雄英高校1-Aの副担任   作:とりがら016

4 / 10
1対4

「さぁ始めようか有精卵ども! 戦闘訓練の時間だぜ!」

 

 オールマイト、伊吹、A組の全員は午後のヒーロー基礎学の時間、グラウンドβに集まっていた。市街地を模したグラウンドであり、現在とあるビルの前でオールマイトが授業の説明を始めている。

 

(香山さんじゃねぇけど、若いっていいなぁ)

 

 伊吹はコスチュームを身に纏ったA組の面々を見て、その初々しさににこにこと微笑んでいた。その伊吹もA組の面々に注目を浴びる立場であり、その原因は伊吹の咥えているものにあった。

 

 タバコ。学生たちの前で堂々と喫煙しているその姿に、ある者は不安を、ある者はギャップを覚え、それぞれの視点から伊吹に視線を注ぐ。

 

「コラコラ。副担任の伊吹くんが気になるのはわかるが、ちゃんと聞いておかないとダメだぞ?」

 

「いや俺が悪いっスよオールマイト。吸えるってんでテンション上がって、うっかり始まる前に吸っちまった」

 

 生徒たちに煙がいかないように上を向いて紫煙を吐き自分の比を詫びる伊吹に、オールマイトは笑って「構わないさ!」と爽やかに言って、

 

「アイドリングは必要だろう? 説明している間でもお構いなしに吸っておきなよ!」

 

「んじゃお言葉に甘えて」

 

 短くなったタバコを携帯灰皿に入れて、もう一本懐からタバコを取り出して口に咥える。そして銀色の何も装飾されていないジッポを片手で開け、そのままタバコに火をつけた。一口目は肺に入れず吐き出して、タバコを口に咥えてゆっくりと煙を吸い込む。

 

「なんかカッケー」

 

「タバコは二十歳になってからだぞ上鳴くん」

 

 咥えタバコの伊吹をキラキラした目で見る男子生徒上鳴にやんわり注意して、「さ、説明お願いします」とオールマイトに促した。

 

「今から行うのは屋内での対人戦闘訓練だ! 敵退治は屋外の方が目立つが、実は屋内の方が凶悪敵出現率は高い!」

 

「そこで君らには『ヒーロー組』と『敵組』に分かれて、2対2の屋内戦を行ってもらう」

 

「あれ、私に任せるんじゃなかったの!?」

 

「センセーのお仕事してみたいじゃないっスか」

 

 やる気があって全然よろしい! と伊吹にサムズアップを向けるオールマイトに、『蛙』の個性を持つ女子生徒蛙吹が挙手して疑問を投げかける。

 

「基礎訓練もなしに?」

 

「その基礎を知る為の実践さ!」

 

「ただ、入試んときはロボぶっ壊せばオッケーだったが、今回は違う」

 

 全然よろしいと言いつつ自分で説明したかったのか、伊吹が説明する度に伊吹の方を見るオールマイト。だからか、どちらかと言えば堂々としている伊吹に、推薦組で個性『創造』を持つ女子生徒八百万から質問が投げかけられた。

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

 

「アー、そうだな。ルール諸々を今から説明すっから、質問したがりのみんなちょっと静かにしててな」

 

 口の端から紫煙を吐きだしながら答え、オールマイトに『説明どうぞ』と手で合図をする。そんな伊吹にオールマイトは「はじめての授業なのに緊張してないのかな」と尊敬の念を覚えながら意気揚々とルール説明を始めた。

 

 その手に小さなカンペを用意して。

 

「状況設定は『敵』が核兵器をアジトに隠していて、『ヒーロー』はそれを処理しようとしている! 制限時間は15分! 『ヒーロー』は制限時間内に核を回収するか、『敵』を捕まえること。『敵』は制限時間まで核を守り切るか、『ヒーロー』を捕まえることがそれぞれの勝利条件だ!」

 

「ちなみに当然のことながら核の場所はヒーローには知らされない」

 

「そしてチーム及び対戦相手はくじで決める!」

 

「適当なのですか!?」

 

 くじの箱を取り出したオールマイトに、個性『エンジン』を持つ男子生徒飯田天哉がツッコむが、緑谷に「プロは他事務所と急造チームアップすることが多いから」と言われ納得し、オールマイトに謝罪した。

 

「結構物知りなんだなぁ緑谷くん。もしかして俺のことも知ってたりする?」

 

「え、あ、いや、その……」

 

「ハハハ! いいっていいって。あんま表に出るタイプじゃねーし、知ってる方が珍しいからな」

 

 『考えるタイプ』と『アツいタイプ』が好きな伊吹は緑谷にちょっかいを出し、「ほら、くじ引いてこい」とその背中を押す。

 

(個性使うとボロボロになるらしいけど、伸びそうな子だなぁ)

 

 伊吹は緑谷の将来性に目を光らせて、吸い終わったタバコを携帯灰皿に突っ込んでから周りを見る。伊吹の目から見れば、入学して間もないにしてはコミュニケーションが十分に取れており、そうでなければちょっかいをかけようとしていた伊吹は拍子抜けして自分の出番に備えて懐にあるタバコを一箱開けた。

 

「さて、じゃあ始めようかと行きたいところだがここでサプライズ! 今からヒーローの箱、敵の箱からくじを引くが、最初は二組ともヒーローとして戦ってもらう!」

 

「え、じゃあ敵は誰がやるんスか?」

 

 耳たぶがコードのように伸びている個性『イヤホンジャック』を持つ女子生徒耳郎の疑問に答えたのは、懐からゴーグルを取り出して装着した伊吹。

 

「俺」

 

「そして伊吹くんと戦うのはGチームとJチームだ!」

 

「上鳴くんに耳郎さん、切島くんに瀬呂くんね。よろしく」

 

