虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
荷物を置いた部屋に戻ると、皆好きなことをしてくつろいでいた。女性しかいない部屋に俺1人って状況にちょっぴり気まずくなり、気分転換の為に俺は学園の音楽室へと向かった。
音楽室の窓から夜空を見ながら、皆の歌、皆のライブを思い出す。
「……すごいよな。自分のやりたいこと、しっかりわかってて」
俺がまだ見つけられていないものを、俺以外の人達は皆見つけてる。最近になってやっと理解した。自分の夢とかやりたいことを見つけたいんなら、夢を追う人を見たり応援したりするだけじゃなくて、自分も動き出さなくちゃいけないことを。
「俺にも何か……」
椅子に座り、ピアノの鍵盤の上に指を置いた。最近もう1度始めた、夢を見つける為のもの。それがピアノだ。本や楽譜を見ながら、徐々に弾けるように練習を重ねている。不意にせつ菜さんの『CHASE!』を弾きたくなり、指を動かして音を奏でた。
『CHASE!』は俺にとって、俺と歩夢にとって思い出の曲だ。俺達にスクールアイドルを知るきっかけを生んでくれた。あん時のせつ菜さんのライブを、昨日のことのように覚えてる。
自分が弾けるところまで弾き終わると、入口に誰かが立っていた。
「音楽室の使用許可は、取ったんですか?」
「うぇぇぇい!?」
「冗談ですよ。つむぎさん」
「おどかすなよ……」
予想外の来客にでかい声を出してしまった。噂をすれば……いや噂してる訳じゃなかったけど。曲弾いてただけなんだけど。
「この前弾いていた時よりも、上手くなっていますね」
「あん時はブランクありまくりでなんとなく弾いてた感じだからな。あん時よりかは上手く弾けるようになった気がする」
「私も、歌やダンスを何度も練習しました。何事も積み重ねです!」
「練習あるのみだな。昔ピアノやってた時みたいに、練習したら、いつかは……」
「ですね! つむぎさんならできます!」
できないならできるまでやればいい。そう教わって俺はピアノを弾いていた。せつ菜さんの言うことは最もだ。積み重ねは大事。継続は力なりとも言うしな。
「前にここで話したのを、覚えていますか?」
「もちろん。覚えてるよ」
まだせつ菜さんと知り合って間もない頃、この音楽室で俺達は言葉を交わした。そっから屋上でも話して、お互いに感情をぶつけ合ったんだよな。
「あの時のつむぎさんのおかげで、今の自分があります」
「おいおい。そんな何回も言わなくていいのよ?」
「何度でも言います。あの時の言葉がなければ、きっと自分を押し殺して生きていました。自分の『大好き』を叫べなかったと思います」
あの時の言葉、かぁ。俺、あん時つい熱くなって、せつ菜さんにけっこう強い口調で言っちゃったんだよな……。
『好きならやれよ! 我慢することなんかないだろ!!』
『大好きなモンがあるなら、たとえ嫌われてでもそれを貫けばいい!』
『俺はアンタの歌が聞きたい! 俺だけじゃねぇ。他の人もそう思ってるはずだ! アンタの『大好き』を、俺が全部受け止める!!』
……本心とはいえ今思い出してもけっこうな剣幕で怒鳴るような感じで言ったのを後悔してる。自分を押し殺して生きるせつ菜さんを見たくなくて、感情的になっちまった。
昔の俺は自分を押し殺して生きてた。家の中で自分の言いたいことを言えず、歩夢にしか自分を見せていなかった。スクールアイドルを辞めたら、せつ菜さんが俺みたいになってしまうんじゃないか。自分の気持ちに嘘をついて生きるんじゃないか。そう思ったらどうしても納得できなかった。
「ごめん。あの時強い口調でせつ菜さんに色々言って」
「良いんです。むしろあれだけ強く、熱く言ってくれたから心に響いたんです。つむぎさんの想いが」
「やめて……恥ずい」
「恥じることないです! 私にとって、今でも大切な言葉達です。つむぎさん、私の大好きを受け止めてくれて、ありがとう」
改めてせつ菜さんにお礼を言われてむず痒くなる。そりゃ受け止めるに決まってるよ。ってかあん時の俺には、そうすることしかできなかったから。
「どういたしまして。言ったろ、せつ菜さんの歌を聞きたいって」
「ふふっ。つむぎさんが、私にとって1番身近なファンな気がします」
「まぁ、同好会でも一緒だしな。皆の歌を聞くとさ、元気がもらえる。だから1番近くで応援したいし、支えたいって思えるんだ」
俺はスクールアイドルじゃない。皆のように自分を表現する術も、突出して秀でてるモンがある訳でもない。だから俺は側で皆を支えられる人でありたい。
「この前のダイバーフェスも、周りの熱意に包まれながらライブを見て、俺も果林さんのパフォーマンスに釘付けになってて……気付けばあっという間に終わってた」
凄かったなぁ、ダイバーフェスの時の果林さん。観客と同じ位置で見られて良かったわ。
「つむぎさんの目には、そのように映っているんですね」
「え?」
「私達が見えるのは、ステージからの景色のみですから!」
「あーそっか。やっぱする側と見る側だと、景色って違って見えるもんか」
「そんな感じです! ……つむぎさん」
「んー?」
