Rockman 偽りの野望   作:グルルre

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vol33 思わぬ一手(前編)

「あら~ロールちゃんにロックちゃん。それにキラーズの皆まで珍しいわね」

ニコニコと屈託の無い笑みを浮かべながら廊下を歩く一向に声を掛けるリィリィ。

一行が今会いに行こうとしているフィーネそっくりな顔を持つ彼女にパンクらが驚いた様に肩を揺らす。

 

ガタガタッッ!!

 

リィリィが押す滑車付きの作業台に乗せられた箱が揺れるがロックらがそちらに意識は向かなかった。

「フォルテちゃんは今、眠っているわよ。折角私が修理したのにアルったら『貴様は信用ならん』って言ってもう一度最初からボディのチェックを始めたのよ~」

僅かに頬を膨らますリィリィの顔はフィーネのそれに重なる。

いずれにせよフォルテの復帰がかなり遠くなったのは言うまでも無い。

「じゃあ私は今から色々と忙しいから。皆も頑張ってね~」

「あ、はい。リィリィさんもお仕事頑張って」

僅かに口の端を緩め話すリィリィはどことなく機嫌が良さそうに見えた。

ロックらが手を振り彼女を見送る。

そんな中で作業台の箱が僅かに揺れたのを目にするのだが、ロックは何故かそれを指摘する事が出来なかった。

「よし・・・じゃあ続いて行くわよ!!」

ロールに先導される形で一行は彼女が収容されている作業室へと向かうのだが。

ざわざわと騒がしい中、一室から出て来たパッショナーにエンカーが近づく。

「もしかしなくてもあいつがいなくなったのか?」

「であります!!フィーネが脱走したであります!!」

敬礼をしながら大声でパッショナーが言う。

「あの野郎。能力的にも逃げるのは得意そうッスからね」

バラードが舌打ちをする中、スナイパージョーや政府軍のロボット兵が現場の状況を調べ始める。

「監視カメラはどうなってるんだ?」

「状況が変化した数分間だけ何も映されていない。動き出す前にハッキングでもしたか?」

ジョーの言葉に現場の指揮官であった兵士が頭を抱える。

警備に付けていたロボット達も何らかの手段で電源が落とされ無力化されており、あの鮮やかな手腕には調べを進める者達も感嘆とする他無い。

ややあって騒ぎを聞いたワイリーも駆けつける。

彼の隣にはロボットアーミーのダカーポも居た。

繰り返しになるがジョー達から話を聞きワイリーが顔をしかめる。

「フィーネの方はワシが拘束具も取り付けていたし、こちらから起こさない限り一切動かない様にしていた筈じゃ。あの小娘が寝ている振りをしてハッキングを仕掛けるのは不可能じゃ。もしそうであったならワシですらお手上げじゃ」

「ってなると誰かが彼女を連れだしたって事?」

ロールの問いにワイリーは鼻を鳴らし返答代わりに眉を動かす。

「こうなった以上は僕らもフィーネちゃんがどこに行ったのか探さないと」

「そうね。じゃあここに居る皆で一緒に探すわよ」

何時の間にかその場を仕切り始めるロールにエンカーらが白い目で見るが逆に彼女に睨み返され従う他無くなる。

逃げる様にその場から離れる一同に残されたロックとパンクが苦笑いを浮かべる。

「全く何時まで寝てるのよ」

そんな中、一室にあるメディカルカプセルで眠りにつくフォルテにロールが呆れた様に溜息を吐く。

幾らフォルテでもこの状態で外の異変に対処しろと言うのは無理があり過ぎる。

「まあこの際じゃフォルテを完全な状態にしておくに越した事は無い。元々こやつはメンテ嫌いじゃったからの、その上であの女に応急的とは言え修理を受けたからどこを弄られておるか分からん。全くリィリィめ・・・余計な事を」

