虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
首筋に走る僅かな痛みを感じながら、歩夢を引き剥がそうとするがまたしても体の力が抜けて思うように動けない。数秒のうちに歩夢の唇が離れ、ようやく歩夢の表情を見ることができた。
「あゆ……むっ……!」
「誰かに……とられちゃう前に……」
歩夢はそう言いながら俺の頬に両手を添える。この手……今歩夢が俺にしようとしてることってまさか……。ダメだ! それはさすがにっ……。
「ま……まって……歩夢……」
必死に顔を逸らそうとするがそれは叶わず、どんどん歩夢と顔の距離が近くなる。……もうだめだ。逃げられねぇ。そう思い至った俺が瞼を閉じようとした瞬間、玄関から扉が開く音が聞こえ、歩夢の動きがピタリと止まった。
「私、帰るね。……ごめん」
「あっ、歩夢っ!!」
床に落ちているスマホを拾い上げ、歩夢は逃げるように俺の部屋から出て行った。
「あら、歩夢ちゃん?」
「お、お邪魔しましたっ!」
「ただいまつむぎ。なんだか凄い勢いで歩夢ちゃん行っちゃったけど、どうしたの?」
「あ、あー! なんか学校に忘れ物したみたいで、急いで取りに行ったんだよ! うん! いやー、歩夢たまにおっちょこちょいなとこあるからなー! あはっ、あはははっ……」
「そうなの。歩夢ちゃんも忘れ物するのねぇ。今まさに私も忘れ物取りに帰ってきたのよ?」
セーフ。頭フル回転で絞り出した嘘でなんとか繋を納得させることができた。ってか繋も忘れ物? 珍しいな。
「だから帰ってきたのか。んで、何忘れたの?」
「スケジュール帳よ。昨日書き込んだ状態のまま放置してて忘れちゃったの。『油断大敵』ね。お守りも挟まってるし、手元に無かったら不安だから」
「テーブルに置いてあったのやっぱ姉さんのだったのか。取りに来れて良かったな」
「ええ。明日朝早くから仕事だし、私行くわね。つむぎ、あんまり夜更かししないで早めにお風呂入って寝なさいよ? 今大事な時期なんでしょう?」
繋とは最近メッセージでのやりとりも増え、開催しようとしてるイベントのことを知ってる。日時が決まったら休みを取るから教えてほしいと昨日送られた時は目ん玉飛び出そうになったわ。思わず『来んの!?』って叫んだし。授業参観じゃあるまいし、わざわざ来てくれなくても良いと言ったが、是が非でも行くと聞く耳をもたない。嬉しいんだか恥ずかしいんだかよくわからねぇな……。
「おう。わかってる。仕事頑張れよ、姉さん」
「つむぎもね。頑張って!」
「ああ。じゃあな」
繋は笑いながら手を振って玄関のドアを開けた。繋が出て行ったところで、俺はもう一度自室のベッドに倒れ込む。繋と話してる時も、歩夢の言葉が頭ん中で流れっぱなしだった。
『せつ菜ちゃんの方が大事なのっ!?』
『私、
『私だけの
さっきの歩夢、間違いなく本気だった。嘘だとは思えないし、あの表情は完全に……。
「あんな歩夢……初めて見た……」
歩夢は今までどんなことがあろうと俺にああやって怒鳴ったりしなかった。いつでも優しく側にいてくれた。そんな歩夢が、あそこまで感情を剥き出しにするなんて。俺、気付かないうちにまた歩夢を傷付けてたのかな。……何で。何でまた俺は……歩夢の役にも、皆の役にも立ちたかったってだけなのに。
「どうすりゃ良いんだろ……」
腕で目元を覆いながら部屋で1人そう呟いた。歩夢は親友だ。それは今でも変わらない。揺るがない事実だ。でも、ああいうことされるなんて考えもしなかった。ずっとあの関係が続くと思ってた。あの言葉……あれが本当に言葉通りなら……まず間違いなく今までの関係ではいられなくなる。どうしよう……何が正解なんだ? 何をすれば歩夢を……。
あー、ダメだ。頭が回らねぇ。今日はもうシャワー浴びて寝よう。そうしよう。沼る前に気分転換だ。
洗面所で制服を脱ぎ、歩夢からもらったヘアゴムとヘアピンを外すと、髪の毛が重力に従って落ちる。ヘアピンからふと鏡に目線を移し、鏡に写る自分の姿を見た瞬間、戦慄が走る。
首筋に……歩夢が口付けした跡がくっきり、はっきりと残っていた。