キシリア様の様子がおかしい   作:不二

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???「ハーメルンよ、私は帰ってきた!」


第13話:ルウム戦役

 ジオン公国軍によるブリティッシュ作戦、そしてコロニー落とし。結果的には失敗に終わった今作戦は、それでも地球連邦政府に大きな打撃を加えた。後に一週間戦争と呼ばれるこの一連の戦闘で総人口の半分に当たる人が亡くなった。

 

「どうなっているんだ⁉開戦から負けっぱなしではないか!」

 

「そうだ!軍はいったい何をしているのか!」

 

 ここ、ジャブローには地球連邦政府高官をはじめとした政治家と連邦軍の将官たちが前もって避難していた。厚い岩盤に覆われた地下深くの安全地帯で政治家たちは非難の声を上げていた。

 

「植民地人どもにいつまで大きな顔をさせておくつもりかね」

 

「第一、コロニー落下を防げなかった責任をどう取るつもりか!ここに落ちなかったからいいものの、地上は大混乱だそうじゃないか」

 

 コロニーはジャブローに直撃しなかったものの、地球に大きなダメージを与えた。落下の衝撃によりマグニチュード9.5の大地震が発生し、直撃したオーストラリア大陸の16%が消滅した。また竜巻や地震、津波が頻発し、地表は地獄と化した。

 

 だが、連邦軍将官たちはそのような非難にまるで聞く耳を持たず、吞気に煙草を吸う者もいた。そのような姿を見てますます語気を荒げる政治家たち。しかし、一人の将官が吸っていた煙草を勢い良く灰皿に押し付け、睨みつけると誰もが黙ってしまった。

 

「先生方がここでさえずっていられるのは誰のおかげか、思い出してもらいたいものですな。あなた方の安全のためを思ってここにお連れしたのです。ダカールに戻っていただいても我々は一向に構わないのですよ?」

 

「いや、別に感謝していないわけでは…」

 

「そうそう。ただ我々は軍が今後どのようにするのか、その展望を聞きたいだけであって…」

 

 強硬な姿勢を見せられた政治家たちは萎縮して、語気も弱くなっていく。

 そこにそれまで我関せずとしていた一人の大将が双方をなだめに入る。

 

「まあまあ、先生方もコロニー落下で一時的に気が動転しているのだよ。恩を仇で返すような恥知らずの方々ではないさ。我々が仕事をきっちりとこなせば先生方は必ず応えてくれる、そうでしょう?」

 

「…そう、その通り!」

 

「さすが、ゴップ大将。我々の言いたいことを分かっておいでだ」

 

 その場を収めながらも、ジャブローに受け入れてやった貸しを忘れるなときっちりと釘を刺すのはこのジャブローの主の一人、ゴップ大将。釘を刺されたことを分かっていながら政治家たちはその言葉に乗っかるしかない。この貸しを蹴ればどうなるか、考えたくもない。

 

「それでは我々の職務を果たそうとしよう。君、説明を頼むよ」

 

 ゴップに後を託された一人の参謀が政治家たちに説明を始める。

 

「確かに我々連邦軍は緒戦で多少の損害を受けました。しかし、ご覧ください。宇宙にはまだこれほどの戦力が残っています」

 

 そう言って参謀が指さしたスクリーンには、ルナツーをはじめとした連邦宇宙軍の各拠点に残された艦艇数が映された。その数は凄まじく、デフォルメされた艦影が画面いっぱいに広がっていた。

 

「ルナツーの艦艇を中心に連合艦隊を編成し、再びジオンに決戦を挑みます。ジオンの全艦艇の三倍ほどの数となりますので、後はすりつぶすだけです」

 

 その言葉を聞いて政治家たちも安心したかのようにホッと息を吐く。

 

「そういえば司令官は誰が務めるのかね?」

 

 一人の政治家の疑問に参謀が答える。

 

「大規模な艦隊となりますので、我が軍が誇る名将、レビル中将が内定しております」

 

 目端が少しは利く、とある政治家はゴップ大将へと目線を向けるが、ゴップは言いたいことは全て言ったとばかりに中央から少し離れた、元の自席へと戻っていた。艦隊の指揮官と言えば戦後の英雄ともなる重要なポジション、それを自分の派閥以外の者に託すとは。あの大将と言えども、今回ばかりは万全を期したいということか。

