虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
「おつむが弱いつむつむ……アハハハハッ!」
「おいこら宮下。いつまでそれ引きずるんだよ」
俺が色々と散々な目に遭った日から数日。パソコンで作業してる傍ら、先日中須が言った言葉遊びで宮下はあれからずっとツボっている。暇さえあれば口に出すからそのハマりようは尋常ではない。
「だって面白いんだもん! かすみんほんと上手いこと言ったよねー! アハハハッ!」
「よくもまぁそんな同じこと連呼して笑えるよなぁ。ツボ浅いのか?」
「かすみんのギャグが面白いからですよぉつむぎ先輩!」
「ギャグというかdisりだろあれは。お前、俺をバカにすることだけに関しては一丁前だもんな」
「いや〜それほどでも〜!」
「褒めてねぇよばかす……」
「むっ……今なんて言いました?」
「……なんでも」
中須のことを『ばかすかす』と呼ぶと『かすかす』と呼ばれた時以上に機嫌を損ねるので本人は余程気に食わないのだろう。俺は中須に対してやんわりいじる程度なのにいざ自分がされた時はがっつり機嫌損ねるってどんな理不尽よ。まぁでも怒ってる中須も実を言うとけっこう可愛かったりする。本人の前では言わんけど。絶対言わんけど。
「こんにちは皆さん! 生徒会の仕事を終わらせてきました!」
「おっ、お疲れ優木さん」
「つむぎさん! 今日はつむぎさんに話したいことがあるのですが!」
「え、な、何……圧が……圧がすごい……」
部室に入ってくるなり優木さんが真っ先に俺の向かい側の席に座り、ぐっと身を乗り出してきた。あれ、優木さんってこんなキャラだったっけ? と思いつつ、とりあえず話を聞くことにした。真面目な相談かもしれないし。
「んで、話したいことってなに?」
「まず質問です。つむぎさん、これまでに『仮面リーダー』シリーズの作品を見たことがありますか?」
「予想よりだいぶ斜め上を行ったわ。真面目な話かと思って真剣に聞こうと思った数秒前の俺をぶん殴りてぇ気分だよ」
あの表情とあの気迫で出す話題が特撮の話かい! 拍子抜けしちまうわ。あーそういえば、前に優木さんアニメとか特撮好きだってちらっと聞いたな。
「いたって真面目な話です! つむぎさんが知ってるかどうかずっと気になってたんですから!」
「仮面リーダーって、日曜朝にやってるやつだよね? 愛さん知ってるー!」
「あいさんでもご存知ですし、つむぎさんももちろん知っていますよね!?」
「いやどんな理論よ……ま、まぁ見たことはあるよ。見たことは。うん」
「
「歩夢さぁ! 余計なこと言わなくていいからぁ! 黒歴史なんだよあれ!!」
「そんなことないよ! すごくかっこよかったよ……?」
「やめて!? これ以上傷抉ってくんのやめて!? お願いだから!!」
幼馴染だと俺の昔のことよく知ってるから、たまに暴露大会みたいなのされて悶え死ぬんだよな。歩夢の記憶力が良すぎるせいで俺が記憶の片隅に追いやってたモンまでフラッシュバックするから恥ずかしさによる精神的ダメージが半端ない訳で。歩夢が天然で悪気がないのは重々承知の上だけど場合によっては言葉そのものが刃物にも鈍器にもなり得るから怖ぇ。
「やはり知ってるじゃないですか!! なら話が早いです! また仮面リーダー作品を見てみませんか! 良作揃いなんです!」
「またしても圧がすごすぎる……まず歳を考えよう!? そりゃ子供の時はかっこよかったり憧れで見てたけども! 今の歳になって見るのはなんか違くないですかね!?」
「もう! 絶対そう言うと思いました! 趣味に年齢は関係ありません! 第一、『仮面リーダークワガ』から始まって今の今まで続いている、歴史や知名度もある素晴らしいコンテンツなんですよ!? 直近の作品だと『ゲーマー』や『ビルダー』、そして歴代リーダー集大成の作品の『ジクウ』、そして新時代を切り拓く『レイワン』があって……」
「知らんがな!? クワガは知ってるよ! でもその4つがまったく知らない未知の領域なんだが!? ってかめちゃくちゃ知ってんなおい!」
何この知識量。それに加えてすげぇ喋るじゃん。もしかして優木さんって自分の好きなことなら何時間でも喋れちゃうタイプ?