メディカルカプセルが示す数値を端末で確認しながらワイリーがここには居ない彼女に文句を言うのだが。

自身で口にして漸く思い出したのだろう。

その表情を凍り付かせるワイリー。

「あの女はどこじゃ!!どこに行った!?」

周囲の者達が振り返るだけの音量で叫びながらワイリーは手にした端末を弄ると基地内の監視カメラの映像を映し出す。

「この部屋の映像は消されておるがその周囲のまでは消されておらん」

ぶつぶつと独り言を呟きながらワイリーは持っていた端末と近くにあった端末を同時に操り出し、ディスプレイに監視カメラの映像を次々と表示させていく。

人間でありながら並のロボットを凌駕するであろう処理能力にロックらはそれを見守る他無い。

「そう言えばワイリー様。あのリィリィなる女ですが。金属製の箱が入った作業台を運んでいましたが」

やや遠慮がちに主に言うパンクにワイリーが小さく呻く。

ワイリーが睨み据える映像の中でリィリィがフィーネの居る作業室方面に向かう映像が倍速で流れる。

更に行きの時には手ぶらであったのに帰りには件の作業台を手に歩いているのが分かった。

「あの箱確か、ちょっとだけ動いていたような」

そう言えばリィリィが運んでいた作業台の箱が僅かに揺れていたのをロックは思い出し、さしもの彼も嫌な予感が脳裏を過る。

「今すぐあの女の部屋に向かうぞい!!フィーネがワシの娘がバラバラにされてしまう前に止めねばならん」

ワイリーに急かされる様にロックらも廊下に飛び出る。

当然と言うかロールも一緒だ。

「でもバラバラにされるって仮にされても私達ロボットは元に戻せるんじゃ・・・」

「あの女が分解した機械を元に戻せた事は一度も無い!!絶対に壊す!!絶対にだ」

何時に無く真剣なワイリーの声に嘘偽りは感じられなかった。

 

 

 

「フフフ~ン♪」

作業台の上に四肢を固定された自分そっくりな少女を前にリィリィは笑顔のまま工具を手にする。

ボディその物の前にと言う訳なのか彼女はフィーネの片腕を無造作に掴むやそれを分解していく。

元々ヴォイドによって斬り飛ばされた腕なので問題はないと言いたいが、一つの形をしていた己の一部がただのパーツの塊になるを間近で見てゾッとしない筈が無い。

「流石はアルが造っただけあって駆動系の出来は最高級ね」

作業台のみならず足元の床にネジやら鉄の破片が飛び散るのも気にせずリィリィは目を保護するゴーグルすら付けずに片腕を分解していく。

否、分解と言うよりかはこれは破壊だ。

現に周囲にパーツの破片が飛び散っているし早すぎて分からないが元に戻す事は一切考慮していないのが分かる。

「ん~!!」

意識は取り戻してはいるが逃走防止も兼ね発声機能を始め多くの機能を制限されているフィーネは呻き声を上げるしか出来ない。

「次は足にしようかしら?あ、それよりも貴女に搭載された学習進化プログラムが気になるわね。それってどこにあるの?電子頭脳周り・・・それとも動力炉付近かしら?」

対してリィリィの方は満面の笑みで問いかけて来る。

その笑みに一切の悪意が無いが故に逆にゾッとする。

ファントムマンを名乗り自分なりに修羅場を潜って来たと自負するフィーネにとって今の今まで感じた事の無い感情が押し寄せる。

ロックやフォルテを相手取った時とも違う。

自分は間違いなく目の前の瓜二つの顔を持つ女に分解されると言うか殺される。

もしも体が自由に動けば恐怖に泣き叫んでいただろうが今の状態ではそれすらも出来ない。

「ま・・・いいか。直接貴女の体に聞きましょ」

 

・・・ガッ!!

 

彼女が手にした一見するとドライバーか何かに見えるそれが有無を言わさず額に突き刺さる。

その瞬間、彼女の視界は暗転する。

(死んだ・・・間違いなく死んだ)

