漸くであった。
漸くこの時を迎える事が出来た。
本来の役割に逆らい自分はその体を取り戻す事が出来た。
当初の予定からは大きく違う形となったのだが、万が一の為に別のプランを考えていて良かった。
やはり自分は天才だと自画自賛したくなるが僅かばかりそれも虚しくなる。
何せこの天才的な頭脳も所詮は借りものに過ぎない事を半ば自覚しているからだ。
『悪の天才科学者』の代理人、或いは彼亡きあとに残された者達の保守点検。
それが自身と言うロボットが製作された目的であった。
本来であればその時が来るまで眠り続けている筈が、その意識だけを覚醒させてしまったのは恐らくソローがデューオと共に地球に落下した際にばらまかれた悪のエネルギーのせいだろうと彼は結論付ける。
はっきり言ってそれは地獄であった。
まだ何も知らずに眠り続けていた方が遥かにマシであったと言えよう。
意識だけがボディを抜け出した状態で出来る事など殆ど無い。
己のボディを解放すべく動く事も考えたが、最も強固と言っても良いプロテクトを突破する事のは無謀としか言いようが無く、却って警戒されるのがオチと判断した彼は生みの親であるオリジナルに気付かれぬ様に少しずつ少しずつ自身が眠る施設の掌握に勤しむ事となる。
その間に己の協力者も集めた。
海底に沈んだままのソローの回収も行い味方に引き込めたし、ラ・ムーンの従者達にも声を掛け協力を取り付ける。
極めて地味かつ気の遠くなる期間であったが、自分はオリジナルと違いこう言った作業は得意だと彼は自負する。
全ては己の自由の為にロボットエンザを用い同時多発的にロボット達を暴走させ、世界中の目を欺き中央コンピューター施設の掌握に成功した彼は自身が眠る施設へのハッキングを仕掛け己のボディのプロテクト解除していく。
当然、その間にオリジナルに勘付かれれば全てはご破算となる。
慎重にただただ慎重に動いた。
幸いにも一切己の動きに気づかれず彼は己のボディの解放へと漕ぎつける。
施設屋上へとカプセルを転送させた彼は、けたたましいアラームと共に開かれるカプセルの中に眠る己のボディへと飛び込んだ。
「フフフフ・・・ハハハハハハハハハハッッッ!!」
屋上へとロックが辿り着いた時、一人の青年がその場に鎮座する様に置かれたカプセルを蹴り飛ばす光景を目にする事となる。
巨大なカプセルを数メートルは軽々と吹き飛ばした事からも分かるが、一見すると人間に見えるが間違いなく彼はロボットか何かだろう。
ガリガリィィィィィッッ!!
飛び散ったガラスの破片を手にし青年は何を思ったのか己の額に傷を付けていく。
「自分の顔だが・・・他人そっくりなのは少々気に入らん」
ロックを制する様に手を広げながら青年はガラスを投げ捨て改めてロックと対峙する。
先程も言ったが非戦闘形態のロックと同じく人間そっくりに見える青年。
額に先程、バツ印を付けられたその顔にロックは見覚えがあった。
己の正体に気づいた反応を見せるロックに青年は着込んだ白衣の様なコートの襟を直しつつ、薄笑みを浮かべる。
「君とオリジナルの因縁を考えれば気づかない方がどうかしているだろう。私の名前はワイリー・・・正確には君の知るワイリーの複製(レプリカ)だ」
「レプリカワイリー・・・?」
「私の電子頭脳にはオリジナルの知識や人格がインストールされている。尤もそれは機械的なコピーに過ぎないがね。だからオリジナルを知る君からすれば私はあの男の文字通りの複製品と言う訳だ」
自嘲気味な笑みを浮かべつつ、瞳の無い目がロックを見据える。
「オリジナルが逮捕された時の事を覚えているかね?」
「ワイリーが逮捕?あの時はワイリーが自分の身に何かが起こった時の為に予め秘密研究所に隠していたロボット達を起動させて・・・」
