楽しんでいただければ幸いです。
それでは本編をどうぞ。
「そう言えばケレンはいくつになった?」
「15歳ですよ。お忘れになったんですか?」
執務室で書類を重要度別に分類していくケレンにふと気になった事を尋ねるキシリア。最近、護衛は他の者がしていることを受け入れてケレンは秘書の真似事をしていた。当初は慣れない作業に四苦八苦していたが、今では些細な書類仕事を任せられるくらいには成長した。
「ふむ。我々が出会ってから4年がたったのか。早いものだな」
「そうですね。殺すことしか出来ない子供も今ではキシリア様のお手伝いが出来るようになるくらいですからね」
キシリアと話しながらもケレンの目線は書類に向けられており、その手は止まらない。キシリアは以前から考えていた案を言う決心がついた。
「…ケレンよ。お前を学校に行かせようと思っている」
「なんで!なんで学校に?今まで行ってなかったじゃないですか」
思ったとおり、ケレンは納得いかないようだった。聞き分けの良い子に成長してくれたケレンだったが、未だにキシリアと離れることを病的に恐れるのだった。
「それが問題なのだ。お前を引き取るためにお前を私の私兵ということにしたから今まではそれで良かった。だが、お前を私兵で終わらすわけにはいかない。その第一歩が学校への通学なのだ」
「でも!」
「マリヤさんの願いでもある」
キシリアの言葉に黙り込むケレン。やはり母親であるマリヤが絡んでくるとケレンもおとなしくなる。
キシリアは執務机を立ち、向かいにいたケレンの肩に手を置いて語りかける。
「私はマリヤさんと約束したのだ。人並みの生活をさせるとな。これまでは周囲に悟らせない影の護衛として重宝してきたが、もうお前に頼り切るのは止めだ。分かってくれるな?」
ケレンはしばらく黙ってキシリアを見つめていたが、キシリアの意志が固いことを見ると諦めたように頷いた。
「分かりました。キシリア様がそう言うなら。…でもどの学校に行くかは自分で決めていいですよね?」
「うむ。それはもちろん任せる。バックアップはきちんとするぞ」
ケレンの晴れやかな顔に少し戸惑いを覚えたキシリアだったが、その時は流してしまった。
後日ケレンの通う学校の名前を聞いていなかったことに気づいたキシリアはケレンに尋ねる。
「そう言えば学校選びは終わったのか?」
そう聞くとケレンはニッコリと笑い、書類を見せてくる。
「公国軍士官学校にしました!」
慌ててキシリアは書類をひったくって見るが、それは確かに士官学校の入学案内であった。
「…それでは話が違うだろう」
「でも学校は自分で決めていいと言ってくれました」
「士官学校なんて認められるか。入学は許さん」
「そう言うと思ってもう入学願書提出しておきました」
何を言われたのかキシリアには分からなかった。
「そんなこと出来るはずがない。第一、書類に必要な親族、後見人欄のサインはどうしたのだ」
「していただきましたよ、キシリア様に。サインしてもらう書類に紛れさせたらばっちりでした」
キシリアは頭を抱えたくなった。確かにケレンに任している書類は重要度の低いものばかりだから、サインする時に一々確認してこなかったのだ。
「…これだけは聞かせてくれ。なぜ士官学校なのだ。マリヤさんの思いを踏みにじるのか」
「いえ、これがキシリア様のお役に立つための一番の方法なんです。キシリア様を守るための力を身に着けてきます」
まただ、またこの子を私が縛ってしまう。だが、それを非難出来ないのも事実だった。身を守るためと称してランバたちに戦闘技術を教え込ませたのは私だ。ケレンを普通の少年として扱ってこなかったのは他ならない自分であった。ならば士官学校への入学をゆるしてやり、彼の思うがままにさせてやるのが私に出来る精一杯ではないのか。
「分かった。入学は認めよう。だが、軍事だけに偏らず学問もしっかり行うのだぞ」
「ありがとう、キシリア様!」
そう言って抱き着いてくるケレンを受け止めてやりながら、キシリアは考える。この子が、このような子が生まれてくる世を変えなくては。キシリアは自分に課した使命を再確認した。
「あのケレン少年が士官学校に入学してから早2年となり卒業までもう少し。キシリア様の機嫌がこの頃良いのはそれが原因ですかな」
「大尉、一言余計だ。それではまるで私が子供離れ出来ない親のようではないか」
