キシリア様の様子がおかしい   作:不二

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……生きています


第15話:地球侵攻作戦

 南極条約締結により短期決戦のもくろみが外れたジオン軍は地球侵攻作戦を実行することとなった。

 条約締結の翌日、2月1日には御前会議にて地球方面軍が創設された。戦力は主に突撃機動軍から抽出されることもあり、キシリア少将麾下の者が司令官に任命されると思われたが、ここで思わぬ人物が手を挙げた。

 

「父上、地球侵攻の先鋒は是非このガルマにお任せください。連邦軍など私の相手ではありません」

 

 ザビ家の四男、ガルマ・ザビ大佐である。戦場で活躍する兄や姉、友に触発されてのことだった。

 

「ガルマ、無茶を言うでない。戦争などギレンらに任せておけばいいのだ」

 

デギンをはじめとした周りの者は翻意を促したが、それは一層彼の思いを強くするだけだった。

 

「僕だけ後方で安全に過ごすなんて我慢できない。僕は行きます、本気です!」

 

「……ふむ。決意は固いようだな。ギレン、どう思う?」

 

「良いではないでしょうか。キシリアは既に突撃機動軍を指揮しています。それに加えて地球方面軍も、となると負担になるでしょう。ザビ家の者が地球侵攻の先鋒となる、これは大変重要です」

 

「……そうか。キシリアも良いか?」

 

「父上が良いならば私には不満はありません。ガルマ、実際の戦場はこれまでの演習とはまるで違う。周りに気を配り、励みなさい」

 

「お前なら出来るぞ、ガルマ。なにせ俺の弟なのだからな!」

 

「ありがとうございます。父上、ギレン兄さん、キシリア姉さん、ドズル兄さん。最上の結果をお届けします!」

 

 最終的には父であるデギンが許可を出したことにより、地球方面軍司令官として軍を指揮することとなった。本人は一パイロットとして前線で戦うことを希望したが、それは流石に許されなかった。階級に見合わない司令官という役職もデギンが出来るだけ前線から離れたところにいてほしいと願ってのことであり、能力ではなく血縁によって決定された。

 

 降下地点は中央アジア、アフリカ、北米に改められたが、ここで問題が出てきた。

 

「補給艦が足りないのか?」

 

「はい、ガルマ様。民間船の徴用も進めていたのですが、三方面同時の降下には不足しています」

 

「なるほど、それは問題だな」

 

中央アジア、北米、アフリカの三方面同時に降下するにはどうしても補給艦が足りないことが分かった。降下作戦に向けて急速に組織づくりを進めていた地球方面軍司令部はこの問題に頭を悩ませることとなった。

 各方面に一回ずつなら補給艦が足りるという試算が出たが、問題は順番だった。一番初めの降下作戦は連邦軍の抵抗が少なく、回を重ねるごとに対策されることが予想された。また降下地点に宇宙港などの施設があるかどうかも重要だった。降下だけならそこまで困難ではないが、ジオン本国との連絡線、補給線を築くには宇宙へ打ち上げ可能な設備が必要だった。

 

「皆の意見を聞きたいと思う。どうか忌憚なき意見を聞かせてくれ」

 

「中央アジアはどうでしょうか。資源を確保することが出来、近くにあるバイコヌール宇宙基地から本国へ打ち上げることが可能になります。さらにヨーロッパへの足掛かりにすることが出来ます。」

 

「それは良い案だな、採用しよう。中尉、名前を聞かせてくれないか」

 

「ダロタ中尉であります、ガルマ大佐」

 

「ダロタ中尉か、覚えておこう。これからもよろしく頼むよ」

 

 ガルマ大佐の決断により地球方面軍司令部は最初の降下地点を中央アジアに決定した。

 第一地上機動師団と呼称された降下部隊はザクや生産されていた地上用兵器をかき集め、HLVに順次積み込み始めた。

 

それに先立って公国軍は月面にあるマスドライバー施設を強襲し、占領した。これは降下部隊の援護を目的としており、施設を利用して岩塊を地球へと射出した。南極条約によりコロニーや小惑星の落下戦術は禁止されていたが、抜け穴をついた作戦であった。    

