新たなる宇宙の支配者を名乗る者達の襲撃は事前の警告も無く行われた。
彼らが異星の文明の者達である事を考えればそれはある意味で当然の事であっただろう。
東欧にある都市郊外の平原に深々と突き刺さった水晶の柱はまるで地面に根を張る様に変形を始める。
半ばそれ自体が一つの生き物の様に無数に枝分かれした大木の様な形になるや、それを追いかける様にして異星の文明の艦隊が次々と飛来して来る光景はどこぞのパニック映画を彷彿とさせる。
都市に居た住民達は当然の様に我先にと逃げだしたのだが、その間何故かルーラーズ達が動かなかったのは一つの幸運と言える。
飛来したルーラーズが都市部に軍勢を進めそこを占拠したのは住民達の多くが逃げ出した後であった。
そんな中で更なる異様な光景が展開される事となる。
内陸部である筈の都市に迫る巨大な津波。
局地的に発生したそれはまるで意思を持ったかのように一直線に都市部に流れ込む。
駐留していたルーラーズも驚く様な反応を見せる中、都市を浸水させながら姿を現すのは一隻の帆船。
時代錯誤な大航海時代を思わせる船体の登場に現地に潜入していたスネークマンは思わず頭を抱えた。
「何だってんだよ・・・」
都市の至る所にサーチスネークを放ちその映像を自身やワイリーに送り続けていた彼だが、どうもここ最近己らの常識が通用しない事が起こり過ぎている様な気がする。
「アタイの名前はエイリーク!!偉大なる神マ・キーナ様に仕える従者が一人。ルーラーズだが何だか知らないけど、この星はアタイらのモンさね。とっとと出ていきな!!」
宙を舞う艦船の中から次々とロボット達が飛び出してくる中、エイリークと名乗ったこれまた海賊風の姿をした人物が声を大にして叫ぶ。
くぐもってはいるがその声からすると女性と思われるが、言うまでも無く彼女は人間やロボットなどと言う存在ではない。
「奴らマ・キーナの従者を名乗っていやがる。マ・キーナと言えばプロトの爺さんらが南極で遭遇したラ・ムーンと似た様な存在だと思われますが・・・」
<成程・・・ルーラーズが出て来た事でこの星での自分達の取り分が少なくなると奴らは判断した様じゃな。ワシの世界征服を邪魔する不安要素がまた増えたわい>
通信機の向こうに居るワイリーが己の推論を交えつつスネークマンに言う。
その間にもサーチスネークの視界を通じてスネークマンには次々と情報が飛び込んで来る。
「撃ちな!!」
「「アイアイ!!アイアイサー!!」」
船員と思われる風貌の眷属達が主の号令を受け船体に備え付けられた大砲を撃ち放つ。
今では骨董品に近い物と思われるそれは遥か上空に浮かぶ船体に命中し撃沈にこそ至らぬものの、少なからずの損傷を与えていた。
「今ので貫いていた筈なんだがねえ。あいつらもアタイらと同じ楯を持つって訳かい」
自身らの砲撃を受け尚も形を保つ駆逐艦を見据え、ルーラーズ達が自身やその船体を覆う障壁を持つと判断するやガード達に命じて船を旋回させる。
それに遅れる様に駆逐艦から無数のビームや爆雷が降り注ぐのだが、ビルの谷間に逃げ込んだエイリークの船はそれらをやり過ごす。
「ニャハハハハ!!数百年ぶりのお祭りさね。楽しくなってきたよ」
エイリークは上空から襲い掛からんとする異星のロボット達に歓喜の声を上げる。
手にしたサーベルでもって船の上に舞い降りた鳥や牛の様な姿をした者達を斬り捨てながらエイリークが上空を見上げた時だった。
ズゴゴゴゴゴゴッッ!!
