このペースを維持出来たら良いんですけど。
それでは、本編をどうぞ
それから数か月して、マリヤは静かに息を引き取った。長い闘病生活の末だったが、その最期は安らかなものだったという。
キシリアは父デギンに直談判し、ケレンを預かることに成功した。
「今日からここがお前の部屋だ」
キシリアは扉を開けて、ケレンに部屋を見せる。キシリアはケレンのために自身の邸宅に部屋を用意した。最初は何処の馬の骨かも分からぬ男と同じ家に住むことに難色を示したデギンだったが、滅多に見せぬキシリアの気迫に押し切られた形になった。
「わあー、広いですね。家具も多いし、持て余してしまいそうです」
そう言ってケレンは部屋の中を探検する。キシリアが用意させた部屋なので、コンパクトながら機能的な家具が揃えられていた。だが、その家具も必要最低限な物だけ、後でケレンが欲しいと言ったものを足そうと思っていたキシリアは疑問に思う。
「ベッドにクローゼット、テーブルとイス。どの部屋もこんなものではないか?」
「いえ、僕が待機していた部屋には寝袋がありましたが、クローゼットなどの収納家具はありませんでした。キシリア様と接触するかもしれないと言われ、服は定期的に渡されましたが」
想像していたよりも壮絶な暮らしをしていたことを知ったキシリアは思わず、ケレンの顔に手を伸ばす。最初くすぐったそうにしていたケレンだったが、ついには自分からキシリアの手に頬をすり合わせた。
「なんだか安心します」
子犬のようなケレンに和むキシリアだったが、自分の様子に気づいて慌てて手を引っ込める。
「…コホン。それでは今日から私がお前の主人だ。よろしく頼むぞ」
「はい!よろしくお願いします。警備はお任せください」
何の疑問も持たずに返事をするケレンに苦笑するキシリア。警備をさせるために引き取ったわけではないのだがな。マリヤとの約束を果たす日は遠そうだ。
その男は自分がなぜここに招かれたのか分かっていなかった。ここの主と直接的な面識は無く、さらにお互いの関係は険悪であるとさえ言えるかもしれない。こちらはそんなこと思っていないのだが。
「いきなり呼びつけて悪かった。楽にしてくれ」
自分を招いた者がそう言うが、その言葉に甘えるほど男は純真無垢では無かった。男は座ってはいたが姿勢を楽にすること無く、対面に座る少女を油断なく見つめた。
「そんなに熱く見つめられたら私とて困ってしまうのだがな、ランバ・ラル殿?」
「いえ、そのような意図は決してございません。ご容赦ください」
ランバ・ラルはそう言って、どこかからかうような目つきの少女、キシリアに頭を下げる。
「今のは戯れが過ぎたな。早速本題に入ろう。貴殿はダイクンの遺児、キャスバル・レム・ダイクンとアルテイシア・ソム・ダイクンを逃がそうとしているな?」
「…何の話か、全く分かりかねますな」
ランバは顔色を変えなかった自分を褒めてやりたかった。まだ計画段階でごく限られた者にしか話していないことをこの少女は言い当てたのだ。これはブラフか、それともスパイでもいるというのか。
「そう怖い顔をしないでくれたまえ。私は見ての通り小娘なのだから、そのような顔で睨まれたら怖くて夜も眠れなくなるぞ」
どの口が言うのか。ランバはこの少女への警戒をさらに引き上げた。もう遅いかもしれないが。
「貴殿も察知していると思うが、近日ジオン共和国はザビ家主導の新たな体制へと生まれ変わる。議会への根回しも既に済んでおり、これは覆らない」
キシリアの言う通り、ダイクン派は内輪揉めに徹してしまい、ザビ家が地盤を固めるのを許してしまった。
「貴殿にとってはもう政争などどうでもいいのだろうが、懸念しているのは二人の遺児のことだろう?あの二人はどの陣営にとっても無視できないものだからな」
キシリアは素っ気なく言うが、まさにその通り。キャスバル・レム・ダイクンとアルテイシア・ソム・ダイクン。このお二人はジオン共和国を引き裂く火種になりかねない状況だった。
「二人とその母であるアストライア・トア・ダイクンは我らザビ家が保護、と言っても半ば軟禁状態だが、している。二人はダイクン派としては絶好の旗印、利用することで勢力を盛り返すことも夢ではないだろう」
ランバは自分でも知らないうちに奥歯を噛みしめた。政争!そのような醜い物のためにあのように幼い者を利用しようとしている者がいることに彼は怒りを覚えていた。自分の父であるジンバ・ラルがその筆頭であることも彼に追い打ちをかけた。
会う度にまだ終わってはいない、キャスバル様さえ取り戻せばと妄言を繰り返す父に一種の疎みさえ感じる。
「だが、ザビ家による体制構築のこのタイミングで二人を担ぎ出しても無用の混乱が起こるだけだ。それは避けなくてはならない。そこでお二人にはコロニーを離れてもらう。思い切って地球に行ってもらうのが一番だと思っている」
