虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
第18話 拝啓、俺を始めました。
「書類、確認しました。これからはお姉さまが
「はい。私が母親の代わりになります」
職員室の隣にある応接室で、俺と
俺が同好会の皆と仲直りできた日から2週間が経った。あの日以降も皆にちょくちょく自分の話や繋の話をしたり、今まで頑なに呼んでなかった皆の下の名前を呼ぶようにしたり。基本は今まで通りだが、皆と仲良くなれるように色々と改善、行動に移している。あれからしばらく経ったが、かすみ達が前と同じように接してくれたのが何より嬉しかった。この2週間でクラスメイトのとある男子ともよく話せる仲になったし、良いことが続いている。
先生と面談が終わり、俺と繋は応接室から出て、繋は変装の為に髪を結んで帽子を被った。
今までと大きく違うのは、繋との関係だ。前までは繋のことが大嫌いで、極力関わらないようにしていたが……繋から過去のことを全部聞かされて、俺は同好会の皆だけじゃなく、血の繋がった姉である繋とも向き合う決心をした。
今日は担任の先生に俺達の母親についての事情説明と、詳しくはわからないけど各種手続きの書類を確認してもらう為に三者面談の時間を設けてもらった。やっぱり担任は繋が話した内容に驚きを隠せないでいたが、俺達の事情を考慮したのか、踏み込んで何か聞いてきたりはせずに納得の意向を示してくれた。俺の担任があの先生でほんと良かったわ……。
繋は相変わらず歌手活動やモデル活動で忙しい日々を過ごしている。今日みたいに用事がある日はちゃんと休みをとるのでそこんとこある程度融通が利くんだなーと思ったり。それと、これまでと違うことがもうひとつ。俺が繋を『姉さん』と呼ぶようになったところかな。正直、皆を名前で呼ぶ以上に照れ臭いが……これから色々世話になるだろうし、敬意を込めてそう呼ぶことにした。初めて面と向かってそう呼んだらいきなり泣き始めたから流石にびっくりしたけど。
「っし。んじゃ姉さん、俺同好会あるから部室行くわ」
用事は済んだことだし、同好会の部室へ行こうとしたら、繋に『待って』と止められた。どうしたんだろうか?
「なんだよ?」
「私も、着いていっていいかしら?」
「はぁ!? 何で!?」
「つむぎが同好会でどんなことをしてるのか見てみたいのよ。それに、皆さんにちゃんと挨拶しておきたいわ」
ホントにこの姉は……律儀にも程があるだろ……。ってか姉に同好会の活動見られるって、やましいことは何1つないんだけど謎の気恥ずかしさがあるな。お断りしてぇのは山々だが、繋にとって貴重な休みを使ってまで挨拶しに行くって言ってるんだから、断る訳にはいかないか。……しゃあねぇ。
「わかった。じゃあ一緒に部室行くか」
「本当? ありがとうね、つむぎ」
「いいさ。姉さん滅多に学園に来ないし、良い機会だしな」
「それもそうね。ふふっ。楽しみだわ」
歩きながらクスクスと笑みを漏らす繋。楽しそうに笑ってるが、今部室に繋が来たらせつ菜さんがどうなるか容易に想像がつくんだよなぁ……というか皆と繋の初対面、今思うとなかなか鮮烈だったよな……いきなり現れては俺のトラウマをほじくり返して。あの場にいた中だと彼方さんが1番怒ってたっぽいし、繋と気まずい雰囲気にならなきゃ良いけど。
「あっ! つむぎさん! こんにちは!」
部室に入ると、せつ菜さんが出迎えてくれた。
「よっ。おつかれせつ菜さん」
「つむぎさん、隣にいる方は……?」
「部室に着いたし、もう帽子外していいんじゃねぇか?