不意に船体が大きく揺れる。
顔を険しくさせ真下の水面を見据えた彼女はそこに無数の影が蠢くのを目にする。
「下にも居たのかい?」
ギロリと水面を睨んだ彼女は無造作に指を振るう。
その次の瞬間、まるで水が意思を持ったかの様に渦を巻き堪らず半魚人の様な姿をしたロボット達が浮かび上がって来る。
これらの映像を見ているスネークマンは水中に潜んでいたのはネプチューンの同型機達だと思ったのだが、彼女の方がそれを知る筈も無い。
「あらよっと!!」
船体に置かれていた予備の錨を拾い上げるやエイリークは大きく振りかぶる。
「ワイルドォォォバンカァァァ!!」
渦に巻き込まれ身動きが取れない者達が投げ放たれた錨の一撃で次々と粉砕されていく。
「舐めるんじゃないよ。七つの海を荒らしに荒らしたこのアタイに水の上で勝てるとは思わない事だね」
くぐもった笑い声を響かせながら己の意思で自在に水を操り復活した伝説の海賊は我が物顔で水没した都市の上を往く。
ザバーンッッ!!
そんな折、水面に水柱が立ち昇りその中から一人のロボットが甲板に飛び乗る。
「アイアイ!!」
ジャキンッッ!!
ガード達が一斉に抜刀しその切っ先を向けてくる中、上陸した海賊風の姿をしたロボットは不敵な笑みをエイリークに向ける。
キング軍団の幹部で今は一応連邦政府に協力しているパイレーツマンだ。
「お初にお目に掛かるで~アンタが伝説に謳われる大海賊エイリークやな?」
「アン・・・誰だい?どうやら空の上から来たのとは違う奴らみたいだけど」
変わらず刃を構えるガード達を下がらせエイリークが頭一つ分小さいパイレーツマンを見下ろす。
「ワシの名前はパイレーツマン。これでもそれなりに海の上で名を売っとるもんじゃい」
「フン・・・同業者かい。まあどっちにせよ空の上から来た連中を倒したら次はアンタらがアタイの標的さね。奪って殺してシャブリ尽くしてやるよ」
その凶悪性を隠そうとせず豪快に笑うエイリークだが、寧ろパイレーツマンは喜んだように片手を握り締める。
「それこそが海の漢の本懐じゃい。伝説に聞く通りの強欲ぶりでワシは感動したで!!なあ~坊ちゃん提督~!!」
パイレーツマンの言葉にエイリークは顔を顰めていた。
彼の視線を追う様にして顔を向けた先に居たのは軍服を着た少年の様な風貌をしたロボット。
ロボットアーミーの海軍を率いるシェンドだ。
少年の風貌とは対照的な鋭い瞳をエイリークに向けた彼は手にした三又の槍を肩に担ぐやエイリークを見上げる。
(ユミールの奴が言っていたね。前回暴れた時と違って人間共も文明レベルを上げて来たって・・・)
「スペースルーラーズを撃退するまでの間で構わない。エイリークとか言ったなその間、我々への攻撃は控えて貰おう」
刺す様に言い放たれるシェンドの言葉に小さく舌打ちをするエイリーク。
彼女の殺気に従う様にガード達が再度臨戦態勢になるのだが。
「いいさね。一時的な協定と行こうじゃないか」
薄笑みを浮かべるエイリークの背後で再び水柱が発生する。
第二陣とばかりにルーラーズの軍団が飛来してきたのだ。
「じゃきにぃっ!!戦争じゃい!!」
「侵略者共にロボットアーミーの恐ろしさを思い知らせてやる」
「ニャハハハ!!一応は頼りにしているよ」
三者三様に身構えた彼、彼女らは迫りくる敵を前に啖呵を切るのであった。
「古き神マ・キーナの従者エイリーク。都市部を水没させながらルーラーズと交戦続けています」
連邦政府の上層部が集まる中、司令室にもたらされる情報に何人かの高官が頭を抱える。
「漸く中央コンピューターの件が片付いたと思ったら今度はルーラーズに古き神々の従者だと。何がどうなっているのだ!!」
(そりゃワシの方が聞きたいの~)