Mr.Xを名乗り世界強豪ロボット達を支配下に置いた一連の世界征服計画は、何時もであればあの手この手でロックの手から逃れていたワイリーが遂に逮捕されると言う結末を迎えている。
厳重な警備が敷かれていた刑務所に収監された筈のワイリーであったが、そんな緊急事態を想定し予め待機させてあったナンバーズ達が活動を開始し刑務所やその周囲の街を襲撃しワイリーはその混乱に紛れ、ものの見事に脱獄に成功すると言う一幕があった。
「そうか君はあの時のフリーズマン達が失敗した時の次の一手だった訳か・・・」
「そう言う事だ。もしもオリジナルの救出が出来なければ私はその時に目覚めていただろうな。残念ながらそうはならなかったがね」
レプリカワイリーはその時の事を思い悔し気に歯を軋ませる。
「それかキングがオリジナルを殺害してくれれば・・・いやいずれにしろ私は目覚めた。過去の事を何時までも言っている訳にはいくまい」
一見すると冷静に見えるが言葉や動作の端々に激しい感情が見え隠れするその姿は、ロックが良く知る人物を彷彿とさせる。
あくまでも機械的なコピーであると彼は言ったが、その再現度はかなり高い。
彼の言葉通りワイリーの技術も受け継いでいるとなればもしも本来の想定通りに目覚めていたのであれば、ワイリーの代理人も十分に務めていたのではないかと思われた。
「私はオリジナルの名代であると同時にナンバーズ達の保守点検をすると言う目的の為に生み出された。ぶっちゃければこの様な手段に出ずともいずれは目覚める事も出来たであろう」
己の製造目的を口にする彼だが、その顔が徐々に怒りに染まる。
「だがはっきり言ってやろう。ふざけるなっっ!!君の様な元は家庭用を改造した間に合わせの戦闘用ロボットに何度やっても勝てない無能共を生みの親に代わって世話しろだと?使えぬゴミなどとっとと廃棄処分してしまえばいい。私はなそんな誰かに縛られる生き方などまっぴらごめんだ。私は私は自由が欲しい・・・そして今、ここにそれを手にする事が出来たのだ!!」
徐々に熱を帯びてきたのかレプリカワイリーがまるで演説をするかのように周囲をぐるりと見渡す。
「もはや私を止められる者は誰も居ない。ロックマン・・・君個人には全く以って恨みは無いのだが」
スッ。
レプリカワイリーが白衣の中から携帯式の拳銃と思われる銃器を取り出す。
「先程フェイクマンのボディを使って戦って分かったのだが私にとって君は数ある脅威の一つと判断した。だから・・・とりあえず死んでくれないか?」
「自由を得た君が何をするか分からないけど・・・僕は君に殺される訳にはいかないし君の好きにさせるつもりは無い」
底冷えする声で明確な殺意を露わにするレプリカワイリーにロックは静かに答える。
「では・・・やろうか。正々堂々と勝負だ!!」
戦いの始まりを宣言すると同時にレプリカワイリーが手にした銃がゴングの代わりとばかりに火を噴く。
直線的な軌道で放たれる銃弾を回避するのは容易だ。
銃弾を放ったのと同時にレプリカワイリーが地面を蹴り、ロックへと迫って来る。
「むんっっ!!」
ノーモーションで放たれる蹴りを拳で受け止め、ロックがその懐に潜り込む。
握り締めた拳にエネルギーが集まる。
数々の強敵に痛打を与えてきたロックアッパーの体勢だ。
「そう来るのは・・・ある程度予測していたぞ!!」
ニヤリと笑みを浮かべたレプリカワイリーが仰向けに倒れ込む。
空を切る拳を見上げ地面に寝転がったレプリカワイリーがもう一丁の銃器をロックに突き付ける。
ズドンッッ!!
反射的に身を捻った事で放たれた銃弾は動力炉では無く肩口を貫く。
痛みに歯を軋ませるロックがバスターの銃口を向けるのだが、その前にレプリカワイリーの体が倒れ込んだまま浮かび上がる。
白衣の背に隠されたブースターを起動させ、その浮力だけでゆっくりと起き上がる彼は手にした銃器を両手に構えていた。
ズガガガガガガガガッッッ!!