「え……? と、いうことは……!」
繋は変装用のメガネと帽子を外し、短く束ねていた髪を解いて、皆が雑誌やテレビで見ているであろう、いつもの繋になった。
「改めまして皆さん、こんにちは。つむぎの姉の
皆に向かって深々と頭を下げると、せつ菜さんを筆頭に、皆驚いた様子で繋を見ていた。
「つ、つつ繋さんッ!! こ、こちらこそいつもつむぎさんにお世話になって……み、皆さん! 繋さんをもてなす準備をッ!!」
絶対こうなると思った。案の定だよ。まぁ、せつ菜さんずっと繋のファンだったみたいだし、テンパるのも無理ないよな。対して繋は特に驚く様子もなく、微笑を浮かべている。こういう熱烈なファンに会うのが慣れてるからだろうか。軽く挨拶に来たつもりのはずが、何かのイベントと見紛うレベルのせつ菜さんの高ぶりようを見て、俺達は苦笑いしながら部室の中に入った。
数分後。繋は何故か俺や皆が会議の時に使う長テーブルの席に通された。活動は一旦中断となり、繋と親睦を深める座談会のようなものが急遽開かれることに。繋も同好会のことをよく知るチャンスだと、かなり乗り気でいる。
「わ、私の隣に繋さんが……! こんなに幸せで良いんでしょうか……!」
「うふふっ。私のファンでいてくれてありがとう。嬉しいわ」
「もちろんです!! ずっと前からファンでして……! あの、あとでサインを貰ってもよろしいでしょうか!?」
「なんなら今でもいいわよ? 色紙持ってきてるし。『備えあれば憂いなし』。だからね」
「持ち歩いてんのかよ……」
ここでも用意周到ぶりが遺憾なく発揮されている。街中で変装して歩いてても『Link』だと見抜く人がいるらしいのでその人達へのファンサービス用だろう。そんくらい熱心なファンがつくくらいには有名なんだよな、繋。たまーに忘れそうになる。プライベートではあんまり仕事の話を聞かねぇからかな。専ら出る話題と言ったら俺や同好会についてだし。
「それにしても、改めて見ても紡と繋って似てるわよねぇ。同じ髪型なら見分けがつかないかも」
果林さんからそう言われ、ついにそれを指摘されたか、と心の中で呟きながら眉間を押さえる。遅かれ早かれツッコまれると思ってたけどここでかぁ……。
「一時期めちゃくちゃ間違われたよな……」
「そうね。私が中学生の頃かしら。あの時の私、ショートヘアだったのよね」
「そうな。俺も髪短くて、姉さんと間違われるのがすげぇ嫌だったから髪伸ばし始めたんだよ」
「ええっ!? つむぎ先輩、それ初耳なんですけどぉ!?」
かすみがガタッと勢いよく立ち上がって問い質す。まぁ、言ってなかったからなぁ……その辺のことも言わなくちゃな。
「今はロングヘアだから間違われることもなくなったわよね。つむぎ、もう長い髪でいる必要ないんじゃない? 毎日お手入れ大変でしょう?」
「いや、もう慣れたわ。それに、俺には『コレ』があるからさ。短くしたらつけれなくなるし、このままの髪でいるよ」
三つ編みで結んだ髪につけている飾りを触りながら繋にそう告げた。この飾りは、髪を伸ばすにあたって歩夢からもらった大事な物だ。いつもこれをつけるのが日課だし、お守りでもあるからつけてると安心する。2本の飾りを×印型にしてつけるやり方を歩夢に教えてもらってからはずっとそれを守り続けてる。男でも長い髪が許される学校で良かったわ……。
「つむぎがそうしたいならそれでいいんじゃない? よく似合ってるわよ」
「そりゃどうも。歩夢のおかげで自分の見た目を嫌いだとは思わなくなったから、ホント……頭が上がらねぇや」
「
