虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』。正式名称で言うとめちゃくちゃ長い。なので『同好会』と略されることが専ら。ここでは各々がNo.1のスクールアイドルを目指すって目標を掲げて日々活動中。そんで俺は、同好会メンバーのサポートを主に担当している。
幼馴染兼親友の歩夢。
イタズラ好きな後輩の中須。
生徒会長兼スクールアイドルの優木さん。
スポーツ万能の宮下。
良い人すぎる先輩のヴェルデさん。
最も信頼できる後輩の天王寺。
努力家で家事万能な近江さん。
演技派な後輩の桜坂。
大人っぽくてクールな先輩の朝香さん。
この9人が揃うまで色々紆余曲折あったが、時に仲間として、時にはライバルとして、お互い切磋琢磨して頑張っている。だからこそ俺も負けじと頑張ろうと思える。
ここに入ったきっかけはいくつかあるけど、1番の理由は『皆の役に立つ為』ってのが大きい。皆が夢を追いかけてるとこを近くで見守ってその手助けをすれば、いつか自分にも夢が見つかるかもって思ったから。やれるだけのことをやって、皆の夢を叶える為の手助けをしたい。俺にできるのはそれくらいだからな。
そんな訳で今日も気張って活動するぞー! という威勢の良い体育会系みてぇなノリをかましたものの、今日やることは観客が楽しめるライブをするにはどうしたら良いか、意見を共有し合うこと。まぁ謂わば会議みたいなもんかな。意見交換は良い刺激になるから好きなんだけど、今日はなんか……。
「〜すれば良いと思うのですが、つむぎさんはどう思いますか?」
「……」
「つむぎさん?」
「はっ! え? あ、ああうん。えっと、なに、その、ええと、あれよ」
「今一瞬寝てませんでした?」
「ま、まさかぁ! そんな訳ねぇだろ優木さん! この通り! 目ぇぱっちりでございますよ!」
「でも紡さん……白目になってなかった?」
「
「
「……まさかまさか」
正直に言うと、バチクソ眠い。あれ、おかしいな。さっきまでの威勢はどうした? なんか5時間目あたりからすげぇ眠かったけどなんとか耐えて、それが放課後になって耐えれなくなってるのもしかして? 嘘だろおい。俺が部活中に寝るってやべーだろ。役に立つって決めたんだろ、へばってんじゃねぇぞ俺ェ! 「気張っていくかぁ!」とか言っといてこのザマ!? ふざけんな睡魔よ。出ていい時と出ちゃダメな時があるんだよお前は!! 今1番出てほしくなかったんだけど!! ……どうしよ。サポート役の俺がこれじゃ示しがつかねぇぞ……。
「いやいやいや! 楽しい楽しい意見交換なんだから寝る訳ねぇよ! あは! あはははは……」
我ながら若干テンションがおかしなことになってる。やべぇぞこれ。こんなとこでガチ寝なんてかましてみろ。皆から「その程度の人だったんだ……」とか思われる! 多分、おそらく、メイビー。いやメイビーどころじゃねぇわ確実に思われる。気張れ俺。歯ぁ食いしばれェ……耐えろ……耐えろ……。
「だと良いのですが……それでは、お話に戻りますよ。前回の……」
優木さんが話を続行してくれた。よし、今度こそ耐える。耐え……あれぇ? びっくりするくらい内容が頭に入ってこねぇぞぉ……? 意識が……意識が……っ。
「せーんぱいっ!」
「うぇぇっ!?」
自称スクールアイドル同好会部長の中須がいつのまに俺の近くに来ていた。ビビるわ……あと何気に肩触りながら顔近付けてくんのやめて。距離感バグってんの? やめよう? 隣にいる歩夢からなんとも言えない視線向けられてるから!!