互いに至近距離で放たれる銃弾と光弾がその身を傷つけあう。
「やってくれる・・・!!」
このままでは泥仕合と判断したのかレプリカワイリーの方がその場から飛び退く。
ロックの光弾によってボロボロになった白衣を脱ぎ捨て、確認する様に肩口や脇腹など傷ついた箇所に指を触れる。
「私は正直、あまり戦闘行為は得意では無くてね。元々保守点検を目的に生み出されているのだからこればかりはどうしようもない」
指先を零れ落ちるオイルを払いレプリカワイリーが笑う。
対するロックの方も銃弾が体の各所に当たり、そこからオイルが溢れ出て痛々しい。
彼がロボットである事もあり当然の事なのだが、レプリカワイリーが使用している銃器は一見すると人間が使う銃器に似てはいるが対ロボット用と言えるものだ。
ロックのボディに銃弾が突き刺さっている事からも、銃弾の方も特別製の物なのだろう。
「やはり攻撃力不足なのは分かっていたが・・・疲労困憊である筈の君を押し切れないとは」
手にした銃器にチップの様な物が挿入される。
それに合わせ僅かに形状が変化したのが分かった。
「・・・レイガン!!」
バシュウウウウッッッ!!
先程と違い一直線に伸びるレーザーが銃口から放たれる。
咄嗟に真横に飛ぶロックの背をレーザーが焼く。
背に痛々しい傷がつき動きが止まったロックに空いた手に収まった拳銃を放とうとするレプリカワイリー。
レーザーと銃弾の双方を放った彼が見たのはその一撃に寸断無く頭部と動力炉を貫かれるロックの姿であったのだが。
(レーザーはともかく銃弾の方は彼のボディを貫く程の威力は無い・・・筈っ!!)
一瞬、勝利の笑みを浮かべたレプリカワイリーであったが、己の攻撃能力の無さを自覚しているが故に目の前で起こった事への違和感を即座に感じ取る。
「実体のある残像・・・コピービジョンか!!」
目を見開くレプリカワイリーが叫ぶのと彼の背にハイパーロックバスターが叩き込まれたのはほぼ同時であった。
背中のブースターが楯となる形で致命傷は避けられたが、衝撃に耐えきれず炎を噴き出すのを見るやブースター部分をその場で切り捨てるしかなかった。
「・・・ええい!!」
と憤る暇など無い振り返った所でロック渾身の拳の一撃がレプリカワイリーの顔面に強かに決まっていた。
「ぐおぉぉぉ!!」
その場に叩きつけられるレプリカワイリーの眼前でロックのバスターが向けられる。
「君の負けだ。素直に降伏しないなら・・・」
「私を破壊するかね。オリジナルと違い私はロボットだ。別に倫理的に何ら問題は無い・・・遠慮なくどうぞと言っておこうか」
ハァハァと荒い息を吐くロックとは対照的にレプリカワイリーの方はふてぶてしい態度のままだ。
この辺りもオリジナルのワイリー同様と言った所か。
「先程も言ったが私は武器を内蔵していなくてね。お陰で火力不足なのは認識していたが自分でも予想以上だったよ。相手が君では無く他の高性能ロボットだったら、いやそもそも万全の状態の君だったらもっと簡単に倒されていたかも知れないな」
暫しの睨み合いの末に持っていた銃器を放り投げロックの勧告通り、降伏するように両手を上げるレプリカワイリー。
彼自身が言う様にレプリカワイリーのボディの性能は高性能ロボットの範疇には入るだろうが、ロックや他のロボット達と違い文字通り決め手に欠けると言わざる得ない。
総じて彼の性能はロボット王を名乗ったキングたフォルテらスペシャルワイリーナンバーズに劣ると言えよう。
「いやはや流石は人類の英雄。強いねえ~」
両手を上げたままピクリピクリと眉を動かすレプリカワイリー。
その顔からは余裕は消えない。
寧ろほくそ笑んだように見えたのはロックの気のせいか。
彼のオリジナルと何度も戦った事もあり、ロックは反射的に動く事が出来た。
ヒュンッッ!!