作戦は順調に進むかと思われたが、連邦軍が阻止に動いた。

 

先の戦いで艦隊戦力の大半を失っていたルナツーであったが、地球への直接砲撃を黙って見ているわけにはいかなかった。ジャブローの統合作戦本部からせっつかれたこともあり決死隊を結成する。これ以上艦艇を失うことは出来ないため、装備には突撃艇であるパブリクが選ばれた。大型ブースターにより航続距離が伸びているとはいえ、作戦の性質上からも片道切符であった。

 

だが、決死隊は任務をやり遂げた。自身の生存を度外視した彼らはマスドライバー施設へと突撃した。慌てて迎撃に出たザクにより多数が撃墜されるも、なんとかすり抜けてミサイル攻撃を成功させた。

 

マスドライバー施設が破壊されたことにより公国軍は地球砲撃作戦を中止した。マスドライバー施設の特性からピンポイント砲撃が難しく、軍内部からも反発が出ていたので施設を修理してまで続行することはなかった。弾着観測も十分に行えなかったため戦果は不明だが、連邦地上軍の牽制にはなったとされる。

 

宇宙世紀0079年、3月1日。地球侵攻作戦開始。第一次地球降下が実施される。

 

弟ガルマの出陣を万全のものとするため、宇宙攻撃軍、突撃機動軍双方から護衛艦隊が派遣された。HLVを搭載したパプア級、パゾク級、その他補給艦をムサイ級軽巡洋艦、チベ級重巡洋艦がエスコートする。

 

これらの行動を観測したルナツーは残り少ない戦力から部隊を派遣した。降下前の無防備なところを襲撃する計画であった。しかし、この攻撃は普段犬猿の仲とされる宇宙攻撃軍、突撃機動軍双方の見事な連携により撃退される。結果、連邦の襲撃部隊は全滅、降下部隊はほぼ無傷で地球へ突入していった。

 

「最終減速開始、スラスター点火!」

 

 無数のHLVが空気を切り裂きながら、降りていく。地表から見れば幾千もの流れ星のようであった。その中では第一地上機動師団の将兵たちが地表を今か今かと待っていた。

 

 それはこのHLV83号も同じであった。

 

「地表まで300m、各員は着陸時の衝撃に備えよ」

 

 HLVの機長がアナウンスをする。補給艦から投下されたHLVは最終減速を行っていた。そして大きな衝撃と共にHLVは地表へと降り立った。

 

「降下完了。パイロット、メカニックは直ちに機体の準備にかかれ。敵は待ってはくれないぞ」

 

 機長のアナウンスを聞いたパイロット、メカニックたちが席を飛び出し、機体へと向かう。このHLVは小改造が施されており、中央は二段の格納庫となっている。そこで四機のドップが出撃の時を待っていた。

 

「機体チェック完了。メカニックは所定の位置に退避せよ」

 

 メカニック長の指示の下、チェックを終えたメカニックが退避していく。HLV機長はHLVのハッチを開ける。裏が簡易的な滑走路となっており、ドップの発進を補助する。

 

「進路クリア。だが、味方のHLVも近いため注意されたし」

 

 事前に想定されていたとはいえ、戦闘機が発進するのに不都合な状態にパイロットたちは不満を口に出しそうになるが、それを飲み込む。戦場に適応出来なければ死ぬのみだ。

 

「こちら一番機、了解した。これより発進する」

 

 轟音を響かせてドップが加速を始める。大推力のエンジンは短距離離陸能力を副産物としてドップに与えた。

 

 HLV着陸時の衝撃が機体にダメージを与えることが懸念されていたが、現状、機器は正常に機能している。それを確認した一番機のパイロットは安堵の息をつくが、その時僚機からの悲鳴がコックピットに響き渡った。

 

「隊長、対岸が……!対岸がありません!」

 

「何、寝ぼけたことを言っているんだ。ここは地球だ、コロニーではない!まだ訓練気分でいるなら俺が先に叩き落してやる」

 

「……はっ、申し訳ありません」

 