 伊吹は何か説明してほしそうなA組を置いて、さっさとビルへと入って行った。

 

「さ、これから5分間は敵の準備期間。5分経てばヒーローチームが潜入する。そして『捕まえた』判定はこの確保テープを巻き付ける事! 4対1だから巻き付けやすいと侮るなかれ! 相手はプロヒーローだ。それに伊吹くんは強いぞ! 心してかかるように!」

 

 そして我々は地下のモニタールームへ移動だ! とオールマイトもさっさと今から戦う四人以外の生徒を引き連れて去っていく。ここまで迅速に動いているのは今回の戦闘がアドリブだからであり、本来の授業には組み込まれていないためなるべく早く始めようという算段である。

 

 残されたGチームJチームは顔を突き合わせ、まずはお互いの個性を教え合ってからどう攻略していくかを話し合っていた。

 

「つっても俺らが伊吹センセーについて知ってんのって、クールでカッケーってことくらいだもんなぁ」

 

「個性については何も知らないもんね」

 

 タバコの件で『カッケー』という伊吹に対するイメージが自分の中で定着した上鳴に、耳郎が同意で返す。伊吹としては『A組の前でタバコを吸う』ということでヒントを与えたつもりだが、この二人はそれに気づいてはいなかった。

 

「んー、でもどっちにしろプロだから、一筋縄じゃいかねぇってことは確かだぜ!」

 

 両手を『硬化』させ拳を打ち付ける切島もそれには気づいていない、が。

 

「多分タバコが関係してんじゃね? じゃねーと流石に俺らの前で堂々とタバコ吸う理由がないっしょ」

 

 個性『テープ』を持つ男子生徒、瀬呂はなんとなく気づいていた。雄英教師が生徒の前でわざわざタバコを吸う理由。それは自分たちに対する『個性』のヒントなのではないか、と。

 

「タバコが個性? それって確か……」

 

「『紫煙の街』! 俺聞いたことある! 煙の化け物が守る街があるって!」

 

「ってことはつまり、煙の化け物を生み出せるってこと? コエーよ!」

 

 瀬呂の言葉で、耳郎、切島、上鳴が『ほぼ答え』にたどり着いたところで、戦闘訓練の時間がきた。

 

 インカムでオールマイトに開始を告げられた四人は、正面から潜入することを選んだ。耳郎の個性は索敵に優れており、コードのようになっている耳たぶの先にあるプラグを刺せば、周囲の音、更に自分の心音を相手に大音量で伝えることで武器にもできる。

 

 耳郎が外壁にプラグを刺して安全を確認したところで、切島を先頭に中へ入って行く。切島の個性『硬化』は全身を硬くできる個性で、不意打ちを喰らっても耐えられる可能性が一番高い。

 

 だが不意打ちもなく全員が潜入に成功し、耳郎が壁にプラグを刺して索敵を開始した。ビル内は無機質な狭い廊下、等間隔に部屋があり、ビルの所々に広間がある、といった造り。四人が入った一階は正面に狭い廊下があり、奥の方に階段、廊下の壁には等間隔にドアのある部屋。廊下の狭さは、三人並んでギリギリといったところ。

 

 しばらく歩くと、耳郎が「止まって」と静かに言った。

 

「足音。正面の階段から降りてきてる。二階から」

 

 四人は正面の階段を注視して、戦闘態勢に入る。相手はプロヒーローであり、個性も詳細にはわかっていない。警戒しすぎてもし足りない相手。四人の視線は階段に向かって注がれた、その時。

 

「ん? なんだこのにおい」

 

「しまっ、後ろだ!」

 

 上鳴の「におい」という言葉に勘づいた瀬呂が叫ぶが、それは遅く。

 

 背後から現れた煙の化け物に、上鳴が叩きつけられた。そして煙の化け物の手には確保テープが握られており、まるで人間のような手つきで上鳴にそれを巻き付けた。

 

「なっ、くそっ、上鳴!」

 

 一瞬遅れた切島が煙の怪物を殴ろうとするが、煙の怪物はふわりと浮いて階段の方へ飛んでいく。

 

 そこには、今飛んでいった煙の化け物……紫煙兵を3体従えている、ゴーグルをかけ、タバコを咥えた伊吹がいた。

 

「『紫煙兵(パープル・ソルダード)』ってんだ、こいつら。一体一体の戦闘能力は今見てもらった通り。んで」

 

 伊吹が紫煙を吐きだすと、それはみるみる人の形となる。あの戦闘能力を持つ化け物が簡単に生み出された光景を見て、地に沈んだ上鳴以外の三人は冷や汗を浮かべた。

 

「作り方はこう。簡単だろ? まぁ例え潰されようが俺が煙吐きゃすぐに生み出せる。Plus Ultra(更に向こうへ) だ。超えて来いよ」

 

 紫煙兵を従えて、伊吹は凶悪に笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか、紫煙ヒーロー『ライヴホープ』! 紫煙の街を作り出したヒーローで、個性は『息吹』! 一度口に含んだものを吐き出すと、それに命を吹き込める! それを自由に使役できるっていうとんでもない個性……まさか伊吹先生がそうだったなんて。メディア露出も紫煙の街を作り出したのにも関わらず相澤先生並に少ないから個性を見るまで気づかなかった。それに噂には聞いてたけど紫煙兵があんなに強いなんて。紫煙の街が成り立っていることから効果時間はかなり長いというか、もしかしたらないのかもしれない。考えれば考えるほどすごい個性だ」

 

「デクくんすご……」

 

 絶好調の緑谷を横目で見ながら、オールマイトはモニターに映っている伊吹を見た。

 

(……敵役、似合ってるな!?)

 

 凶悪な笑みを浮かべる伊吹は、誰がどう見ても敵そのものだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。