何も考える間も無く呆気無い死を迎えたと悟ったフィーネが内心で乾いた笑みを浮かべた時だった。

<成程成程・・・電子頭脳に特殊なプログラムを組み込む事で機能しているのね。それに動力炉と各部の駆動系と連携してボディのアップデートを行っていると>

己の眼前で響くリィリィの声にフィーネは目を見開く。

見開くと言っても語弊があろうか。

何せフィーネの目の前に広がったのは先程まで居た作業室ではなく無数の言語や基盤の様な模様が所狭しと並ぶ世界であったのだから。

そんな中で宙に浮かび周囲に複数のパネルを表示させそれらの数値を凝視するのはリィリィなのだが、その姿は一糸纏わぬもの。

<一体何をしたのよ。この変態女!!>

思わず叫ぶフィーネだが、そんな自身も衣服を纏っていない事に気づき慌てて手で覆う。

とその時点で外された筈の片腕が元に戻っている事に気づきフィーネはここがどこなのかを悟る。

<まさか・・・ここは?>

<そう。ここは貴女の中・・・電子頭脳の中に直接入らせてさせてもらったわ>

赤面しながら問いかけるフィーネにリィリィは相変わらず微笑んだままそう答える。

ロボットである自身らですら普段はあまり意識する事の無い電子頭脳の中身、言うなれば精神の中に人間でありながら直接入って来たリィリィにフィーネは驚愕を隠せない。

恐らくは己の額に突き刺したドライバーの様な物を媒介に直接アクセスしているのだろうが。

単純な思考しか持たないロボットならいざ知らず、フィーネを始めとする高性能ロボットの電子頭脳の中に己の精神を入れれば情報量の多さから間違いなくパンクする。

にも拘らずこの女は慣れた様子でフィーネの中へと入り込んでいた。

<アルから聞いていなかった?まあ言う筈も無いか・・・彼からすれば私は死んだ筈の存在だっただろうし>

でなければ自身の製作するロボットの外見上のモデルにする筈も無いだろう。

一瞬だが真顔になりリィリィが己の頭を指先で示す。

それを合図に彼女の全身が僅かに透けそこから垣間見えるのは自身らロボットと変わらない金属で出来た骨格だ。

<アルやトムと別れた後、次世代のエネルギー研究をしていたんだけどちょっと失敗しちゃってね。体の殆どが吹き飛んだだけど万が一の時を思って用意しておいたバックアップボディがあって良かったわ>

尤も事故の影響で四半世紀は半ば脳死状態で奇跡的に意識を取り戻して今に至るのだけどと話すリィリィの顔は己の事だと言うのにまるで他人事の様であった。

<それはそうと貴女の個人の記憶を見せてもらっても良いかしら?覗いた内容は誰にも話さないから・・・ね>

己に向けてリィリィが腕を伸ばす。

見ようによっては互いに瓜二つと言う事もあり、子供に向けて優しく手を伸ばす母親にも見えただろう。

<ミセテ・・・ミセテ。アナタノナカミヲ・・・ミタイワ>

彼女の内なる声の様な物が頭の中で響き渡る。

フィーネの目にはもうリィリィの姿は人の形をした何かにしか見えなかった。

言うなればそれは彼女の中に潜む一種の狂気が形となった物であったのだろう。

気付けば周囲全てを彼女の体から伸びる染みが覆い尽くさんとした時だった。

 

ブンッッ!!

 

不意に視界が再度暗転する。

「貴様あぁぁぁ!!」

まずに耳に入ったのは兄であるパンクの声だ。

徐々に鮮明になる視界の中でパンクがリィリィの体を軽々と持ち上げ壁際に押し付けているのが見えた。

「・・・・・・!?」

何が起こったのか理解出来ずにいたフィーネだったがワイリーが己の顔を覗き込んでいるのを見て自身が助かった事を知る。

 

ブツッッ!!

 

額に突き刺さった器具が引き抜かれ一瞬だが電子頭脳に電気が走るも幸いな事に大した傷ではない。

「全く・・・自分の体を機械化しておる事を利用して直接ロボットの電子頭脳内に入ろうとするとは。ワシですら考えつかんやり方じゃ」

別の工具を取り出しあっさりとフィーネの拘束具を取り外すとワイリーはリィリィを睨み据える。

対してリィリィはパンクに取り押さえながらも相変わらず微笑んでいた。

「貴様の事だからワシが開発した学習進化プログラムに興味を持つのは目に見えておった」

『まさかフィーネを分解しようとしたのは予想外だった』と付け加えながらワイリーは疲れた様に息を吐く。

「じゃったら最初からワシにプログラムが欲しいと頼めば良いものを。昔からの腐れ縁じゃ。タダでくれてやらんことも無い」

仮に断れば何をされるか分かった物ではないと言うリスクを考えればだが、ワイリーしては意外過ぎる言葉に一緒に一室へと踏み込んでいたロックとロールも驚いた顔をする。

世界のロボット技術向上を目的に他人への技術提供を惜しみなく行いライト博士であれば良くある話だが、ワイリーが己の開発した物を他人に与えるなど殆ど聞いた事が無い。

「プログラムそのものは従来のロボットのそれを更に高度化した物に過ぎん。まあフィーネの場合はワシが設定した柔軟な思考性から子供が習い事を覚える要領で驚異的な学習能力を発揮したと言えるがの」