確かにランバは二人に地球へ逃げていただくことを計画していた。ザビ家からはもちろん、他のダイクン派からの介入も地球ならば難しいと思っての事だった。キシリアの言うことに道理があることをランバは理解したが、なぜそれを自分に言うのかが分からなかった。
「もしそれが本当ならばなぜ私にお話されるのかが分かりませぬ。もちろん仮定の話ですが」
「それなら簡単だ。私は貴殿にお二人だけでなく、アストライア様も連れて行ってもらいたいからだ」
ランバは自分の耳を疑った。ジオンの忘れ形見だけでなく細君であるアストライア様まで逃亡を許すというのか。
「しかし、それであなたに何の利益があるのですか。お言葉ですがアストライア様まで地球に行かれるとなるとダイクン派は地球で蜂起するとお考えにならないのですか?」
「下手な者ならその可能性もあるだろうな。しかし、私は貴殿が実行してくれるなら問題ないと思っている」
キシリアはここには居ない誰かに思いを馳せているようだった。
「私はお二人を不憫に思っているのだ。あの年で政治の道具に使われようとしているのだ。共和国にいるより地球におられるほうがよっぽど幸せだと思う。それに私にとってもメリットがある」
キシリアはランバ・ラルをじっと見る。まるで獲物を仕留める狩人の目だ、とランバは思った。
「貴殿があの老いぼれの首輪になることを私は期待している」
「…老いぼれというと?」
「ジンバ・ラル、貴殿の父上だ。ここまで大局が決まったのにあやつはまだ負けを認めようとしない。地球連邦政府からの圧力は未だ存在するというのに国を割ろうとするとは正気の沙汰ではない!」
キシリアは怒りを隠し切れないようだった。口調が荒々しいものになっていた。
「コホン、貴殿の前で話すことでは無かったな。許せ」
「いえ、本当の事なので」
「ふっ。貴殿も理解を示してくれるとは。貴殿もあれには苦慮しているようだな」
ランバは苦笑をするにとどめた。もう誤魔化すことは無理のようだ。この方と自分は見ている方向が同じなのかもしれない。
「そこで貴殿の存在だ。どうせあの老いぼれも貴殿が三人を連れだす事に成功すれば地球まで追いかけていくだろう。貴殿があやつを止めろ。老いぼれに若者の未来を潰す権利は無い!」
「ですが、まずは救出を成功させなくては絵に描いた餅です」
「それについては心配するな。警護には私が穴をあける。手引きもしよう」
確かに警備側と通じることが出来たら三人の救出も可能だろう。ランバはこの計画に可能性を見出していた。
「ああ、忘れていた。貴殿には私の派閥に入ってもらうからそのつもりで」
「はっ⁉」
今度こそ話が分からなかった。自分がキシリアの派閥に入る?なぜ?
「共和国黎明期から力を振るい、ゲリラ屋と呼ばれた貴殿の力が私には必要だ。もちろん給料は出すし、部下も同様に私が面倒を見よう。とりあえずは地球とサイド3を行き来してもらうことになるだろう」
混乱している間にも話はどんどん進んでいるようだ。もちろん作戦決行後、出世コースから離れるだろうとは覚悟していたが、部下や彼女にまで迷惑をかけるのは心苦しく思っていた。その問題が解決されるに越したことはない。
「随分と気前の良い話ですな」
「捕まったら重罪は免れないような事を頼むのだ。それくらいの報酬は用意せねばな。さらに老いぼれから二人を守り続けないといけないのだ。私が貴殿の立場だったらと想像するだけでも頭が痛い」
確かにあの父を相手しないといけないのは苦労するだろう。ひょっとしたら自分はこの少女に良いように使われているだけではないのか、そんな疑惑が脳裏を過ぎる。
「それで貴殿の返事は?私としては是非応えてもらいのだが?」
そう言って右手を差し出すキシリアの目の奥は不安で揺れているようだった。確かに自分はその気になれば一瞬でこの少女を無力化出来るだろう。だが、この少女は誠意だと言って護衛の一人もつけずにこうして話し合っている。
「良いでしょう。不詳ランバ・ラル、貴殿の力となりましょう」
「ありがたい!貴殿がいれば百人力だ」
二人はがっちりと握手を交わす。キシリア邸の応接室でまた一つ歴史が動いた。
「そうそう。貴殿が捕まったとしても私が動くことは難しいだろう。傍から見ればダイクン派とザビ派の争いなのだからな」
「ご安心ください。ゲリラ屋の本分、存分にお見せしましょう」
そう言ってランバ・ラルは不敵に笑った。そこにいたのは紛れもない戦士だった。
というわけで第4話いかがだったでしょうか?
キシリア様は自分の思い描く未来のために行動を始めました。これで政治一辺倒ではなく、ランバ・ラルの協力のもと軍事にも理解を示すキシリア様になることでしょう(予定)
原作のキャラクターを描くのは難しいですね。口調一つとってもこれで良いのかと悩みます。
後で書き直すこと前提の作品なのでクオリティ無視でまずは書き上げたいと思っています。
それでは次の話でお会いしましょう。