余計も何もそのものみたいだという言葉が喉から出そうになったが、ランバは寸でのところで思いとどまった。しかし、顔には出ていたようでキシリアにジロッと見られた。
「メールの文面から元気でやっていることが分かっているので十分だ。それよりも報告を始めよ」
キシリアがランバを呼んだのは雑談をするためではもちろんなく、彼から報告を聞くためだった。
「失礼しました。それでは報告に移らせてもらいます。まずはこちらをご覧ください」
ランバはプロジェクターを操作し、資料画面をキシリアに提示する。そこにはMS-01からMS-04と書かれた四体のロボットが載っていた。
「これまでの報告にもありましたが、新型機動兵器、MSの開発は順調です。0073年に開発されたMS-01から軽量化、高機動化を目指してこれまで改良が続けられました。動力問題を筆頭に多くの問題が長らく開発陣を悩ませましたが、ミノフスキー博士による新型の小型熱核融合炉とエリオット・レム氏の尽力もあって軍用に耐えられる機体が出来上がりました」
そう言ってランバが画面を変更すると、そこには無骨でマッシブな体付きをしているモビルスーツが描かれていた。特にガスマスクを模したような頭部とそこに輝く一つ目が特徴的であった。
「YMS-05A、ペットネームはザクです。頭頂高17.5m、本体重量50.3t、ジェネレータ出力は899kwを記録しました。実際に稼働している映像もございます」
画面の中ではザクが宇宙空間を自由に駆けており、手にしたマシンガンで次々と標的を打ち抜いていった。それにはまさに時代を変化させる力を感じさせた。
「ジオニック社はこの機体をモビルスーツの実戦タイプとして軍に提案したいとの事です」
キシリアは手元の資料も見てこの兵器が使えるものかを考える。
「なるほど。実際に大尉が乗ってみての感想を教えてくれ」
「エリオット氏が筆頭になって作られた動作プログラムは優秀で、MS-01にあった不安定さは存在しません。もちろん改良は続けられるべきではありますが、実戦に出しても問題ないと思います」
「だが資料によると実戦レベルのモビルスーツはこれだけではないようだな」
キシリアのめくった資料にはツィマット社も文字が書かれていた。
「はっ。ツィマット社はEMS-04、ヅダという機体を開発しました。彼らは採用試験にヅダを追加していただきたいと申しております」
「分かった。ギレン総帥の許可が出たらすぐにこの二機の試験を行う。優秀な結果を出した機体を正式採用しよう」
キシリアの言葉に頭を下げることで了解を示したランバだったが、その顔は浮かなかった。それに気づいたキシリアはランバに問いかける。
「どうした、不服でもあるのか?」
「いえ、機体にはございません。しかし、モビルスーツの開発をそこまで急がれるのは何故ですか?確かに公国の軍事力拡充は重要だとは思いますが。…まさか⁉」
「それは杞憂だ、大尉」
キシリアはランバの疑問を否定してみせるが、その顔も厳しいものだった。
「しかし、備えは必要だ。いざという時のために力を蓄えなくてはいけないのだ」
宇宙世紀0074年、ザクとヅダの採用試験が実施された。ヅダは宇宙空間での高い機動性を発揮したが、公的試験飛行中に空中分解事故を起こしたこと、コストがザクの1.8倍だったことが影響し、ザクが正式採用されることになった。
ザクはMS-05Aの形式番号が与えられ、量産が開始された。また試験で露呈した継戦時間の短さには改良を加えるようにとの命令も下った。
一方ランバが危惧したように世界は切迫していった。地球連邦政府によるコロニーへの圧力は益々増していき、コロニーの住民による暴動もそれに呼応して増加していった。
コロニーの新聞には負傷者や行方不明者が掲載され、その混乱ぶりが顕著に表れていた。ある新聞の行方不明者欄にはエドワウ・マスという名前が書かれていた。
そして0074期生としてシャア・アズナブルという青年がジオン公国士官学校に入学した。
MS開発史はあっさりとしたものになりました。もう少し物事をバッサリとカットしていきテンポを早くしたほうがいいと思うこともあるのですが、最初の作品なので思うがままに書いていこうと思います。
最後に赤いやつが登場しましたが、当分出番は無いです。
それでは次の話でお会いしましょう。