…今週中にもう1話投稿出来るよう頑張ります。
それでは本編をどうぞ。
「ジンバ・ラルが死んだそうだな」
手元の資料から目を離すことなく目の前のギレン・ザビはそう話す。突然の呼び出しで何も準備出来ずにキシリアは彼の前に来た、来てしまった。
「はい。何者かが地球にいるジンバ・ラル並びにダイクンの家族を襲撃したそうです。襲撃犯は撃退されましたが、全員襲撃時の傷、もしくは自決用の毒の服用により生存者はいません」
兄であるギレンがどこまでこの事件に興味があるのか、どこまで情報を得ているのか分からないので事実を淡々と言うしかない。聞いてもいないことを喋ればどこで失言するか分からなかった。
「お前のところの者の犯行かと思ったが、その反応を見るとどうやら違うようだな」
「それは心外です。彼らの頭領であるランバ・ラルを手中にしている私になぜジンバを殺す動機があるでしょうか?それにその襲撃犯を撃退したのは我がキシリア機関の者です」
「なるほど。後から現場に介入してきた第三勢力とはお前の部下だったか」
キシリア機関の設立を許可した兄上だったが、やはり独自の情報網は用意しているらしい。自分に全てを任してくれていないことに若干の憤りを覚えたが、兄上ならそうするだろうと心のどこかで納得していた。
ギレンは資料から視線を上げ、キシリアを睨みつけるように見つめる。兄上としてはただ見ているつもりなのだろうが、キシリアはこの心の内まで見透かすような目が苦手だった。
「お前のことだ。調査はしているのだろう?報告を聞かせてくれ」
「襲撃犯には現地のごろつきが雇われたようです。多くのダミーカンパニーを仲介して金が送金されているので雇い主にまでたどり着くのは困難とのことです」
「つまり何も分からないということか」
「…申し訳ございません。ですがアストライア様をはじめダイクンの遺児も無事です。依然ダイクン派を抑えることが可能です」
キシリアは自分の気持ちを抑え、ただ自分の兄に陳情する。なんとか彼ら家族の価値を示して見せなければ兄上は容赦なく彼らを消すだろう。
「ダイクン派などもはや形骸化している。しかし、影響力が全く無いわけではない。彼らの処遇を見直す必要があるのではないか?」
「それについてはもう考えています。近いうちに彼らを宇宙に上げます。地球ならば他の勢力からの手出しもないだろうと考えていましたが、無理をする者というのはどこにでもいるようです。行先としてはルウムのテキサス・コロニーを考えています。あそこならばサイド3からも程よい距離になります。監視も容易になるでしょう」
「好きにしろ。彼らを連れ出したのはお前だ、お前の責任の下で対処しろ。それと近頃職務以外のことにも口を出しているそうじゃないか」
そう言ってギレンが放ってみせたのは艦の仕様書であった。そこにはチベ級巡洋艦の近代化改修案が示されていた。
「艦の設計局にも友人がいまして、彼らとの協議の末、考案された改修案です。実体弾を使用する本艦の近代化改修に際して火力と対空性能の向上を要望しました」
キシリアの言うように仕様書にも一部設計の変更がなされたことが書かれていた。ミノフスキー粒子発見は艦艇の設計にも影響を与えていた。メガ粒子砲は実体弾のものとは射程、威力、砲弾の補給の面で格別となっていた。
「前方に発揮できる火力の向上のために、前方の主砲を背負式配置によって2基に増設しました。さらには対空砲塔のレイアウトを変更、その数も増加させることで効率的に弾幕を張ることが可能になりました」
「艦の性能向上につながるのなら、それで良い。だが、お前の本分は諜報機関の運営と新型兵器の開発だ。職務を忘れるな、いいな」
そう言うと部屋を下がるように促された。キシリアは黙って頭を下げ、部屋を出た。
「詳細は以上だ。貴君の父上を救うどころかその犯人の足取りさえつかめてない。すまない。」
「頭をお上げください。元はと言えば父の行いが原因。父が権力への執着を捨てていれば良かったのです」
兄ギレンとの対談から数日後、キシリアはランバを邸宅に呼び出していた。庭に面した部屋でキシリアはランバに事の顛末を語った。
「そう言ってくれると助かる」
「それでダイクン家の皆様は?」
「既に地球を発たれた。会いに行くか?それならばこちらでシャトルを用意するが」
「…いえ。私のような者と会うのも苦痛になりましょう。父ジンバ亡き今、ダイクン家の方々にはこのまま誰の思惑にも左右されずに生きていただきたいのです」
そう言うランバの顔は憑き物が取れたような晴れやかなものであった。最後まで権力にしがみつこうとしたジンバ。そんな父を間近で見てきたランバはようやくその思いから解放されたのかもしれない。やはり彼も自分と同じように家族に翻弄されてきたのだ。そんなランバの姿に親近感を持ったキシリアを現実に戻したのは庭に響く声だった。