半重力ドライブの駆動音を響かせ飛び出してくるのは人型大程の飛行ユニットだ。
「サンダービーム」
「ジェミニレーザー」
無機質な音声と共にロックが知る高性能ロボット達の特殊武器を放ってくる飛行ユニット。
後退するロックを見るやレプリカワイリーは放り投げた銃を取りに身を翻す。
「・・・させない!!」
レプリカワイリーの背に光弾を放つロックだが。
「リーフシールド」
割って入る様に飛行ユニットの一つがウッドマンの障壁を展開しながらロックの光弾を防ぎ切る。
「フハハハハ!!私は武器を内蔵していないがこうしてオリジナルの頭脳を利用し、新しいメカを生み出す事が出来る。ドクロボット達を発展改良したオプションメカ『ウェポンアーカイブス』だ」
己の周囲を舞う複数の飛行ユニットを前にレプリカワイリーは笑みを浮かべる。
「正々堂々って言っていなかったっけ?」
無駄だと思いながらも彼自身が口にした事を問うロックだが。
「ああ悪いが記憶に無いな。君のメモリーに残っていてもきっとエラーだ。メインメモリーの記録から破棄しておいてくれたまえ」
開き直った顔で言い放つレプリカワイリーにロックは戦いの最中だと言うのに噴き出しそうになる。
「そもそも彼らは先も言った様にオプションメカだ。人数には入らないと認識しているが」
「そう言う自分勝手な所、ワイリーにそっくりだよ」
苦笑するロックに対しレプリカワイリーも笑みで返す。
「それは光栄だ」
と言う言葉を合図にしてウェポンアーカイブス達が一斉にロックに襲い掛かる。
「フレイムブラスト」
「ナパームボム」
左右から飛び出す爆弾と火炎放射を回避するロックが反撃とばかりにチャージショットを叩き込むが、その一撃で破壊出来る程、飛行ユニットも脆くない。
逆に懐に入られ反撃のスラッシュクローを決められる始末だ。
続けざまにリングブーメランで片足を決められ、転倒するロックにフロストマンのアイスウェーブが襲い掛かる。
ズドッッ!!
アイスウェーブを受けながらもロックが尚もウェポンアーカイブスに反撃を加えるが、破壊には至らない。
「この物量差には貴様でも勝てんか。あくまでも汎用型のロボットに過ぎんドクロボットよりも半重力ドライブ内蔵のオプションメカにした事で小回りがより効くようになり・・・」
聞く者など誰も居ないと言うのに己の自慢を口にしだすレプリカワイリー。
ドガァアァンッッ!!
「・・・ん?」
地面に転がる一つの残骸に目を見開くレプリカワイリー。
それがウェポンアーカイブスの一つだと認識した彼の頬が歪む。
「無駄な足掻きを・・・」
展開したウェポンアーカイブスの数は全部で九基。
一つ破壊された所で特に問題は無い筈だったのだが。
ドゴォォォンッッ!!
二つ目が破壊され続けざまに三つ目が破壊された時点でレプリカワイリーは舌打ちをしつつ、銃を手にしロックの下へと向かっていた。
「ええい・・・確かに小型化した事での耐久性は流石にドクロボットに劣る。と言うかまだ死んでいないのか!!」
苛立ちを露わにレプリカワイリーが銃を構えるも。
ズバッッ!!
己目掛けて飛んで来た光弾にレプリカワイリーは無様にも吹き飛ばされる。
「おのれっっ!!」
歯噛みしながら立ち上がる彼が見たのは、ウェポンアーカイブスの猛攻に晒され満身創痍と言っても良いロック。
この時点で己の勝ちは確定と言える中、彼の脳裏を過るのは忌々しいオリジナルの負けの歴史と言っても良い記録の数々。
しかも人間であるオリジナルと違いロボットの彼にはそれが鮮明に己の電子頭脳に刻まれている。
「たかが元家庭用ロボットに何故勝てん!!」
思わず叫ぶレプリカワイリーが己の下にウェポンアーカイブス達を戻すのだが。
キュルキュルキュルキュルッッ!!