(とはいえ、あいつの考えも理解出来ないわけではないな)

 

 眼前に広がるのは果てしない大空だった。宇宙移民二世であるパイロットたちは本当の意味での空というものを見たことがなかった。目を凝らせば見える対岸との中間にある空間、それが彼らの空だった。

 

(見続けたら吸い込まれそうだ)

 

 どこまでも広がる空は彼らにとって未知のものであった。しかし、空に気を取られている場合ではなかった。

 

「二時の方向、敵機!」

 

 三番機から敵機発見の報が入る。慌ててそちらに目を向けると確かに連邦軍の航空機がこちらに向かってきていた。今までならばまず長射程の空対空ミサイルによる撃ち合いが行われたのだろうが、今度の戦争は違った。地球方面軍は降下と同時にミノフスキー粒子を散布しており、レーダーによる誘導が不可能となっていた。

 コロニー落としの衝撃からまだ立ち直っていない中、連邦空軍は出撃可能な機体から随時発進させ、攻撃可能な距離まで近づくことを余儀なくされた。

 

「敵さんは随分慌てて出てきたようだ。フライ・マンタが5機とはな。格闘戦ではドップに軍配が上がる。揚陸作業中の味方に指一本触れさせるな!」

 

 味方パイロットたちの応える声を聞きつつ、一番機のパイロットはスロットルを押しこむ。空を知らぬパイロットたちの空戦が始まった。

 

「これが地球……」

 

 空での戦いが激化する中、HLVからは続々と地上兵器が吐き出されていった。

 ケレンのザクも最低限のチェックだけ済ませて地表へと降り立った。

 

「おい、ケレン。ボーっとしている暇はないぞ。敵さんが態勢を立て直す前に叩くんだろ」

 

「分かっている。二人とも、行けるな」

 

 マルティナの言葉で気持ちを切り替えるケレン。

 

「ええ、問題ないわ。敵の反応が鈍いからこの機を逃がしたくないわね」

 

 ミリアの言う通り、連邦軍は降下後のジオン軍に対して効果的な反撃を加えることが出来ていなかった。地球規模での降下作戦などする方もされる方も未経験だったからだ。

 で、あるならば降下作戦を実行したジオン軍の方が有利なのは明らかだった。連邦軍はこの段階でも、中央アジアの降下部隊が主力か陽動か、判断出来ていなかった。必然的に対応は現地軍に任され、戦力を逐次投入することとなった。

 

「61式が数両に歩兵部隊がまばら。歩兵にいたっては陣地さえ構築してないか。蹴散らすぞ、強行突破だ」

 

 ザクのモノアイで索敵するが想像していた、画面を埋め尽くすような連邦軍の姿は無く、味方も次々と前進していた。

 

「小隊、駆け足。足を止めずに一気に攻め上がるぞ」

 

 ケレンも自分の出した指示に従ってザクを進ませる。その巨体からは想像出来ない速さで地面を駆ける。右手のザクマシンガンを腰だめで撃つ。戦車砲に匹敵するその砲弾は至近弾であっても関係なしに歩兵を吹き飛ばしていく。

 

「61式も撃ってきたぞ。気を付けろ」

 

 取り敢えず急行してきたのだろう61式戦車がこちらに向かって砲撃してきた。陸の王者と呼ばれる61式戦車、口径150ミリの砲弾はしかし、明後日の方向へと飛んで行った。

 

「外れた?野郎、どうして……」

 

「考えている暇はないぞ、マルティナ。直撃すればザクでも危ないんだ。優先的に狙うぞ」

 

 ケレンの言葉に気を取り直してマルティナも61式に向かってザクマシンガンを放つ。17mを超えるザクからの攻撃は必然的に61式の上部に集中する。比較的薄い部分の装甲に命中すれば61式といえど撃破されていく。

 

「…っ危ない!」

 

 ミリアがとっさに機体を翻す。そこにフライマンタから投下された爆弾が落ちてくる。フライマンタはロックオン出来ないミサイルでの長距離攻撃は諦め、爆弾による急降下爆撃を敢行してきた。気づくのがもう少し遅ければ直撃であった。

