虹×夢カラフルデイズ   作: 龍也/星河琉

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第31話 優しい人、頼れる人、想う人

「3時か。せつ菜さん、ちょっと休憩するか」

 

「そうですね。小休止なしで作業は逆に効率が下がりますから」

 

 学園に戻って俺とせつ菜さんは引き続き作業を続けていた。作業の方は何の滞りなく進んでるから今のところ問題は無いにしても、俺の方は色々問題が積み重なってるんだよな……。気分転換に屋上でも行くか。

 

「つむぎさん、どちらへ?」

 

「ちょっくら外の空気吸ってくるわ。すぐ戻る」

 

「分かりました!」

 

 せつ菜さんに一言伝えてから教室を出て屋上に向かう。まぁそんなに長居するつもりはないんだけど。作業あるし。屋上の澄んだ空気を吸ってリフレッシュしよう。

 

 

 

 

 屋上の柵に腕を掛けながら顔を上げると、夏空と共に眩しい日差しが目に入ってくる。嫌味なくらい良い天気だなぁ。畜生め。準備はやりようによっちゃ上手くいくのに、友達との関係は思うようにいかねぇもんだな。悩むことばっかりだ。

 

 ふぅ、と溜息をついたその時、右頬にひんやりと冷たい感触が走る。叫びと共に横を見ると、悪戯っ子のように口角を上げた果林さんが立っていた。

 

「果林さんかよ。ビビったぁ……」

 

「こうでもしないと気付かないと思ったから。はい、差し入れ」

 

「あ、ありがとう。ちょうど喉乾いてたし助かった」

 

 俺は果林さんから貰った小さなスポーツドリンク缶のプルタブを開けて一気に飲み干す。口の中に優しい甘さが広がると同時に、作業で乾いていた俺の喉が潤っていく。

 

「んで、何で果林さんも屋上に? 気分転換か?」

 

「それもあるし、最近(つむぎ)とあまり話せてなかったから来てみたの。紡、何かあると決まって屋上に行くでしょ? 今日も案の定ここにいて探しやすかったわ」

 

「なるほどな。……その口ぶりからして、果林さん何か知ってんだろ?」

 

 何かあると屋上に行く。それはまぁ事実っちゃあ事実だから否定はしない。けどわざわざ果林さんが普段行かない屋上にまで来て、ましてやそんなこと俺に言ってくるなんてどう考えてもおかしい。

 

「知ってるというか、今日の歩夢と紡を見てたら大体察しはつくわよ。何かあったんじゃないの? あなた達」

 

「……ほっとけ、なーんて駄目だよな」

 

「ダメよ。それでほっといたら私が(つなぎ)に怒られちゃうもの。ほら、何でも話してみなさいよ。たまには先輩らしいこと、させてくれないかしら?」

 

 繋に怒られるっつーのは建前で、俺の先輩として、同じ同好会の仲間として言ってくれてるんだよな、きっと。そんな果林さんの厚意を無下にする訳にゃ、いかないか。

 

「わかった。皆には、内緒にしておいてほしい。良いか?」

 

「もちろん。私の心の中だけに留めておくわ」

 

 

 

 

 

 

 時間にすれば4、5分。果林さんに俺と歩夢の関係、話せる範囲で俺達の現状を伝えた。それらを全部聞いた果林さんは特に驚いた様子はない。

 

「ふぅん。紡は皆の役に立つ為にその夢を追いかけたい。でも歩夢はそれを拒んでる、って感じよね?」

 

「そういうことだ」

 

「……はぁ」

 

 果林さんが再度確認の為に俺が話した内容を要約してそれに俺が頷くと、果林さんは呆れたように大きな溜息をついた。

 

「あんまりこんなこと言いたくないけど、今回に関しては紡が悪いわ。あなた、勉強はできるのに女心についてはからっきしね。私が歩夢と同じ立場でもきっと拒んでると思うわ」

 

「やっぱり、悪いのは俺か……」

 

 歩夢をあんなに怒らせて、あんな表情までさせてるんだから、十中八九俺が悪いってのは確かだよな。わかっちゃいたがストレートにそう言われるとけっこう心に来るな……。

 

「紡はね、人に対して優しすぎるのよ。身近な人達全員の役に立とうと頑張ってるのはすごく伝わってくる。でもそれでこんなふうに悩んでちゃ世話ないわよ」

 

「仕方ないだろ。皆の役に立つ為に頑張るって、決めてるから」

 

「その皆、皆っていうのが歩夢にとっては嫌なんじゃない? それを聞いてるとだんだん、『自分を見てくれてないんじゃないか』って気持ちになるもの」

 

「そんなことねぇ!! 俺は歩夢をちゃんと見てる! 歩夢のこと、俺が蔑ろにする訳ねぇだろうがっ!!」

 

 果林さんの言葉に思わず感情的になってしまい、鬱屈したモヤモヤを吐き出すかのように俺は声を荒げて否定した。それでも果林さんはいたって冷静に俺を見ている。

 