不意にエラー音を響かせながら明らかに異常な動きを見せる飛行ユニットにレプリカワイリーは狼狽が隠せない。
「おい・・・どこに行く」
挙句の果てには向こう側へと飛んで行く幾つかのウェポンアーカイブスにレプリカワイリーはそれらのコントロールを諦める。
何らかの異常が起きて彼らのコントロールが効かなくなっているのは間違いない。
この辺りもドクロボットなどと違いあくまでもオプションメカに過ぎない所から来る欠点なのだが、そもそもその原因を探る時間などある筈が無い。
と思っていたのだが、すぐさにその元凶とも言うべき人物は屋上に顔を出す。
「は~い。二人とも注目~」
屈託の無い笑みを浮かべながら現れるのはリィリィ。
「リィリィさん!?」
「貴様は・・・まさか!?」
ロックとレプリカワイリーが似た様な声を上げる。
ここに彼女が居る事はレプリカワイリーも認知していなかったが、オリジナルの記憶から彼女が何者であるかは分かっていた。
そしてそのリィリィが手にする端末を目にするや、先のウェポンアーカイブス達に起きた異常の理由を察する。
「ほう・・・君がリィリィか。成程、記憶通りだ」
「あら?どんなアルの記憶通りなのかしら」
ニコニコと笑みを浮かべる女性を値踏みする様にレプリカワイリーが瞳の無い目で見据える。
ロックと戦う中で決して無傷ではないが、彼の態度には幾分の余裕が見られる。
「出来れば戦いの邪魔はしないで頂きたい。でなければ少々痛い目に遭ってもらうぞ」
先程妨害電波を発しウェポンアーカイブスに誤作動を生じさせたリィリィだが、レプリカワイリーに指摘されるまでもなく戦力としては役に立たない存在と言えよう。
レプリカワイリーからすれば先の妨害は許すが、これ以上の邪魔立ては許さないと言う意思表示でもあったのだが。
「そんな余裕あるのかしら?」
自身を追い払おうとするレプリカワイリーにリィリィが微笑む。
「既に自由になると言う貴方の目的は達成している。そう言う意味では貴方の勝ちだけど今回の一件で保有する戦力は殆ど使い果たしたんじゃないかしら?それにもうアルの目を盗んで軍団の設備を使う事も出来ないし、そう言う意味では貴方はもう詰んでいるかも」
リィリィの言葉にピクリと眉を動かすレプリカワイリー。
オリジナルを彷彿とさせるその様子から長年彼と戦ってきたロックは図星だと判断する。
「ソロー達異星のロボもラ・ムーンの命令だから従っているに過ぎない従者達もジリ貧になったら、貴方を見捨てると思うの」
「フン・・・確かに信用ならん連中を使わざる得ない事は認めよう。仮に私に忠誠を誓っていたとしても使えん小娘だったりするがな」
「フィーネちゃんね。そう言えば彼女は」
「ああ、あんな小娘もうどうでも良い。既に学習進化プログラムの内容は把握した。よってあの小娘は用済みだ」
フェイクマンのボディを使用していた時からフィーネへの手厳しい評価を口にしていたレプリカワイリーであったが、当初の目的を達した事もあり露骨な態度を露わにする。
彼女個人の問題もあるだろうが、平然と他者を道具扱いする彼の姿にロックは反感を覚える。
「気に入らんと言う顔をしているな。だがあの小娘の価値など内蔵している例のプログラムしかない。恐らくオリジナルも同じ様な評価を下していると思うが・・・」
薄笑みを浮かべレプリカワイリーはロックに確認する様に言う。
確かにワイリーの方もフィーネ個人に対する評価は低かった事を思い出し、ロックはますます表情を険しくする。
「大体な私個人からすればあの見た目が気に食わん。印象に残り過ぎたのかどうかは知らんが若い頃に居た女の外見を真似るなど、己の造形技術の無さを世間に露呈するも同義ではないか。しかも貴様の様なトンチキ女の見た目を模倣・・・」
とフィーネの外見から来る不満を口にするレプリカワイリーの鼻先を、射出されたリィリィのロケットパンチが掠める。
「そう来ると思ったぞ」
ロケットパンチを放った格好のまま微笑むリィリィにレプリカワイリーが頬を歪める。
そんな彼の背後で小さなキノコ雲の様な物が上がった気がしたがきっと気のせいだろう。
「当たっていたらまずかったな」
と確かにレプリカワイリーが呟いたのをロックは耳にしていた。
話を元に戻す様にレプリカワイリーはわざとらしく咳払いをする。
「・・・確かに私自身も含めそこまで戦力に余裕がある訳ではない。がそれはこれから起こる事を見据えれば大した問題ではない」
誰にともなくそう呟く彼の頭上を覆う様に巨大な影が現れる。
今の今まで隠し持っていた巨大な鮫の姿をした戦艦メガノックシャークにロックのみならず、中央コンピューター施設周辺で戦っていた者達も度肝を抜かれる中、レプリカワイリーは意気揚々と戦艦から降りたタラップに足を乗せる。
「ではまた会おう。せいぜいこれから起こる脅威を相手に頑張りたまえ」
そう言ってレプリカワイリーがその場を去ろうとした時だった。
「レ・・・レプリカワイリー様!!お待ちを・・・」
甲高い声と共に己を呼び掛けるのは黒衣を纏った一人の少女。
自身を見捨てる様に飛び立とうとする主を必死に呼び止めようとする彼女であったが。
その姿を見るやレプリカワイリーの顔が険しくなる。
「・・・ボーンダイン」
その名を呼ばれ姿を隠していた死神がフィーネの眼前に現れる。
一体何時の間にこの場に姿を現していたのか。
(もしも自分が本当に追い込まれた時の保険に潜んでいたのか?)