「な、中須……ど、どしたの」
「ふっふっふ〜。せぇんぱぁい! どうやらおねむみたいですね! そんな時こそコッペパンです! はい!」
中須が鞄の中からコッペパンが入った袋を取り出して、俺に差し出した。
「何故に今コッペパン……」
「眠い時は何か食べた方が良いんです! きっと、眠気が覚めると思います!」
「そうなのか……さんきゅー。んじゃ、ありがたくいただこうかね」
「どうぞどうぞー!」
こういう時に意外と中須は助けてくれたりする。イタズラしてくることもあるけど、今回は大丈夫だろう。そう信じて袋からコッペパンを出して一口かじった。そしたら……。
「……っああああああああっ!! 辛ぁぁぁぁぁぁっ!! ゲッホッカハッ……!」
「
口の中が燃えるように熱くなり、舌がビリビリと激しく痛む。痛すぎる。舌がおかしくなりそうだ……ってか何入れてんだよこれ……。調味料の範疇超えてるだろさすがにこの辛さ……。
「眠くなった人の眠気を覚まそうと思って、念の為激辛チリ味を作ってきてたんです! どうです先輩! かすみんの作るパン、美味しいでしょ?」
「ハァ……ハァ……中須……泣かす!!」
「ひ、ひぃっ!? 先輩!? 目が! 目がこわっ……ひぃぁぁぁぁぁぁ!!」
「待てコラァ!! 今日という今日は絶対泣かしてやらァァァァァ!! 待てェェェェ!!」
悲鳴を上げながら逃げる中須を全力走りで追いかける。部室内を先回りを駆使して駆け回るがなかなか捕まえられない。あのばかすかすがぁ……。毎度毎度手の込んだイタズラしてきやがってクソぉ……一瞬でも信じた俺がバカだったわ! ゆるさん!! さっさととっ捕まえてあいつにも激辛コッペパン食わして泣かしてやらァ……覚悟しろよ中須ァ!!
「あらあら、今日も始まったわね。紡とかすみちゃんの鬼ごっこ」
「こうも毎日だとつむぎさんが少し可哀想に思えてきますね……」
「でもつむつむってさー、1回もかすみん泣かしたことないよね?」
「たしかに。でもいつも追いかけっこしてる。璃奈ちゃんボード『あわわわ……』」
「あはは……
「紡は毎回反応が良いし、かすみちゃんもそれをわかってるから味を占めてるんでしょうね。これに関してはどっちもどっちだわ」
「
「
喋る度に舌がヒリヒリするぅ……まぁじでなんちゅうことしてくれてんだ中須……。
「しず子ぉ〜! 助けてぇぇぇぇ! 先輩が追いかけてくるぅぅぅぅ!」
「もう、先にやったのはかすみさんでしょ? つむぎさんも。少し落ち着いてください!」
「仲良いねぇ2人とも」
ヴェルデさんまで言い始めるし! 先輩方にはこれが仲良いように見えてんの!? 色々ツッコみたいけど今は中須を捕まえ……れねぇ! 中須のやつ、相変わらず逃げ足が超早い。なんなのマジで。そろそろ舌の痛みがピークになってきたし……ん? あ、良いこと思いついた。
「ぐっ……あっ……舌が……っいっ……っああっ……」
「え……!? せ、先輩!?」
「ぐっ……っううっ……!」
「あわわわわ……! 先輩! 大丈夫ですか!? 先輩!!」
俺が口を抑えて悶える様をさすがにヤバいと判断したのか、中須がこっちへ近付いてきた。計画通り。まんまと引っかかったな中須!