昔は自分の容姿が死ぬ程嫌いだった。顔だけは繋と瓜二つ。なのに才能や技術はあまりにも違う。母の暴言だけじゃなく、毎日誰かに繋と間違われることにも嫌気がさしていた俺に、歩夢はお揃いの髪飾りとヘアゴムを渡してくれた。あのままだと、俺はもっと自分を嫌いになってたかもな。
「歩夢ちゃん、ずっとつむぎに寄り添ってくれてありがとう。皆様にも本当に感謝しています。これからも……つむぎのことをよろしくお願いします」
繋は静かに椅子から立ち上がり、再度深々と頭を下げた。
「あったりまえじゃん! 愛さん達とつむつむ、もうマブダチだもんねー! 心配いらないよ! お姉さん!」
俺の隣に座っている愛が肩を組みながら繋にそう伝えた。愛のこういうところにいつも助けられてる。あの日以降、話す回数がめちゃくちゃ増えたし、もっともっと仲良くなれそうだ。
「良い友達を持ったわね、つむぎ」
「……ああ。おかげさまでな」
もう1度、確認し合うように俺達は言葉を交わした。皆との関係は失いたくない。失う訳にはいかない。絶対に。歩夢達の夢を見届けるまで、俺はずっと側にいる。
繋が部室に来て数十分。しばらくは繋と皆で会話が弾み、繋は元々仲が良かった様子の果林さん、姉同士である彼方さんと特に楽しそうに話していた。果林さんの話によると、久しぶりに俺と再会して罵声を浴びせた後、泣きながら果林さんに電話をしていたらしかったり、他にも果林さんから繋の人間らしい部分を暴露されて顔を真っ赤に染めて恥ずかしがっていた。これはお互いの信頼が為せる技なんだろうけど、繋の動揺っぷりを見てるとちょっと可哀想に思えてくるな……。
「……さて、私はそろそろ帰ろうかしら」
「ん、姉さんもう帰るのか?」
「長居したら活動に支障をきたすでしょう? 邪魔しちゃ悪いから、お暇させてもらうわね」
俺達に気を遣ってくれたのか、早々に帰る支度を始める。明日は普通に仕事もあるだろうし、無理に引き止めたら悪いか。
「そっか。気を付けてな。騒ぎになるからちゃんと変装しろよ」
「わかってるわ。心配してくれてありがと」
「ばっ……別に俺はそんなんじゃ……」
「ふふふっ。じゃあねつむぎ。スクールアイドル同好会の皆さんも。あなた達の夢が叶うことを心から祈ってます。勿論つむぎの夢も、ね」
やっぱり繋は夢を応援してくれるな。誰かの幸せや夢が叶うことを願う。そういうとこ、一体誰に似たんだか。母親は絶対あり得ねぇから、父さんか?
「繋さん! ものすごく勉強になりました! 私、ずっとずっと応援していますから!!」
せつ菜さんにそう言われると、繋は笑みを浮かべながら部室を出て行った。一見クールに退室したかのように見えるが、さっきのあの話達を聞かされてからは正直なんとも言えない気持ちになる。
「ねぇつむつむー」
「どうした? 愛」
「つむつむ、お姉さんにソックリだね!」
「はぁん!?」
いきなり愛から言われた言葉に思わず聞き返してしまった。いや、何でよ……。
「そっくりですっ!」
「やはり……そっくりでした!!」
「うん。そっくりだった」
「すごくそっくりね」
黙って聞いていると、全員一致で『そっくり』と答えた。どこがだよ!? 顔か? 顔だよな?
「か、顔だけそっくりだよな……な?」
「いいや? 全部そっくりよ。紡」
「はぁぁぁぁ!?」
「
「つむつむの性格、絶対お姉さん譲りだよねっ!」
「ああああああ姉さん連れてこなきゃ良かったぁぁぁぁ!! 勘弁してぇぇぇぇっ!!」
繋が帰った後、皆から姉に似ていると散々いじられ、今にも悶え死にそうなくらいに顔が熱くなる。かすみからは特に褒めてんのか殺しにかかってんのかわからない程に茶化されまくり、今日もまたいつものように追いかけっこが始まった。