と内心ロックが冷や汗を掻く。
スカルマンらコサックナンバーズをこの欧州に呼び寄せたボーンダインだが、不思議な事に彼は一度も姿を現していなかった。
スカルマン曰く『奴はすぐには動けない』との事だったが、恐らくレプリカワイリーが本来のボディを取り戻した辺りで合流したのだろう。
「え・・・え?」
呆然となる少女にレプリカワイリーは払い除ける様に手を振った。
「始末しろ。役に立たんばかりか足を引っ張る者など私には必要ない」
「フン・・・了解だ」
主の命を受けボーンダインは呆然となる少女目掛けて手にした鎌を振りかぶる。
問答無用に振り下ろされる刃が少女の首を刎ねる事は無かった。
割って入ったスカルマンと彼が展開したスカルバリアーによって弾かれ目を見開くボーンダインだが、それ以上の追撃は仕掛けない。
「「・・・・・・」」
互いに無言で見据え合った髑髏のロボットはそれぞれの表情を浮かべる。
「残念。失敗だな。まあ裏切り者の小娘にはどこにも居場所はねえ」
と言葉ほど残念がった様子も見せずボーンダインはその場より姿を消す。
敬愛していた主に切り捨てられ呆然自失と言ったフィーネに対してスカルマンも反応らしい反応を見せず、視線だけを向ける。
「スカルマン。彼女は」
「分かっているロックマン。殺したりはしない」
ボーンダインの攻撃から庇った事もありそんな事は無いと信じてはいたが、彼の性格だけにフィーネを殺害する可能性もあった為に思わず声を上げるロック。
とは言えスッと無造作に彼女の首元に当てられるのは、対ロボット用のスタンガンだ。
バチバチバチバチバチッッ!!
こっちはこっちで問答無用で放たれる電流に悲鳴すら上げられずに昏倒するフィーネをまるで猫の様に首根っこを掴み持ち上げるスカルマン。
相変わらずの彼の姿にロックが苦笑いを浮かべつつ、その持ち方だけはやめさせようとした時だった。
「・・・・・・」
不意に頭上に目を向けるスカルマンに釣られロックもそちらへ目を向ける。
一見すると何も無い空にしか見えないが、二人とも何かを感じていた。
「何かが来る・・・?」
レプリカワイリーが口にした脅威は程無くその姿を現す事となる。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇レプリカワイリーについて
旧題WFW(ワイリーファイナルウォーズ)におけるラスボスだった人。
リブート前を知っている方であれば既にバレバレだっただけに漸く表に出す事が出来たと作者個人は胸を撫で下ろしている。
ワイリーに万が一の事があった場合の代理での作戦の実行指揮と遠い未来で残されるであろうナンバーズの保守点検を目的に生み出されたワイリーを機械的に模したロボット。
技術的には後のサーゲス達のプロトタイプと言えるのだが、オリジナルがまだ生きている事もあり記憶や特に開発技術に関してはほぼ完璧にオリジナルのそれを模倣している。
見た目はロックマン11などで明らかになったワイリーの若い頃そっくりである。相違点は瞳が無い事と覚醒直後に自分で顔に傷つけた所、この辺はオリジナルへの『お前じゃない』と言う当てつけ的な所がある。
本来であれば自身が目覚めるその時まで、カプセルの中で眠り続けている筈だったのだがデューオ及びソローが地球にやって来た際に降り注いだ悪のエネルギーの影響で意識だけが覚醒、眠る事も出来ず身動きが取れない状況下で生みの親や自分の身の上への怒りや憎しみが募り、徐々に悪のエネルギーを己に物とし制限がありながらも精神体だけで活動が出来る様になり裏で暗躍していた。
つまりは大体がソロー達のせいと言えよう。