高官の言葉を受け内心で嘲笑いながらワイリーは会議など興味ないとばかりに手元の端末を操作する。
そんな彼の態度に何人かの視線が強くなるが悪の科学者であるワイリーがそれを気にする事は無い。
「都市部に壊滅的な被害は出ていますが幸いな事に市民の避難は完了していますし、それとその従者のお陰でルーラーズの動きはあそこに釘付けとなっています」
高官の一人であるマッコール内務大臣が冷静になる様に周りを宥める。
「全く人的被害は少ないとは言えあの都市を元の形にするのにどれだけの財源が必要だと思っているのだ」
財務大臣であるマッキンリーが今にも電卓を弾かん勢いで叫ぶ。
「それにロボットアーミーは何をしておる。聞けばお前達が派遣したシェンドはあろう事かあのパイレーツマンと共にその従者と行動を共にしておると聞く」
細身で神経質な男の糾弾にドゴール軍務大臣は自慢の顎髭に指で触れつつ、重々しく口を開く。
「マッコール大臣が指摘した通り、現在その従者はルーラーズの方を攻撃しています。下手にこちらが手を出せば奴らとの三つ巴になる・・・我々の犠牲は最小に抑え込みたいと現場が判断したそうです」
重鎮の大臣らがあれやこれやと激論を繰り広げる中、連邦政府大統領のエドワード=テイラーは無言だ。
互いに立場も支持母体も違うが故に大臣らが対立的に議論を繰り広げる中、彼の視線はどこか違う所にある様に思えた。
まあそれはライト博士と共にその場に居るワイリーも同上であったのだが。
「ロックマンへのロックンアームの装備は終わったのか?」
「以前にやった事だ。あの時よりも早く終わった」
囁く様に問うてくるワイリーにライト博士も小声で答える。
スペースルーラーズに対する知識を乞われアドバイザーとして呼ばれている二人だが、こんな不毛な議論を聞くぐらいならさっさと自分のロボット達のメンテナンスを行いたいと言うのが本音であろう。
「核兵器を使うべきでは!?相手は国際条約に該当しない異星の文明ですぞ」
「そんな事をすれば我々の信用は地に堕ちる。ただでさえ都市一つが壊滅状態なのですぞ」
こう言った時にすぐに大量破壊兵器を使いたがる者が出てくるのはどうしてなのか。
確かキング事件の時も同じ様な事を言う奴がいたなと両博士は内心で思った。
「無駄じゃよ。ルーラーズやあの従者達を含めた者らが持つ不可視の障壁。確かラ・ムーンの従者は『神の楯』と言っておったか。あれを強引に突破するにはメガトン級の核兵器が数発必要じゃ。はっきり言って割に合わんぞ」
『しかもある程度のボディの欠損は再生するしの~』と付け加えるワイリーに何人かの者達が不快の念を露わにするが、その空気を察したライト博士が慌てる様に司令室のモニターに詳細なデータを表示させる。
「そこでかつてのルーラーズ事件の際にロックマンに施した様に我らのロボットのボディ、ないし武装に超エネルギー元素を含んだ結晶を搭載します。これによって彼らの障壁を中和し無力化する事は可能です。核兵器を使うよりも効率的な成果が出るかと」
補足する様にライト博士が言うのだが、それを聞くや『それ見た事か』と大臣や議員達が再び相手を非難し合う状態となる。
「まあまあ皆さん、まずは落ち着いて」
いがみ合う大臣や議員らを仲裁する様に口を開くのは一人の女性議員。
彼女も本来であればこの様な場に呼ばれる筈が無いのだが、暴れている従者達と繋がりを持つが故に呼ばれていた。
ロシアの馬鹿夫妻の片割れであるナターリヤ=エフレーモフだ。
「さっき夫から連絡がありまして南極で会った事のある従者の一人ユミールちゃんとコンタクトを取る事に成功しました。必ずしも言う事を聞いてくれる保証はありませんけど当面は私達とは敵対しないとの事です」