 

「こいつ。墜ちろ」

 

 マルティナが投弾を終え、上昇へと移るフライマンタに射撃を加える。フライマンタはロールにより銃弾を避けようとする。だが、偏差射撃がついに機体を捕らえ、加速がつく手前で撃墜することが出来た。

 

「危ねぇ。逃がしてしまうとこだった」

 

 マルティナが言うのも無理はなかった。今ザクマシンガンに装填されているのは戦車用の徹甲弾であり、対航空機戦は不得意であった。

 

「フライマンタがこっちに攻撃してくるなんて。空軍は何をしているの!?」

 

「HLVで持ってきたドップだけでは敵を抑えきれないんだ。これからは空にも注意を払っていくぞ」

 

 攻撃に晒されたミリアのひっ迫した声にケレンが応える。見るとドップは果敢にフライマンタに襲い掛かっているが、少なくない数のフライマンタが地上を攻撃している。

 

 しかし、全体的にジオン軍は優勢であり、その進撃は止まらなかった。降下部隊の本隊は目標であるバイコヌール宇宙基地の目前へと迫った。

 

「放してくれ。私が直接前線に出て指揮を執る。それしかないだろう!」

 

「いけません。御身になにかあったらどうするのですか」

 

 ブラウンに塗装されたザクが周りのザクに止められていた。地球方面軍司令官のガルマ大佐の乗機であった。見れば彼らの前方では大佐の配下であるザクがザクマシンガンを放つが、反撃に遭い前進出来ないでいた。

 

 地球連邦軍の迎撃を跳ね除け、目標であるバイコヌール宇宙基地の攻略にとりかかった彼らであったがここで足踏みすることになる。

 今までは連邦地上軍が戦力を逐次投入してきたため、それらを排除するのにそう手間はかからなかったが、基地となると話が違った。基地に配備されていた部隊でもって即席の防衛線が築かれており、砲兵と戦車による連携はモビルスーツであっても攻めあぐねた。

 それに加えてジオン軍は地上に降り立ってから戦力の分散を余儀なくされていた。降下地点には実戦部隊に加えて補給物資や司令部の機材もHLVで輸送されていた。それらを守るために一定の部隊を割く必要があった。また降下地点以外の全周囲が敵地のため進軍を全ての方向に行わなくてはならなかった。もちろんバイコヌール宇宙基地方面が一番戦力が集中されていたが、側面からの反撃を防ぐためには全方位への進軍が必須であった。

 

 結果、ガルマ大佐の手元には十分とは言えない戦力が残された。

 

「行かせてくれ。今こうしている間にも連邦軍は態勢を整えつつあるんだ。本国との中継基地が無ければ我々は敵地のど真ん中で孤立することになる!」

 

「だからと言って大佐を矢面に立たせるわけにはいきません」

 

 ガルマの言い分はもっともであったが、如何せん彼は自分の価値に対して無知であった。しかし、これは学友の活躍に触発されたものであった。功名心が彼を突き動かしていた。

 

「やっと先鋒に追いついたと思ったらなんか面倒くさいことになっているな」

 

 降下地点へと殺到してくる連邦軍を撃破していき、なんとか目標であるバイコヌール基地の近くまで来たケレンたちだったが、見えたのは敵の攻撃に阻まれている友軍の姿だった。

 それにマルティナの言う通り、本格的な攻略には取り掛かっておらず、時間を浪費してばかりだった。

 

「こんなところで足止めされていてはキシリア様に顔向けできない。……仕方がない。本隊は無視して突撃するしかないか」

 

「無茶よ。あの砲弾の雨が見えないの?基地に近づくまでに蜂の巣にされるわ」

 

 こんなところで止まるわけにはいかない。そう思ったケレンは自分だけでの攻撃を決意する。

 

 しかし、基地を攻略するには敵を排除しなくてはならなかった。基地の周囲では即席の塹壕から砲塔だけを出した61式戦車が防御を固めていた。また基地内には砲兵も展開しているようで動かないでいるザクがいようものなら砲弾が降り注いだ。ザクといえども強引に進むのは危険だった。