そう言って一枚のチップをリィリィの作業台に放り投げるワイリー。

「と言う訳でワシの娘は返してもらうぞい。ワシらを裏切った一件に関しては後で説教をしようと思ったがそれも貴様のお陰でする必要もなくなったみたいだしの」

チラリと己の足元で小さくなっているフィーネを見据えるワイリーの眼差しは何時に無く穏やかな物であった。

「この非常時じゃ、お前が仕出かした事は不問にする。だが二度とワシらを裏切って敵に付こうなどと考えるな。それさえ約束すればワシからはもう何も言わん」

何時もの偏屈なそれでいて魅力的な笑みを浮かべワイリーはフィーネの頭をぐしゃぐしゃに撫でる。

彼女の方は二転三転する状況もあって殆ど反応する事無く瞳だけを震わせていたのだが。

「・・・ごめんなさい」

唇を噛みしめ下に俯くフィーネが絞り出したような声を出す。

小さな口から洩れるその声は震えていた。

「ごめんなさい。色々と皆を騙していて。パンクお兄ちゃんもロックお兄ちゃんにロールお姉ちゃんにワイリー博士も、皆に嘘ついて騙していて馬鹿みたいな事して。私、良い子の振りした悪い子でごめんなさい。ごめんなさいっっ!!」

今まで押し殺して来た感情が爆発したのか謝罪の言葉と共にとめどなく涙が流れ落ちる。

一概に騙されていたとは言い切れないが、これ以上彼女を問い詰めても野暮であろう。

「だーっはっはっはっは!!ワシの製作したロボットなんじゃ。ライトの所に居る様なただの良い子ちゃんな訳が無かろう」

ワイリーの方は逆に嬉しそうな声を上げてフィーネの体を抱きかかえると彼女をパンクの下に連れていく。

「・・・と言う訳じゃ。パンク、お主も良いな?」

「はっ・・・。ワイリー様がそう言うのであれば。寧ろ安堵しました」

パンクの前に強引に連れられ一瞬、躊躇する様な動きを見せたフィーネだったが、パンクに首根っこを掴まれる様な形で抱き寄せられ再び嗚咽の声を上げ始める。

「とりあえずはこれで良かったのかな」

「私達もフィーネちゃんにはこれまで通り接するで良いんじゃないの?」

やや困惑しつつも笑みを浮かべるロックの隣でロールも両手を広げながら同じ様に微笑んだのだが。

「色々と無事解決して良かったわね。私も目当てのプログラムが手に入ったし」

「いやアンタはフィーネと違う意味で反省してくれ」

一枚のチップを掌で転がしながら言うリィリィにエンカーが呆れた様に突っ込むだが。

「・・・反省?」

心底エンカーの言っている意味が分からないと言った風に笑顔で首を傾げるリィリィにエンカーのみならずロックやロールも身の毛がよだつ何かを感じ取り思わず数歩後ずさるのであった。

「全くお前のせいで予定が狂ったわ。ワシは今からワイリースターに行かねばならんと言うのに」

ぶつぶつと独り言の様に声を発しながらワイリーは一室から出ていく。

彼の言葉の意味が一瞬分からなかったロック達であったが、ワイリーの事だからと流すしかない。

と言うか傍らに居るリィリィを見るにこの世には敢えて詮索しない方が良い事もあるのだろう。

 

 

 