ニコニコと笑みを浮かべる彼女に何人かが呆れた様に溜息を吐く。
「なので政府軍の皆さんは彼らに攻撃しないでくださいね~」
「了解した。ご協力感謝する」
ナターリヤにドゴールが小さく敬礼を返す。
それに対し顔を真っ赤にするのはマッキンリーだ。
「フン、胡散臭い存在に協力を仰ぐなど、人類政府の名前が泣くわ」
吐き捨てる様に言い放つ財務大臣の隣の席に座るマッコールが苦笑いを浮かべる。
「とりあえず当面は時間稼ぎが出来ると言う訳だ。出席頂いた博士達には早めに本来の仕事をしてもらいたいのでここで博士達から事情の半分も分かっていない我らにスペースルーラーズや古き神々とはそもそも何なのか説明してもらおうか」
再び会議が踊りかけたのを見計らいエドワードが今まで閉じていた口を開き話をワイリー達へ振る。
(半分も分かっていないじゃと・・・片腹痛いわ)
対してワイリーの方は半ば冷めた様な視線を送るがそれが挑発と受け取ったのかマッキンリーが青筋を浮かべるのが見えた。
説明用に何枚かの資料を用意していたライト博士とは対照的にワイリーの方は端末一つを持つだけで殆ど手ぶらに近い状態であった。
そんな対照的な姿も政府高官に反感を抱かせるのだが、この男がそれに取り合う事は無い。
ライト博士と目配せをするワイリー。
「あ~ではまずに説明致しますと・・・」
大まかな説明はライト博士に任せ自分はその補足をする。
大学時代から変わらぬ形で居並ぶ者達に二人の天才は何十年かぶりの講義の様な物を始めていた。
「あ~肩が凝ったぞい!!」
政府高官らへの説明を終えワイリーがわざとらしく声を上げながら用意された椅子に座る。
そもそも尋常の存在ではないルーラーズ達の説明は長丁場となり、さしもの二人も疲れが見えた様子であった。
近くに居たスナイパージョーの一人に肩を揉ませる中、ライト博士もロールが出したお茶を飲むや深々と息を吐いていた。
世界規模での戦いが再び起こった事もあり、ライト博士は自身の研究所に居るロールやライトット達と言った者達を己の下に呼び寄せている。
先の一件で一般市民に対するロボットへの反感が強くなっている事もあり、自身が留守の間に身の危険が生じる可能性があったからだ。
「おい娘。ワシにもお茶を出さんか。砂糖一杯のレモンティーをご所望じゃあ」
「ったく自分でやるか自分とこのロボットにやらせなさいよ」
「か~可愛げが無いの~」
誰にも優しいと言える気質の彼女だが、悪の科学者であるワイリーには基本的に塩対応だ。
舌を出したままその場を後にするロールにワイリーが大きく鼻を鳴らす。
気まずいと感じたのかジョーの一人がワイリーにお茶を用意すべくカップを用意し始めた時だった。
「た・・・大変ダス!!」
作業室に居たライトットが慌てて外へと飛び出してくる。
そんな彼を突き飛ばしその姿を現すのは十代半ばの豹の様な姿をした少女型ロボット。
先にワイリースターから脱走したプルートを追いかけるもオクターヴによって無力化され拘束されていたルーラーズの一人だ。
「フーフー!!」
牙を剥きながら威嚇をするその姿はネコ科の猛獣を思わせる。
彼女やプルートの外見を見るに彼女らの母星にも似た様な猛獣は存在したのだろう。
「ほう・・・もう目覚めたか。一応拘束はしておったんじゃが」
彼女自身が自らの爪で穿った胸部の傷跡と四肢に付けられた拘束具の残骸に目を向け独り呟く。
「はは・・・博士!!すぐに避難を」
何人かのジョーがワイリーとライト博士を守るべく楯を構え即席のバリケードを築く。
「いんや・・・その必要は無い」
ジョー達に下がる様に合図をしながらワイリーはあろう事か少女の方に近づいていく。
「自分でも驚いておるじゃろ。自害をした筈の自分が何故?・・・とのう」