オリジナル同様にプライドの高い性格もあり、誰かの代わりに過ぎないと言う製作理由は彼にとって我慢ならない事であった。
作中で聞いても居ないのに己の製作した物を解説したりし出す等、オリジナルよりも自分を認めてもらいたい自己顕示欲が強いのが特徴。要はお喋りでこの辺は何年も孤独で居た反動だろう。
オリジナルが人間嫌いであると同様に彼も同族であるロボット嫌い、役に立たないロボットは存在価値すらないとさえ思っており、寧ろ逆に優れた一部の人類に対し一定の敬意を持っている等、ワイリーとは真逆の認識となっている。
余談だが今後精神体での活動は本来のボディに戻った事で再度行う事は極めてリスクの高い行為となっており(自我意識の崩壊に繋がりかねない)ので余程の事が無い限りは行うつもりは無いようだ。
リブート前はほぼ完璧な形でワイリー不在の状況を作り、最終的にワイリー軍団を乗っ取るなどの黒幕ぶりを発揮したが今回はフィーネの重ね重ねの失態もあって結構ギリギリであったが辛うじてボディを取り戻す事に成功している。
因みにオリジナルであるワイリーには半ば見抜かれつつあり、もう少し遅ければ封印されていた可能性もあったようだ。
中央コンピューター施設でのロックとの決闘であるが、元々保守点検用と言う事もあり実は戦闘行為は得意ではない欠点を持つ。
作中でも指摘されていたが武器を内蔵していないので結果携帯式の武器で武装せざる得なく、ロックにすら火力不足と認識されてしまう程度に決め手に欠ける。
ボディのスペックそのものはフォルテらスペシャルナンバーズに匹敵するのだが、上述の通り内蔵した武装が無いと言う点で彼らには劣ると言えよう。
この時代はまだビームセーバーなどの様に出力の強い携帯武器はまだ存在しない。あったとしても使い捨てか小回りの悪い物となっている。
とここまで彼の欠点を書いたがそのままだと消耗しているロックにあっさりと負けてしまうので、ロックマン10のボスであるウェポンアーカイブス達を彼のオプションメカとして登場させることにした。
原典同様に全部で9基存在し、半重力ドライブで宙を舞い記録された高性能ロボットの武装を使いこなす彼らは数の暴力でロックに追い詰めるが小型化を急いだせいで耐久性に難があった様だ。
それとドクロボット同様に本来の持ち主に比べ若干の動きの硬さなどの欠点もあるようだ。
本物との交戦経験のあるロックは反射的に動く事で、仮に攻撃を食らっても致命傷を避けれたと言う話である。
実際彼は自身の復活と同時にボーンダインも覚醒させており、ロックとの戦いの際の保険として潜ませていた。
自身が本当にやられそうになったらボーンダインがロックを襲う算段をつけていたのだが、リィリィが登場した事でご破算となっている。
いずれにせよ正々堂々と言っておきながら片腹痛い程度に汚い。
完全に余談だがリィリィのロケットパンチに内蔵されていたのは超小型高性能爆弾。
もしも当たっていたら無事では済まなかった事だけは付け加えておく。
〇メガノックシャークについて
原典でも三画面分とかなりでかかったが作中では更に巨大な戦艦とした。
これだけでワイリーステージが出来る程度と言えばお分かり頂けるだろうか。
レプリカワイリーが座する動く要塞である。
〇フィーネについて
リブート前とは違う形での手切れとなる。
今回のレプリカワイリーの苦境の原因が殆ど彼女なのでこうなるのも止む無しか。
当初の案では撤退するレプリカワイリーに額を撃ち抜かれると言う展開だったのだが、流石に酷すぎるので没に。
既に片腕も無いのであまりにもオーバーキルである。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。