名前を呼ばれて隣にいるせつ菜さんの方を見る。せつ菜さんの姿が月明かりに照らされて、普段よりもっと綺麗に見えた。
「いつか、つむぎさんの『大好き』が見つかったら、その時は……応援させてください!」
「俺自身の……『大好き』、か。……ありがと。その時になったら頼むわ」
「はいっ!!」
せつ菜さんは力強く頷いた。
俺とせつ菜さんは音楽室を出て、しばらく校内を散策した。特撮やアニメの話をしたり、同好会の話をしたり、普段は話せないことをたくさん話せた。
「夜の学校って、なーんか不思議な感じがするなぁ」
「ほんとにその通りで……うわぁっ!?」
「んなっ!?」
せつ菜さんがバランスを崩し、俺の方に倒れかかってきた。せつ菜さんの声がした瞬間、咄嗟に振り向いたおかげでなんとかせつ菜さんを受け止めることができた。
「っと。あっぶねぇ……だ、大丈夫か? せつ菜さん」
「はい……ありがとうございます……」
「ったく。ケガしたらどーすんだよ。そしたらライブどころじゃなくなっちまうだろ?」
「ですね……つむぎさんのおかげで助かりました!」
「ま、せつ菜さんが無事なら良かったよ。さて、と。そろそろ部屋に戻ろうぜ」
全力で走った時並に心臓の鼓動が早くなっている中、せつ菜さんに部屋に戻ることを提案した。不可抗力だったとはいえ、せつ菜さんに触れてしまった。変なトコ触ったりしてねぇ、よな……? ギリギリ平静を装いながら、俺達は並んで部屋の方向へ歩いていった。
部屋に着くまでもう少しってところで、何か甲高い悲鳴が聞こえてきて、謎のコスプレをしたかすみとしずくが俺にしがみついてきた。
「は? な、何……」
「つむぎ先輩ぃぃぃぃ……お、オバケがぁぁぁぁ……」
「オバケ? どっちかと言ったらお前らの格好の方がオバケだろ」
「そ、それはそうですけどぉ!」
「とりあえず部屋入るぞ。ホントにオバケかどうか確かめなきゃならんし」
と、いう訳で。部屋に入って事情を聞いてみると、何やら1年生ズと3年生ズが脅かし合いをしてたそうで、灯りを消してたのは愛の仕業だったらしい。揃いも揃って何してんだよこの人達は……。
「一体何をやっているんですかっ!」
俺の気持ちを代弁するかのように、せつ菜さんの怒声が部屋に響き渡る。全員並んで座り、お説教のような感じになっていた。
「おふざけにも程があります!」
「ちょーっと楽しくしようと思っただけなのにぃ……」
「そうそう!」
「そんなに目くじら立てなくても……」
「……何ですか?」
「「「ひぃぃっ!」」」
かすみ達の言い訳虚しく、問答無用でせつ菜さんのお叱りを喰らった6人。オバケじゃなくて安心はしたけど、まさか果林さん達3年生も共謀してたとは思わんかったよ。
「まぁまぁ。明日から練習だし、もう寝ようよ!」
「そうですね。明日の練習の為に、英気を養いましょう!」
愛の提案により、ひとまずお説教は終わり。消灯することになった。
「んじゃ、俺は寝る前にトイレでも行くかな! ちょっくら行ってきま……」
「待って
「も、もちろん! トイレに決まってるでしょ!」
「じゃあ手に持ってる毛布は何かしら? もしかして、私達とは別の場所で寝る気?」
「……そ、そんな訳ないじゃん!
……しくった。やらかした。言った頃にはもう時既に遅し。後ろにいるせつ菜さんに肩をがしっと掴まれ、体重をかけられる。
「つーむーぎーさーんっ! どこまで強情なんですかっ!! つむぎさんもここで寝てください!」
「いててててェっ! わかった! ここでちゃんと寝るから! ごめんって! 肩が! 肩壊れちゃうから!! せつ菜さぁぁぁぁん!!」
俺1人部室のソファかどっかで寝る作戦、頓挫。おとなしく皆がいる部屋で共に寝ることになりました。こんなはずじゃなかったのになぁ……しゃあない。皆に危害が及びにくいであろう1番端っこの布団で寝るとするか。
寝たフリをしながらさっき音楽室で導き出したものをもう1度考えていたところ、かすみが何かまたやらかしてたのは音でわかったが、それに構わずにただずっと考える。俺自身の『大好き』と、夢のこと。俺だって皆みたいに夢を見つけたい。もっと皆の役に立ちたい。できることをしたい。自分の気持ちに正直になって考えたら、さっきまでは出せなかった結論が出た。やっと、わかった。俺の『大好き』なものと、俺が成し遂げたい夢。やっぱり俺には、これしか無い。
考えがまとまったところで体勢を変えた時、静まりかえった部屋に寝息が聞こえた。体を上げて見てみると、俺以外皆、気持ちよさそうに眠っているようだった。
「……何で、そんなふうに寝れんだよ」
女性が寝てる無防備なところに、俺が何かするかもしれないのに。するつもりは無いけども。それでも危機感があまりにも足りてないんじゃないだろうか。いや、よくよく考えたら、それだけ俺が皆から信用されてる、ってことなのか……?
「なんか……ずっと気ぃ張ってた俺がバカみてぇだな……」
俺の隣で寝てる歩夢を見ながら、小声でそう呟く。こんなに気を張っておく必要はなかったと思うと一気に肩の力が抜けた感じがした。改めて、俺は皆からこんだけ信じられてるってことに気付くことができた。だったらその信用に応えたい。スクールアイドル同好会の為に、『俺の夢』を叶える為に。