メガノックシャークの巨影が眼前を過ぎ去っていく。
あれだけの巨大さでありながら今の今まで誰も気づけなかったのは恐らく何らかのステルス機能を有しているのだろう。
その予測が正解であると告げる様に戦艦の姿が徐々に周囲の風景に溶け込んでいく。
屋上の床に座り込んだまま、それを見送る事しか出来ないロックだったが彼の意識はメガノックシャークではない別の所へと向く。
既に中央コンピューター施設での戦いも終息に向かいつつある中、彼やスカルマンは何も無い筈の空から何かを感じ取っていた。
「・・・いきなりピラーなのね」
後ろでぼそりとリィリィがそう呟く。
彼女の言葉の意味を問う前に遥か彼方の空に光る物体をロックらの目が捉える。
当然だがロック達がカメラアイで直接見た物ではない。
連邦政府が衛星軌道上に設置した偵察衛星が捉えた映像が直接流れて来たのだ。
突如として宇宙から舞い降りた巨大な水晶はまるで杭の如く地面へと突き刺さる。
その水晶を追う様にして次々と地上に降下するのは数隻の船団である。
船団の艦を見たのは初めてであったが、その形状にロックは見覚えがあった。
「もしかしなくても・・・」
思わず呻く様な声を上げロックは振り返るスカルマンに己の推論を告げる。
「あの宇宙から降りて来た船・・・ルーラーズ達と同じ文明の物だよ」
<聞け・・・この星に住まう原住生物達よ!!>
猛禽類を思わせるアーマーを身に纏った壮年の男性の姿をしたロボットが世界中の電波をジャックし演説を始める。
<プラント船に居た者共の話では既に我らの存在は知られていると聞くが改めて名乗らせてもらおう。我らはスペースルーラーズ。この大宇宙を支配する者である。そしてこの私は大オリュンポスの第8先遣艦隊を指揮するテーベだ。既に貴様らの大地に我らの領土の証たるピラーは突き刺さった。無駄な抵抗は止め、大人しく我らに屈するが良い>
テーベと名乗るロボットの演説の中身自体はそれこそワイリーが世界征服計画の際に行う物と殆ど変わらない。
とは言え軍団規模の宇宙から敵に侵略を受けるのはロックは勿論の事、連邦政府も初めて経験する出来事だ。
突然の侵略者の登場に当然の事ながら大混乱となる訳で。
「やいやい!!どういうこった!?」
中央コンピューター施設での戦いを終えた者達が修理を受ける中、作業室に入って来たワイリーの姿を見つけるや喧嘩っ早いカットマンが彼に詰め寄る。
ワイリーの足元でシャドーマンが僅かに殺気を生じさせるも、それを気にするカットマンではない。
「あのレプリカもそうだし新しくやって来たルーラーズもお前が裏で糸を引いているんだろ!?」
「そうじゃったら今頃、ワシはお主らに対し宣戦を布告しておるわ。全く想定外も良い所じゃよ」
カットマンに対し若干苛立った様にワイリーも返す。
「ワシら人類が居る様に地球外文明・・・それこそこの宇宙のどこかにルーラーズの同胞が居るのは分かってはおったがな」
『まさかこのタイミングで来るとはの』とワイリーは独り呟くと歯噛みする。
「恐らくワイリースターも奴らに掌握されたと見て間違い無いじゃろう」
本来であれば彼らの接近を真っ先に告げる筈のワイリースターから何の報告も無かった事から、ワイリーは絶望的な予測を立てる。
「ワイリースターの基幹部分はサンゴッドやアース達を収容していたプラント船じゃ。自慢ではないがワシですらどういう原理であれだけの巨大な建造物が動いておるのか全く見当もつかん。それにあれの管理もアースに丸投げじゃったからの~」
開き直る様に言うワイリーにカットマンが尚も食って掛かろうとするが。
ズンッッ!!
