虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
「
「え、近江さん?」
学園にいる意味が無くなり、校舎から出ようとしたところに、後ろから間延びした声が聞こえてきたので振り返ると、近江さんが俺の方へ走ってきていた。
「どうして……?」
「どうしても何も、紡ちゃんが心配だからだよ〜。お姉さんのことで辛いのに、あんなことになっちゃったしねぇ……」
先輩の近江さん達すら心から信じられてなかったっていうのに。この人はどうして俺を気に掛けるんだ……。
「俺、近江さんのことも本当の意味で信用できてなかったんだぞ……? なのに何で心配なんかするんだよ……」
「ん〜、紡ちゃんが優しいこと知ってるからかなぁ〜? 少なくとも私は紡ちゃんのこと嫌いになったりしないよ? みんなもきっとそうだと思うけどねぇ〜」
「……俺はどうすれば良い……?」
あの中須からあんなにはっきり『大嫌い』と言われたのに、他の人達が嫌いにならない訳がないだろ。皆の役に立ちたい。夢を応援したい。だけど部室から追い出されて、戻ろうにも戻れない。どうやってこの状況をなんとかすれば良いのかわからなかった。普通の人ならわかりそうなことさえもわからない自分がもどかしい。爪が掌に食い込むくらい拳を強く握りながら、『どうすれば良い』と、俺は助けを求めるように一言そう呟いた。
「まずはお姉さんと向き合ってみたら良いと思うんだ〜。あの人、何か裏がありそうだしぃ……」
「裏がある? どういうことだ?」
「昨日あの人が紡ちゃんに酷いこと言った時、すごく悲しそうな顔をしてたんだ〜。まるでそれが本心じゃないみたいに。本当は紡ちゃんにあんな言葉、言いたくなかったんじゃないかなぁ……?」
「アイツが……? いやいや、あり得ないだろ。アイツがそんな顔する訳ねぇ」
「きっと何か理由があるんだよ。なんとなく、そんな気がする……だからお姉さんと話してごらん〜?」
たしかに疑問はある。何でわざわざ学園で待ち伏せてまで会いにきたのか。俺はアイツに話すことは何も無いと言った時、アイツは『ある』と言っていた。あの口ぶりからして、何か大事な事を話すつもりだった……? だとしたら聞いた方が良い、のか……? 同好会より姉のことを優先したくなんてないが、近江さんがここまで言うんだ。話さない訳にはいかないか。
「さんきゅ。気が向いたら話してみる。俺、もう部室に戻れないから。じゃあな、近江さん」
「紡ちゃん」
わざわざ俺を追いかけてきてくれたのはありがたいけど、今はいくら学園にいても無意味だ。近江さんに軽く手を振って帰ろうとしたら、名前を呼ばれた。振り向くのが怖くて、俺はただ歩みを止めた。
「私、ずっと待ってるよ〜。心から人を信じられるようになったら、戻ってきてね」
言葉が出てこなかった。『待ってる』って言葉がこんなにも切なく、重く響いてきたのは初めてだ。どんな
時刻は午前0時。家に着いて以降は何もせず、食事もとらずに刻一刻と無意味な時間が過ぎていった。22時になってようやく入浴していないことに気付き、いつもより熱いシャワーを浴びて寝る準備を済ませ、1時間前からずっとこうしてベッドの上にいる。
今この一瞬だけは、姉や同好会のことを忘れてしまいたい。何も悩まず、静かに眠りにつきたい。だがそういう時に限って忘れさせてはくれないし、むしろ考えたくないことばかりが頭に浮かんでくる。挙句の果てに、中須と初めて出会った時のことが走馬灯のように流れてくる始末だ。
俺が歩夢とスクールアイドルについて話していた時に、突然そいつは目の前に現れた。そん時はスクールアイドル同好会の次期部長を名乗ってたっけ。懐かしい。自分のことをカワイイと思ってる典型的なぶりっ子のような奴。それが中須の第一印象だった。初対面から自分を『かすみん』と呼ぶのを強要してきたが、ガラじゃなかったからずっと苗字で呼び続けた。
あいつの行動を見るうちに、真剣にスクールアイドルになる為に努力していることを知った。それで中須に何かできることをしたいと言ったら、あいつは凄く喜んだ。『自分のマネージャーみたいです!』って。そこから何かと関わることも、話すことも増えて、あいつは何度も俺を『つむぎ先輩』と呼んだ。毎日毎日、まるで磁石のようにぴったりくっついてきて、イタズラして、その度に俺が追いかけて。反省したかと思いきや懲りずに何度もちょっかいをかけてはすたこらさっさと逃げ回る。なんだこいつとは思いつつも、決して憎むことができない不思議な奴だ。
あぁ、そうだ。あいつから……俺をずっと頼ってくれていたあいつから、『大嫌い』って言われたんだなぁ……その単語が呪いみたいに俺の頭からくっついて離れない。それを打ち消したくて、中須から言われた言葉を必死に思い出す。
『これからよろしくお願いしますっ! つむぎ先輩!』
『先輩、今日も頑張りましょうね!』
『ひぃぃぃっ! ごめんなさぁぁぁい!』
『先輩がかすみんのこと可愛いって思ってくれるまで、絶対諦めませんからっ!』
『頼りにしてますよ! つむぎ先輩っ!』
「ッ……」
こういうのは、思い出してからハッと気付く。色々思い返してみたら、中須は最初っから、俺を心から信じてたんだ。頼りにしてたんだ。なのに俺は、あいつをこれっぽっちも信じれてなかった。できることをやってそれ以外は何もしなくて。親睦を深めてそれが崩れる事が怖くて、ビビって。頑なに名前で呼ばなかった。けど皆はどうだ。中須も皆も、初めから俺を名前で呼んでくれていた。こっちは何も言ってないのに、積極的に関わってくれた。
「くそっ……」
俺だけじゃねぇか。目を背けてたのは。俺は信用を失うくらい、後輩がガチ泣きするくらいの事をしでかしたんだ。信じたくないその事実を認めた瞬間、凄まじい寒気に襲われた。目一杯布団に包まってもまったく治らない。中須だけじゃない。俺は同好会の皆全員を裏切った。こんだけ悲しいのに、痛くて苦しいのに涙すら流せない自分に対しての憤りと悔しさで腑が煮え繰り返りそうだ。なのに身体が凍えるくらいに冷たい。震えが止まらない。
自らの行いに対する罰を受けているようだった。何時間経っても寒気が治らず、追加の毛布を持ってくる為に動こうにも、寒気に加え倦怠感まで出てきたので動けず、悪寒に震えながらただ悔いた。俺自身が犯した、『罪』とも言える今日、放課後の出来事を。