『まあ予備の超エネルギー結晶があったからじゃが』と付け加えつつ、ワイリーが目配せするやその場に無言でいたラ・トールが進み出る。
「そこのラ・トールは技術体系は違えどお前さんらに匹敵するスペックを誇っておる。そればかりかここにはデューオやソローもおる。敵地の奥で孤立したお前さんの脱出は不可能じゃ」
既に逃げ場がない事を指摘するワイリーに少女の方が歯を軋ませる。
「脱出が不可能であったとしても、この私が大人しく捕まったままでいるとでも思うのか!!」
今の今まで言葉を発しなかった少女が話し出した事でその場に居た者達が驚いた表情をする。
「まあ一つ話を聞け。既にお主の『思考制御』は解除しておるのじゃ。聞く耳ぐらいはもっておるじゃろ?」
「・・・ッッ!!」
聞き慣れない言葉にライト博士が振り返る。
「アース達を解析して既に分かっておる事なんじゃが。どうもこ奴らを生み出した異星人共は配下であるロボットによる反乱を内心では恐れておったらしい」
ライト博士に横目を向けながらワイリーは言う。
如何に高度な文明を築こうともその精神性は必ずしも比例しない。
スペースルーラーズ達を生み出した異星人は彼らに『物を造る』と言う概念を持たせない事で自身らに依存させる状態を作り出し、更に思考制御と言う枷をかけていた。
要は与えられた命令以外の事を考える事が出来ない様にロボットの思考に制限を設けていたのだ。
アース曰く彼女の様な部隊や艦隊を指揮する者は柔軟な思考能力が必要であった為に制御は掛けられていないそうだが、一般的な兵士ロボットにはもれなくその殆どが思考に制限が掛けられていたのだと言う。
感情に左右される事も無く己の性能を最大限発揮しただ淡々と侵略をする彼ら。
極めて合理的な兵器の運用方針と言えよう。
ワイリーも何度かライトナンバーズを始めとしたロボット達を洗脳し世界征服計画に用いた事はあるが、ここまで強固なものではなかった。
とは言えアース曰くそれが彼女らにとって当たり前の事で地球のロボットの運用方針がおかしいと言えたらしいが。
(あの時、たまたま最初に解放したのがアースで助かったわい。でなければワシは奴らに殺されていた・・・)
始めてあの漂流するプラント船の中でルーラーズが入っていたカプセルを起動させた事を思い出す。
気の遠くなる時間、放置され続けたアースが上半身だけを起こしレーザーの照準を頭部に向けられた瞬間、足元の影に潜んでいたシャドーマンが動くも彼女がその気になればあの瞬間に撃ち抜かれていただろう。
手を広げ『待て』と言い放った時に彼女の動きが止まったのが幸いであった。
後から聞いたのだがこの時アースの方は、ワイリーの言葉を理解出来なかったらしい。
身振り手振りであれやこれや話す彼の様子や周囲の状況から聡明な彼女はある程度、己らの状況を把握し少なくともワイリーが自身に危害を加えようとしている訳ではないと判断したとの事だ。
異星のロボット相手にもある程度のボディーランゲージは通用する事の証明なのだが、ワイリーの様な命知らず以外は止めた方が良いだろう。
カプセルから取り出したアースを回収し修理する過程で他のルーラーズも起動させていくワイリーであったが、この時点で彼らが地球のロボットに比べ明らかな違いがある事に気づく。
起動し覚醒した直後に彼らから見れば異星人であるワイリーに敵意を向けるのはまだ分かる。
アースに『動くな』と命令されるやそのまま一切微動だにしなくなったのだ。
当初は意識を強制的にシャットダウンでもしたのかと思ったが、こちらの動きを目線で追いかけて来るので彼らの意識はあるのが分かった。
意識はあるのだが思考制御を掛けられていた彼らは動くなと命令を受けた事でそれ以上は何も出来なくなっていたのである。