巨大なボディで二人の間に割って入るのはラルゴだ。
「今、ワイリー様に詰め寄って解決できる状況ではない。ライトナンバーズよ、これ以上文句があるなら我が相手しよう」
まだ兜の修復が終わっていない事もあり、素顔のままではあるがもう一人のロボット王に凄まれカットマンも渋々下がるしかない。
「カットマン、流石に今回ばっかりはワイリーの仕業じゃないよ」
「とか言ってキング事件の時はどさくさに紛れてお前の命を狙ったじゃねえか」
カットマンをロックが宥めるのだが『人が好過ぎる』と彼は呆れた様に言う。
対してワイリーは明後日の方向に目を向け眉を動かしていた。
「それにしてもあの柱はなんじゃ。ルーラーズの文明はある程度調べてはおったが柱に関する情報は一つも無かったんじゃが」
「いやだから本人らが居るんだったら全部聞いておけよ」
腕を組み唸るワイリーにカットマンが至極尤もな突っ込みを入れる。
『おおそうじゃった』とわざとらしく言うワイリーが若干気まずそうな顔をしているネプチューンらに近寄っていく。
「お主ら、あの柱はなんじゃ?」
ワイリーにそう問われネプチューンとマースは互いに顔を合わせるもすぐに口を開こうとしない。
主であるワイリーに続いてロックらに近寄って来た事もあり、ネプチューンは観念した様に息を吐く。
「あの柱は・・・この星の言葉に言い換えるならエネルゲンピラー。アタシ達の母星であるオリュンポスが征服の証として星に突き立てる旗の様な物よ」
「いきなり大胆な事をするのう。まだワシらと戦ってすらいないと言うのにもう勝利宣言か」
「あの柱はただの旗じゃないんですよ。あれが星に突き刺さったと言う事は」
ネプチューンの説明に鼻を鳴らすワイリーにマースが訂正をしようとするも言葉に詰まる。
「だからあの柱に何の意味があるのかワシらにも分かる様に説明せい」
肝心の部分を話そうとしない二人にワイリーが苛立った様に問い詰めた時だった。
「あの柱は征服の証であり、一種の信号発生装置だぁ。あれが刺さった時点でこの宇宙を放浪するあいつらの同胞達にこの星の存在を知られちまったって事だ」
何時の間にかその場に居た闇色の巨漢が面白げに言う。
「ソ・・・ソロー」
ワイリーも含めた多くの者が面食らう中、ロックだけがその人物の名前を言う。
レプリカワイリーに従い中央コンピューター施設で政府側と戦いを繰り広げた彼は、その後駆けつけたデューオと激闘を繰り広げていた筈だ。
アルゴスを始めとしたラ・ムーンの従者達はレプリカワイリーの撤退と共にその場を退いた事はロックも聞いていたが、そう言えばこのソローがどうなったのかは聞いていない。
てっきり同じように退いたと思っていたのだが、どうやらそれは違ったようで。
「ガーッハッハッハッハ!!まさかお前らの残党がまだ残っていたとはな。本星も崩壊したって言うのに相変わらず健気なこった」
豪快に笑うソローは唖然とするロックらを気にした様子もない。
「つまり・・・じゃ。実際にどれだけおるかは分からぬがあの柱が地表に刺さっておる限りお主らの仲間達が次々とこの星にやってくると」
ソローの言葉を反芻しワイリーが恐る恐る尋ねるのだが、ネプチューンがはっきりと頷く。
事の重大性を認識した悪の天才科学者は『ムムム・・・』と唸り出すとやがて『ちとトイレじゃあ』と叫ぶやその場を走り去ってしまう。
「さっきデューオの野郎にも言ったがルーラーズの本隊が出て来た以上、一時休戦だぁ。あいつらを潰すのが俺様の使命って奴なんでなぁ」
ソローが残っている片手を広げロックらに言う。
「て言うかよ。お前らの艦隊、想定でどれだけ残ってやがるんだ?」
ネプチューンらを見下ろし問いかけるソロー。
ロックらは詳しく知らぬが互いの星同士で星間戦争をしていたと言う間柄もあって、両者の間にはギスギスした物が生じる。
「本星が崩壊した混乱もあるが宇宙艦隊がどれだけ残っているのかは俺らも知らない。そもそもこの星に来た連中は俺らの本星がもう無いって事を理解しているかも疑問だ」
マースの言葉に『だろうな』とソローが淡々と返す。
明らかに悪くなった空気を打ち消す様にロックが両者の間に割って入る。
「あの・・・なんて言うか君達が仲間である彼らを説得すると言うのは」
「「無理だな(だわ)」」
同胞であるのだから話が出来るのではと一瞬考えたロックだったが、当のマースとネプチューン双方から否定の言葉が投げかけられる。
「兵隊連中はもれなく思考制御されてるからだろぉ。お前らの星の連中は指揮官型ぐらいしか戦っても面白くねえ奴ばっかりだったからな」
顎に手を置き思案する様に目を細めるソローはネプチューンらの反応を楽しむ様に言う。
(俺様やこの星の連中と変わらない反応か。こいつらは思考制御されていない・・・て言う事はそれを解除した奴がいるって事か)
先程廊下ですれ違ったワイリーの姿を思い出しソローは内心でほくそ笑む。
「まあ暫くの間だがよろしくな。一応は仲良くしようぜぇ」
本来であれば有無を言わさずに殺し合ってもおかしくない関係だけにソローのわざとらしい言葉にネプチューンらは苦笑を返す他無い。
「いずれにせよ。相手は以前のアタシ達よりも厄介よロックちゃん」
そう言ってネプチューンが片目を閉じた時であった。
ドゴオオォォォォンッッ!!
