雄英高校1-Aの副担任   作:とりがら016

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一番になる

「オールマイト、止めた方がいいっしょこれ」

 

 緑谷・麗日チーム対爆豪・飯田チーム。始まってすぐ爆豪が単独行動を開始し、奇襲。執拗に緑谷を狙い、ニトロのようなものをため込んだ籠手から高威力の爆破を放ち、大規模な破壊を行った。

 

 それを見た伊吹は止めに行こうと歩き出した時、オールマイトに手で制される。

 

「待った伊吹くん。彼は妙なところで冷静だ。まだ大丈夫」

 

「……止められるうちに止めた方がいいと思いますけどね」

 

(大人しく止まるようなタマじゃなさそうだし)

 

 モニターに映る爆豪を見て、無線から聞こえる爆豪の声を聞いて、伊吹は思わずタバコを取り出して火をつけた。そして胸の内にふつふつと沸いたマイナス感情を吐き出すかのように、紫煙を立ち昇らせる。

 

(抱いてる感情は違うけど、似てるなぁ)

 

 伊吹が相澤に正される前。余裕がない、口が悪い、暴力的、そして何かに苦しみもがいている。爆豪と自分を重ね、「周りから見たら俺もあんな感じだったのか……」とため息と同時に紫煙を吐き出した。

 

『何で個性を使わねぇんだ! 俺を舐めてんのか!?』

 

『違うよ』

 

「オールマイト」

 

 名前だけ呼んで「止めた方がいい」と再度告げる伊吹に、オールマイトは俯いて答えない。そんなオールマイトに対し伊吹は紫煙兵を数体生み出して、ビルの方へと向かわせた。

 

「危なくなったら止めさせますからね」

 

「すまない」

 

「謝るくらいなら止めてくださいよ。何かあったら俺も怒られるんスよ?」

 

『ガキの頃から、ずっとそうやって、俺を舐めてたんかテメェはぁ!!』

 

『君がすごい人だから、勝ちたいんじゃないか!』

 

 緑谷が個性を使おうと腕を振りかぶり、爆豪もそれに合わせて腕を振りかぶる。二人が激突しようとしたその瞬間に、伊吹はオールマイトの指示を待たずに待機させていた紫煙兵を向かわせるために指示を飛ばそうとしたその時。

 

『行くぞ、麗日さん!』

 

 緑谷が爆豪の一撃を左腕で受け止め、上に向かって拳を突き上げた。天井を何枚も破り、それはやがて核のある部屋、麗日と飯田がいる部屋にまで到達する。

 

「いくよ、即興必殺! 彗星ホームラン!」

 

 そして、『無重力』で浮かせた柱を持った麗日が、瓦礫を飯田と核に向かって柱をバットのようにスイングして打った。飯田が硬直した隙をついて、麗日は自身を無重力状態にし、飛んでいって核に触れる。

 

『ヒーローチーム、WIIIIIN!!』

 

(あーあ)

 

 緑谷に爆破を防がれ、個性を使われた。ということは本気でやりあっても爆豪は負けていたということであり、それがわからない爆豪ではない。そのことを察した伊吹は頭をがしがしと掻いて、「フォロー大変そうだなぁ」とぼんやり考えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「相澤さん」

 

 緑谷以外大怪我もなく、授業が終わり、ホームルームも終わって、放課後。相澤とともに教室を出た伊吹は、消臭スプレーを自分に吹きかけながら相澤に話しかけた。

 

「なんだ」

 

「爆豪のことなんスけど、結構難しそうな問題抱えてまして。今日の授業でちょっとフォロー必要かなって思ったんで、ミスったら尻ぬぐいお願いできます?」

 

 廊下で立ち止まって、教室の方を気にしながら聞く伊吹に、相澤は小さく息を吐いてから伊吹に背を向けた。

 

「副担任だろ。好きにしろ」

 

「あざっス」

 

 相澤に『副担任』と呼ばれたことに喜びながら、伊吹は教室へ向かう。どんな個性を持っていても大丈夫なように作られた巨大なドアを開けると、すぐ目の前に爆豪が立っていた。

 その表情は沈んでいるというより、無。ため込んだものを放出できないでいる、そんな表情。

 

「お、爆豪。ちょうどよかった。今から帰んのか?」

 

「……ス」

 

 爆豪は短く言って、伊吹の隣をすり抜ける。それを止めるでもなく、伊吹は教室内にいる生徒たちにひらひらと手を振ってから、爆豪の後ろを歩き始めた。

 

 何も喋らず、静かな空間に二人分の足音だけが響く。廊下を歩き、校舎を出て、そこで初めて爆豪が振り返った。

 

「……なんか用かよ」

 

「おいおい、俺一応先生だぞ? 敬語使え敬語」

 

 さっきはギリギリ使ってたのに。と文句を言いながら、伊吹はタバコを咥えた。そのままゆっくり火をつけて、頭を整理させてから口を開く。

 

「負けたなぁ」

 

「テッメェ……!!」

 

 爆豪の顔が怒りに歪む。体ごと振り返って今にも掴みかかりそうな自分を鎮めるかのように手をわなわなと震わせて、伊吹を睨みつけた。『相手は教師』だという理性がストッパーとなっているだけで、その手のひらからは小さな爆破が漏れている。

 

「全然冷静じゃなかった。ありゃダメだ。『冷静じゃなかったから勝てませんでした』じゃ話にならねぇ。センスあるんだからバカな真似すんな」

 

「……確か雄英の校風は『自由』が売りなんだよなァ? そりゃつまり今ここでテメェとやりあっても文句はねぇってことか?」

 

「ちゃんとした場ならな。喧嘩は別だ」

 