 

 多くの利権と貸し借りが絡み合う中、ジャブローから反撃の狼煙が上げられようとしていた。

 

 一方、ジオン公国軍は緒戦で勝利を収めたが、難しい舵取りを求められていた。

 

「ブリティッシュ作戦を継続するというが、具体的にはどうするつもりだ?」

 

 ズム・シティの公王庁でデギン公王がギレン総帥に問いかけていた。乾坤一擲のコロニー落としが失敗した中、ジオン公国首脳部たるザビ家は早急に次の策を考えねばならなかった。議会などの制度は整えられているジオン公国であったが、事実上ザビ家による独裁政治のため、国の命運を決める会議でさえ、デギン、ギレン、ドズル、キシリアというザビ家の面々のみで行われている。

 

「我々がまだ攻撃していないサイド5、通称ルウムへと軍を進ませます」

 

 ギレンが操作するとスクリーンでサイド5がズームアップされる。

 

「ルウムにてコロニーを確保し、ドズルの宇宙艦隊の護衛のもと、地球へと再度投下します。アイランド・イフィッシュはジャブローに直撃しなかったものの、地球に与えた打撃は甚大です。二度のコロニー落としを経験してもなお、継戦を主張する気概を連邦政府は持っていないでしょう」

 

「ドズル、艦隊はこの任に耐えうると思うか?」

 

 父に問われたドズル中将は立ち上がり、答える。

 

「ブリティッシュ作戦での勝利で兵たちの士気は高い。だが、損害が出たのも事実だ。大規模な会戦は出来てあと一回だろう。だが、艦隊を俺に任せてくれれば必ず勝利してみせる!」

 

 猛将というに相応しい気概を見せたドズル。その頼もしい姿に作戦承認へと傾くデギンに、キシリアが水を差す。

 

「先日の戦闘で連邦艦隊に大損害を与えたといっても、まだまだその戦力は軽視出来ません。ここはコロニー落としをブラフとし、早期講和を模索するべきでしょう。勝利のまま、戦争を終わらせるのです」

 

 キシリアとしてはブリティッシュ作戦での勝利は幾度の幸運に恵まれたものだと考えていた。ミノフスキー粒子散布下でのモビルスーツは自分の予想以上の戦果を残し、連邦軍艦隊を壊滅させた。一方、こちらの損害も少なくなく、艦船やモビルスーツといった物的損害に加え、これまで鍛え上げてきたモビルスーツのベテランパイロットからも被害が出たのは痛手だった。連邦軍も馬鹿ではない。再びコロニー落としを実施しようとすれば雪辱を果たすためにこれまでとは比べ物にならないほどの戦力を投入してくるだろう。そうすれば緒戦の勝利も無駄になってしまう。

 

「ふん、モビルスーツの戦力化に注力した貴様が随分と後ろ向きだな。臆したか、キシリア」

 

 こちらの考えなどお構いなしにギレンが冷たい言葉を投げかける。

 

「そのようなことはありません。しかし、先ほど総帥が仰った通り、コロニー落としは地球に大きな衝撃を与えました。連邦政府も今なら講和の席に着くのでは?」

 

「連邦政府の愚者どもは自分の命がジャブローという要塞に保証されている限り、講和に応じないさ。現に彼らは講和に関しての予備交渉にも返答が無い。ジャブローでさえ、安全ではないということを思い知らせなくてはいけないのだ!」

 

 ギレンの主張が間違っていないことをキシリアは重々承知していた。彼の言うとおり、人類の半数が亡くなっても、両陣営は戦いを止めようとはしなかった。しかし、再びコロニー落としという愚挙をジオン公国に、スペースノイドに繰り返させるわけにはいかない。

 

「ならば本当に戦力は足りているのでしょうか?我々突撃機動軍が占領したグラナダは本国を守るための重要な拠点となりました。ここに一定の戦力を割かなくてはいけないとなると、いささか心もとないかと」

 

「ふん、突撃機動軍などいなくても俺の艦隊だけで十分だ。お前はグラナダを守っておればそれで良い」

 