一方、その遥か頭上では。

「ええい!!何をしておるのだ!?ピラーもそこにあるのだぞ。我が艦隊の兵達もその恩恵を受けている筈だ」

<それがどうやら敵は我らの障壁を無力化出来るようで>

降下した艦隊を率いる指揮官の報告にワイリースターの司令室で艦隊司令テーベが苛立った様に口を開く。

「馬鹿な・・・仮に無力化する手段を持っていたとしてそれが出来るロボットの数は限られている筈だ」

自身らから見て軽く数段は下の文明しか持たない星の攻略に思わぬ苦戦を強いられ、テーベは作戦の見直しを迫られる事となる。

「アース中佐!!貴様が我々に提出したレポートには奴らの存在は無かったぞ!!どう言う事だ」

苛立った様に席を立ち上がった初老の艦隊司令に詰められるのはアースだ。

「どうやらこの星には以前より我々に似た存在。それもサンゴッド様やデューオなどに匹敵する一種の人造神と言うべきモノが原住生物への干渉を行って居た様で」

「つまり奴らは技術体系は違えど惑星オリュンポスにおける我らと同じ存在だと言うのか」

詰める己に顔色一つ変えずに淡々と答えるアースに鼻を鳴らしテーベは手にした端末に改めて目を通す。

彼女が提出してきた資料にはラ・ムーンなる外宇宙から飛来した人造神の事が記されている。

他にも同等の存在が幾つか確認され今、地球に降下している自軍を襲撃しているのはそれの従者や眷属であるらしい。

「たかが下等な原住生物と侮っていたか」

舌打ちをし暫し唸るテーベ。

当然と言うべきか彼らに撤退などと言う選択肢は無い。

「こうなれば止むを得ん。予め奥の手であったピラーを出しておいて良かった。降下部隊に『偶像』を生み出す様に通達。このプラントで製造したダークムーン達も順次応援として繰り出せ」

テーベの命令に部下達は無言で応える。

周囲には思考制御された兵士ばかりが居る為、この司令室で声を出すのはテーベとアースぐらいで極めて静かだ。

尤も彼女からすればこれが本来の光景ではあるのだが。

「ところでアースよ」

不意に質問を投げかけられ僅かに反応が遅れる。

「サンゴッド様はどこにお隠れになった?」

サンゴッドの行方を問われ彼女も言葉に詰まる。

「あの方はワイリースターの爆発に巻き込まれ・・・」

「その程度で死ぬ御方ではない事はお前も認識している筈だろう。このプラントの基幹部が自己修復したのと同様。仮にパーツの一かけらとなっても時間を掛ければ再生が始まる筈だ」

テーベの指摘にアースは一瞬だが渋い顔となる。

スペースルーラーズ事件の終盤に覚醒しロックとの戦いに敗れたサンゴッドはワイリースター共々自爆して果てたと言うのが、世間一般での認識であろうがアースを含めた彼を知る者は仮にも人造神である彼がその程度で死ぬ筈が無いと信じている。

事実テーベの言葉通りサンゴッドの自爆によって破壊されたワイリースターもといプラント船の基幹部はバラバラになった後に自己修復を始めている。

プラント船以上の再生能力を持つサンゴッドであれば仮にパーツの一かけらからでも再生は可能だろう。

「恐らくあの星の連邦政府にサンゴッド様のボディが回収されている可能性が高い。とワイリーさ・・・ワイリーなる原住生物も推測していました」

若干の悔しさを滲ませながらアースはサンゴッドの行方についての推論を述べる。

彼女としてもサンゴッドの身柄は確保したかったのだが、ワイリーから命じられたワイリースターの再建と言う優先すべき課題もあったしその後もデューオとソローの襲来やらロボット王キングが起こした一連の事件などで後回しになってしまっていた。

「であれば頃合いを見て私直々にあの星に舞い降り交信を試みるとしよう。それであの御方の大体の位置は掴める」

ほくそ笑むテーベにアースは思わず声を上げようとするが老獪な艦隊司令に勘づかれまいとぐっとその衝動を抑える。

「ワイリーなる原住生物を利用し戦力の立て直しを図った判断は間違ってはいない。私でもそうすると言っておこう・・・が部下達の思考制御を解除したのは如何な物かと思うぞ」

