キシリア様の様子がおかしい   作:不二

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前話から2週間空いてしまいました。
また週一のペースにもっていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。

それでは本編をどうぞ。


第5話:蠢き

 宇宙世紀0069年。デギン・ソド・ザビは国号をジオン共和国からジオン公国に変えることを発表した。議会も入念なる根回しによってこれを議決し、デギンは公王となり、ザビ家にはそれぞれ役職が与えられた。

 ザビ家による新体制をアピールするために大規模なパレードが行われていた。新しい支配者であるザビ家を一目見ようと沿道には多くの人が来ていた。

 

「姉上、たくさんの人が僕たちを見ています」

 

「そうだ。彼らは見定めようとしているのだ、我らザビ家がどのようであるかをな。国民の期待を裏切るようなことはしてはならんぞ」

 

「はい、姉上!」

 

 リムジンの中でキシリアはそう言って弟であるガルマに諭した。最初は浮かれているようだったガルマもキシリアの言葉を聞いて襟を正したようだった。

 

(ふむ。ガルマもなかなか良い目をするではないか)

 

 そうキシリアがガルマへの評価を高くしていた時、急に前方を走っていた車が炎に包まれた。爆音と衝撃がキシリアとガルマの乗るリムジンをも揺らす。

 

「うわぁ!姉上、ドズル兄さんたちの車が!」

 

「…うろたえるな!ザビ家の男だろう⁉ザビ家の、者だろうがっ」

 

 そう言うキシリアも衝撃で唇を噛みしめていた。

 

 警備に就いていた兵士たちは消火器を求めて右往左往していた。見物に来ていた人々も突然のことに衝撃を受けているようで誰一人言葉を発することは無かった。

 

 すると炎上している車が揺れ始めた。扉を蹴り飛ばして中から出てきたのは血まみれのドズル・ザビであった。

 

「くそぉぉぉ!サスロ兄がやられた!誰がやったんだ!」

 

 血まみれであり、傷を負ってもなお吠えるその姿にその場にいた一同は圧倒された。

 

 そんな中、キシリアは事態を冷静に見ようとしていた。

 

(確かに、誰がサスロ兄を殺した?確かにサスロ兄とは衝突を何度かしたが、これからのザビ家に必要不可欠な人材だった。…もしかして外部の犯行⁉これ以上の離反行為は座視できないとでもいうのか)

 

 一方そのころ、ダイクン家の邸宅では極秘の作戦が行われていた。

 

「大尉さん、今の音は何なのでしょうか?」

 

「分かりません。我々とは違うところで別の事件が起こったようです。しかし、計画に変更はありません。急ぎましょう、アストライア様。お二人もお早く」

 

 ザビ家によるパレードに多くの人員が割かれており、その隙をついてランバ・ラルたちは救出作戦を実行していた。もちろん警備側からの手引きもあったのは言うまでも無かった。

 その後ラルは偽装パスポートを使い、アストライア、キャスバル、アルテイシアを地球に逃すことを成功させた(ついでにジンバ・ラルも)。

 

 翌日、新聞はサスロ・ザビ暗殺の記事で溢れかえった。犯行声明などが出されていないので犯人への手がかりは無いとしながらもダイクン派の陰謀であるという論調であった。ダイクン派はもちろん関与を否定したが、求心力を急激に失い、その後のザビ家による粛清も国民は納得してこれを受けて入れた。これによりザビ家独裁が現実のものとなった。

 

 キシリアは自室にてこれらの新聞を読んでいた。

 

「記事が見事なまでに暗殺説で一致している。兄上あたりが動いたな。これで国内は一応の統一を見せるようになったか」

 

 そう当たりをつけたキシリアの傍ではケレンがキョロキョロと辺りを見渡していて忙しなかった。

 

「…少しは落ち着いたらどうだ?」

 

「いえ、キシリア様に何かあってからでは遅いです。警戒はしないと!」

 

 護衛がいるというのに過剰なまでに警戒をするケレンに少し呆れながらも、そこまで自分の身を案じてくれる人がいることに喜びを感じていた。

 

(国内は団結へと動き出すだろう。懸念すべきは外部からの干渉。やはり諜報機関が必要か)

 

 そう言ってキシリアが見つめるその先には新聞の科学欄があった。そこにはミノフスキー粒子の公証実験が成功したと書かれていた。

 

 トレノフ・Y・ミノフスキー博士が存在を予見した新粒子は当初から物議を醸していた。学会はこの理論を空想の産物と見なし、ミノフスキー博士は学会での居場所を失った。彼に目を付けたのがデギン・ソド・ザビであった。デギンは博士をサイド3に招き、研究を支援した。

 研究は難航したが、今年ついにミノフスキー粒子の存在が実験により証明された。

 デギンはさらなる研究に携わる者として一族のキシリアを指名した。キシリアはミノフスキー博士に密閉型のスペースコロニーを研究拠点として提供した。

 そして翌年の宇宙世紀0070年、それまで未確定であったミノフスキー粒子による電磁波の伝達の阻害ならびに精密機器をダウンさせることが正式に確認された。さらにはミノフスキー粒子を利用したメガ粒子砲の開発も相重なって、ミノフスキー粒子は軍事を一変させる存在となった。

 

