独り身で寒い夜を過ごしている男が故郷で飼ってた犬を思い出してペットを飼おうとするけど、何かの間違いで獣耳幼女奴隷を飼うことになったお話   作:語部創太

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 始発はもう朝じゃない。まだ夜なんよ。


4.救世主は突然に

 ……

 …………

 ………………

 ……………………

 …………………………冷たい。

 

 いったいどれだけ、この冷たい石の上で過ごしたんだろう。

 周囲から聞こえるのは、私と同じ境遇に陥っている人たちの呻き声、恨み言、嘆く音。

 

 物心が付いた時には、すでにこの石の床と鉄の柵が当たり前のようにあった。

 1日に1回投げ込まれる食事はカビの生えたパン。飲み水には時折、虫が浮かんでいる。食べれば、飲めば、腹を下して最悪は死ぬ。食べなくても死ぬ。だからほんの少しでも生きる確率が高い方を選んで、生存を願いながらカビを噛み砕き虫を飲み込む。

 

 周りにたくさんの人がいるのは気配で分かる。けれど、その誰とも会話をすることはなかった。

 誰かと会話しようとすれば、檻の外から鞭が飛んでくる。拳が飛んでくる。死なないギリギリまで痛めつけられて、パンと水が何日ももらえない。

 だから誰も喋らない。人がいるのに語り合えない。その孤独感は次第に精神を蝕み、やがて心が壊れた人は延々と独り言を呟くようになる。

 

 この世の地獄。薄暗い檻の外で、死体が引きずられていくのを見たのは十やそこらでは足りない。

 こんなところで死にたくない。外に出て自由を手に入れたい。誰もが夢見て、そのすぐ後に絶望する。

 ここに来る人たちが買っていくのは皆、自分みたく檻に入れられている奴隷ではなく、蝶よ花よと育てられた高級奴隷だからだ。

 

 檻に入れられず、手枷足枷もなく、貴族顔負けの教育が施された高級奴隷が売っているのは近辺ではココだけらしい。奴隷を買いに来た人が言っていた。他の店で売っているのは私たちみたいな人権も何もない一山いくらの奴隷。この店に来る人たちはみんな高級奴隷を目当てに来ていて、普通の奴隷である私たちには目もくれない。

 店主さまは何とか普通の奴隷も買ってもらおうと工夫していたみたい。けど、私が知る限り買われていった普通の奴隷は1人もいない。

 

 最近、店主さまは私たちを売るのを諦めたのかこう呟くようになった。

 

「……そろそろ処分するか」

 

 処分。つまり他の奴隷商店へ格安で譲るか、殺して捨てるか。

 

 ここ数日、ご飯が出てこない。

 カビの生えたパンも、虫の湧いた水も、何もない。

 飢えに耐えかねたのか、隣の檻に入っていた奴隷が食事を懇願した。数日前に新しく来た、私と同じくらいの背丈をした女の子だった。債務奴隷、というらしい。

 

 望み通り、彼女はパンと水を与えられた。

 

 

 

 男性のス〇ルマが大量にかけられたパンを口に無理矢理詰め込まれ、水桶に1時間くらい顔を沈められたけど。

 

 

 

 物言わぬ骸と化した彼女が引きずられていき、暗闇には再び静寂が訪れた。空気は前よりもどんよりと重たく感じた。

 

 どうやら店主さまは、私たちが飢えて死ぬのを待つことにしたらしい。

 どれだけ我慢強くても飢えには勝てない。

 飢えに耐えかねた人たちは、檻内の壁や床を這いずり回る虫を捕まえて食らい、冷えた空気によって出来た水滴に向かって口を開けて舌を伸ばした。

 

 かくいう私も、吐きそうになるほど不味い虫を必死に飲み込んだ。何回も何回も、滴り落ちる水滴に向かって舌と首を伸ばした。

 

 そうやって抵抗しても所詮は焼け石に水。1人、また1人と檻から運び出される骸が積み重なっていく。

 