不意に施設全体を揺るがす轟音にロックらは互いの顔を見合わせていた。
「ニャンニャンニャンッッッ!!」
喧嘩した猫の様な甲高い声を出しながら政府軍の施設内をひた走るのは子猫の様に見えるロボット。
スペースルーラーズの一人、プルートは半ば強引に施設の扉を突き破るや制止する兵士らの言葉も聞かずにワイリーの姿を追い求める。
「博士博士!!大変ニャッ!!」
騒ぎを耳にしたのもあるが引っ込んでいたトイレから出て来たワイリーを見つけるなり、彼女は勢いそのままに彼の下に転がり込む。
ゴロゴロゴロゴロッッッ!!ガンッッッ!!
彼女の体当たりをまともに受けたワイリーは、そのまま二人一緒に数メートル後方へ転がってしまう。
「大変ニャ!!大変ニャ!!」
「ううん・・・大変なのは分かっておる」
倒れ込む己の上に乗り飛び跳ねるプルートにワイリーは一瞬だが走馬灯の様な物を見てしまう。
そもそも並のロボットですら破壊される筈のプルートの体当たりを受けて尚も無事でいるワイリーの頑丈さが驚異的なのだが。
「全く・・・もって想定外じゃが。かつてロックマンがお主らを倒した様にワシらが力を合わせれば、新たなルーラーズなぞあっと言う間に」
政府軍の兵士らがその場に集まる中、ワイリーが半ばパニックとなるプルートを落ち着かせようと己の考えを口にするのだが。
ズルッッ・・・。
「ニャンッッ!!」
甲高い悲鳴をプルートが上げたのと同時に彼女がワイリーの体を更に数メートル吹き飛ばす。
一体何がと思う間も無くプルートの背からオイルが飛び散り、そればかりかプルートを追ってやって来た政府軍のロボット兵のボディが左右にずり落ちる。
「プルート!!」
慌てて彼女の下に駆け寄るワイリーが見たのは気配も無くその場に佇む一体のロボット。
プルートをそのまま大人びた様な外見にしたロボットは表情を変えずにプルートとワイリーの下に歩を進めようとする。
(こ奴ら・・・もしかせんでもプルートを追いかけて来よったのか!?)
気を失ったプルートの腕を掴みながら後ずさるワイリー。
ガキンッッ!!
主の危機にワイリーの影に潜んでいたシャドーマンが手にした刃でロボットに襲い掛かるがそれは軽々と受け止められる。
「ワイリー博士。プルートを連れお下がりを」
シャドーマンに言われるまでも無くこの場に於いて足手纏いでしかないワイリーは負傷したプルートを抱えその場より逃げようとするのだが。
ボコボコボコボコボコッッ!!