その際、博士の研究を陰から見守る者たちがいたとされている。彼らはのちにキシリア機関として界隈では呼ばれるようになる。国家プロジェクトである博士の研究を守るためとして予算が組まれたこの組織はキシリアを長として、その後も拡充を進めた。ついにはジオン公国の間諜、防諜を一手に引き受ける情報機関へと成長した。トップの意向が強く反映されたこの組織は限界まで行動に出ることを忌避し、監視を続けることを第一としたが、実力行使に出る時には苛烈に行動することをモットーとした。

 情報機関としては生温いともとれるこの手法について彼女は

 

「どうせ末端を潰したところで代わりが来るだけなのだ。さらにその追加要員はこれまでよりも深く潜るだろうから再び発見するのが困難となる。ならば発覚していないと錯覚させ、泳がせるのが得策であろう?」

 

と述べたとされている。影さえ見せぬその手法により独裁政治にありがちな粛清を実行する組織にはならず、キシリア機関は人知れず国内の治安を守っていた。

 

当初は存在さえ否定的だった学会、ならびに地球連邦政府もこの新粒子の研究を独自に行い、同様の技術を手に入れることとなった。

 地球連邦政府はこのメガ粒子砲を新型宇宙艦であるマゼラン級、サラミス級に搭載することで火力向上にミノフスキー粒子を利用した。

 

 反対にジオン公国はこの新粒子によって戦争のルールを根本から変えることを画策した。すなわちミノフスキー粒子を利用した新型核融合炉並びにミノフスキー粒子散布下での新型機動兵器の開発である。ミノフスキー粒子の実験に携わっていたキシリアはこの新型兵器開発プロジェクトの責任者にも引き続き抜擢された。

 

 所変わって地球。難を逃れて一時の休息を得ている家族がいた。

 

「またか。あの人もなかなか頑固だな」

 

「申し訳ございません。ですが、エドワウ様以外は部屋に入れないと聞かなくて。食事さえ突っぱねるのです」

 

 恐縮した様子で話す家政婦に気にするなとばかりに手を振る金髪の青年。彼は家政婦から食事の載ったトレーを受けとり、自分を呼んでいる者の部屋まで行く。

 

「ジンバさん。僕だ、エドワウだ。食事を持ってきたんだ」

 

「おお、その声はまさしくキャスバル様。今扉を開けますぞ」

 

 そう言って扉を開け、顔を覗かせたのは同じくサイド3から逃れてきたジンバ・ラルであった。息子であるランバの計らいでキャスバルたちと同じテアボロ・マスのところに身を寄せていた。

 

「さあ、キャスバル様。この私の話を聞いてくだされ。あなたの父君の話ですぞ」

 

「だが、せっかく食事を持ってきたのだ。まずは食べたらどうだ?」

 

「食事など後でよろしい。キャスバル様に真実をお伝えする事こそが私の使命なのですから」

 

 こちらのことはお構いなしに話してくるジンバにキャスバルは辟易していた。彼が話すのは決まってスペースノイドの独立、自分の父、ジオン・ズム・ダイクンが打ち立てたニュータイプ論、そして父の死の真相と銘打つものだった。

 

「いいですか。あなたの父君、ジオン・ズム・ダイクンは偉大な思想家でした。彼の優秀さはいつも一番近くにいた私が保証します。しかし、あのザビ家が彼を毒殺したのです。弱い毒物を長期間にわたって彼に服用させることで心臓病に偽ったのです。その後ダイクン派を排除したのが何よりの証拠!…聞いていますか、キャスバル様?」

 

「…あぁ。もちろん聞いているとも」

 

 年甲斐もなく唾を飛ばして怒鳴るジンバの話を話半分に聞くキャスバル。ジンバにとって自分はダイクンの遺児としての価値しかないのだろう。母であるアストライアもジンバから距離を置くようになっていた。それを薄々感じてか、ジンバは益々キャスバルに自らの思いを、考えを、恨みをぶつけるようになっていった。

 

「また毒殺の話をしている。それにお兄さんの名前はエドワウよ」

 

「おお、アルテイシア様。アルテイシア様も一緒に話を聞いて行かれると良い。とても大事な話ですぞ」

 

 声が聞こえてきた方をキャスバルが向くと可愛らしい少女が扉の傍に立っていた。

 

「私の名前はセイラ・マスよ。その名前はもう捨てたのよ。それとお兄さん、お母さんが呼んでいたわ」

 

「分かったよ、アルテイシア。今行く。それじゃジンバ、また今度」

 

もう、兄さんまで。そう言うアルテイシアを連れてキャスバルは部屋を出ていく。

 

「それで母さんは何て言っていたんだ?」

 

 ジンバの部屋から十分離れたのを確認したアルテイシアは舌をペロッと出す。

 

「兄さんが困っていたようだったから助け船を出したの。別に母さんは呼んでいないわ」

 

「そうだったのか。いや、助かったよ」

 

 キャスバルは兄思いの妹の頭を優しく撫でた。アルテイシアも嬉しそうに笑う。

 

 一方、ジンバは苛立ちを抑えるように食事へと手を伸ばしていた。

 

「成長するということは我々大人の手から離れようとするのと同じか。だが、わしはこのままでは終わらん。終わらんぞ」

 

 ジンバの見つめる先にはある大企業の名刺があった。

 




食わず嫌いならぬ見ず嫌いをしてきたTHE ORIGINをガンチャンで見ました。
すごく面白くて、今回の話は多分に影響を受けたものになりました。

サスロは退場の運びとなりました。ザビ家にはもう少しギスギスした関係でいてもらいます。
キシリア様の正史での悪行の種は一つずつ消えていっていますが、果たしてどうなるのか?

それでは次の話で会いましょう。

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