「本当にちゃんと見てたんなら、そもそもこんなことにはなってないんじゃないの?」

 

「……っ」

 

 ド正論だった。……確かにその通りだ。歩夢をしっかり見てるっていうなら、『せつ菜さんの方が大事なのか』なんて歩夢が言う訳ねぇよな。何もかも全部俺が悪いんじゃねぇかよ。

 

「たしかに優しいのは良いことよ? そんな紡だから皆から信頼されてるんだろうし。でもね……誰彼構わず優しくしてると、中には傷付く子だっている。現に歩夢がそうなっちゃってるんだから」

 

「そんな……俺はただ同好会の力になりたいからっ……」

 

 俺の行動原理はブレちゃいねぇ。ひたすら自分にできることをするって。同好会の為に頑張るって。なのにそれが裏目に出てたってのか……? 

 

「今の紡に言うのは酷かもしれないけど、敢えて言っておくわね。()()()()()()()ってことは、()()()()()()()()ってことなのよ」

 

 右手からスポーツドリンクの缶がするりと落ち、乾いた音が俺の耳に響いた。自分の性格、今までの行動。その全てを真っ向から否定されてるような気がして、俺は俯いたまま果林さんの顔を見ることができなかった。

 

「女のコはね、大切な人には自分だけを見てほしいって思うものなの。自分だけに向けられた優しさじゃないって感じたら、妬いちゃうのも当然よ。私だって……」

 

「だったらっ……俺は今まで何の為に行動してきたんだ……何の為に俺は……じゃあ何か? 果林さんは、俺が今までやってきた事全部、間違いだったって言うのかよ!!」

 

 顔を上げて果林さんに怒声をぶつけた。もうなんだってんだよ。どうしろって言うんだ。何をすりゃ良いんだよ、俺はっ……。

 

「正解か間違いかなんて本人にしか分からないんだから、私に聞かれても困るわ。少なくとも……これからの紡の行動で、正しいか正しくないか決まるんじゃない?」

 

「俺の……行動?」

 

「紡が歩夢を大切に思うように、歩夢も紡を大切に思ってる。その大切な人がいきなり夢の為にって、一緒にいられる時間を減らす決断をしたら、もう一方がどんな気持ちになるか……ちょっとは考えてみたら? じゃないと、ただの独りよがりになるわよ」

 

 そう言われて俺は押し黙る。果林さんの言うことには説得力がある。正論も交えて俺を叱咤してくれた。嫌がらせでこんな事を言ってるのではないとすぐに分かった。

 

「そんな浮かない顔しないの。色々酷いこと言ってごめんなさい。紡を間違った方向に行かせない為に、言わせてもらったわ。このままじゃ紡も、歩夢も笑えないと思うの」

 

「……俺もか」

 

「ええ。夢を持つのは良いけれど、それで笑えないんなら意味ないでしょう? 紡の笑顔を望むのが、かすかすちゃんだけだと思ったら大間違いよ」

 

「そっか。果林さんも、なんだ」

 

 俺がそう聞くと、当たり前だと言うようにウィンクした。かすみも俺に言ってたっけ。『笑えないなら、自分が笑わせる』って。この空気をいくらか和ませようとしたのか、本来の呼び名じゃなくて『かすかすちゃん』と呼んだ果林さん。本人がいない状況でもかすかす呼びされるのちょっぴり可哀想になってくる。あぁ、そういや前に言ってたお姉さんみたいにどうこうって、こういうことだったのかな。繋が姉として出来ないことを果林さんに頼んだって。だから相談に乗ってくれたんだろうか。

 

「あっ、居ました! つむぎさん……と、果林さん?」

 

 屋上に上がってきたせつ菜さんが来たのでもしやと思いスマホで時刻を確認すると、あれからもう15分も経っていた。そりゃ呼びに来るわな。

 

「あらせつ菜。少し紡を借りて話し相手になってもらってたの。ごめんね? はい、返すわ」

 

「もう、物じゃあるまいし……」

 

 肩を掴まれてせつ菜さんの方へ差し出される俺。あ、しかもちゃんと上手いこと誤魔化してくれてるし。果林さん、ホント人が良いよ。

 

「上手くいくと良いわね。頑張んなさいよ、2人とも」

 

「はいっ! 最初からそのつもりです! つむぎさん! 準備の続きをしますよー!!」

 

「おう! っておい引っ張んないで良いからぁ! 果林さんありがとうなー! そっちも頑張ってー!!」

 

 せつ菜さんに腕を引かれる中、果林さんに礼と応援の旨を伝えるとひらひらと手を振ってくれた。もしかしたら気のせいかもだけど、今の果林さんの言葉、俺とせつ菜さんにだけではなく、なんだか俺と歩夢に対しても言っているような、そんな気がした。

 

 

 




「言われる方だけが辛いと思わないで。言う方だって……辛いのよ」





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