雄英高校1-Aの副担任   作:酉柄レイム

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雄英高校1-A 副担任

「えー、ホームルームを始める前に、君らにこのクラスの副担任を紹介する」

 

「副担任?」

 

 4月。入学から次の日、雄英高校1-Aにて。朝のホームルームの時間、教壇に立った担任の相澤の言葉に、生徒の数人が首を傾げた。

 

「そんな人いるんですね」

 

「副担任と言っても、教師の卵として俺につく、といった形だな。時折授業を受け持つが、基本的にはサポート役と考えてもらえばいい……じゃ、入ってこい」

 

 諦めたような態度の相澤を生徒が疑問に思いつつ、教室の入り口に目を向ける。ドアがゆっくり開くと、そこから小汚い相澤とは正反対に、清潔感漂う灰色の髪の男が教室に入ってきた。ただ、前が開いている黒のジャケットにエンジ色のシャツ、ノーネクタイのスーツ姿と、どこかホストのような印象も受ける。

 

 男は教壇に立つと、ゆっくりとクラス全体を見渡してから笑顔を見せ、自己紹介を始めた。

 

「えー、君らの副担任の伊吹命だ。雄英には今年から赴任ってことになるから、お互い卵ってことで仲良くしてくれるとすげー嬉しい」

 

「相澤先生からの好青年……」

 

「二人がかりのギャップでハートをつかみに……?」

 

「芦戸さんと葉隠さん。相澤さんを前座みたいに言ってるけどこの人すげぇいい人だ。俺よりも大分魅力的だからそこんとこよろしく」

 

「余計なことを言うな」

 

 笑顔のまま女子生徒二人に相澤がいい人であると伝えた伊吹の後頭部を、相澤が持つ出席簿が襲う。パン! といい音が鳴り、伊吹の視界に星が見えたところで相澤が伊吹を強制連行する。

 

「質問等があれば空き時間にこいつを捕まえてするといい。もっとも、君らにそんな呑気な時間があればの話だが。まぁ、こいつは今日の午後のヒーロー基礎学に出るから、そん時にでも交流を深めてくれ。授業ちゃんと受けろよ」

 

 ホームルームは……? という生徒の疑問は解消されることなく、伊吹を引きずって相澤は教室を後にした。入学して次の日とは思えないほど雑なホームルームに不安が募るが、逆に空いた時間を好きに過ごそうと一時間目が始まるまで各々好き勝手に喋り始める。

 

「イケメンだったねぇ! 私と葉隠の名前知ってたし、もしかして『生徒と仲良くなりたいから事前に全員の顔と名前は一致させてるぜ』タイプ?」

 

「相澤先生があぁだからちょっとびっくりしちゃった!」

 

 切り出したのは、先ほど伊吹に名前を呼ばれたピンク色の肌を持つ女子生徒芦戸と体が透明な女子生徒葉隠。二人の名前を覚えていた理由は「その方が合理的だ」という相澤の指導があってのものであり、伊吹自身は生徒とコミュニケーションをとり、そこから覚えようとしていたので芦戸の言うタイプではない。

 

「にしても、俺伊吹センセーみたいなヒーロー見たことないぜ? 相澤先生と似たようなタイプのヒーローなんかな」

 

「かもな! 相澤先生と仲良さそうだったし!」

 

「仲良さそうってか、敬愛してるっぽくね?」

 

 そして男子生徒三人が伊吹の正体を探る。1-Aのほとんどが金髪の男子生徒上鳴の言う通り息吹を見たことがほとんどなく、現在わかっている情報は赤髪の男子生徒切島としょうゆ顔の男子生徒瀬呂の合わせ技で予想できる『伊吹先生は相澤先生を敬愛している』ということのみ。

 

 そんな中、もじゃもじゃ髪の男子生徒緑谷は、伊吹の正体について引っかかりがあった。

 

(相澤先生、イレイザーヘッドと似たようなタイプのヒーロー……確か、何かいたような……)

 

 ヒーローオタクである緑谷の脳内には、多くのヒーローの知識がある。その中の一つに伊吹についての知識がないか探るが、そもそも個性もわかっていないため情報が掴めない。それもこれも、伊吹が相澤を真似してメディアに露出しなかったためであり、その真似具合は『紫煙兵』がはびこる街として有名な『紫煙の街』を作り上げた張本人として取材依頼が来た時も断ったほどである。

 

 好き勝手騒いだ結果、『ヒーロー基礎学の時に聞いてみよう』という結論に落ち着いた。相澤も何か質問があればその時に聞け、と言っていたのだが、それでも喋りたくなるのが高校生というものである。

 

 そうして自分の話をされているとはいざ知らず、伊吹は相澤と並んで職員室に向かっていた。

 

「いやー、なんかいいっスね。まさに卵! って感じで」

 

「俺はまだお前が俺のところで卵をすることに納得いってないがな」

 

「そりゃねぇっスよ。俺、相澤さん以外の人につく気ねぇっスもん。香山さんか山田さんならまだいいっスけど」

 

「じゃあそっちに行ってくれ」

 

「でも決まっちゃいましたし」

 

 香山睡、ヒーロー名『ミッドナイト』と山田ひざし、ヒーロー名『プレゼントマイク』の二人と伊吹は個人的な関係がある。ほとんどが相澤関連の話で集まるだけであり、個人的と言うのは少し微妙なところもあるのだが、伊吹個人としては尊敬する先輩であることに変わりはない。

 

「つか何で嫌なんスか? 自分で言うのもなんですけど、俺優秀っスよ」

 

「優秀とはいっても卵に変わりはないだろ。俺からすれば生徒が一人増えたようなもんだ」

 