足元にいつの間にか生じていた液体が急に沸き立つ。
「・・・ぬうっ!?」
思わず目を剥くワイリー。
液体が盛り上がりそれが人型のロボットに変じるのに数秒もかからない。
この様な特性を持つロボットはワイリーが記憶する中でもルーラーズのマーキュリーしか居ない。
がそれが同時に二体も現れた事でマーキュリーその人ではないのを悟る。
「「・・・・・・」」
マーキュリーと同型のロボット達は言葉を発しない。
それどころか表情一つ変えずにワイリーとプルートに腕を伸ばさんとする。
「・・・ええい!!」
後ろに下がろうとするワイリーだが、二体のマーキュリーの同型機を前にしては僅かな間しか稼げない。
マーキュリーもそうだったがその液体金属製のボディは殆どの攻撃を無力化してしまう上にそれが複数体で居るのだから堪らない。
「ニャアアァァ!!」
目を覚ましたプルートが反射的に両腕の爪を振るうもあちらは一切のダメージを負わない。
逆に無感情な目と共に掌を向けられプルートが全身の毛を逆立たせる。
マーキュリーの必殺武器であるスナッチバスター。
一見するとただの光弾なのだが、命中した相手のエネルギーを奪い取る恐るべき特性を持った武器だ。
軽量化の為、ボディが小型化されておりエネルギー量が少ないプルートにとっては天敵とも言えるタイプと言えよう。
「ニャイッッ!!」
挙句に分裂させたボディで両足を絡められ盛大にその場に転倒した事もあって、プルートが観念した様に目を閉じた時だった。
ヒュンッッ!!
呻くワイリーの傍らを一陣の風が通り抜ける。
ザンッッ!!
プルートに掌を向けたルーラーズのボディが真横に切り裂かれる。
当然液体金属製のボディを持つルーラーズにとってダメージとは言えないが、突然の攻撃にボディの再生が僅かに遅れる。
返す刃でもう一体のルーラーズの頭が斬り飛ばされるも、それも飛ばされた先で再生が始まる。
「早く立てい小娘」
軍服を着た女性型ロボットが反り返った刃を手にプルートに言う。
慌てて立ち上がったプルートはワイリーを守る様に両腕の爪を構える。
「お主は・・・」
目を見開くワイリーを一瞥し次に再生が始まったロボットに斬撃を見舞うのはロボットアーミー内で空軍を統括するコードなる人物。
オクターヴ同様にキング事件の際には虎の子とばかりに温存されていた高性能ロボットの一人だ。
「・・・斬る!!」
ザンザンザンザンザンッッ!!
目にも止まらぬ速さで振るわれる刃にマーキュリーの同型機達もそのボディを掌サイズにまでバラバラにされてしまう。
尤もその状態からでもくっつけば再生してしまうのが彼らの恐ろしさなのだが、一呼吸の間に分解され続ければそれ以上は何も出来なくなってしまう。
「・・・ふう」
小さく息を吐くコードだが彼女の両目は敵を捉えて離さない。
(あれが連邦政府肝入りの連中か。成程、キング軍団にロックマンやワシらが負けた時の保険に取っておこうとした気持ちは分からんでもない)
内心で面白くなさそうに鼻を鳴らすワイリー。
話によればオクターヴ同様に彼女にも動力炉に超エネルギー元素が内蔵されていると聞く。
それが本当であれば彼女は理論上半永久的に動く事が出来る為、己の攻撃が通じにくい相手に持久戦を選択したのも分かると言えよう。
「ワイリー博士。ご無事で何よりです」
コードが敵に斬撃を振るうのを確認しつつ、ふらりとその場に現れるのはオクターヴだ。
彼はロック達もこの場に集まりつつある事を告げるとワイリー達の前に進み出る。
「そのくらいで結構ですよコード」
「・・・はっ」
オクターヴに声を掛けられその場から下がるコード。
攻撃の手が緩んだ事もあり、当然の事ながら人型に戻ろうとするロボットであったが。
・・・スッ。
上半身だけの状態で動こうとしたルーラーズを真上から覗き込むオクターヴ。
『一体何を』とワイリーやプルートが思った時であった。
「悪い事は言いません。『退きなさい』」
オクターヴから言い放たれる力ある言葉にマーキュリーの同型機達の顔が強張る。
元々無表情だった彼らに浮かぶ明らかな動揺の色。
「そこの彼一人を相手にするだけでも梃子摺ったのですよ。私や今、ここに駆け付けようとしているロックさんや天敵であるソローさん達を相手に今の貴方達だけで果たして勝てるでしょうか?よく考えた方が宜しいかと」
何時もの笑みと穏やかな口調で相手に話すオクターヴ。
彼の言葉に僅かに間を生じさせた二人だったが即座にボディを分裂させるやその場から逃げ去る。
その動きに気づいたのかプルートと同タイプのロボットと対峙していたシャドーマンが一瞬の隙を衝いて一気に手にした刃を押し込む。
両腕の爪を交差させ刃を受け止めた彼女が尻尾から光弾を放つ事でシャドーマンを後方に退かせるのだが。
ズドッッ!!