 

「分かっている。だから正攻法ではいかない。スラスターによるジャンプで一気に距離を詰める」

 

「おいおい。冗談きついぜ。滞空中は無防備になるだろ」

 

 マルティナの言うとおり、ザクはその推力から強引に機体を跳びあがらせることが出来るが、それは飛行とはとても言えなかった。

 

「角度を調整して縦方向へのジャンプは最低限にする。要は61式を飛び越えることが出来れば良いんだ。それにこんなことに付き合う必要はない。二人はここで援護射撃を頼む」

 

 自分でも分の悪い賭けであることは分かっている。意表は突けると思うが、それだけだ。相手が立ち直るまえに防御を崩さなければ、ただ包囲されたザクが残るだけだからだ。

「おい、ミリア。馬鹿な事言っている奴がいるんだが、つける薬もっているか?」

 

「そんな言い方は無いでしょう。でもケレン、一人で行くなんて言わないで。私も一緒に行くわ」

 

「仲間はずれにするなよな。相手の尻を蹴り上げてやろうぜ」

 

 だが二人は躊躇することなく一緒に行くと言ってきた。

 

「こんな危険なことに付き合う必要はないんだ」

 

「なら、なおさら三人で行かないとな。一人で突撃されてそのままやられたら後味が悪いからな」

 

「三機でいけば相手からの攻撃も分散するし、ザク一機で基地全てを制圧するのは大変よ。私たちを信じて」

 

 出来れば二人には後詰として備えていてほしかったが、ここまで言ってくれるなら仕方がない。最後まで付き合ってもらおう。

 

「よし、後で泣き言言っても知らないぞ」

 

 攻撃の前に機体の状態をチェックする。スラスターは使ってこなかったので推進剤はたんまり残っているし、弾丸もあと一回の戦闘なら足りるだろう。ミリアとマルティナの機体も大丈夫のようだ。

 

 滞空時間を出来るだけ短くするためにぎりぎりまで距離を詰めていくと味方から通信が入った。

 

「そこのザク!どうする気だ?それ以上は危険だぞ」

 

 コックピットの通信モニターに映ったのはなんと司令官であるガルマ・ザビ大佐だった。あれがキシリア様の弟君……。降下作戦に参加されているとは知っていたが、まさかこんな最前線にまで出てきているとは。キシリア様のことを考えればガルマ大佐がやられることだけは避けなくては。

 

「はっ!我々の部隊がジャンプによる突撃により突破口を開きます。大佐の部隊には後詰として援護を願います」

 

 まだガルマ大佐が色々言っているが、もう気にする必要はない。なすべき事をやる。それだけだ。

 

「いいの?ケレン……」

 

 ミリアが心配そうにそう聞いてくる。だが覚悟を決めた以上、実行に移すだけだ。

 

「ガルマ大佐は色々言っているが、大佐に他の代替策はないんだ。ここは無理をしてでも変化を起こさないと。戦線の膠着こそ一番避けなくては」

 

「ケレンがそう言うなら無視するのは良いけどよ。ちゃんと援護してくれるんだよな?優男にしか見えないぜ」

 

 マルティナの言うことは分かる。まるで舞台俳優のようなその美貌は戦場には似つかわしくない。だがキシリア様の弟君としてこんな最前線にまで出てくるというのなら相応の結果を出してもらわなくてはキシリア様の名が傷つくというもの。

 

「大佐は必ず来る。そう信じるしかない。それに自分の身のことだけ心配するんだ。そろそろジャンプに移るぞ」

 

 既にザクには速足で進ませており、助走には十分な速度が出ていた。

 

「全機、跳べ!」

 

 スロットルレバーを押し込み、スラスターを全開にする。緩やかな加速から機体が浮くほどの急加速に移り、体を押し付けるような衝撃が来る。敵からしたら目を疑うだろう。17mを超える巨人がその巨体を浮かせて襲い掛かってくるのだから。現に敵の迎撃は皆無と言ってもいい。相手の意表を突くことは出来たみたいだ。