「はっ・・・我らにとってはあの星は未知なる場所です。稼働出来る戦力も限られていたので現場レベルでの柔軟な判断が必要と思い・・・」

「その柔軟な発想とやらで脱走されては敵わんな」

彼女自身が密かにワイリーの下に向かう様に指示したプルートの事を指摘され背筋に嫌な物を感じ取る。

幸いまだ自分が手引きした事はばれてはいない筈だ。

追手も当然放たれただろうが味方の基地にさえ逃げ込めれば後は何とかなるだろうと判断している。

「あれは貴様の部下だったな・・・飼い猫に首輪ぐらいはつけておけ」

「・・・ハッ」

額に冷や汗を掻きながら頭を下げるアースにテーベは大きく鼻を鳴らす。

「と言う訳でここに残っているお前の部下達には再度思考制御を施せ。それとワイリー軍団なるロボット達も改造し手駒にするのだ。思った以上に我が艦隊への被害も出ているからな」

己の命令に僅かに動揺の色を示すアースにテーベは耳元で囁く様に顔を近づける。

「ワイリーなる原住生物に恩を感じるのはまあ良い。だが忘れるな。我らは大オリュンポスが生み出した尖兵なのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ我が主の命令に従い続けるだけだ」

「肝に銘じます」

テーベの言葉に敬礼を返しアースは司令室を後にする。

(一先ずは良かったと思うべきか・・・)

思わず息を吐きそうになるのを我慢しながらアースはスターマンらワイリースターに居たワイリーナンバーズが幽閉されている場所を目指す。

極東での休暇が終わろうとした際にジュピターらから緊急を知らせる連絡が入り、慌てる様にしてワイリースターに戻ったアース。

そこで彼女は自身らにとって同胞であるオリュンポスの辺境艦隊が太陽系に接近しつつある事を知ってしまう。

地球に居るワイリーにもその事を知らせようとした矢先に辺境艦隊の方から通信が入った事で、その事も叶わぬ物となる。

彼女自身も驚く事に半ば忘れつつあった事だが、スペースルーラーズ内においての階級は絶対である。

目上の者の命令に下の者は逆らう事は許されない。

それ故に艦隊司令のテーベが通信越しに発してきた命令に従い、ワイリースターは大した抵抗も出来ぬまま接収されてしまったのであった。

テーベが指摘した通り恩のあるワイリーよりも同胞であるテーベ達に協力するのが普通である。

だが本来であればその普通である事に、縁も所縁も無い筈の人物達を裏切る様な行動を取る事に不快の念を禁じ得ないのは自身もこの星にすっかり毒されてしまったと言う事か。

思わず苦笑いを浮かべてしまい慌てて取り繕うも周囲に居るのは思考制御され直立不動のまま佇む同胞達。

彼らが自身に何か反応を示す事は無い。

それが当然であり当たり前であった筈なのに再度不快感を感じてしまう。

彼女は見張りをするロボットに独房としている区画の扉を開ける様に命じるとそこに足を踏み入れた。

「た・・・隊長。どうなりました?」

真っ先に己に声を掛けてくるのはウラノスだ。

彼はスターマン達が他の者達に危害を加えられない様に区画に残っている。

「幸いと言うべきか地球への侵攻は思っている様に進んではいないようだ」

アースは簡潔に事態を説明するとスターマン達も含めた一同を見渡す。

「恐らく既にプルートがワイリー様の下に辿り着いたと思われる。あれが捕まったと言う情報は入っていないからな。それとあの星にデューオとソローが居る事もまだ艦隊司令は知らない」

