虹×夢カラフルデイズ 作: 龍也/星河琉
ライブに向けての準備が佳境に入ろうとしている中、今日も俺は身支度を済ませて家を出て、ドアの鍵を閉める。その間にずっと脳裏をよぎるのは、昨日の歩夢のこと。頭ん中がそればっかりになってあんまり眠れなかったし。結局、伝えたいことも伝えられないままあんなコトになっちまった。もう1回、ちゃんと話すべきだよな。ずっと側にいてくれた歩夢に、恩返しの意味も込めた夢だし。
けど……なんか歩夢と気まずい感じになりそうな気がする。最初に何と言って話を切り出せば良いんだろう。うー、幼馴染なのに何でこういう時に限ってどう接したら正解なのか分からねぇんだよ。自分に対してめちゃくちゃムカついてるわ。ずっと一緒にいたはずなのに、どうしてこうなっちまったかねぇ。
今日は俺1人でバス停に向かうものだと思っていたが、いつも通りに歩夢がマンションを降りた先に待ってくれていた。
「あ、歩夢。……おはよう」
「あっ! おはよう、
……あれ?
「先に行っちゃったかと思ってた」
「もう、そんなことする訳ないでしょ? 置いてったりなんかしないよ」
「そ、そうね。そうだよね」
……あれあれ?
「今日は一緒に部室に行けるの?」
「あぁ、うん。午後から東雲と藤黄と打ち合わせがあるけど」
「そっか。どんどん形になってきてるね! フェスティバル、頑張ろうね。
「……おう。頑張ろうな」
なんとか普通に受け答えできてはいるけど、内心めちゃくちゃびっくりしてる。おかしい。おかしいぞ。怖いくらいいつも通りに接してくれるんだけど。まるで昨日のことが無かったことみたいに。え、これで……良いのか? 話しかけてくれるから嫌われてはないと思いたいけど……なんだ? この感じ。正解なような、正解じゃないような。そんな謎のモヤモヤが、俺の心の中に確かに渦巻いていた。
東雲と藤黄の人達と打ち合わせが終わった帰り道。俺とせつ菜さんで学園に戻っている最中、フェスのことと朝のことで頭がごっちゃになってパンク寸前な状態になっている。打ち合わせの時も聞き逃したところあってせつ菜さんにフォローしてもらったりもしたし、面倒かけちまったな……。
「つむぎさん」
隣を歩いていたせつ菜さんが歩みを止め、一言俺の名前を呼んだ。
「ん、どうした? せつ菜さん」
「何か、あったんですか?」
ド直球に聞いてくるなぁ……ちょっと察しつくの早くないですかい? 何で分かんのマジで。せつ菜さんには……言える訳、無いよな。
「いいや? なんもねぇよ」
「とぼけないでください。先程の打ち合わせの時も上の空でしたし。何より……つむぎさんが嘘をつく時、必ず目線を逸らす癖があります。誤魔化そうとしても、私には通用しませんよ?」
マジか。完全に無意識だった。俺嘘吐く時そんなに目線逸らしてる!? いや、せつ菜さんが言うんだからほぼほぼ間違いじゃねぇわな。にしてもよく人を見てるなぁ……さすがっす。せつ菜さん。関心してる場合じゃねぇけど。
「何でこうも簡単にバレるかね……」
「ふふっ。これだけ行動を共にしていると分かってきますよ」
「まぁ、同好会で会うしたまに遊ぶしな」
「そういうことです! ……それで、何があったんですか? 私で良ければ、いくらでも力になりますよ!」
そう言ってくれんのはありがたい限りなんだが、話してもって感じなんだよな、正直。あぁもうマジでもどかしい。めっちゃモヤモヤする。そろそろ泣きたくなってきた。感情が混沌とし過ぎてる。
「まぁ……ちょーっと色々あってな……って、あれもしかして、歩夢か?」
お茶を濁そうとしたところに、前方に練習着を着た歩夢らしき生徒が見えた。
「そうですね。おそらく歩夢さんかと!」
やっぱりな。まさか鉢合わせみたいな感じになるとは。このもどかしさを何とかするには……これしかねぇだろ!