「はい、つっかまーえたっ!」
「えっ……? ああっ! 先輩もしかして!!」
「たしかに舌は痛ぇけどな、のたうち回るほど痛くはないんだなーこれが」
「かすみんを騙しましたねぇ!? ぬぐぐぐ……んぐぐぅ……」
「悪いが純粋な腕力なら俺の方が少し上だからな、お前じゃ振り払えんよ。ま、何はともあれ……ようやく捕まってくれたなぁばかすかすさんよぉ!! さぁてお前にも激辛コッペパンの刑を……」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
中須の腕をホールドしたままテーブルの上に置いてあるコッペパンを取ろうとしたら、桜坂が口を開いた。
「桜坂?」
「しず子……?」
「かすみさんの方に原因があるのは事実ですが……それは、元を辿るとつむぎさんの為にやってくれたことだと私は思います!」
「あっ……中須、そこんとこどうなの?」
「……しず子の言う通りです。つむぎ先輩、最近寝る時間を削ってまでスクールアイドルの研究してるって聞いたから……」
ぐうの音も出なかった。たしかに、元はといえば俺が寝る時間遅くて1日の疲れが取りきれてなかったんだろうし、今日の眠気の1番の決め手になったのは今朝見た夢のせいだろうし。桜坂のおかげで、ただのイタズラではなかったことに気付けた。あっぶね。危うく俺は人の善意を無下にする最低野郎になるところだった。
「そうだったんだな……すまん中須。ちょっとカッカしすぎた」
「い、いえ! 私の方こそごめんなさい……ちょっと辛くしすぎたかなって……」
「謝るとこそこなのね……まぁでも、お前のおかげで眠気がバッチリ覚めた。さんきゅな」
「……はい! 良かったです!!」
俺が礼を言うと、中須は嬉しそうに笑った。桜坂マジでファインプレー。普段から仲良いだけあって、認めるとこは認めてダメなとこはちゃんと指摘するんだなって。良い友達を持ってて安心だわ。
あの後激辛コッペパンはどうしたのかと言うと、中須が俺の為にやってくれたと知ったので残す訳にはいかず、水を大量に消費しつつ全部食べた。しんどかった。結構しんどかった。もう1回言おう。しんどかった。
でも中須の料理の腕が良いからか、ただ辛いだけじゃなくてそこにちゃんと旨味もある味付けにされてたので完食することができた。
「あー辛かった」
「もう、全部食べなくていいって言ったじゃないですかぁ!」
「残したら勿体ねぇだろ。それに……お前の作るコッペパンけっこう美味いし。辛かったけど、味は良かった……と思う」
「もう、先輩ったらぁ! 味の感想ちゃんと言ってくれるあたりかすみんのこと大好きですよね!? ね!?」
「は? んな訳あるかい! 俺はただ……」
「そんな照れなくていいんですよぉ? あ、可愛い可愛いかすみんが作ってくれたからちゃんと食べてくれたんですか? そりゃそうですよねぇ。かすみんのコッペパンですもん!」
「いや、だから……」
「せんぱぁい、そろそろ私のこと、『かすみん』って呼んでくれてもいいんですよ? 中須って呼ばれるのちょっと嫌です。だから〜はいっ! せーのっ! かすみ……」
「人の話を聞けェェェェ!! 誰が呼ぶかバーカ! この、『ばかすかす』!」
「今バカって言った! しかもばかすかすって! 酷いですよぉ! バカって言う方がバカなんですよ! バーカバーカ!」
「お前の方がバカって言った回数多いからお前がバカ! 俺の100倍はバカ!」
「俺のってことは先輩もバカってこと自覚しましたねぇ? おつむが弱いですよせんぱぁい! 『つむぎ』だけに! あはははっ!」
「こいつ……泣かす! マジで泣かす!! そこにいろコラてめっ……待ぁてェェェェ!」
「逃っげまーすっ!!」
褒めなきゃ良かった。すーぐ調子乗るもんこいつ。ってな訳で追いかけっこ続行。
「やれやれ……結局こうなるのね。どう思う、歩夢? 幼馴染として」
「
「ふふっ。なら良いわ」
「まったく……話し合ってひとまず意見はまとまりましたし、今日はこれくらいにしておきましょう。つむぎさんとかすみさんがああですし」
「そうだね……」
おそらく呆れてるであろう歩夢達を横目に、俺は中須を捕まえようと奔走した。これから先も、こいつと仲良くけんかできりゃあ……良いかもな。