アースから思考制御の件に関し説明を受けた事もあって、真っ先に彼らをその枷から解放する事となる。
不幸か幸かは分からぬが、これらの行動によりワイリーはアース以下の面々の信頼を勝ち取る事が出来たのであった。
「今のお前さんには思考の制限は掛けられていない。現にワシの言葉に明らかな動揺を示して居るではないか」
勝ち誇る様にワイリーは少女に向けて言い放つ。
「感情があると言う事は怒りは勿論の事、恐怖や怯えもある・・・もう一度自害出来るかの?」
片目を閉じながら『するなら好きにせい』と言わんばかりのワイリーの言葉に全身の毛を逆立たせる少女。
オクターヴに命令を受けた時も似た様な反応を示したが、その顔に浮かぶのは明らかな緊張と躊躇いの念だ。
「・・・止めろ。お互いに無駄な争いはしたくない筈だ」
ラ・トールがぼそりと言う。
僅かに殺気の籠った言葉に少女がキッと睨み据えるがそれまでである。
「何故だ・・・我が星の仲間が何故、お前の様な縁も所縁も無い奴に従っていたのだ?」
「そりゃあワシが悪の天才科学者だからじゃあ!!だーっはっはっは!!まあ良い娘よ、聞けい!!」
ビシッと指を突き付けワイリーが続ける。
「悪い事は言わん。折角捕虜になったんじゃお前さんはワシに協力せい!!そうすれば酷い扱いはせんわい。それにお主らには信じられんじゃろうがそこのワシのライバルであるライトが造ったロボットはあのサンゴッドを打ち破ったのだぞ」
こういう時のこの男の調子には敵わないとライバルと名指しされたライト博士は一人溜息を吐く。
『サンゴッド様を!?』と驚く少女に更にあれやこれや一方的に話し出すワイリー。
恐らく彼女もこの男に言い包められるのだろう。
この手の半分冗談、半分本気な話をする際に彼の右に出る者は居ない。
先程の講義の様な会議の一件も含め、ライト博士は懐かしい過去を思い出してしまう。
「・・・・・・」
ライト博士らの手によって改めてロックンアームを装備したロックは確認する様に何度か掌を開いたり閉じたりする。
敵は軍団規模のスペースルーラーズ。
しかもあくまでもワイリーの世界征服計画の一環だった事もあり、ある程度この星の事情に合わせて攻撃を仕掛けて来たかつての彼らと違い彼らは初っ端からエネルゲンピラーを地表に突き刺すなど地球の被害などお構いなしに攻撃を仕掛けてきていた。
それに加えマ・キーナなるラ・ムーンと同じような存在に仕える従者達も暴れているとあってはロックも今まで以上の危機感を覚えてしまう。
(今までの様な常識は通用しないか。そう思えばまだレプリカワイリーの方が敵としては普通だったと言えるかも知れない)
今回の一件に前後してその姿を消したレプリカワイリーだが、屋上での戦闘でリィリィに指摘された様に彼は己のボディを解放する為に保有していたその戦力を殆ど使い果たしている。
現在の地球上の混乱もあって彼も行動不能となっているだろうとはオリジナルであるワイリーの言。
既に彼からは世界中に隠されたワイリー軍団の秘密基地を扱える権限を剥奪したとの事であり、そうなる前に彼自身が築いたであろう拠点に引き籠るしかない。
ロック自身もワイリーの言葉を全て信じる訳にはいかないが、当面の敵は新たに出現したルーラーズである。
再び装備したロックンアームから視線を離すと壁にもたれたエンカーなどの姿が見える。
「懐かしの武器って奴か?」
「出来れば二度と装備したくなかったけどね」
エンカーの言葉にロックは苦笑する。
「そりゃ俺らも一緒だ。あん時はコピー軍団で纏めて相手しても敵わなかったからな」
「本当に俺らの暗黒時代ッスよ。スランプッス」