「・・・!!」
目を見開く彼女の片足にシャドーマンが放ったシャドーブレードが刺さる。
「光弾を放つ時にその動きが止まる。プルートと同じ欠点を持つようでござるな」
僅かに片目を閉じ不敵に笑うシャドーマン。
対してルーラーズの方は表情を変えないまでも憤った様に全身の毛を逆立てた時だった。
「丁度良い。貴女には悪いが我々に『投降して頂きましょうか?』」
何時の間にか背後に居たオクターヴに肩を掴まれ再び力ある言葉が発せられる。
「少なくとも貴女も含めた多くの者達は私の言葉に逆らう事は出来ない筈です。捕虜としての待遇は保証いたしますので」
己に振りむいた豹型の少女ロボに穏やかな口調で語りかけるオクターヴ。
先程、マーキュリーの同型機達を退けた事もそうだがオクターヴのその不思議な力にワイリーがピクリと眉を動かす。
一見すると無意味な説得の様にも聞こえるが、肩を掴まれたままの体勢で全身をわなわなと震わせるロボットの様子を見ればオクターヴが何かをしたのは間違いない
声こそ発しなかったものの、気合の一声の様な息を吐きオクターヴの手を払い除けるロボット。
彼に向かい合う形で飛び退く彼女だが、片足にシャドーブレードが突き刺さっている事もあり先程までの俊敏さは無い。
いずれにせよ彼女がこの場から無事に離脱出来る事は無いだろう。
「もう一度言いましょうか。『私達の捕虜となり貴方達の情報を・・・』」
再度、目を怪しく輝かせオクターヴが『命令』を発した時であった。
ズンッッ!!
僅かに息を呑む様な気配を生じさせたと思われた瞬間、ロボットが両手を握り締め己の胸に爪を突き立てる。
深々と胸元に食い込んだ爪はその下にあった動力炉を破壊する。
勝ち誇った様に笑ったのだろうか。
一瞬だけそんな目となったロボットがその場に崩れ落ちる。
「・・・やれやれ。思考制御された状態で意に沿わぬ命令を下すと自決しようとしますか。情報漏洩に対する対策も考えられているようですね」
動力炉から漏れ出る血の様なオイルが床を汚す中、オクターヴが困った様に肩を竦める。
一体何が起こったのか分からない状況でワイリーが顔を顰めオクターヴを見据える。
「ワシも疑問に思っておったんじゃよ。そこのコードやらダカーポの様な超エネルギー元素を搭載した程度の高性能ロボットなら科学省お抱えの二流科学者共でも製造できる。じゃが貴様レベルの超高性能ロボットを開発設計するのはワシやライト・・・最低でもコサック程度の能力を持つ科学者が開発に加わらねば無理じゃ」
『じゃがその様な話は聞いてはおらん』と付け加えつつワイリーはその指を柔和な笑みを浮かべる青年に突き付ける。
「私の設計には貴方の学友であったリィリィ博士が加わっていますが・・・」
「じゃったら今頃お主は五体満足で存在しとらん。まあ多少は手を貸しておるじゃろうが・・・」
オクターヴの後ろでコードが刃を手にしようとするがその動きは彼女の足元で殺気を生じさせたシャドーマンによって妨げられる。
「お主、聞くまでも無くあれのコピーか?」
「ははは・・・流石はワイリー博士と言っておきましょうか?と言うか以前よりある程度は察していたのでは?」
悪の天才科学者の問いにロボットアーミーの司令官は普段閉じられている目を開き、満面の笑みを浮かべる。
その笑みにはワイリーにも見覚えがあった。
何せあの時自分は危うく死にかける所であったのだから。
「残念ですがコピーと言うのには誤謬があります。私のボディその物は地球産の技術で製造されていますので安心してください。原理も分からないのにそっくりそのまま造り上げたら『我が前には破壊あるのみ』とか言い出してたかも知れないんですから」
渋い顔となるワイリーにオクターヴは白い歯を見せ笑う。
対してワイリーも鼻を鳴らすとその眉をピクリピクリと動かすのであった。
「いやあ面白くなってきたね」
周囲にあるスピーカーからクラシックの音楽が流れる中、一人の人物が椅子に深々と腰掛け言う。
<いきなりピラーまで使われているのに?>
「既にこの星の文明がある程度自分達の事を把握している判断したなら恐らく彼ならそうするだろうとは思っていたがね」