 ドズルの言葉を聞いてキシリアは自らの失敗を悟った。ドズル兄さんと事前にすり合わせを行うべきだった。武人肌である兄さんはコロニー落としを内心では心苦しく思ってはいないだろうか。兄上に対抗するためにもドズル兄さんを抱き込むべきだったのに、戦闘にかまけて怠ってしまった。

 

「キシリア、これは貴様が開戦前に言っていた敵艦隊の撃滅にもつながるものだ。コロニーという餌に連邦軍艦隊は食いつかざるを得ない。そこをドズルの艦隊が叩き、コロニー落としも無事完遂される。それでこの戦争は終わりだ」

 

 そこで一旦言葉を区切ったギレンは公王の方へ向き直る。

 

「我々にはこの道しか残されていません。計画のご認可を」

 

 黙って兄弟の争いを聞いていた公王は決定を下す。

 

「分かった。第二次ブリティッシュ作戦を認可する。ドズル、頼んだぞ」

 

 おう、任せてくれ父上、という息子の頼もしい返事にデギンは頷く。まず、ギレンが席を立ち、それからドズルも出撃の準備のために艦隊へと向かう。娘と二人きりとなったデギンは近くに来るように合図する。キシリアが近くまで来るとデギンは労わるように声をかける。

 

「お前の心配も全くの的外れというわけでは無い。だが、損害から早く立ち直るのは国力の高い連邦が先だろう。我々には早期決着しか無いのだ」

 

 それから声を潜めてさらにこう続けた。

 

「今回は感情に任せた論調だったな。お前らしくもない。ドズルのやつは軍人に染まりきっており、兄であるギレンにただ従っておけばいいとさえ思っておる。だからこそ、儂はお前に期待しておるのだ。いいな?」

 

 キシリアはただ黙って頭を下げた。

 

 第二次ブリティッシュ作戦の発令に伴い、ドズル中将は各艦艇に対して建造途中の宇宙要塞ソロモンへの集結を命令した。

 サイド3の軍港ではケレンたちが、ソロモンへと出撃する本国の予備艦隊を見送っていた。

 

「くそー。俺たちも足があればソロモンに行けるっていうのに」

 

「私たちの母艦は片肺でなんとかここにたどり着いたのよ。それにモビルスーツも満足に動けないわ」

 

 マルティナのボヤキをミリアが諌める。ケレンたちの母艦はブリティッシュ作戦における一連の戦闘でロケット・エンジンが片方やられてしまい、航行が困難になった。またモビルスーツも度重なる損傷とそれに伴う修理でパーツが払底しており、部隊として戦闘することが困難だった。よってケレンたちは整備を受けるためにサイド3にとどまることになった。

 

「キシリア様…」

 

 部隊の二人が言い合っているのを尻目にケレンは月へと再び向かうキシリアの身を案じていた。

 

 ドズル中将は各地より集結した部隊を再編成し、ルウムへと出撃する。またグラナダからもギレン総帥の要請を受け、海兵隊を含めた一部の部隊が戦列に加わった。

 

 またこれを察知した地球連邦軍はレビル中将に敵の迎撃を命令する。これを受けて中将は第一連合艦隊に対してルナツー出港を指示。進路上で艦隊編成しつつ、ルウムへと進軍を開始した。

これにて両軍は拠点を出撃、再び戦場で激突することとなる。

 

 宇宙世紀0079年1月15日。先にルウムに到着したのはドズル艦隊であった。

 

「連邦の雑魚どもを一掃しろ!しかるのちコロニーの改装、加速を開始する」

 

 ドズル中将の命令の元、ルウムに逃げ込んでいた残存艦隊や防衛装備はまとめて核の炎で焼かれた。その後、一連の作業が終了し、コロニーを手に入れたドズル艦隊は核パルス・エンジンの設置作業を開始する。

 

 先手をまたもや取られたことを把握したレビル艦隊は艦隊を散開させ、コロニーを護衛するドズル艦隊を半包囲する形で攻撃を開始した。

 

「コロニーを奪われたからといって焦ることはない。見たところまだコロニーを動かすことは出来ないようだ。戦艦の火力を存分に発揮させれば勝利は我々のものだ」

 

 レビル中将の言うようにドズル艦隊はコロニーの護衛が第一のため、コロニーの前方に布陣しており、半包囲をみすみす許してしまった。マゼラン級をはじめとした多数の艦船が砲撃を行い、大艦巨砲主義の真価を見せつけた。