「はぁっ!」
「まだまだ!」
キシリアが聞こえてきた声の方へ視線を向けるとケレンとランバの部下であるクランプがダミーナイフで模擬戦をしていた。
「くそっ」
「そんな大振りではいけませんなぁ。ナイフは細かく使っていかなくては」
ケレンはその身軽さを利用してなんとかナイフをクランプに当てようとするが、戦闘経験の違いからか、上手くあしらわれていた。
「ケレンもなかなかやると思っていたが、やはり子供ということか」
「いや、あれでなかなかやるものです。クランプも澄ました顔をしていますが、内心冷や汗をかいているでしょう」
そうランバはケレンを評価する。さらなる戦闘技術を求めたケレンに押し切られ、キシリアはランバたちを紹介した。それを契機としてこうしてケレンは稽古をつけてもらっていた。
「彼は思い切った動きをします。技術を身に着ければ侮りがたいものになります。しかし、何と言いますか。彼は兵士というより…」
「ヒットマン、かね?」
キシリアの言葉に同意するようにランバは頷く。キシリアは苦虫を嚙み潰したような顔でケレンを見る。ひたすら組手をするケレンは見ていて痛々しささえ感じる。
「思い切りが良いとは言いましたが、彼の場合は良すぎる。自分の命は顧みず、ただ相手を倒すことのみに注力しているように見えます」
「あやつは訳ありでな。日の当たる場所で生きてこられなかったようなのだ。少しは子供らしいことをさせてやりたいのだが、私の傍にいるのでなかなか難しい。難儀なものだ」
ランバはこの若さであの少年の母親代わりを務めようとしているキシリアに憐れみさえ感じた。21歳になっていたキシリアも普通の家庭ならば大学生や社会人になったばっかりで大人に支えてもらう側だっただろう。
しかし、ザビ家という環境が彼女にそれを許さなかった。キシリアは自分を頼る者、利用する者によって急速に大人になることを強いられていた。
「だが、今はそんなことを言っていられる場合ではない。私の力になりたいというやつの願いだけでもかなえてやらねば。それにはまず生き抜くための力が必要だ。貴殿には苦労をかけると思うがよろしく頼む」
「お任せください。使命を成し遂げ、さらに生還してこそ良い兵士というものです」
「それこそ私が彼に身に着けてほしい能力だ。それともう一つ貴殿に頼みたいことがある」
キシリアは向かいのランバに資料を手渡す。ランバが見た紙面には新型機動兵器開発プロジェクトと書かれていた。
「新型機動兵器ですか。たしかキシリア殿が陣頭指揮を取られているはずでしたな。ですが、これはなかなか奇抜なものですな」
資料をめくっていくとそこに書かれていたのは人型のイラストであった。
「MIP社は宇宙戦闘機を大型化させたものを提案してきた。これは順当なものなのだが、ジオニック社はなんと人型兵器なるものを提案してきた。なんでも手足を利用するAMBACという新しい姿勢制御システムによりスラスターの消費を抑え、これまでの兵器の機動性と航続距離を凌ぐ兵器だというのだ」
「ですが、使い物になりますかな?」
ランバとしてはアニメの見すぎではないかと疑ってしまう。人型にそれほどの利点は存在せず、欠陥機になってしまうのではないかと。
「だが、コンペではこの人型が優秀な結果を見せたのだ。確かに宇宙空間での性能はMIP社のものが優れていたのだが、ジオニック社のものはコロニー内や月やアステロイドなどの低重力地帯でも運用することが出来、なによりAMBACによって推進剤の消費が抑えられることによりこれまでの兵器より高い航続力を発揮した点が決め手となった」
「なるほど。手足があるからこそこの人型は新兵器になりえた、と。というと私に頼みたいことというのは…」
「貴殿にはこの新兵器のテストパイロットをしてもらいたい。この人型はテストでは良好な結果を示したが、兵器としては決して完成度の高いものとは言えないのだ。白兵戦もこなす貴殿のような人材が必要なのだ」
ランバは武者震いをする自分を抑えるのに苦労した。今までの兵器の常識を覆すものに携わるとは!
「ダイクン家の皆様を守っていただいた恩もあります。このランバ・ラルにお任せください。そう言えばこの兵器は何て呼称されるのですか?」
「我々はこの新型兵器をモビルスーツと呼んでいる。期待しているぞ、ランバ殿」
ジンバさん、即退場。しょうがないね。
チベ級は作者の趣味です。ジオン軍の(私なりの)艦船思想などは一週間戦争で描けたと思っています。(いつになるか分かりませんが)
やっとモビルスーツ(名前だけ)が登場しました。このテンポ感では読者の皆様を飽きさせているのではないかと戦々恐々としています。
それでは次の話で会いましょう。