ケタケタと笑う青年にモニターの向こうの女性も特に表情は変えない。
女性の言葉も文面だけ見れば非難している様にも取れるがあくまでも確認していると言った向きが強い。
「まあいずれにせよ・・・だ」
大きく伸びをし青年は腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「彼らは自身らでも名乗った様にあくまでも先遣艦隊に過ぎない。その程度の敵を自分達の力で追い払えないようならこの星が生き残る価値なんて無いと言っても良いのさ。まあ私はロックマン達が勝つと信じてはいるけどね」
屈託なく笑いながらもその言葉は極めて非情な響きを以て紡がれる。
<弱肉強食は宇宙に行っても通じる真理って事ね。まあ分かったわ。じゃあ私達も今ある我々の力で彼らをなんとかするとしましょうか>
ハァと溜息を吐きつつ通信を切るリィリィ。
青年の方は指先を動かしモニターの映像を切り替え、文字通りの高見の見物を決め込もうとした時だった。
ボアアアアァァァァァ!!
背後で炎が巻き上がり巨大な火球が出現する。
だがただの炎ではない。
もしもその炎が本物であれば一室にある機器などは容易く燃えていただろう。
「ああ・・・アポロゴーストか。お疲れ様~ご苦労だったね」
ニコリと笑みを向ける青年にアポロゴーストは人型へと変じその場に跪く。
「・・・・・・」
跪いたままの体勢で微動だにしない己の分身はさておきである。
彼はアポロゴーストの背後へと視線を移す。
「私の分身を追って来たんだろう。出ておいで」
「・・・フン。敢えてついて来れる様にしておいて良く言う」
音も無くその場に現れる影は三つ。
その内の一体、全身が氷に覆われた巨人が生体部分の眼球を細め言い放つ。
ラ・ムーンらと同様にこの星に巣食う人造神マ・キーナに仕える従者の一人、ユミールだ。
「おや?確認された所では現在活動しているマ・キーナの従者は君一人だけだった筈。今回の事態を受けて他の二人も慌てて起こしたのかな?」
南極の地下にある嵐の神殿で眠りについていた筈の二人が居る事に気づき、青年はユミールに問いかける。
青年の言葉の色にはどこか喜びの色さえ含んでいた。
「それもあるが貴様個人とこうして会うのは極めてリスクが大きいからな。常に戦い続け損耗しある程度の弱体化が図られているデューオやソローと違い、今のお前は力を温存しほぼ万全の状態だ。我ら三人がかりでも果たして勝てるかどうか」
「アハハハハ・・・賢明な判断だね。まあ私も粗悪な整備状態から覚醒して万全じゃない状態でロックマンに負けたからね。あの時に比べれば今の私は連邦政府のお陰で遥かに調子は良いと言えるね。それこそ分身のアポロゴーストだけでもお釣りくらいは出るんじゃないかな?」
ユミールの言葉に僅かながら殺気を生じさせる青年に場の空気が張り詰める。
「今はそんな事やってる暇はなかろう?」
今まで黙して居た従者の一人が進み出る様に両者の間に割って入る。
無骨な西洋甲冑に身を包んだ従者アマダスに続き海賊を思わせる鎧を身に纏った従者エイリークも腕を組み頷く。
「そうだよ。内輪での喧嘩なんか誰も得しやしないさね」
くぐもった低い声を響かせエイリークは装甲の向こうで鼻を鳴らす。
「そうだね。そこの彼女の言う通りだ。私も君達やマ・キーナなる主と戦うつもりは全く無い。何せこの星の人間やロボット達の事を学んでいる最中なのだから」
暗に今襲来しているルーラーズ達は自身にとっても想定外の事態である事を示しつつ、異星の人造神たる青年は大きく溜息を吐く。
「な~に先遣艦隊程度の戦力でこの星は落とせないさ。それよりも私も興味があったんだ。君達がこの星にどのくらいの影響を及ぼしていたのか。人間達も記憶していない部分の歴史を私に教えてくれないかな?それが出来るくらいの時間はたっぷりある筈だ」
屈託の無い満面の笑みを向けられ、ユミールら従者は若干困惑するがそれを断れば面倒な事になると判断し己が知る限りの話をし始めるのであった。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ネオスペースルーラーズについて