 敵戦車隊の防衛線を飛び越し、バイコヌール基地の敷地目前にまで来れた。

 

「着地したらそのまま前進するんだ。敵の砲兵を叩く!」

 

 地表が近づいていき、ザクに着地姿勢を取らせる。勢いがあるので足が着いてもそのまま前に歩くようにして衝撃を逃す。散々酷使してきた脚部だったが何とか耐えてくれた。

 

「よし、タッチダウン!一気に駆け上がるぜ」

 

「機体に問題なし。このまま行きましょう」

 

 二人とも問題はないようだ。ザクマシンガンで基地の周囲に張り巡らされた防壁を打ち抜いている。120mmの威力は凄まじく突破口が開けた。

 

「あそこに穴が出来たぞ。突撃だ」

 

 俺が先頭になって基地内部へと侵入していく。モノアイで周囲を探るとやはり榴弾砲が基地の敷地内に陣取っていた。6門を絶え間なく撃つために兵士が周りで動き回っている。

 

「これでも喰らえ」

 

 その榴弾砲をザクマシンガンで横なぎにする。敵との直接戦闘など想定していないそれらの砲が大きな爆発と共に沈黙していく。横ではミリアとマルティナも同じように攻撃を加えている。

 

 突然、風切り音が聞こえ、機体の後ろに位置していたビルに大きな穴が穿たれた。慌ててモノアイを音の聞こえた方に向けると61式戦車がこちらに突進してきているのが見えた。

 

「くそ、もうこっちに来ているぞ」

 

 こちらも撃ち返すが四両の61式がこちらを絶え間なく撃ってきているので、回避を優先しなくてはならない。

 

「ケレン⁉今助けるぞ」

 

「来るな!マルティナまで的になるだけだ」

 

「10時の方向に敵装甲車!そっちは私が抑えるからなんとか凌いで」

 

 61式だけでも厄介なのにミリアから更なる敵の情報が入る。このままでは敵地で包囲されてしまう。せめて基地の司令部だけでも潰すか、と考えた時、こちらに向かってきている61式が爆散した。しかも一両、また一両と次々と撃破されていく。

 

「大丈夫かい?少し待たせてしまったようだね」

 

 先頭を進むのはブラウンのザク、ガルマ大佐であった。俺たちに対応するために前線の61式が引き抜かれたため、そこを強引に突破してきたのだろう。配下のザクも次々に基地の中へと侵入する。こうなれば基地の攻略は時間の問題だろう。

 

 弾薬も心もとなくなっていたので攻撃は彼らに任せているとガルマ大佐のザクがこちらへとやってきていた。

 

「全機無事のようだな。こちらの制止も聞かずに行くのだから気が気でなかったよ」

 

「申し訳ありません」

 

 これしかないと判断したとはいえ、上官の指示を無視したのだ。良くは思われないだろう。

 

「だが、少尉の部隊のおかげでバイコヌール基地を確保することが出来そうだ。礼を言わせてくれ」

 

 モニターに映る大佐は重圧から解放されたかのように朗らかな表情であった。

 キシリア様からの期待に応えるために奮起していたのは自分だけではなかったようだ。

 

「あとは私の部隊に任せてくれたまえ。直に歩兵による制圧も始まるからね」

 

 ガルマ大佐のお言葉に甘えて俺たちはその場で周辺警戒に移る。見るとガルマ大佐のザクを筆頭にして動く物に対して手当たり次第に攻撃を加えている。敵の抵抗を完膚なきまでに叩くことで歩兵の突入を楽にするのだろう。

 

 長い一日が終わろうとしていた。




前回の投稿が一年以上前と知って震えている作者です。
新社会人として働きだして執筆から離れてしまいました。
他の作者様、凄すぎませんか。

いくつかのシーンを描きたくて始めたこの作品ですが、その一つがドップパイロットの初出撃シーンです。コロニーで生まれた人が見るはじめての空とはどのようなものなのでしょうか。書き直す時にはもう少し深堀してみたいものです。

毎度のことながら次回は未定ですが、書くことは止めないので気長に待っていただければ幸いです。
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