ワイリースターでの決戦の事が脳裏を過りエンカーとバラードも同じ様な顔となる。
あの時、完膚なきまでに敗北しエンカー達ロックマンキラーズも思う所があったのか、以前に比べ執拗に自身に勝負を挑んで来る事が少なくなったように思える。
まあ今は彼らの代わりにフォルテがロックに喧嘩を売っている様な状況なのだが。
そのフォルテは思った以上に傷が深かったのか今は作業室で修復を受けており、すぐには戦線に復帰する事は出来ない状態だ。
彼の事であるから修復作業が終わればすぐに飛び起きて来るだろうとロックは思っている。
その後も他愛の無い話をしていたロック達であったが。
「・・・・・・」
そんな中で終始無言のままその場に佇むのは見るからに凶悪そうな姿のロボット。
先の作戦にも参加していた筈のパンクであったが、あまり活躍したような話は聞いていない。
元々弁が立つ方ではないが威圧的な風貌の彼が黙り込むとそれだけで場の空気が張り詰める。
「あの・・・パンク。多分だけどフィーネちゃんの事だよね?」
エンカーらは敢えて触れない様にしていたが、ロックが恐る恐る彼に問う。
彼の言葉にパンクは唸る様に声を出すもそのまま黙り込んでしまう。
数々の失態でレプリカワイリーから見限られた彼女は今、この施設で拘束されている。
「こういう時、どうすれば良い?」
絞り出すように出された問いにロックも黙り込む。
「製作しておいてその存在をうっかり忘れていたキングの場合だったらまあ何割かは博士にも過失があるがな」
「軍団を裏切ったとは言えあくまでも打倒ロックマンを掲げてキング軍団に参加したテングマンとは訳が違うッスよね」
『何せガチで組織に対して背信行為を働いてるからな』と付け加えるエンカーとバラードにパンクの表情が更に暗くなる。
その時になって気づくが彼ら二人も悪の組織の一員である。
彼女の事を話す二人は表情こそ笑ってはいたが、その目は一切の感情が籠っていなかった。
「殴ってしまえばいいのか?罵ってやれば良いのか?それとも・・・」
彼女の教育係を務めていた事もあり、パンクの苦悩は計り知れない。
加えてワイリースターに居るアースがどうなっているのか分からない事もそれに拍車をかける。
「・・・それは」
パンクが思い悩んでいる事が分かるだけにロックも言葉を選ぼうとするが。
「だったらさっさと会いに行きなさいよ」
男子四人が唸る中、顔を出すのはロールだ。
彼女はロックにE缶を手渡すと腕を組みパンクの前に立つ。
「私もある程度話は聞いているけど、兎にも角にも悩んでるくらいなら直接会って思っている事を言ってやりなさい!!それで彼女が反省しないなら放っておけば良しだし、謝って来たなら許してあげれば良いじゃないの!?」
半ば強引なロールの言葉にエンカーが『あー。いやうちらの事情も』と言いかけるが彼女に睨まれ黙らされる。
「と言う訳で行くわよ。ついて来なさい!!」
「あ・・・ああ」
己の腕を掴むやフィーネが拘束されている独房のある場所に向かっていくロール。
簡単に振り解く事が出来る筈の家庭用ロボットである彼女の腕に引きずられるパンク。
その光景に苦笑いを浮かべながらロックもその後を追う。
場に残されたエンカーとバラードは有無を言わさぬロールの行動力を見て思うのであった。
間違いなく彼女はあのロックマンの妹なのだと。
何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。
〇ネオスペの初手について
東欧の都市近くにエネルゲンピラーを展開した後にすぐさに都市を襲撃しなかったとあるがこれはピラーが完全に根を張り展開するまでは攻撃に対して脆弱である為。