「当然です! 全ての仮面リーダー作品を見ていますから! つむぎさんなら絶対ハマると思うんです! むしろ成長してから見た方が良い作品もありますし!! お願いします! つむぎさん! どうか!!」
「わかった! わかったから!! さっきからマジで圧が怖すぎるから! 優木さんがそこまで言うなら見てみるよ!」
適当にそれっぽい理由つけて丁重にお断りしようと考えてたが、これ、断り続けてもずっと勧めてきそうな勢いだし。長丁場になる可能性もあるしここは折れよう。とりあえず未視聴のやつを1作品見てみて感想言えば喜んでくれるかな。
「本当ですか!? ありがとうございます! 久しぶりに仮面リーダーを見るなら……やはり『ブレード』は欠かせないですよね……あとは『デュアル』や『マジシャン』も……他につむぎさんが好みそうなのは……ああもう! 勧めたい作品が多すぎて決められないです!」
「この数分でどんだけ仮面リーダーの名前出てくるんだよ!? あと、何個勧める気でいんの!? レンタルショップで借りるにしてもすげぇ金かかるだろうし、月の小遣い消し飛びそうなんだけど」
「ふふっ。安心してください! DVDなら全巻揃えてありますから! 明日つむぎさんに貸しますので、それで見てもらおうかと!」
「……マジかよ」
「せつ菜さん、抜かりない」
近くにいた天王寺も話を聞いていたようで、表情には出てないが、内心驚いてるってことはわかる。どんだけ仮面リーダー好きなんだよ……。こんな優木さん初めて見たぞおい……。
「じゃ、じゃあさ! とりあえず直近っぽいレイワン? ってやつ見てみたいかなー」
「レイワン! 数ヶ月前に最終話を迎えて、DVDも先日全巻揃えたばかりなのでちょうどいいですね! わかりました! 明日持ってきますね!」
「う、うん。お願いする、よ」
「お任せください! さぁ、今日も張り切っていきますよー!!」
「歩夢。なんかいつになく優木さんテンション高くない?」
「紡ちゃんが興味をもってくれて嬉しいんだよきっと。見たらまた仮面リーダーの真似、してくれる?」
「勘弁してくれ……」
俺は小声で隣にいる歩夢に話しかけると、歩夢も苦笑しながら小声で耳打ちしてきた。「真似してくれる?」とかいう恐ろしいワードが出てきたが聞かなかったことにしておこう。
「うーっす」
「つむぎさん! 待っていましたよ!」
翌日。いつものように歩夢と部室に入った瞬間、優木さんがスタンバっていた。右手には大きな紙袋が握られている。
「はい! 『仮面リーダーレイワン』のDVD、全巻です! どうぞ!」
「まさかマジで持ってくるとは思わんかったわ……ってかよくDVDってバレなかったな……」
こんなでっかい袋を持ってきてたら「それ、何?」って聞かれそうなんだが。中を覗くと、カモフラージュの為であろう黒い横長の入れ物が入っていてなかなかの重量だった。
「予め生徒会室に置いておいたので大丈夫です! 生徒会のメンバーには極秘資料だと伝えたら納得されましたよ!」
「それで誤魔化せたの奇跡だよ! すげぇな!!」
他の生徒会の人達、ツッコむって概念知らないのかな……でも言い換えると、それだけ優木さんの人望が凄いってことか。生徒会ではガチガチの優等生だもんな。納得。
「全て初回限定盤なので、メイキング映像と役者さんのインタビューも入っています! そちらもぜひ見てください! 見れば役者さんも推すこと間違いなしです!」
「お、おう……りょーかい」
昨日と同じくテンションが超高い。趣味のことを話す時、優木さんは心底楽しそうに話してよく笑う。これが本来の『優木せつ菜』なのかなってふと思った。もしそうなら、俺があの時に伝えた言葉が優木さんの心に残ってるんだろうか。少しでも素の自分を引き出すことができているのなら、『アイツ』の言ったことをちゃんと実現できてるってことになる。それは嬉しさと同時に、苦虫を噛み潰すような複雑な気持ちになるものだった。
「……さて、見てみっか」
放課後から俺の中で続くイヤなモヤモヤを吹き飛ばす為、優木さんから借りたDVDをプレーヤーに挿入し、視聴を始めた。
「子供向けのコンテンツに、俺が今更ハマる訳……」
「ハマる訳……」
「……ハマる……訳……」
半分まで見たところで俺はリモコンの停止ボタンを押し、DVDを取り出した。
「……めちゃくちゃ面白いじゃんこれェ!!」
たった一夜にして俺は、俺が思っていた以上にチョロかったことが立証されてしまったのだった。
ふと我に返って時計を見ると、当初やる予定だったスクールアイドルの研究ができていないまま夜中の2時を迎えたことに気付き、電源を落としたペッパーくんのようにガクリとリビングのソファに倒れ込んだ。