強かな彼女は地球に関する多くの情報を伝えながらも、最も重要と言える情報は伝えていなかった。

宿敵であるデューオ達の存在を知ればテーベ達は星を侵略するのではなく破壊する方向に舵を切ったであろう。

実際にピラーもそうだが、辺境艦隊には惑星一つを破壊出来る程度の兵器を幾つも持ち合わせている。

「艦隊司令にお前達へ再度思考制御を施せと命令を受けた」

アースの言葉にウラノスやサターンの顔に浮かぶのは恐怖を超えた感情だ。

「思考制御・・・そりゃ冗談きついですよ」

「そんなん嫌だ」

自由な意思で動く事を覚えた彼らがそれを拒否するのはわざわざ確認するまでも無い。

今にもその場から飛び出しそうになるウラノスを押し留め、アースはスターマン達の下へ向かう。

「あ、外はどうなってるの?」

ワイリースターに配備されていたジョー達と共に幽閉されていると言うのにスターマンは何時もと変わらない様子でアースに問うてくる。

アースは先程ウラノスらに告げたのと殆ど同じ内容の話を彼へとする。

「成程~軍団規模で君達の仲間が攻めて来たら大変だろうけど、でも僕は何とかなると思ってたよ」

常にマイペースな彼は屈託の無い笑みをアースに向ける。

自分もこの男ぐらい物事を気楽に考えられたらと一瞬思うが楽観視し過ぎなのも問題だ。

「司令はピラーを用いて『偶像』を生み出そうとしている。更にダークムーン達を複製して地上に降下させるつもりの様だ」

アースの言う偶像にはピンと来なかったがダークムーンの事は知っているだけにスターマンとジョー達が顔を見合わせる。

「え~あれが何体も投入されるの?」

スターマンの顔が渋くなるのも無理は無い。

かつてルーラーズによる世界征服計画の際にアースが使役した巨大ロボダークムーン。

液体金属製の巨大なボディを持ち、合体分離を行うその姿は奇しくもイエローデビルに代表されるロボット達に特徴が似ているのだがアース曰く偶然の一致であり根本の技術は似て異なる物であるらしい。

「先のピラーと一緒だ。中佐である私の権限ではあれを使役できる数は基本的に一体までとなっている。だがテーベ司令は准将だ。将官クラスにはその制限は無い」

もしも自分が彼と同じ地位であれば今頃世界征服計画は成功に終わっていただろうと若干の悔しさを滲ませながらアースは言う。

「それで偶像ってなに?」

と己が知らない単語の意味をスターマンが問うた時であった。

 

ウィィィンッッ。

 

僅かな駆動音と共に部屋の隅にある壁が開かれたのは。

壁の中に隠されていたのは成人の人間一人が入れる程度の大きさのカプセル。

万が一の時の為に備え付けられていた転送用カプセルだ。

 

シュンッッッ!!

 

一瞬だけ光を放った後にカプセルから顔を出すのはアースにとって今の主であるワイリーその人。

ルーラーズ対策に勤しむ間を縫って彼は密かに用意されていた転送カプセルを使い直接ワイリースターへ顔を出していた。

彼はアース達を見るや僅かに安堵した様に息を吐くとピクリピクリと眉を動かす。

「既にプルートから詳しい話は聞いた。戦況の方は大体理解しておるじゃろう」

慌てて頭を下げるアースはさておきとワイリーは一枚のディスクを机の上に置く。

「元々ここはお主らの星のプラント船を利用して造った代物じゃからの。こうなる事も想定はしておった・・・であるからしてこれはお主に預けておく」

ディスクを受け取りアースはワイリーが言わんとしている事を悟り息を呑む。

「こっちの方は引き続きお主らに任せるが。それよりも一応確認するがワシがこれから言う策は地上に降りておるお主らの仲間に有効かの?」

わざとらしく首を傾げワイリーは簡潔に己らが行おうとしている策をアースへと告げる。

僅かに思案した後にアースは薄笑みを浮かべワイリーにこう告げるのであった。

「極めて有効だと思います。恐らくその様な手で来るとは誰も思わないでしょう」

彼女の言葉にワイリーは満足げに頷くと来た時の様に足早にカプセルの中に戻っていく。

「・・・無理はするなよ」

背を向けながら残される者達に忠告をしつつワイリーの姿はその場より消える。

その間、僅かに数分の出来事。

 

<先程お前の居るエリアのエネルギー消費量が上がったが何があった!?>

 

