虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
「歩夢。……おーい、歩夢」
作業してたらすっかり日が暮れて、気付けばもう外が暗くなっていた。部室に荷物を取りに行ったら、灯りが点いてない暗がりの中で眠っている歩夢がいたので、優しく肩を揺すってみた。
「ん……
目が覚めて声の主が俺だと認識したみたいで、歩夢は安心したように微笑んだ。ってか歩夢が居眠りするなんて珍しいな。疲れてるのかな。
「先に帰ってても良かったんだぞ?」
「でも、
「そりゃあな。できるなら俺だって歩夢と一緒に帰りたいし」
俺達は今も昔もずっとそうしてきた。一緒に登校して、一緒に下校して。俺の日常にはいつも歩夢がいる。だからだろうか、帰りが遅くなって1人で帰る時はけっこう寂しかったりする。今日はこうして俺を待ってくれて……それだけでもう心が満たされていく感じがした。前にかすみが俺のこと『チョロい』って言ってたけどこれじゃ否定できねぇな……些細なことで一喜一憂しちまってるもん。
「待っててくれてありがとな、歩夢」
「どういたしまして。帰ろう、
「よっし。帰るかぁ!」
学園から出て、歩夢にイベントの話をしたり、練習の状況を聞いたりしながら歩いた。歩夢もライブに向けて順調に動けてるみたいだ。
「申請書、せつ菜さんに手伝ってもらったおかげでだいぶ進んだんだ。やっぱ話し合いは大事だわ」
「良かったね。……せつ菜ちゃんとは一緒に帰らないの?」
「まだ仕事があるんだってさ。先に帰ってていいって言われたし、けっこう時間かかるみたいだ」
「そうなんだ……」
せつ菜さん、イベントの手伝いだけじゃなくて生徒会の仕事もやらなくちゃいけないし、俺なんかよりよっぽど多忙なんだよな。せつ菜さんがこんだけ頑張ってる中、俺がへばってちゃどうしようもないし、負けちゃいられねぇ。『とにかく頑張ろう』と自分を奮い立たせながら作業してる。
「申請書出すのは明日だよね?」
「まぁ、ね。その前に会場候補を絞ろうと言ってはいるんだけど……本当にそれが皆の思い描くライブになるのかなって。悩んでる」
他の項目はもう大体仕上がってきたのに、唯一会場だけがまだ決められていない。本当は今日中に決めたかったんだけど、皆のことを考えるとどうしてもなぁ……。
「東雲も藤黄も私たちも、それぞれ『カラー』が違うから、皆の願いを叶えるって大変なことだよね……」
「大変ではあるけど、それでも叶えたいんだ。歩夢や、皆の理想のライブを実現できるように」
「皆の理想……叶えられるといいね」
「ん。そうだな!」
大変とか、難しいとかそんなの百も承知だ。だけど夢を夢のまま終わらせるのは嫌なんだ。歩夢達が輝いてる姿を見届ける為に、明日ちゃんと結論を出そう。今日の夜も徹夜コースだろうが、とにかく時間が惜しいからな。もう1度意見をまとめてその上で考えてみっか。よォォし。気張るか!
翌日。なんとかカタがついたので俺とかすみは再び生徒会室にやってきた。生徒会の人達に書き直した申請書やスケジュール表、進捗状況をまとめた紙を提出して目を通してもらっている。
「……申請書、拝見しました。だいぶ内容が進んでいますね」
「はい。詰めれるだけ内容を詰めてきました」
「ですがやはり……会場の記載が無いようですが」
すぐに会場のことをツッコまれたが、俺とかすみは顔を見合わせ、頷き合った。ちゃんと、『答え』は出してからここに来たからな。
「はい。ずっと同好会で話し合ってきました。どこでなら、皆が楽しめるライブになるのか……でも、そうじゃなかったんです」
「どういう意味ですか?」
「かすみ、あれを出してくれ」
「はいっ! これを見てくださいっ!」
かすみが生徒会の面々に見せたのは昨日出てきた目安箱(通称かすみんBOX)。それと他の人の意見が書かれた大量の紙束。溢れんばかりに入ってるそれを見て、生徒会一同は驚きを隠せないでいる。
「クチコミでフェスのことが広まったみたいで、本当にたくさんの人がメッセージをくれました!」
「メッセージ? こんなにたくさん……」
まさかクチコミでこんだけ集まるとは思わなかったけどな。璃奈が宣伝してくれたお陰だ。かすみのBOXもすげぇ役に立ったし、設置しておいて正解だったかもな。
「メッセージを読んで、皆で話し合いました。『スクールアイドル好きの皆が楽しめるお祭りって、なんだろう?』 って」
そのことを改めて俺達は話し合い、そしてある結論が生まれた。
「それはきっと、『ライブをするだけじゃないんだ』って気付いたんです!」
「ライブをするだけじゃない……?」
「だって、かすみん達の夢だけ叶えるより、応援してくれるみんなのやりたいことも叶った方が絶対楽しいじゃないですかぁ!」
かすみの言う通り。皆が楽しめるお祭りっていうのは、応援する人の夢が叶うことなんじゃないかと。
「会場についても、たくさんの希望が集まりました。だから、会場は1つに絞らない。全部でやります!」
一見するととんでもねぇことなのかもしれない。でも皆の理想を叶えるには、これが1番最適だと確信した。何でもっと早く気付けなかったんだろう。至極『単純明快』且つ理に適ってる案なのに。熟慮しすぎんのも良くないことにも気付けたしまぁイーブンってとこかな。
「街全体を巻き込んで、お祭りみたいにしたいんです。色んな場所で色んなアイドル達が、自分らしいライブを披露する。スクールアイドルが大好きな人達も、自分の『好き』を思いっきり表現できる……」
俺達は知ってる。『好き』って想いが、感情が、もの凄いパワーを生み出せることを。お互いに自分らしさを表現できる。そんなイベントなら、きっと皆が楽しめる。
「皆の夢が集まって、それを全て叶える場所。皆が好きになってくれた、スクールアイドル同好会らしいライブって、そういうものだと俺は思うんです」
「スクールアイドル好きの皆が楽しめるお祭り……そういうことですね?」
「はい。それこそが、『スクールアイドルフェスティバル』です!」
生徒会長モードのせつ菜さんが頷きながら俺やかすみの話を聞いていてくれた。副会長や書記さん達も静かに耳を傾けて聞いていた。……どうだ。言いたいことは全部言った。あとは生徒会の返答次第な訳だが……どうなる?