一度展開するとピラー自体が高純度の超エネルギー結晶となり、障壁を展開するのだがそれまでの状態であれば現行の通常兵器の破壊は容易となっている。
その為、当初地上に降下した艦隊はピラーを守ることを優先しており結果として都市部の住人の避難迄の猶予があった。
〇エイリークについて
マ・キーナの従者の一人。元ネタはデルザー軍団のヨロイ騎士。
海水を含めた水と言うかあらゆる液体を己の意思通りに使役する能力の持ち主で沿岸部で集めた海水で人為的な津波を引き起こし己が乗る船と共に上陸し降下したルーラーズと交戦を始めた。
一見すると時代遅れに見える帆船だが船自体が彼女のボディの一部扱いでもある為、障壁も含め強度は規格外となっており撃ち放っている砲弾も同上で遥か上空にまで届く。
都市の中心部を水没させながらの活動となっているが彼女からすればそんなことは知った事ではない。
彼女からすれば自分ら一味以外は奪う対象なだけなのだ。
〇閣僚の皆さんについて
マッコール内務大臣はロクフォルのコミックから引用となった。
何時もの事だが優秀な人も居れば無能な人も居るが連邦政府なのでそんなものである。
核兵器に関してはキング事件の際にも議題に挙がったが、敵方のキング軍団がその手の兵器を使わなかったので使われる事は無かった。
と言うか使ったら逆に使われる口実にもなる。
そもそもキング軍団からすれば人間の駆逐にそんな大層な物を使う必要すら無かったのだろうが。
〇ルーラーズやラ・ムーン達に対する一般的な認識
キング事件の際に既にワイリーが入手していたルーラーズの資料などは流出しているのだが、規格外の天才と言えるワイリーが書いたものであり他人に見せる様な物では無いので文字の羅列に近い所もあるのであしからず。
科学万能の時代に古き神などと言われてそれを信じるかと言われればNOであろう。
一種のオカルトとなってはいるが一連の件もあり眉唾な存在ではなくなってしまった。
〇思考制御について
ルーラーズの一般的なロボットに施されている枷の一つ。
既に彼らが物を作る概念を持たないのは作中で明かされているが指揮官型を除きスペースルーラーズの面々には命令に従う事しか考えられない様に思考に制御が掛けられている。
当然の事ながら配下であるロボットに反乱を起こされ無い為であるが、ワイリーが世界征服計画の際にロボットに施した洗脳のそれよりも強固である。
指揮者に死ねと言われれば死ぬし自害せよと言われれば自害する。
この時に支配下のロボットがどのような感情を抱いたところで無意味であり、躊躇なくその命令を実行してしまう。
ただ思考制御の仕組み自体は電子頭脳近くに埋め込まれたチップ(と言って異文明の我々からすると謎の金属の板にしか見えない)によって施されていると言う簡易的な物であり、仕組みさえ理解してしまえばワイリーでなくても呪縛から解き放つ事が出来る。
そもそも命令通りに破壊活動を行うルーラーズを捕縛できる文明などまず居ない訳でワイリーが回想した通り、たまたまとは言え幸運であった。
〇プルートの同型機について
今回は名前は出なかったがヴァヴァ編に登場するティスカトリとなる。
ルーラーズ同様にフライング気味な登場となった。
〇ロックンアームについて
自分作品ではルーラーズ事件の際にロックに搭載された武装だが、単純に超エネルギー結晶を搭載したロケットパンチとなる。
当たればほぼ一撃でルーラーズの障壁も無力化と言うトンデモ兵器。
エンカーからすれば半ばトラウマなのは言うまでも無い。
当時搭載していたロックンアームと結晶はサンゴッドとの戦いでの最後の一撃に使われており失われている。
今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。