ネオと言っても地球側から見ての『新たなる』スペースルーラーズと言う意味合いが強い。
リブート前では一世紀後のAD21××年代に襲来していたので先遣艦隊だけとは言え一世紀早くの襲来となった。
ゲーム中に登場するワイリー軍団の兵器でも規格外と言えるワイリースターも基幹部分はルーラーズの文明が有していたプラント船と言う設定。
現在のワイリースターはワールド5に相当する事件で一度サンゴッドの自爆に巻き込まれ崩壊したのだが、基幹部分は勝手に再生を始めておりそこから改めて造り直している。
作中でも言われている通りワイリーですらどうやって動いているのかよく分かっていないのもあってアースに全ての管理を任せていたのが今回のポカに繋がった。
〇先遣艦隊について
数隻の巡洋艦と駆逐艦で構成されている艦隊でルーラーズの文明における最小の戦力単位。
最小の戦力と言っても文化レベル的に数段上の存在である為に、彼らだけでも十分に地球の危機と言っても過言ではないだろう。
主な任務は銀河辺境の探索及び資源になりそうな星を見つける事。
エネルゲンピラーと呼ばれる水晶で構成された柱を星の地表で打ち込み、柱から発せられるエネルギー周波によって銀河中に散らばる仲間達にその星の位置を教えると言う迷惑以外の何物でもない兵器を運用する。
本来であればこの様な大袈裟な兵器を運用せずとも制圧は可能と判断しただろうが、地球人が既に自身らの文明の事をある程度知っている事もあって艦隊司令のテーベが使用を決断した。
因みに艦隊司令のテーベはジュピターの指揮官タイプ。
以前にも描写したが彼らルーラーズは物を造ると言う概念を持たない為、ピラーも使い切りの兵器であり艦隊を構成するロボット含め先遣艦隊そのものが一種の使い捨ての戦力ともいえる。
ネプチューンも指摘したが彼らが自分達の母星が崩壊した事を認識して居るかは不明である。
そもそも認識した所で新たな命令を下されていない事もあって侵略を辞める事は無いだろうが。
兵隊タイプのロボットに施されている思考制御に関しては次回にでも。
〇コードとオクターヴについて
リブート前だと殆どモブに近い人物であったので今回改めて設定し直した。
後のレプリフォース初代空軍提督に位置する人物。
後任のフレーヴェルスと同様に剣客タイプで一応は女性。
彼女も含めた三軍の長はオクターヴ同様に超エネルギー元素内蔵の為、ルーラーズの追手に対し立ち回る事が可能。
オクターヴに関してリブート前の小説では戦闘シーンが一切なく後の時代では既にいなくなっていたりと司令官であると言う設定以外なかったので前回のラルゴ戦に続き今回描写した。
ワイリー自身は半ば気づいていたが、気象コントロール装置を内蔵していたりと属性こそ違えど、オクターヴのボディのベースの部分は件の彼を地球産の技術で再現した存在である。
以前の後書きにも書いたが彼がその力を最大限に発揮すると自分自身のボディが負荷に耐えきれないなど、地球産であるが故の弱点もあるのであしからずである。
この辺のコンセプト及び欠点は後のイプシロンなどと同様となっている。
〇最後の人物と従者について
既に正体はほぼばれているだろうが彼である。
詳しい経緯は次回にでも持ち越そうと思う。
アポロゴーストも彼の力の一部を切り取り独立させた存在であり、彼は己の存在を隠しつつ見物を決め込んでいた。
尤もソローやデューオなどには「こいつこの星のどこかにいるな」と思われていただろうが。
ユミールらにも言及させたが彼やデューオらはラ・ムーンと同格の存在であり、ユミールやアルゴスなどの従者はその下と言うカテゴリーに値する。
それと今回登場させたユミールと同じ従者の二人だが色々あって名前を変更している。
リブート前のがキャラ付けに失敗したってのもあったり・・・。
元ネタはそれぞれデルザー軍団のヨロイ騎士、磁石団長。
両者共に無機質で装甲系な見た目をしている。
エイリークの方は一応女性人格である。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。