「ご指導お願いします、相澤先生!」

 

「先生はやめろ」

 

「立場的におかしくないからいいじゃないっスか」

 

「おかしくはないが、気持ち悪い」

 

「ひでぇ」

 

 ひでぇ、と言いつつショックを受けた様子はなくからからと笑う伊吹に、相澤は小さくため息を吐いた。 

 別に、伊吹が副担任だということが本気で嫌なわけではない。嫌な気持ちも多少はあるが、その能力は相澤も認めるところであり、将来的に業務が楽になるだろうということも確信している。

 しかし、相澤から見て伊吹は、教師以外、ヒーロー活動を主体とする方が向いている人物であった。

 

 伊吹の個性は無数の強力な生物を生み出せる個性であると言え、その戦闘能力は語るまでもない。本人の近接戦闘能力も高く、一人で数人分のヒーローの役割をこなすその能力が、教師という枠に収まることで無駄になっている、と相澤は感じていた。

 

 伊吹の『紫煙兵』がいるだけで、敵犯罪の抑止力になる。それは『紫煙の街』の存在で証明されている。教師にならなければ、二、三の『紫煙の街』を作り上げることができた。

 

 このようなことを考えた結果、つまるところ相澤は少しキレているのである。相澤から見れば、自分を追うために教師になったようにしか見えなかったからだ。

 

「あら二人とも。相変わらず仲がいいわね」

 

「えぇ! 相変わらず仲がいいんですよ、香山さん!」

 

「よくない。ミッドナイトも、あまりこいつをノせないでください」

 

 職員室に入り、二人の姿を見つけた香山が声をかける。笑顔で答える伊吹とうんざりした表情の相澤を見て香山は小さく笑い、「お似合いよ」と告げて職員室を出て行った。

 

「お似合いらしいっスよ、相澤さん」

 

「誰が嬉しがるか」

 

「俺が嬉しいっス」

 

「おー懐かれてんなイレイザー!」

 

「うるさいのが増えた……」

 

 うんざりした表情を更にうんざりさせた相澤の視線の先には、山田ひざし。相澤の中で『うるさいの』のうちの一人であり、もちろんもう一人は伊吹である。

 

「懐いてるっスよ山田さん!」

 

「相変わらず気持ちいい返事ナイスだな! ただ雄英ではプレゼントマイクって呼んでくれ! オーケー?」

 

「オーケープレゼントマイク! ってことは相澤さんもイレイザーヘッドって呼んだ方が?」

 

「外ではそうしろ。雄英の中ならなんでも……いや、先生をつけなきゃなんでもいい」

 

「プレゼントマイク。相澤さんが先生って呼ぶの許してくれないんスよ」

 

「きっと照れてんだぜ! こう見えて意外とシャイだからな!」

 

 無言で相澤が山田を睨みつけると、山田は口笛を吹いて素知らぬ顔。流石にやりすぎたかと伊吹も何も言っていないフリを決め込んで、「さぁ俺の席はどこかな?」とわざとらしく歩き出した。

 

 そうして歩き出した伊吹に肩を組む人物が一人。機嫌が悪くなった相澤から逃げてきた山田その人である。

 

「ようホープ。ここだけの話、イレイザーはホープが歩み始めた教師人生にお怒りだぜ」

 

 肩を組んだのはウザがらみをするためではなく、伊吹を心配してのこと。相澤が教師になった伊吹をよく思っていないのは周知の事実であり、その原因をよく知る香山、山田の二人はフォローに回ろうと勝手に協定を結んでいた。

 

「ハハッ、知ってるっスよ。相澤さんから見たら、相澤さんを追って教師になったようにしか見えないっスもんね」

 

「お?」

 

 ただ、山田にとっては意外なことに、伊吹はそれを理解していた。伊吹は恥ずかしそうに笑って、業務に集中している相澤を見ながら、

 

「だから、これから教師として信頼してもらうつもりっス。相澤さんから見たら俺はまだまだガキなんで、その方がいいっしょ?」

 

「……こりゃ心配いらねぇみたいだな! 期待してるぜ俺らのホープ!」

 

「任せてください! まずは今日のヒーロー基礎学でかましてきてやりまス! ところでそのことについてオールマイトと話したいんスけど、オールマイトはどこに?」

 

 職員室を見渡す伊吹の視界にはオールマイトの姿は見えない。すると伊吹の肩に山田の手が置かれた。

 

「今日も今日とて人助け。まぁ平和の象徴だから仕方ねぇけどな!」

 

「仕方なくはないだろ。教師が遅刻すると何かと合理性に欠く」

 

「かてーよイレイザー! それにほら、噂をすれば」

 

「私が通勤した! と言ってる場合じゃないですよねすみません遅れましたァ!」

 

 職員室のドアが開き、勢いよく金髪ムキムキの大男、今年から雄英で教師を勤めることになったNo.1ヒーロー『オールマイト』が勢いよく入ってきた。遅刻だと慌ててやってきたため、額には汗が浮かんでいる。

 

「おはようございますオールマイト! 今日のヒーロー基礎学よろしくお願いします!」

 

「おぉ、伊吹くん! こちらこそよろしく! 新任同士お互い頑張ろう!」

 

「新任同士っつってもヒーロー歴で言えば天と地ほどの差っスけどね! ですがオールマイトに負けないよう張り切って頑張らせてもらうっス!」

 

「素晴らしい心意気だ! それならぜひ伊吹くんにお願いしたいことがあるんだが……」

 

 オールマイトからの提案に、伊吹はにやりと笑って「もちろん、いいっスよ!」と快諾した。

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