虹×夢カラフルデイズ   作: 龍也/星河琉

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第20話 偶然、必然、変化は突然

「つむぎさん! 果林さん! 行きますよーっ!!」

 

「おーう。あんまはしゃぐと危ねぇぞー」

 

「そんなに慌てなくても良いんじゃない? 時間はたっぷりあるんだから」

 

 とある休日。俺はせつ菜さんと果林さんでアニメ専門店に来ている。せつ菜さんが買いたい物があるってのと、俺を連れて行きたいとせつ菜さんから誘われたので行くことに。その話に果林さんも興味を示し、『私も『鬼殺のツルギ』の漫画を買いたい』という理由で同行することに。

 

 アニメとか漫画とは無縁そうな果林さんが着いてくってなった時はびっくりしたけど、本人曰くアニメはそこそこ好きらしい。繋からおすすめされる作品も最近見てるんだとか。多分ってか確実に繋が主題歌を担当した作品だろうな。果林さんは楽しめてるみたいだから良いんだけど。

 

「うわ、すっげ……色んなグッズがある」

 

「ここは私の行き付けのお店で、品揃えがすごく豊富なんです! 一緒に見て回りましょう!!」

 

 アニメ専門店と銘打っているだけあって、たくさんの本やDVD、キーホルダー等のグッズが置いてある。そりゃテンション上がるはずだわ。俺も思わずときめいちまったよ。新しい世界が広がったような、そんな気がしてくる。

 

 せつ菜さんと一通り店内をぐるっと周り、目当ての物をカゴに入れた。

 

「つむぎさん、その本は?」

 

「ああ、これ? 音楽関係の雑誌だな。あとアニソンの楽譜集。こういうのも置いてあるって、さすがアニメ専門店。せつ菜さんが常連になるのもわかるわ」

 

「楽譜? ということは、もう1度ピアノを始めるんですか?」

 

「まぁ、そんなとこ。今はブランクを取り戻す為に練習あるのみだ」

 

 俺は元々ピアノをやってて、それなりに弾けてはいた。繋が上手すぎて完全に陰に隠れてたけど。あいつは化け物だった。何か1つ曲を弾けるようになっても、繋はすぐにその先を行く。劣等感に苛まれる毎日だった。

 

 今はもう、劣等感を感じる理由はない。色んなものと向き合うって決めたんだ。その中には、前に逃げたものも含まれる。今度はきっといける。そう信じたい。

 

「そうですか。今度1曲聴かせてください! つむぎさんがピアノを弾いている姿、また見てみたいです!」

 

「良いぜ。上手く弾けるかわからんけど。前に試しに弾いた『CHASE!』を弾いてみるのもアリだな。あんな下手なままじゃ終われねぇし」

 

「ふふっ。つむぎさんの弾く『CHASE!』、楽しみにしてます!!」

 

 せつ菜さんは笑いながらそう答えた。相変わらず良い笑顔だ。期待はされてるだろうし、それに応えられるように頑張るか。

 

 

 

 

 

 いつのまにか果林さんの姿が見えなくなったので探しにいくと、少年漫画コーナーとは程遠い場所にいた。

 

「おーい果林さん。どこ行ってんだよ」

 

「あら(つむぎ)。ねぇ聞いてよ。『鬼殺のツルギ』が全然見つからないの。もしかして売り切れちゃったのかしら?」

 

「そりゃここライトノベルのコーナーですからね!? 見つかる訳ねぇだろ! 漫画はこっちだこっち!」

 

 漫画コーナーの方を指差しながらツッコんだ。いくらこういう店に慣れてないからって、漫画と小説見間違うってどういうこったよ……。

 

「そうだったのね……うっかりしてたわ」

 

「うっかりどころの騒ぎじゃねぇと思うけどな……ほら、一緒に探しに行くぞ」

 

 そんな訳で俺と果林さんの2人で探すことに。せつ菜さんはまだ他にもグッズ探してるだろうし、後で合流しよう。一応『今果林さんと一緒にいる』ってメッセージ送っておいたし大丈夫だろう。

 

「……まさか、姉さんと果林さんが面識あるとは思わなかったな」

 

 漫画コーナーを物色しながら、俺は隣の果林さんにそう話しかけた。

 

「偶然よ。仕事で一緒になって、仲良くなったのはそこから。でも『偶然』って、たまには良いものね」

 

「んあ? 何で?」

 

「偶然に偶然が重なって、紡と出会えたんだもの」

 

 たしかに、そうだよな。偶然仕事が一緒になって、偶然果林さんが虹ヶ咲の生徒だってわかって、そんで偶然同好会に俺がいた。今思えばめちゃくちゃ偶然続きだなぁ。人間関係って、ホント意外なところで繋がってるもんだ。

 

「まぁ、な。果林さん、出会った頃から良くしてくれたし、気遣ってくれてたんだよな? まだお礼言ってなかった。ありがとう、果林さん」

 