「……分かりました。私からは何もありません。会長は、どう思いますか?」
副会長がそう言い、返答をせつ菜さんに委ねた。その様子に俺とかすみはもちろん、ひいてはせつ菜さんも驚いていた。だがすぐに冷静になり、安堵したような表情を見せた。
「はい。良いと思います」
せつ菜さんのその一言で結果が確定。と、いう訳で交渉成立。せつ菜さんが申請書に承認の印鑑を押したことで、無事スクールアイドルフェスティバルの企画が受理されることとなった。
「ありがとうございます!!」
「やりましたねぇ、つむぎ先輩!」
俺とかすみは生徒会の人達に深く頭を下げた後、ハイタッチをした。よっしゃぁぁ……通って良かったぁ……嬉しさよりも正直安堵感の方が勝る。あーマジで良かった。夜通し作業した甲斐があったよ……。今日はよく眠れそうだ……まずは皆に報告して、そこからまた話をしてみるか。
「ふぅ。ただいま、っと」
イベント承認記念の打ち上げと、ちょろっと作業してから家に帰宅。靴を脱ぎ、制服のネクタイと第一ボタンを外し、カバンを部屋に置いた。
申請書関連の作業を家でする必要がなくなったので、しばらくピアノの練習と最近始めた気に入ったフレーズの書き出しを行って時間を潰した。キリの良いところで中断し、携帯を手に取る。タイミング的にもちょうどいいし、歩夢に話そうと思う。ピアノのこと、そして俺の『夢』のこと。メッセージで伝えるのは違うと思うから、今から部屋に来てもらって直接伝えることにした。
俺が歩夢にメッセージを送ると、すぐに返事が来て、5分もしないうちに家のチャイムが鳴った。玄関で歩夢を出迎えて、俺の部屋に案内した。
「そーいや、歩夢が部屋に来るのは久しぶりだな。いつも遊ぶ時はリビングだし」
「そうだね……」
歩夢が部屋に入ると、すぐに置いてあるピアノに目が行っていた。やっぱり気付くよなぁ。
「
「もう1度、ピアノをやってみることにしたんだ。今なら、また始められるって思ったから」
ピアノの鍵盤に指を置きながら歩夢にそう伝える。
「歩夢に話したいことがあったんだ。けどブランクがある状態だと自信持てなくってさ、もっと弾けるようになってから伝えようって考えてたら、時間経っちゃっててね……」
鍵盤から手を話し、ベッドの横に移動しながら話を続けた。歩夢には絶対最初に伝えようと考えてた。練習してるうちにイベントの準備とか諸々やることが多くなって、気付けばけっこうな時間が流れていた。伝えるなら時期的にも今だと思ったから、今日歩夢を呼んだ。
「……それって、ピアノのこと?」
「え、うん。それもあるんだけど……」
「だったらどうしてせつ菜ちゃんには教えたの? 私には言えなくて、せつ菜ちゃんには……」
「んあ? 何でせつ菜さんが出てく……」
「せつ菜ちゃんの方が大事なのっ!?」
「っ! 違ぇよ!!」
振り向き様に歩夢が声を張り上げて俺に聞いてきた。『せつ菜さんの方が大事なのか』と。質問の内容もそうだし、今まで1度も聞いたことが無い歩夢の怒号に思わずビビってけっこう強めな口調で否定した。歩夢の顔を見て即座に心を落ち着かせて、対話を試る。
「ごめん……おっきい声出して。歩夢に伝えたかったのは、もっと『先』のことなんだ」
「……っ!」
「俺さ、夢が……」
「嫌ぁっ!!」
「なっ!?」
『夢ができた』。そう言葉にしようとしたが、できなかった。歩夢の身体が凄い勢いでぶつかってきて、真後ろにあるベッドに押し倒される形になった。
「え……? 歩夢……?」
「……聞きたくないよ」
耳元でそう呟く歩夢の表情はこの体勢では見られない。体を起こそうと力を入れるも、強く押さえられて身動きがとれない。歩夢の様子が変だ。さっきの発言といい、普段の歩夢とは思えない。
「あ、あはは……な、何急に
茶化すように笑いながらもう1度力を入れるも、歩夢の方も俺を押さえる力が強くなる。
「歩夢っ!? おいっ……!」
「私の夢を一緒に見てくれるって……ずっと隣にいてくれるって……言ったじゃない……」
「あ、歩夢……?」
あの時の言葉だ。俺達が同好会に入る決意をしたあの日。あの言葉に嘘はない。俺はそう誓った。それが今になって何で……。
「私、
耳元でそう囁かれて力が抜け、その瞬間、俺の足が歩夢の爪先により強く押さえ付けられる。ま、まずい……動けな……。
「だから……
首筋に柔らかな感触、そして吸い上げられるような小さな痛みが走った。