司令のテーベがアースの端末へ詰問する様に通信を入れて来る。

幸いワイリーが来た事はばれていないようだが、当然の様に転送装置を使えば異常を察知される。

「申し訳ありません。拘留していたワイリー軍団のロボットが一部暴れまして。先程、ウラノス達と共に制圧した所です」

<本当なのだな・・・?>

「はい・・・見張りの彼らが思考制御されていなかったお陰ですぐに異変に気づけました」

己の報告に疑問を生じさせるテーベにアースは顔色一つ変える事無く淡々と報告を行う。

この辺りの腹芸は見事としか言いようがない。

「地球のロボットは正直我々の理解に及ばぬ行動を起こす事があります。ウラノス達に思考制御を施すのも今暫くの猶予を頂けると幸いです」

<ぬう・・・仕方あるまい>

ついでとばかりウラノス達に命じられた思考制御の猶予を認めさせたアースはどこか勝ち誇った様な顔で通信を切る。

「お前達・・・今は勝手な事をするなよ」

そうスターマン達に言って一室を後にするアース。

ジョー達と共に残されたスターマンは『ん~』と伸びをした後、己が隠し持っていた端末を開く。

画面に映し出されるのはワイリースターの区画とそこに配備されたロボット達の位置だ。

「ピリパリーにビリバリー達も作業しつつ上手い事分散出来てるみたいだね」

ワイリースターの警備ロボットである両ロボット達はネオルーラーズ達にここが占拠された後もそのままコントロール権が奪われた風を装い、今もワイリー軍団側の思惑で動いていた。

当然辺境艦隊に属するルーラーズの同型機達も配備されているが、思考制御を掛けられている彼らは密かに動くビリバリー達を怪しむ様子は見られない。

「さてと・・・タイミングを見計らって僕達も動こうかな」

「・・・了解」

「合図さえ頂ければ何時でもOKです」

スターマンの言葉に一室に居るジョー達も静かに頷く。

彼が戯れる様に指を置く端末には巨大な腕が映し出されていた。




何時もの後書きです。
さらっと読み飛ばして頂いて結構です。

〇リィリィについて
既に言及されているが彼女の体の殆どは機械化されておりサイボーグのそれである。
そもそもライト博士やワイリーと同年代の筈なのに若い女性のままの姿の時点でお察しであろう。
大学卒業後にとあるプロジェクトに参加していたのだが、そこで事故に遭ったのも事実。
脳も含めた体の殆どが機械になった人間と言う意味では人間の人格と記憶を受け継いだロボットであるレプリカワイリーにも近い存在と言える。
まあ彼女からすれば生身だろうが何だろうが動ければヨシと言う認識しかないだろう。
フィーネの電子頭脳内に侵入した彼女が垣間見せた悪意とも狂気とも思える思念は後の世で跋扈する実体化出来るウィルスを髣髴させるものとなっている。

〇フィーネについて
裏切りを含めたそれまでの所業に対する当然の報いと言うべきか意識を保ったまま解体されると言うとんでもない状況となった。
リブート前の展開では彼女の償いに関して結構長く描いていたと思うのだが、今回はサイコパスに変身したリィリィを利用してとなった。
彼女に搭載されている学習進化プログラムは後の最高傑作にも搭載される代物だが、当のワイリーはこれ単体にはそこまで重要性を見出していなかった。
寧ろ彼女自身が示した様に悪のエネルギーやそれと同等の物とプログラムが結びつくと、本来の想定以上の力を発揮すると言う所にワイリーは興味を見出していた。
その為、リィリィの求めに応じる形であっさりとプログラムの提供をしている。
自身らを含めた一部の天才しか解析出来ないであろうと言う自信もあっての事であろうが。

〇ルーラーズについて
当初こそ突然の乱入に驚いた地球側であったが、マキーナの従者であるエイリークが軍勢を率いルーラーズの降下部隊と交戦し時間稼ぎが出来た事もあって比較的余裕を以て対応されてしまっている。
この辺はルーラーズ側も大した文化レベルではないと地球側を甘く見過ぎた面もある。
尤も彼らからすれば初手での躓きも挽回できる程度に奥の手を幾つも持っている訳なのだが。
作中でも何度か語られているがサンゴッドやデューオ、ラ・ムーンと言った人造神のカテゴリーに当てはまる者やその眷属、従者と呼ばれる存在に一般的な生命における死の概念は無い。
彼らからすればその金属のボディも現実世界で活動する為の器に過ぎない。
余談だがダークムーンに関してはイエローデビルに似てはいるがワイリー製ではなく、ルーラーズの技術で生み出された兵器とした。
ラ・ムーン関連もそうだが特性やら外見も含めあくまでも偶然の一致に過ぎない。

今回の後書きは以上です。
読んでくださってありがとうございます。
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