 俺達は先輩と後輩の関係にあたるけど、初めて会った時から果林さんが積極的に話しかけてくれて、気付けばすぐによく話す仲になってた。その裏では繋からの言伝があったってんだから驚きだ。色々気を遣ってくれてたことは事実だし、俺は改めて果林さんに礼を言った。

 

「良いのよお礼なんて。言ったでしょ? 『後輩は先輩を頼るもの』だって」

 

「あー、言ってたなぁ。あん時よりも前に姉さんに言われてたんだろ? 俺をよろしくって」

 

 俺と会う前に言われてたんだとしたらけっこう前の話よね。にしても繋、よく頼んだよなぁ。ホントに会えるかどうかもわからんのに。

 

「ええ。その時は紡に会う前だったから、見定めようと思ってた。その人は、自分が力になるほどの価値があるのか、って」

 

「……そうなの?」

 

「そうなの。聖人君子じゃないもの。助けたり、支えようって人は選ぶわよ。ま、案の定紡は繋に似て優しい子だったから、すぐに力になろうって決めたわ」

 

「そ、そりゃどうも」

 

 力になるほどの価値、か。俺は身近な人なら余程の悪人じゃない限りは力になりたいって思う主義だから、見定めようとは考えてなかった。果林さんはそういうふうに関わる人を取捨選択してきたのかな。その中に俺が含まれてるのは……素直に嬉しい。

 

「1つ紡に伝えておく。皆を大切にしたいと思うなら、自分も大切にしなさいよ? 他人に優しいのは良いことだけど、自分にも優しく、ね?」

 

 優しい声音で果林さんはそう言った。その通りだ。あの時初めて、俺は皆からあんなに心配されてるって分かった。中には辛さを自分のことのように感じてくれる人もいる。心配かけたくなかったからやっていた俺の行動の1つ1つが、結果的に皆を心配させることになってた。もう、そんなのはごめんだね。かすみやせつ菜さん、果林さんから大事なことを教わった。俺はそれを守る。

 

「ん。心得た。これからは自分がやりたいこととかにも、目を向けてみるよ」

 

「それがいいわ。……あっ、『鬼殺のツルギ』ってこれかしら?」

 

「そう、それ! 再入荷したばっかりみたいだから、在庫あって良かったな」

 

 話しながらで俺達はお目当ての漫画を見つけ、果林さんはカゴに次々と漫画を放り込む。

 

「見た感じ、今出てる巻は全部あるみたいね。お金ならあるし、全巻買っちゃうわ」

 

 そう言いながら果林さんは横長の財布をスッと取り出して俺にドヤ顔してくる。いや、せつ菜さんと言い果林さんと言い、金銭感覚バグってんの? 簡単に全部揃えられるくらい金が潤沢にあるのは良いんだけど、見つけてから買うまでの判断が恐ろしく早い。俺は物買う時けっこう迷うタイプなのに。即断即決できる人ってやっぱすげぇな……。

 

 

 

 

 

 時刻はもう夕方。各々買い物を済ませたので今日は解散となった。1人にすると不安なので俺は果林さんを帰りの駅まで送り、俺も電車に乗って家に帰る。

 

 

 家に着くまですぐそこというところに、見慣れた人が歩いていた。マイバッグを提げて、ゆっくり俺と同じ方向に向かっている。

 

「歩夢!」

 

「あっ、(つむ)ちゃん!」

 

 後ろから声を掛けると、やっぱり歩夢だった。歩夢は小走りで俺の方に近付いてきた。

 

「買い物か?」

 

「うん。お母さんからおつかい頼まれてて。(つむ)ちゃんは?」

 

「俺はせつ菜さんと果林さんと一緒に出掛けてて、それの帰り。すっげぇ楽しかったよ。本も買えたしさ」

 

「せつ菜ちゃんと、果林さん……?」

 

 手に持ってる袋を見せながら今日のことを話すと、歩夢は驚いた表情をしていた。まぁ、面子がけっこう珍しいからな。そりゃびっくりするわな。

 

「うん。せつ菜さんも果林さんも大量に漫画買っててさ、大いに笑わしてもらったわ。また一緒に行けたら良いなぁ」

 

「……そう、なんだ。良かったね、(つむ)ちゃん」

 

「ん。……って、歩夢? どうした?」

 

「えっ?」

 

 楽しい話題を振ったはずなのに、歩夢は何故か俯いている。

 

「なんか、ちょっと元気ないなって思って。何かあったか?」

 

「……ううん。なんでもないよ。急ぐように言われてるから私、帰るね。またね、(つむ)ちゃん」

 

「あっ、あゆ……行っちった……」

 

 もうちょっと話そうと思ってたが、歩夢は走って家に帰っていった。俺の気のせいか? ほんの少し様子がおかしいと思ったんだけど、なんでもないって言ってたから大丈夫、なのかな。

 

 夕暮れの中、歩夢にメッセージを送ろうと思いつつ、後を追うように俺も家へと向かった。

 

 

 

 

 




芽生えたその感情は




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