 いよいよ、最後に残ったのは私だけになった。

 まだ誰かいるかもしれない。だけど少なくとも近くにいた人たちはみんないなくなったし、昨日から喋り声もすすり泣く音も聞こえないし、気配すら感じない。

 

 目の前を虫が駆け抜ける。それに飛び付く力も、もう私には残されていなかった。

 指の先すらピクリともせず、口を開いても声が出ない。とうとう私も、他の人たちと同じように物言わぬ死体となるのだろう。

 

 目を瞑る。まぶたの裏に浮かんでくるのは、私の記憶にない情景。

 優しい顔立ちの男性が、笑いながら私の頭を撫でてくれる。美味しいご飯を食べさせてくれる。一緒に山を駆け巡り、ヘトヘトになりながら暖かい我が家に帰り、身を寄せ合って眠る。

 

 そのどれもを経験したことがない私の、毎晩必ず見る夢。

 こんな暖かい暮らしがしたかった。こんな優しい人と共に生きたかった。そんな風に憧れても、目を覚ませば現実は厳しく冷たく暗い檻の中。

 

 情景は次々と場面を変え、そして最後にあのシーンがやってくる。

 いつも通り、いやいつもより優しく頭を撫でてくれるあの人は、何故か涙を溢している。笑っていてほしいのに泣いている。

 

 こんなに優しい人を悲しませてしまっているのは私で、傍にいてあげたいのにもう傍にはいられない。

 途方もない後悔を感じて、そこで夢は終わり。

 この夢が終わってしまえば、私の命も終わるんだろうな。なぜだかそう確信できた。

 

 ああ、せめて。せめてこんな夢みたいな人生が送りたかった。

 自分を愛してくれる人の隣で生きていたかった。

 死にたくない。まだ生きていたい。会いたい人がいる。望んだ憧れはきっとそこにあるのに。

 

 薄れていく意識。抗いようのないまどろみに身を委ねようとした、その時だった。

 

 

 

「買います」

 

 

 

 私の待ち望んだ声が、聞こえた気がした。

 

「しょ、正気ですか!? こんな薄汚れた亜人を!?」

 

「この子を、買います」

 

 目の前で急に騒がしさを感じて目を開ける。そこにいたのは商人さまと、見知らぬ若い男の人。

 今まで、1回も開いたことがない檻。その錠が、カチリと音を立てた。

 ゆっくり軋みながら檻の出入り口が開いて、男の人が入ってくる。

 

 見知らぬ誰かが私に手を差し伸べてくれる。人の良さそうな笑顔に加えて、品定めするように睨み付けてくる他のお客さまとは違う優しい目をしていて。

 

 男の人の手が、私の頭に触れる感覚。そこからゆっくりと労るように撫でてくれる、その温もりは産まれて初めてで。それでもどこか懐かしい気持ちになった。

 不思議と怖さは感じなかった。むしろ感じたのは安心感。

 

 もっと、もっと暖かいのを感じたい。思わず、目の前の人に抱きつく。

 そしたら、少し驚いたように固まった後、優しく抱き締めてくれた。

 

「…………っ」

 

 どこに残っていたんだろう。水も飲めなくて、カラカラに渇いていたはずの身体。なのに、目からはしょっぱい水が溢れてきた。

 

「っ……ふ……ぅっ……ぇぐ……」

 

 呻き声も出せなかったはずなのに、嗚咽が溢れて止まらなかった。

 

 そんな醜態を晒す私を抱き締めて頭を撫で続けてくれるのが、堪らなく嬉しかった。

 

 

 

 泣き続けて、声を漏らし続けて。

 私は、これまでの人生で1番の安心と幸せを感じながら眠りについた。




※ 豆知識

4.高級奴隷が数百~一千万円程度の値打ちで取引されるのに対して、一般奴隷は平均が十数万~数十万。高くても百万未満、モノが悪いと数万程度。
 最初は店主もそれなりに状態を良く保とうとしてたんでしょうけど、あまりにも売れないから早く処分したかったんでしょうね。
 人間1人を養うのにかかるお金ってとんでもないですし(社会人になって気付いたこと)

R18シーンも書いていいですか?

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