 伊吹は後ろから聞こえてきた足音に気づいて、紫煙兵を生み出した。そのまま紫煙兵に乗って、爆豪を見下ろす。

 

「一番になりたいなら、いつでも付き合ってやるよ」

 

「は?」

 

「雄英はちゃんと使用許可とれば訓練場を使えるんだ。悪くない話だろ? 一番になるために、プロヒーローを踏み台にできるんだから」

 

 にやりと笑って、紫煙兵とともに宙へ浮かぶ。そしてピースサインを作ってそれを爆豪に向けた。爆豪は呆けた表情で伊吹を見上げ、それから校舎から出てきた緑谷に気づく。

 

「かっちゃん! ……って、伊吹先生!?」

 

「ま、俺もまだまだ若いんだ。青春させてくれや」

 

「……おい待てコラ!」

 

 爆豪の静止を聞かず、伊吹はそのまま飛んでいった。遅れて聞こえてきた、「俺は、ここから一番になってやる!」という爆豪の声を聞いて笑いながら。

 

「相澤先生が聞いてたら『0点だ』って言われんだろうなぁ。なぁ、お前はどう思う?」

 

 困ったように首を横に振る紫煙兵に、伊吹はまた笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、朝。

 

 紫煙兵に乗ってゆったりと通勤していた伊吹は、眼下に敬愛する人物を見つけさっそうと飛び降りた。その敬愛する人物は突然現れた伊吹に驚くこともなく、冷静に紫煙兵を見上げてから呆れた目で伊吹を見た。

 

「おはようございます、相澤さん!」

 

「おはよう。お前、いつもあれで通勤してるのか」

 

「日中は教師、帰ってからは敵退治。俺の街にいる敵を根絶やしにすりゃあこっちに集中できるんで、ちょっと頑張ってるんスよ。だからあんまり休む暇ないんで、通勤中は休むことにしてるんス」

 

 『紫煙の街』は紫煙兵が蔓延っており、敵の発生率が極めて低いとはいえ、いなくなったわけではない。水面下で動いている敵も複数いて、その敵の調査、取り締まりを行っている為、伊吹の休む時間は極端に少ない。一日の睡眠時間は4時間あればいい方で、今日はなんとか2時間確保した程度。

 

「休むのも仕事だぞ」

 

「頑張れるうちに頑張っておかないと! それに、そんなんでパフォーマンス落とすヘマしねぇっスよ!」

 

 朝から相澤と会話できる嬉しさからいつもよりも二割増し爽やかな笑顔を相澤に向けて、力こぶを作って見せる。相澤はそれに笑って返すこともなく、「ならいいが」と不愛想に返してふと足を止めた。

 

「おー、なんか集まってますね。マスコミ?」

 

 相澤の方を見て気づいていなかった伊吹は、ふと相澤の視線の先に目を向けると、そこには雄英に押し掛けるマスコミがいた。

 

 現在雄英には『オールマイトが教師に就任した』というニュースが流れたことから、連日マスコミが押しかけてきている。わらわらと集まるマスコミに向かって伊吹は聞こえないように「邪魔だなぁ」と身も蓋もない言葉を発すると、相澤の肩をちょんちょんとつついた。

 相澤が伊吹を見ると、伊吹は宙に浮いている紫煙兵を指し、笑顔で言った。

 

「乗ります?」

 

「……目立つだろ。変なことを書かれてもめんどくさい。このまま行くぞ」

 

「残念」

 

 相澤と空の旅を期待していた伊吹は口の先を尖らせながらマスコミの群れへ向かっていく。その近くまで行くと二人に気づいたマスコミが一斉に二人を取り囲んだ。

 

「すみません、オールマイトについて……小汚っ!」

 

「彼は今日非番です。授業の妨げになるんでお引き取り下さい」

 

「明日から見た目整えた方がいいんじゃないスか? そのまんま放送されたら雄英の評判悪くなりますよ」

 

「あなたは……あの煙、もしかしてライヴホープ!?」

 

 けらけら笑いながら相澤にちょっかいを出していた伊吹は、マスコミの一人に正体を言い当てられ思わず「げ」と漏らし、嫌そうな顔を隠すことなく相澤に視線で助けを求めた。

 

 相澤はさっさと門をくぐっていた。

 

「メディア露出のないライヴホープ! 貴重だぞ!」

 

「そういえばライヴホープも雄英教師になったって! ライヴホープ! 教師生活はどうですか!」

 

「オールマイトは教師としてどうですか!」

 

(うるせぇ)

 

 と思いながらも、人気者になれた気がして悪い気がしていない伊吹は順番に答えていきそうになったが、もう一度相澤の方を見ると相澤が首だけ伊吹の方に向けて、しっかり伊吹を睨んでいた。

 

「すんません! 授業の準備とかあるんで!」

 

「あ、ちょっと!」

 

 相澤の怖い視線に慌てて伊吹はマスコミの集団から抜け出して、門をくぐった。一人のマスコミが伊吹を追って門をくぐろうとすると、門に取り付けられたセンサーが反応して完全に門が閉じられる。

 

「おー、雄英バリアーでしたっけ? 俺初めて見るんスよね」

 

「マスコミに捕まったら適当に撒け。情報はどこから漏れるかわからないからな」

 

「っス。気を付けます」

 

 雄英にはいたるところにセンサーがあり、学生証や通行許可IDを持っていなければセキュリティが働いて、先ほどのように弾き出される。

 伊吹はうっすら聞こえてくるマスコミの文句を聞いて、「俺の評判下がらねぇかな……」と小さいことを考えながら相澤とともに校舎へ入って行った。


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