ドズル艦隊所属の艦は我が身をコロニーの盾とするためにその砲火を受け、次々と撃沈していった。モビルスーツで攻撃しようにもコロニー護衛を厳命されていたため艦隊を離れることが出来ず、C型による核攻撃も連邦軍の艦隊は散開しているため効果が薄く、また度重なる連戦で核弾頭が枯渇してきており、散発的となった。

 

「ドズル中将、このままでは我々が先に壊滅してしまいます」

 

「くそっ、仕方がない。全部隊に伝令!現時点で核パルス・エンジンの設置作業を中止、コロニーの影に移動せよ。そこで陣形を立て直し、敵艦隊への突撃を開始する!」

 

 モビルスーツ隊の援護の元、ドズル艦隊はコロニーを盾にするように移動を開始した。それから複縦陣へと陣形を組み直した。これは突破力を重視したものであり、ドズル艦隊はコロニー落とし遂行から敵艦隊撃滅へと方針を変えたことを意味した。

 

「モビルスーツ隊には艦隊の先鋒として攻撃させろ。これまでの鬱憤を晴らせ!」

 

 ドズル中将の命令に従い、それまでコロニーの護衛のために張り付いていたモビルスーツたちが一斉に突貫する。

 

 これに慌てたのがレビル艦隊。急遽、照準を艦艇からモビルスーツへと移すが、手動ではモビルスーツに追いつけない。

 

「…やはりミノフスキー粒子で自動迎撃システムが上手く起動しないか。今の陣形を解き、小艦隊ごとに輪形陣を組み、お互いの対空砲火を組み合わせるのだ。急げ!」

 

 レビル中将の指示も虚しく、連邦の艦艇は突貫してきたモビルスーツに次々と撃破されていく。

 

「いけるか、あと二隻…」

 

「我慢もこれまでだ!」

 

「片っ端から叩き潰してやる!」

 

「その意気だ。オルテガ、マッシュ、やつらにジェットストリームアタックを仕掛けるぞ」

 

 そしてレビル艦隊が混乱している中、本命であるドズル艦隊が複縦陣でもって左翼を正面突破し、後方へと浸透する。

 

 そんな中、一つの急報が連邦軍艦隊を駆け巡る。地球連邦軍第一連合艦隊旗艦アナンケ撃沈。指揮系統が一時寸断され、連邦軍艦隊は一丸となっての作戦行動を取ることが困難となった。次席であったロドニー・カニンガン准将はもはやこれまでとし、残存艦艇に対して撤退を命令した。

 

 ドズル艦隊はこの機を逃さず追撃戦を開始。殿となったロドニー准将の新旗艦ネレイドを撃沈するも、我が方の被害を鑑みて16日に追撃を中断し、艦隊を帰投させた。

 

 のちにルウム戦役と呼ばれる戦闘はこうして幕を閉じた。

 連邦軍艦隊はその戦力の大半を失い、制宙権を完全に失うこととなった。

 

 だが、ジオン軍も被害が甚大であった。動かせるほぼ全ての戦力を投入したドズル艦隊では貴重な艦艇を始め、多くの熟練パイロットを失った。

 

「やった!我が軍の勝利だ!」

 

 そんな事は露知らず、サイド3の公王庁ではガルマ少佐が喜びを爆発させる。その姿を見ながらデギン公王はこの戦争の幕引きを考え始める。

 

(これで制宙権は一時的にせよ、こちらが掌握出来るはずだ。コロニー落としが失敗したとしてもジャブローの奴らには大きな衝撃となろう)

 

 また自前の指令室で戦況を見ていたギレン総帥は一人ほくそ笑む。そこにキシリアから通信が入る。

 

「総帥。三連星がレビルを捕らえました」

 

「それは本当か?」

 

 戦争は次の段階へと進んでいった。




大変長らくお待たせいたしました<(_ _)>

来年度からの職場を確保したため、やっと再開出来ました。
例によって書いたものを即投稿したのでストックはありません。出来るだけ早く次も投稿したいと思っているのでご容赦ください。

主人公たちはルウムで生き残れるほどの"本物"ではないためお留守番です。
戦闘シーンをもう少しかっこよく書きたい…

それでは次の話までしばらくお待ちください。
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