「だよな。せつ菜さん悪りぃ。俺、行ってくる! 先に部室戻っててくれ!」
せつ菜さんにそう告げ、俺は歩夢の方へ急いで駆け寄る。距離が近くなって歩夢だと完全に分かり、速度を上げて一気に近付いた。
「おーい歩夢っ!」
「
息を切らした俺を見て何事かといった様子で問いかける歩夢。呼吸を整え、改めて昨日伝えられなかった夢を歩夢に話す決意をした。
「昨日のこと、ちゃんと話したい」
「だから……良いよそれは」
「良くねぇよ。このモヤモヤした感じ……絶対良くねぇ。俺昨日、歩夢に伝えたいことがあったんだ」
俺がそう言うと歩夢は露骨に『聞きたくない』と言わんばかりに俺と目を合わせようとしない。歩夢、普通通りに接してはくれるけど、この話になると何故か頑なに避けようとするな……でも言うしかない。聞かせたいんだ。ずっと隣にいてくれた歩夢に、やっと見つかった俺の夢を。
「俺さ、やりたいこと……『夢』ができたんだ!」
夢。前までは漠然としててまったく出せなかった答え。今なら出せる。ってか出せた。これが俺の最善。俺にできる精一杯。歩夢を、皆を輝かせられる手段なんだ。
「せつ菜さんが知ったのは単に偶然で、歩夢には1番最初に言うつもりだったんだ。内緒にしてたのは申し訳ないけど……ちゃんと俺なりに考えて決めたことなんだ」
無い知恵振り絞って考えまくったさ。これからのこと、皆のことを。その上での結論だ。その結論を、歩夢には知ってほしい……んだけど、歩夢の表情が一向に晴れない。理由は分からないが、聞いてもらわない事には何も進まない。だから確認をとってから言うことにした。
「俺の側にいてくれた歩夢に、ずっと支えてもらった歩夢には……どうしても聞いてもらいたいんだ。……良い、かな?」
「……やだ」
俺の夢を聞いて、1番近くでそれを認めていてくれると思っていた筈の歩夢の口から予想外の答えが返ってきた。俺は思わず歩夢に対して疑問の声を漏らした。
「それって、
一緒じゃなくなる……? いや、たしかに俺が考えてた夢のプランだと歩夢と一緒に居られる時間は間違いなく減ってしまう。でも一緒じゃなくなるって訳では決してない。
「嫌だよそんなの!! 私のスクールアイドルの夢はまだこれからなのに!」
『一緒じゃなくなる』ってことの否定をする前に、息つく暇なく歩夢は声を荒げて俺を拒絶する。まただ。歩夢が怒ってる。何で? 俺はただ……夢を伝えたいってだけなのに、どうしてこんなに否定される……?
「
「そんなことっ……!」
「あるよっ!!」
歩夢のその言葉に流石に反論しようと口を開くも、歩夢の声にそれがかき消される。もの凄い剣幕で俺に食ってかかる歩夢。俺は言葉を失った。浮かぶのはただひたすらに疑問ばかり。
「……あるんだよ」
さっきまでとはうって変わって小声でそう呟く歩夢を見て、俺はもう我慢の限界に達した。『歩夢はそんなことないだろ』と否定したい。仮に俺と一緒じゃなくなるとしてもきっとなんとかなるだろうし、夢に向かって真っ直ぐ生きていけるだろ。今までの恩返しとしていくらでも俺を夢の為に利用して構わないってスタンスで居たいのに……どうしてなんだよ。
「でも歩夢はっ……」
「……嫌っ」
反論しようとしたら、歩夢は目に涙を浮かべて俺の言葉を遮った。俺がこれ以上何か言えば歩夢が泣いてしまう。そんな気がして、俺はその続きを言葉にすることができなかった。今まで接してきて初めてと言える俺と歩夢の言い争い。それが、自分が望みに望んだ、羨んで欲しがってようやく見つかるに至った『夢』が引き金となって起こるとは、とても思いたくなかった。
「……また、今度にするよ」
その今度がいつ来るか分かりもしないのに。俺は歩夢にそう伝えた。さっきよりもずっとモヤモヤした感情を抱えながら、とぼとぼと1人歩く歩夢の背中を見送ることしか、今の俺にできることは存在しなかった。