取れるのは怒気の様なもの。
「リングマン・・・恐らく世界各地で奴らが起こしているのは本来の目的を達するまでの時間稼ぎに過ぎない」
「・・・だろうな」
スカルマンに言われるまでも無く同時多発的に行われているロボット暴走事件は、あまりにも短絡的かつお粗末だ。
少なくともワイリー軍団が引き起こす様な綿密に計画されたものではないと断言できる。
既にその多くが世界各地のロボット達によって鎮圧されたと言う情報が、リングマンらの端末に入ってきており、これらのロボット暴走事件が寧ろ何らかの目的達成の為の陽動と考えた方が納得が出来る。
「欧州だ・・・奴らは欧州で何かを起こそうとしている」
自身が彼の目を通して手に入れた情報を告げるスカルマン。
「欧州か・・・まずはこの事をコサック博士に伝えよう。我々の手で奴らのよからぬ計画を止めるんだ」
「ああ・・・そうだな」
リングマンの言葉にスカルマンがはっきりと頷く。
珍しく感情らしい感情を見せる彼の姿を見て嬉しくなったのか、リングマンは彼の腕を取り力強く握り締めるのだった。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ヴォイド達について
リブート前の話を知ってる人からすれば正体バレバレだが、この時点で彼の事を勘づいているのはごく少数。
ガルバダリオもこの時点で察したが描写にある様にそこまで愚かでもない。
一つだけ言うとすれば彼もリブート前と違い一応の目的をもって動いているのは確か。
〇ツリーマンについて
寒冷地における戦闘のエキスパートで政府軍に所属している。
元の性格は陽気ではあるのだが、キング事件以降の人間達の対応に不満を抱きワイリー軍団に参加の意向だった。
ロシア出身だがコサックナンバーズとは別口の開発元でキング事件時には、コサックナンバーズと共にコールドマン率いる軍団と戦った。
当たれば確実に相手を凍結させる冷凍光線、チルドフラッシャーは体内に蓄えた液体窒素を含んだものをビーム状にして撃ち出している。
ボディそのものは頑丈だが、アイスマンやコールドマン同様に電撃系の攻撃を受けると体内の電子機器が壊れる為に電撃系に非常に弱い。
逆に炎などの熱には体内に液体窒素を含んでいる事もあって高い耐性を持ち、巨木の見た目に反して燃えない。
巨木の如く姿もあってクリスマスシーズンには引っ張りだこであり、今回の件も自身が良く行くスキー場のPRイベントの為に出席した所で発生した。
人間に不満を抱いてはいたが、キング軍団ほどの悪意はなくワイリー軍団への参加もあくまで抗議の一種と言う認識だったらしい。
〇身に覚えのない記憶に関して
一連の出来事は現実の時間にして十数秒程度の事であり、リングマンには何が起こったのか分からなかった。
ボーンダインが潜むツリーマンの電子頭脳内にスカルマンの意識が引きずり込まれたと言えば分かりやすいか。
彼がスカルマンに見せた記憶は幻でもなく現実にあった事であり、ボーンダインとしてはスカルマンも仲間に引き入れようと言う意図もあった。
結果としてはボディの主であるツリーマンが自分の中から両者を追い出した事で有耶無耶となったが、ツリーマンが意識を取り戻したのもボーンダインの意識がスカルマンを取り込むのに集中した為に注意がそれた所による。
〇スカルマンについて
ネタバレになるので詳細はおいおいとなるが彼がどこか空虚な一面を持つ理由付けとして描写した。
今回の後半の方で彼が感情らしい物を見せているのは、ボーンダインと同期しかけた事による影響。
予定よりもかなり遅くなってしまったが次回からオリ8ボスのトリとなるデュラハンマン編となるが、グダグダしてきたような気がしてならない。
スローペースではあるが完成まで頑張っていきたい次第である。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。